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19/30

第十九話 合宿が、始まる!!


 話は飛びに飛んで三か月後。

 期末試験も二週間前となったこの時期、俺たちオカルト生徒研究会は生徒会室でテスト前最後の活動をしていた。


「会長~、コーラとポテチとポッキー買ってきてくださ~い。あ、コーラはもちろん缶のやつですよ。ペットボトルは邪道です」

「あ、我はサイダーで」

「なぁシジミ君。この三か月で私の立場あまりにも落ちぶれているように思うのだがどうだろう?」

「駄目ですね。完全にあの二人が打ち解けあったせいで先輩にクズウイルスが感染してしまってます……」


 とぼとぼ買いに行こうとする会長を引き留め、俺はホワイトボードを叩いた。


「おい亜沙理。今日の俺たちの活動は期末試験後の活動について話し合うことだぞ。十分やそこらで終わるんだからお菓子ジュースはなしだ。あと会長をパシリに使うのはやめろ」


 亜沙理が生徒会としての活動に参加してからというもの、その活動がより効率的になったのはよかったのだが、予算を絞りつくすように金が飛んだ。そもそも一個のパソコンの更新費用くらいしか予算の使い道がなく、毎年だんだんと減っていた予算だったが亜沙理が「そんなもったいないことしてたんですか?」とやや会長を煽りつつ活動ごとにお菓子やジュースを予算から買いだした。まあそのおかげで来年の予算には少しの希望を持つことができるのだが。


「どうして私だけ……だったら帰りにタピオカ買ってくださいね~」

「お前俺を飢餓死させるつもりなの?」


 三か月経ってもコイツのタピオカ好きは変わらず、俺の昼飯代はコイツの気分によって抹消されることが増えていった。


「で? 我のサイダーはどうなったのだ?」


 先輩はヘッドホンをつけ、オリジナル魔法陣作成をしていたようだ。


「会長。もうめんどくさいので話進めてください」

「シジミ君……、君も苦労するなぁ」




 バンバン! とホワイトボードを叩く音が響く。


「それでは定例会議を始める! おい赤座ヘッドホンを外せ! 亜沙理寝るな!」


 亜沙理と先輩のやる気がないのを隠そうともしない態度に俺は苦笑する。

 それでもきちんと会長の話を聞くあたり、素直ではあるんだよなあ。


「今日の議題は今後の活動について。期末テストが終われば夏休み。夏休みの活動と言ったら合宿なのだぁぁああ!」


 あ、あれ?


