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トラック運転者の苦悩

作者: 沖西たすき

昨今の運送業会、中でもトラック運転手として勤務をしている人達の中で流れる噂がある。


曰く――運転中、睡眠不足でも、体調不良や持病でもないにも関わらず、意識が遠くなり、何かにぶつかった様な感覚で眼を覚ます。しかし、トラックに何かがぶつかった形跡も無ければ、ぶつかったであろう対象も見当たらない。

曰く――交差点を曲がる最中、ハンドルが勝手に動き、歩行者へと向かっていく。どれだけ力いっぱいハンドルを動かそうと、歩行者を避けることはできず衝突する。しかし、トラックは電柱やらガードレールにぶつかったと単独事故として処理をされる。なぜなら対象である歩行者の姿が確認されないから。


トラックの運転手や、目撃証言も、ぶつかったであろう対象の人物が居なければ妄言とされた。

ドライブレコーダーや、監視カメラの映像等も検証されたが、轢かれたであろう人物は確認されない。

しかし、手押し式の信号は人が居ないにも関わらずボタンが押され信号が変わっていたり、新雪の歩道を足跡だけが残っていたりだとか、怪奇が映像には残っていた。

死体無き事故。

これが、昨今の運送業会で流れる噂である。


そして、死体無き事故とはまた別にもう一つ例を上げよう。


曰く――走行中、飛び出してくる猫や子供が多発している。飛び出してくる、と言っても、何もない空間からである。何も無かったはずの空間から、いきなり猫やら子供が現れる。しかも、それは実態を持たない。ブレーキが間に合わずぶつかったとしても、衝撃は無い。トラックの周りや、ドライブレコーダーを見ても、何も無い。そして稀に、猫や子供を助ける様にトラックに衝突してくる人が居る。急ブレーキをかけて衝突を回避したと思ったら、猫やら子供を助けるように人が態々トラックに衝突してくる。正直、当り屋である。トラックはギリギリ止まったにも関わらず、衝突してきた人は亡くなり過失致死罪となる。ちなみにコレは特殊な例で、ドライブレコーダーに残っていた記録により罪はかなり軽くなった。何せ、猫や子供は映像には残っておらず、急ブレーキをかけて止まった瞬間、人がトラックにぶつかってくるのだ。最早、調べる警察も何が何だかわからない案件である。これが、全国各地で多発しているのだ。


前述と重なる部分もあるが、実際に人が亡くなってしまった訳だから罪に問われるのは当然として。

前述二つに関しても、実際に経験をした運転手としてはトラウマ物である。

死体は無くても、人とぶつかった感覚が、感触が残っているのだ。

運転するたびに、またアレが来るのではないかと疑心暗鬼になる。

ノイローゼに近い感覚で、最早仕事にならず辞めていく同業者を何人も見てきた。


――――そして、ついにオレの番って訳だ。


いつもの様に、荷台に沢山の物資を積み、数百キロ離れた地までの運転。

早朝に到着するよう、雪道の中、夜の内に峠越えをする。

峠に入り、暫く経った頃、トンネルへと入った。

長いトンネルを抜けた瞬間、ソレは居た。

まるで、ここが日本ではないような、雪道に溶け込むプラチナブロンドのような白髪に、深紅のように真っ赤な眼を持つ少女と、トラックのフロントガラス越しに眼が合った。

そして、一瞬後には通り過ぎた。

眼の前に居たソレを、オレは轢いた。

感触は無かったけど、トンネルを抜けたすぐそこに居て、ブレーキを考える間もなく、轢いた。

慌ててトラックを止め、転がり落ちるように外へ出る。

暗闇の中、僅かに建てられた街灯と、トラックのライトの灯りの中、少女を探す。

這いつくばって、トラックの荷台の下を見るが、何も見えない。

後ろや、道路に血の跡も無い。

もちろんフロントバンパーにぶつかった様な形跡もなかった。

でも、確かに少女はいて、オレは少女を通り過ぎた。

纏まらない気持ちのまま、まずは上司に報告しようと携帯を取るため運転席へ向かため、トラックの前方から運転席側へと移動した―――その瞬間。

眼の前に、眼が眩む程のライトの光と、衝撃――――。


トラック運転手のオレは、同じく峠を越えていたトラックに轢かれて死んだ。

本当に、相手には申し訳なく思っている。

いくら動揺していたからって、トンネルを出て数メートルの所にトラックを止めるとか。

しかもハザードランプも点けずに……。

もちろん三角停止版も出してない。

相手のトラック運転手としては、トンネル出た先にいきなり他のトラックが居て、ハザードもついてないから進んでるかも分からず、雪にハンドルを取られながら躱したと思ったらトラックの陰から人が出てきて轢いてしまった訳だ。

本当に、申し訳ない……。


「そろそろよろしいですか?」


そして眼の前に、プラチナブロンドに深紅の瞳を持つ少女が居る。

真っ白な空間に、少女とオレの二人きり。

これはアレか?天使とか死神とかの類なのか?


