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プロローグ+第一話 主人公の独白から始まるラブコメってどう思います?/清楚系生徒会長の憂鬱


12月25日










 俺は彼女が好きだ。




 この世の誰よりも大好きだ。


 どれくらい好きかというと地球が一億回滅亡してやり直しても、同じ人を好きになるくらい。大げさなんかじゃない。なんといったって俺は童貞だからな。




 彼女の天使のようにさらさらな髪の毛も、笑った顔も、照れた顔も大大大好きだ。


 彼女と出会った日のこと。彼女と過ごした日々。彼女との思い出を忘れることは一生ないだろう。












 俺は彼女のことが嫌いだ。




 この世の誰よりも大嫌いだ。


 どれくらい嫌いかというと酢豚に入っているパイナップル、おばあちゃんが作ったポテトサラダに入っているリンゴと同じくらいだ。


 微妙だって? いやいやいや、そもそも肉とかサラダに果物入っている時点で禁忌だから。即裁判ものだから。




 彼女の口の悪さ。食い意地の強さ、ポンコツっぷりも大大大嫌いだ。


 彼女に受けた嫌がらせ。彼女に奪われたお小遣い。彼女への恨みを忘れることは一生ないだろう。










 まあ冗談はさておいて。






 彼女とは恋人同士ではない。




 彼女とは、もちろん兄弟なんかではなく。




 バトル漫画のライバルでもない。




 彼女。忍者にとって、俺はターゲット、暗殺対象で。





 彼女は俺の婚約者だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ、これで一段落だな。もう帰っていいぞシジミくん」


 生徒会室にパソコンのキーボードを叩く音が響く。社長イスと会長用のデスク。会議用の小さな丸テーブルとイスしか置いてないもの置きのような部屋。そこには二人しかいない。


 一人はいかにも清楚という言葉が似合う女性。名前を月見野つきみの かえでという。ポニーテールで短く黒髪をとめている。身長は高めで、スラリとした体型はどこかのファッションモデルだと言われても疑問を抱かないほどに整っている。


「いや、まだ手伝いますよ。ていうか全然一段落してないじゃないですか」


 対して、シジミと呼ばれた男、俺、熊島くまじま 四寺見しじみは、どこにでもいそうな男子高校生レベルの容姿。特徴的なところといったら、目の下にくっきりできた隈くらいだ。


「むぅ。後輩をかえらせることで合法的に帰れるという私の計画が……」

「会長のことはお見通しです。さあ、あと一時間は頑張ってもらいますよ」

「むぅ……」


 生徒会は実質この二人で切り盛りしている。というのも、俺の学校では、生徒は絶対に部活に参加するか、生徒会に入らなければならない。

 そんなわけで、特に目的もなく生徒会に入るような奴らは、帰宅部志望だった連中でもあったわけで。

 俺が生徒会に入った頃は、会長一人で生徒会を運営させていたらしい。

 会長は、文武両道、品行方正の完璧超人であったため、誰もがあたりまえに「あの人なら大丈夫だろ」と思っていたが、そういうわけでもなかった。

 俺が入った頃の会長の死にそうな表情は今でも深く印象に残っている。まあ、たまたま俺はそれを目にしただけで、普段はそういうのを一切見せなかったらしいが。


「ほら、印鑑の分は俺はやっておきますから、会長は残りをお願いします」

「君、実は私のこと好きだろう」

「はいはい、俺は会長のことが大好きですよ」

「むう、はぐらかされた」


 会長は学校では尊敬のまなざしで見られている。実際、神聖な雰囲気を纏わせている会長には、どこか近寄りがたいところがある。それもそのはず、会長はそもそも他人とあまり関わろうとしない。問題が起きたらいつも自分ひとりが責任を持ち、自分ひとりで解決してきた。それが普通の人間には無理難題のようなものであっても。