「会長? 去年はそんな話一回も上がりませんでしたよね? どうして今年から?」

「去年は私と君しかいなかっただろう? まあ、私はそれでもかまわないのだが」


 頬をほんのり赤くしながらにやける会長を少し危険に感じた俺は気づかれない範囲で数歩離れた。


「会長、場所はどうするんですか? 俺はあまり金がかかるなら行けませんけど」

「心配するでない。うちの別荘を借りるのだ。小さな家だが合宿できるくらいのスペースはあるから安心するのだ」


 合宿できる広さの小さな家て……。


「会長! 四寺見さんを経済格差で泣かせるのはやめてください! さすがの私もその行為にはドン引きですよ……」

「我が弟子をいじめるのは我も看過できんな……」

「そ、そうだな。すまんかったのだシジミ君。私の失礼な行為を許してくれ」

「お願いだから謝らないで! 惨めになるだけだから!」


 話はその後俺たちではありえないくらいに順調に進み、十五分でお開きとなった。ちなみに合宿先は海辺だそうだ。今から楽しみだがそれまでには期末テストがある……。


「じゃあ先輩、会長とはしばらく会えませんね……」

「なんだ我が弟子よ寂しいのか? いつでも電話してきてよいのだぞ?」

「君はまず赤点回避しなくちゃだめなのだ。これから二週間みっちり私と勉強するのだ」

「ふむ? とりあえず撮り溜めた深夜アニメを消化してからで良いか?」

「いいわけないのだ! ああ、もう本当に赤点だけはするなよ! 合宿に行けないなんてことにはなってくれるなよ!」


 四人で校門まで来ると、ここで二人とはお別れだ。


「それではお疲れ様です。ではまた今度、合宿で会いましょう」

「その前に一回くらいは打ち合わせするがな。シジミ君、君は無茶だけはするでないぞ」

「お主、これ以上心配を掛けることは許さんからな」

「はい、それはもう大丈夫です」


 俺たちは分かれると、それぞれの帰路に歩み出した。



「って、亜沙理がいない!」


 遠くを見るとそこにはタピオカの屋台の前で仁王立ちする亜沙理の姿があった。


「忘れたとは言わせませんよ」

「忘れとけよぉぉぉぉ!」


 俺の絶叫と明日の昼飯代が、夕刻の空に消えていった。




 期末試験も無事終わった八月の某日。俺たちは海に向かう電車に揺られていた。


「しかしさすが我が弟子といったところだな。学年十位を全科目で達成とは」

「いや~、さすがに前日腹壊したのは焦りました……。追試は八割換算なので休んだら上位十人には絶対なれませんからね……」

「ほんと、あなたっておっちょこちょいですよね~」

「おい亜沙理。お前が前の日にタピオカドリンクにデスソース入れて騙して飲ませたのが原因だろうが。ぜってえ忘れねえからな」


 期末テストの前々日。試験も近いからと残った半分のタピオカをやるというから「こいつも成長したなぁ」とか「これって間接キスなんじゃね?」というピュアな気持ちで飲んだ俺を殴りたい。わざわざ専門家に頼んで透明にしてもらったとかいう話を聞いて俺はコイツのクズへの探求度に磨きがかかっていることを再確認させられた。コイツ暇なのん?


「ところで先輩はどうだったんですか?」

「ふむ? まあ我の敵ではなかったな」

「馬鹿なことを言うな! 私がどれだけ苦労したか……」


 会長がほろりと涙を流した。なんだかんだ優しい会長は周知のとおり苦労人なのだ。

 まあ相変わらずトップなのだろうが。


「会長、あなたも苦労しますね……」

「君ほどではないよ……」


 俺たちは「はぁ」と溜息を吐きながら遠くの眺めを見ていた。海はまだまだ遠い。


「なあところで亜沙理、そのバックパッカー並みのパンパンに膨れたリュックサックには何が入ってるんだ?」

「非常食ですよ非常食。遭難する可能性もありますからね」

「お前今から行く場所海なんだけど分かってる?」


 亜沙理は電車に入ってから一人でぽりぽりと野菜スティック(おかしのやつ)を食べていた。

 また新しいのを取り出しやがったからリュックの中をのぞきみた。

 そこには見えるだけでも大量のお菓子がはいっていた。


「ぶれないなぁお前」

「あなたこそ荷物さすがに少なすぎません?」

「いや、一泊だし着替えと参考書くらいしか持ってきてねえよ」

「さ、参考書? なあ弟子よ、お主もぶれないなぁ」


 先輩は少し呆れているようだった。ほ、ほら次の期末試験まであと半月くらいしかないし!

 亜沙理を見るともう会話への興味はなくしたようでひたすら食していた。

 一人で黙々と食うあたりコイツらしい。

 俺はさすがに中に入ってるチョコレートを取り出し、みんなに配った。


「私の金で買ったんですけど」

「お前まさかこれ国の金で買ってないよなそうだよな!」


 汗水流している全国のサラリーマンの方々に敬礼!




 目的地には一時間ほどで着いた。

 まだお菓子を食べてる亜沙理を引きずりながら俺たちは会長の別荘に向かった。


「にしてもほんとに海の真ん前なんですね。着替えもラクチンだ」

「ああ、満月の日とかはすごく絶景だぞ。二人で見に行きたいなっ!」

「貴様にはそんな時間は与えんぞ。永久に労働するのだ。とりあえず晩飯の用意は任せた」

「そうですよ残念会長、あなたは所詮エリート社畜なんですから。残業だけがあなたのボーナスです」

「もう二人して会長をいじめないで! ほら泣きそう!」



 会長は顔を沈ませて表情さえ見せなかった。会長、強く生きて。


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