「天使でも死神でもありません。神の見習いのようなものです。」


はぁ、左様で。

そんな神様見習いが、なんで山奥にいるんで?


「どうも出現する座標を間違えたようで……申し訳ありません。」


オレに謝るよりも、オレを轢いた運転手に誤ってくれよ。可哀想すぎる、ホントに。


「あなたを轢いた運転手ですか……。分かりました、人ではなく、鹿にぶつかった事にしておきましょう。」


え、そんなんできるの?人轢いたよりは全然良いけど……その場合オレはどうなんの?


「そうですね、もともとイレギュラーな死亡ですし、他の世界へと転生はいかがでしょう?ツテはありますよ?」


他の世界へ転生ねぇ。てか、オレの死因とか、家族はどうなるんだよ?


「もとより、この世界に居なかった事になります。なので、家族もあなたの事を忘れてしまいますが……。」


……なんて言うか、随分スムーズに事を進めるね?


「はい?」


はいはい、きょとんとした顔があざと可愛いですね。

あ、頬染めないでください、イラッとするんで。


「え?」


色々言いたい事はありますよ?なんで声出して無いのにオレが思ってる事分かるんだ?とか。

あんたみたいな神様見習いが、人の人生そんな軽く左右させていいのかよ?とかね?

ただ、なにより気になるのさ。

もしかして、ここ数年トラック業界での噂の原因ってあんた?


「い、いえ、私だけって訳ではっ!」


ふんふん。つまり?あんたにも一因はあるって事だよね?

しかも、その言い方だとさ、同じ様な奴がいるって事だよね?


「え、えっと、神様見習いは数えられないほどいますし、人型が全てでも無いですし……」


え、何?もしかして猫とか子供とか?

オレみたいに存在抹消型以外にも、色々いそうな感じだよね他の世界に転生?だっけ?


「は、はい。昨今は猫ブームもあり、猫型も多いです。子供や大人の人型も多いですが、総じて美形が特徴で……。」


それはもういいから。

転生の方は?


「えっと、死んでしまった人は転生ですが、人によっては転移の場合もあります!こちらに落ち度がある場合ですが!」


いや、まあね?あんらが原因で亡くなった人は可哀想だと思うよ?思うけどね?

しかもオレの場合、イレギュラーな死亡って言うけど、原因はおたくですけどね?


「は、はい。」


実際に轢いちまった運転手への配慮はどうなってんだよ?


「へ?」


気が付けば眼の前に人が居て、轢いたと思ったら誰もいなくて、でもその感触だけは残ってて……気にしないとでも思うのか?毎晩悪夢に魘されて、仕事が出来なくなった奴や、運転するのが怖くなった奴もいるんだぞ!?そっちはどうでもいいとか言う訳?


「はわわわわ」


ただでさえ人員不足な運送業なのに、お前らの半端な仕事のせいで苦しんでる同業者をどうしてくれるんだ!

たしかに、確かにトラック運転手は良い印象が無いのは分かってる。

時間との勝負だから飛ばしがちだしマナーが悪いとか、街中運転してたら邪魔だとか…、騒音だとか排気ガスが臭いとか……。


「うん?」


それでも!騒音排気はどうしよもないとしても!ちゃんとマナー守って運転してる奴らだっているし、オレ等にだって思う心はあるんだよ!それをまるっと無視するなよ!!


「あうあう……」


……神様見習いのあんた。


「は、はい!なんでしょうか!?」


オレ、転生はしない。


「え、で、でも。肉体はもう死んでるので、転移はできませんし……。」


おまえ達の、監視をする。


「ふぇええ!?」


さっき、言ったよな?座標を間違えて出現したって。つまりアレだろ?間違えないよう管理をすれば、こんな馬鹿な事にはならないだろう?おまえ達が散々やらかしたんだ。イヤとは言わないよな?


「わ、私の一存では、あわわわわ」


じゃあ今すぐに、改善策を言ってくれ。

オレたちトラック運転手に迷惑をかけない、具体例を上げてくれ。

……できないのか?できないなら、できるようオレが改善策を立てて、管理してやる!

これ以上、人に迷惑をかけるなっっ!!子供でも学習ぐらいするだろう!?



すったもんだの末、結局上司の神様が出てきて、オレの言ってる事は受け入れられた。

一から体制を整えてだったから、機能するまで時間はかかったが杜撰な管理体制は整えられ、事が起こった場合のアフターフォローもしっかりと整ってきた。


もちろん、一番最初にやったことは同業者へのアフターフォローである。






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