 ゆえについた二つ名は氷の会長。

 でも、そんな会長も生徒会室にいる間は少しリラックスしているようで、最近は冗談も言えるようになってきた。

 そんなことが、少し嬉しく感じる。



 二人は無言で作業を続ける。



 トントントン、カタカタカタッ。

 印鑑の音と、キーボードの長い合唱が止んだ。

 生徒会室に夕日が差し込む。時刻は六時を回っていた。


「もうこんな時間ですし、続きは明日にしましょう」

「そ、そうか? そうだなっ」

「?」


 会長は最近いきなりキョドることがある。

 不思議に思いながら会長の顔を見る。少し頬のあたりが赤く染まっている。


「風邪ですか?」


 俺は会長のおでこに手を当てる。


「っひゃあ」

「熱はそんなにないみたいですね。……ってなんて変な声出してるんですか」

「べ、別に変なんかじゃないっ」


 会長はそう言うと、そっぽを向く。さささっと、窓側に寄るとだまりこんでしまったので、どうしたものかと頭をポリポリとかいていると、会長は語りだした。


「君は、今日が何の日か覚えているかい?」

「今日? 今日は4月30日ですけど……。何かありましたっけ? 祝日は昨日ですよ?」

「……はあ、君はまったく……、では教えてあげよう」


 会長はそう言うと、ポニーテールを跳ねさせながら振り向いた。


「今日は、君が我が生徒会に初めて来てくれた日だよ」


 心臓がドキリとする。

 それは彼女が振り向いたときの微笑んだ表情が妙に色っぽかったからだ。


「そう、でしたっけ? すっかり忘れてました」

「そうだよ。そして私が救われた日でもある」

「……大げさ、ですよ。俺はただ、生徒会員としての仕事をこなしていただけです」

「それが、私にとっては特別なことだったんだよ」



 一歩、また一歩とゆっくり近づいてくる。



「あの時の私は、一人ぼっちだった」

「会長は、俺が入る前から皆に信頼されていたじゃないですか」

「そう、だね。けど、心は常に一人だった」


 会長が俺の目の前に立つ。ほんの少し、俺よりも背の低い会長が見つめてくる。


「君がいてくれたから……、私は、また笑えたんだ」


「だから……」


 すぅっと、さらに距離を詰められる。会長は俺の胸のところに、その小さく、ほんのり赤い顔を当ててくる。





「私は、君のことが好きになってしまったみたいだ」





 十秒、二十秒、三十秒と、時が止まる。

 その間、頭がぐるぐると回る。

(え、うそ、うそうそうそだろ? 会長が俺のことを好き? そんなはず……、そんな素振りどこにもなかったのに)

 そんな思考を急停止させられた。

 会長は、俺の背中に手を回したのだ。ぎゅっと抱き寄せられる。


「ちょっ、会長! 何を……」


 ほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐる。会長の胸の感触まで伝わってきて、俺は目をそらすことしかできなかった。


「ごめんシジミくん。君を困らせるつもりじゃなかったんだ。返事は、ゆっくり考えてくれて構わないよ。君の事情は知ってるしね」

「……ありがとうございます。会長、会長?」

「んーー?」

「会長、これ、いつまで続けるつもりなんですか?」


 かれこれ一分間、会長が俺を抱きしめるという構図で固まっている。


「んー」

「かい、ちょう」


 心臓が脈打つのが分かる。この音はあまり聞かれたくないな。

 耳をすませば、もう一つ、心臓の音が聞こえた。

 これは俺のじゃないなと思い、会長を見ると、くんくんと犬のように俺のにおいを嗅いでいるようだった。


「か、会長! 何やってるんですか!」

「……はあ、すぅ、はあ。ああ、シジミくんのにおいがする」



 むずがゆく、ますます赤面してしまう。



「会長、そろそろ離れてくださいよ」

「いやだ」

「いやだって……」

「あと、一分」


 そういう会長の表情は俺の胸に押し付けられているため拝見できない。

 そんな甘えた会長を振りほどくことなど当然できることなく……、

 どれくらいそのままで居続けたのかは分からない。おそらく数分程だったはずだが、すごく、すごく長い時間そうしていた気がする。


 どちらが何を言うということもなく、知らない内に、いつものように鍵を片付け、生徒会室を二人で出た。

 俺はまだ学校に用事があるので、会長とは靴箱で別れた。


「じゃあまた明日、生徒会室でな」

「はい、気をつけて帰ってください、会長」

「うむ。ああ、そうだシジミくん」

「何ですか?」



「大好きだぞ。大好きだ」



 会長が離れていく。

 背中が見えなくなるまで、俺は会長の後ろ姿から目をそらすことができなかった。















 彼がいなくなった方向を見ずに、私は歩いた。

 いや、違う。見なかったのではない。見れなかったのだ。

 頬が熱くなる。心臓の鼓動が止んでくれない。

 校門を出ても赤面が終わることはなかった。にやにやもとれそうにない。


「……あ、あ~~~~!!!」


 恥ずかしくて死にそうだ。

 幸い校門の外には誰もいなかったから助かったが、私は帰宅を終えるまで顔を両手で隠しながら歩いた。


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