状況
今だいたい4歳なんだけど2歳の時から、我が家ってなんか妙に懐かしいなって感じるようになっていた。
あ、ちなみに魔法の練習は意味がありませんでした。この世界、魔法とか無いんで。
それで、うちは一階がサーフショップ兼ダイナーになっていて、二階が自宅みたいになっている。
周辺地域はビーチの近く、海岸線沿い、というかまるっきり湘南なんだけれども、建物の感じは映画で見るみたいな海外の戸建てとかに近くて、ちょっとデタラメな感じを受ける。
そんなのをなんで懐かしいと思うのかずっと疑問だったけれど、今、それがはっきりとした。
それも、パパがダイナーの出口の戸を押し開けながら、目を大きく開けた瞬間を見て、とあるゲームのムービーがフラッシュバックしたからだ。
ゾンビものガンシューティング、最初の軽いチュートリアルが完了した後の場面……
--------------
「今日は最高のサーフ日和だぜ! そうだろ、海兵隊員! メイク・サメリア・グレート・アゲン!」
と、大統領(1P)は言いながら、ショットガンを肩に担ぎ直してダイナーに入り、カウンターに座る。
ちなみに、オトモの海兵隊員(2P)は無口である。
で、カメラが大統領に吸い込まれるみたいに一人称視点になって、出されたウイスキーを一気飲み。
カメラが後ろを向くと、一人のモブがドアを開けて驚き慄いている。
ダイナー正面のビーチから大量のゾンビピラニアが飛来し、人々にバンバン襲いかかっているのである。
逃げ惑う人々を見て、モブは呟く。
「なんてことだ。罪のない人を」
モブは字幕なしでカモーンカモーンといいながら、ドアからちょっと出て人を招き入れるジェスチャーをした後、転んだ女の子を助け出すために飛び出した。
そして、それがモブの最後だった。ネタとしてプレイヤーの印象に残る名場面である。
ゾンビピラニアがまず一匹、モブの股間に飛びついて噛み付いた。
「マ゛ー!」
さらにもう一匹食らいつき、モブが股を押さえながら倒れ、尻を上げた状態でうつ伏せになる。
そのケツに三匹のゾンビピラニアが、コークスクリューで飛んできて、トライアングルに突き刺さった。
ゾンビピラニアは、ビチビチしてる!
「ジョォォーン、ジョォォーン」とダイナーから響く、中年女性の悲嘆な声。
最後の力を振り絞って立ち上がったモブ(ジョン)は、股間のピラニアの尻尾を掴んで引きちぎった。
凛々しい顔を見せたかと思ったが、そこには巨大なゾンビサメが飛んできていた。
モブは、頭を半分サメに食いちぎられ、事切れるのである。
ずっと見ていた大統領は言う。
「あいつを助けに行く! チェンジ・イエス・ウィ・キャン!」
「大統領! 死んでいます!」
「関係ない! 何故なら私は…… 偉大なるサメリア合衆国大統領だからだ!」
--------------
こうしてゲームが始まり、最初の一番弱い雑魚敵として立ちはだかるのが、モブのジョンなのだ。
おそらく我が家は、あのムービーに出てきたダイナーなのだろう。この地域一帯が第一ステージ「サメリア合衆国西海岸」で、Xデーになると、正面にあるビーチからゾンビの魚が飛んでくるようになる。
The Dead In The Water
初代がゲーセンにあるゾンビものガンシューティングで、プレイヤーは偏見に満ち溢れたキャラクター、サメリア合衆国大統領となって、(2Pはそのオトモの海兵隊員)海から飛びかかってくるゾンビ魚や、それに噛まれてゾンビ化した人たちをガンコンで倒しながら進んでいくというやつ。
相当練習しないとワンコインでのクリアは不可能だが、金を入れ続ければいずれはクリアできる。そんな塩梅のバランスだったので、息抜きのついでに、俺もよく遊んでいた。
初代をコンシューマ向けにリメイクしたリワークオブザデッドインザウォーターは、世界観はそのままで、Co-op付きのシングルプレイFPSとしてリリースされた。
わりと人気なシリーズで、三作目くらいまでは出ていたはず。
まあ、ただ単にこの世界に転生しただけなら、放っとけば大統領が解決してくれるし、俺は別に何の問題もなく平和に暮らしていくだけだったのだが……
問題なのは、俺の名前が「ジョン」だと言うこと。
つまり、俺がある程度成長して青年になったら、あのムービーみたいに下の穴という穴をピラニアに責められた挙句、弱点が半分削れた弱すぎるゾンビとして、大統領のショットガンで吹っ飛ばされる運命にあるのだ。
「ジョォォーン! 上で遊んでなさい!」
ちなみに、ママは若干ヒステリックなところがある。仕事が忙しいからね。
しかし、どうしたもんかな。
俺、死ぬのかな。