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第八話 ラブコメ主人公撲滅計画、その真実


「今からあなたにはこれを全部読んでもらいます」


「……いやごめん、言いたいことがいろいろあるんだけどまずこれは何?」


 風呂敷を俺の部屋へと持ちこんで、広げてみたら入っていたのは大量のマンガと小説だった。

 しかも、その全てが美少女の表紙を飾っている。


「これはラブコメ作品群です。数ある中から厳選して持ってきました。マンガからラノベまで、ごゆるりとお楽しみください」

「いやムリムリムリ! これ全部は今日中には読み切れねえよ!」

「は? このヘタレ野郎いい加減にしろよ」

「いい加減にしてほしいのはお前の豹変ぶりと俺のプライバシー侵害だよ!」

「はあ、ちっ、めんどくせえなあ、じゃあ一作品だけでいいよ、ヘタレ野郎もみたことあるあれで」

「お前今小さい声でメンドクサイとか言ったか!? そのまま返してやるよポンコツ忍者!」


 そこからしばらく口喧嘩・貶し合いに発展したが割愛。


「……てか、この作品って完結してないんじゃねえのかよ」

「はい? ああ、国の力で書かせました」

「作者ぁぁああああああああ!」


 そこから二時間かけて完結まで読まされました。まる。






「で、どうでした?」

「う~ん。俺が好きになっった黒髪清楚系ヒロインと結ばれなかったのは少々不満があるけど……、普通に面白かったと思うぞ?」

「ふんふん、なるほどなるほど、だから生徒会長とあんなにベッタリなんですね」

「いやフィクションの話だから! 現実違うから!」

「はあ、まあいいです。というか私が聞きたかったのはそういうことではないのです」

「? じゃあ、何が聞きたかったんだ?」

「では聞き方を変えます。この話の……、本来完結したはずのラブコメ作品の続きを描くとしたら、あなたはどうしますか?」

「つ、続き? そんなの作者にしか分からないだろ?」

「いいえ、容易に想像できますよ。これは最近ニュースにもなっていますから……、あなた、ニュースとか見てます?」

「み、見てないなあ、いつも時間に追われてたから」

「はあ、これだから情弱は」

「もうあえてつっこまないぞ俺は……、いいから、そのニュースとやらを教えてくれ」

「フフフ、素直な人は嫌いじゃないですよ。では、なるべく簡潔にお教えしますね」






 二○XX年 六月末日、事件は起きた。

「やめ、やめろおおおおおおお!」

「きゃあああああああああああ!」

 一人の男性と女性が殺害された。殺害したのは高校時代の友人で、男に片想いをしていた女性三人だった。


 同様の事件は毎年のように増加傾向にある。


 二○XX年 八月末日、国の行った結婚に関するアンケートで一部、こんな声が上がった。

「昔の男、高校時代に初恋した人が忘れられないんです(四十九歳)」

「高校を卒業してから、別の人と付き合っているのはしっているけれど、未だにその人に恋してるんです(三十五歳)」



 結婚をしていない独身女性に関するアンケートで、この回答はなんと十人に一人という驚異的な数字を叩き出した。

 数年前では考えられなかった現象に、国は頭を抱えた。



「と、まあこういうわけです」

「す、すごい生々しい話だったけど……それがラブコメどうこうって話にどうやったら繋がるんだ?」

 よく聞いてくれました、と言わんばかりに踏ん反り返ると、亜沙理は答えた。

「これらの事件、及び少子化の元凶に対抗するため、国はある計画を遂行することに決めました」

「け、計画?」

「はい、その名も『ラブコメ主人公撲滅計画』」

「……………………………………」

「この計画は、男と当人の女性関係を一度完璧にリセットさせること。つまり、ラブコメのハッピーエンド後の悲劇を回避すること。もしそれができなければ……」

「で、できなければ?」

「秘密裏に、可及的速やかに対象の男を抹殺すること。それこそが『ラブコメ主人公撲滅計画』です」



 数分後、ようやく頭が冷えてきた俺は、未だに目の前の現実全てを受け止めることはできなかったが、話を前に進めることとした。

 い、いやまだ不満とかいろいろあるよ? そもそもそんな理不尽なことを国が先導してやるのかとか、国のプロジェクトにしてはネーミングセンス最悪じゃねえのかとか。

 でもまあ、そんなことをこのポンコツ忍者に言ったって仕方がない。


「……で、これから俺はどうすればいいんだ?」

「当然ですが、国は初めからあなたを殺そうとしているわけではありません。当面の目的はあなたの女性関係を白紙にすることです。とりあえず、このメガネを見てください」


 スチャっと亜沙理は自身のメガネをはずすと、そのレンズを見せた。


「このメガネで対象の女性をみると、そこに好感度レベルが表示されます。レベルが百に達すると恋に落ちたことになります。この好感度レベル、百までは別に問題はないんですけど、これが百を超え始めるとそれは好感度=依存度になります。そのレベルが二百に達すると、その女性は男にぞっこんとなります。そうなればもう取り返しがつきません。女性は一生あなた以外を愛せなくなることでしょう。あなたには女性の好感度レベルが二百に達する以前に、その女性を振り、あきらめさせてもらいます」

「……………………それ、そんな理由で振られた女性はたまったものじゃねえだろ」

「ええ、そうですね。しかし人命がかかっているのです。そんなことは言ってられません。それに……」

「それに?」

「それに、女性関係のリセットさえできれば、後は自由にしてもらって構わないのです。その二人は真の意味で心が自由となり、本物の恋をすることができます。あなたが望むなら、事が済んだ後、どちらか一人と付き合うことも可能なのです。重要なのは、一度きっぱりと諦めさせること。好感度レベルを一度百以下にし、彼女達をヒロインではなく普通の女子高校生に戻すことなのです」

「で、でもでも、『ニセラブ』でもヒロイン達はきちんと主人公に諦めがついてるだろ? そういう描写があったじゃないか」

「はあ、あなたはそんなに人間の感情が単純だと思うのですか?」

「え……」

「一度男のことを諦めたとヒロインが思っていたとしても、それは好感度レベルが二百に達している状態で、ですよ。それまで主人公との多くの積み重ねがあって、その末に辿り着いた先で自分が諦めなければならないとしたら、そんなの諦められるわけないじゃないですか」

「それは確かに、そう、かもな」


 なぜだろう。

 なぜか、彼女のこの言葉には実感らしきものがあるように感じる。


「い、いやいや、でも先輩や会長がそこまで、その、俺に依存してるなんてことはないと思うけど」

「…………ここまで来るとあなたには呆れを通り越して怒りを覚えますよ。今日の会長を見てもそんなことが言えるのですか?」

「う……」

「彼女の好感度レベル、すでに百四十五にまで達していました。これは本当に時間の問題ですよ」

「このままじゃ、ダメなんだな」

「ええ、ですから彼女達には、特にあのヤンデレ会長には、いち早く好感度レベルが二百に達するその前に、ヒロインがヘタレ主人公に完全依存する前に、諦めさせます」

「どうするんだ?」

「フフフそのための演技じゃないですか、ダーリン」


 今度は無表情ではなく、すこし不気味で、子供のようなにやけ面で亜沙理は答えた。

 俺はゴクリと息を呑んで、彼女の続く言葉を待った。


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