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6 兵士の正体

 新たに竜人の少女メルを加えた俺達は、ルーピン達商人と共に目的地である西の都 アマリリアへと向かっている。

 ただこれまでのようにグルッドの早さではなく、多くの荷を積んだ馬車の速度に合わせて進んでいるため予定していた3日で到着することは出来ないだろう。

 この日は既に日も落ちてしまったため、川の近くで野宿することになった。


 この速度だとグルッドの数倍は時間がかかるだろうな。

 でもバグドの紹介状があるとはいえ、やはり街の人物と知り合いがいるのかいないかでは差が大きい。

 まぁ今はメルもいる。ゆっくり進むのも悪くないかもな。


 「ショウ様、どうかしましたか?」


 「いや、なんでもないよ。ありがとうメル」


 メルは俺の言葉に笑みを浮かべる。

 

 この1日でかなりメルも明るくなってきたな。

 奴隷のことはよく分からないが、いつまでもメルを奴隷のままにしておくのはダメだろう。

 アマリリアに着いたら考えてみるか。


 「ハハハハッ、その奴隷も随分とショウ様に懐いたものですな!」


 「……ルーピンさんですか、何かご用でも?」


 俺達の元に現れたルーピンの姿に、メルは怯えたように俺の後ろへと隠れる。


 「用という訳ではないのですが、部下の報告によるとここから少し行ったところに最近捨てられたと思われる村がありましてな。ここで野宿も良いですが、そちらへ移動するのはどうかと」


 廃村か……。確かに日が落ちて気温もぐっと下がってきた感じだ。

 それにそこならメルの服を見つけることも出来るかもしれない。


 「そうですか、分かりました。ではそうすることにしましょう。ルーピンさん、案内をお願いできますか?」


 「ハハハハハッ、もちろんです! さぁそれでは参りましょう!」


 ルーピンは俺の答えに笑みを浮かべると、1人の部下の元へと進んでいく。

 どうやら彼が廃村までの道案内役の様だ。

 そう言えばルーピンの馬車がみあたらなくなっている。こいつ、俺が断っても自分は村へ行くつもりだったな。


 ルーピンの後に続く俺達はしばらく森の中をすすむと、しばらくして開けた場所へと出た。

 そこには確かにルーピンの部下以外の人気がない村が現れた。

 

 「ここがその村か……。それにしてもルーピンさん、あなたの部下が増えているように見えるのですが……」


 「ええ。偵察、と言いますか安全を確認するために散っていた部下たちが全員帰ってきたんですよ。まぁそのお陰で死にかけたんですけどね、ハハハハッ!」


 「なるほど、そう言うことですか……」


 俺は馬車の周りで松明を持つ計6名の部下達を見つめる。

 

 でもこの村、少し変じゃないか?

 確かに人気は無いし廃村なのは間違いないだろうけど、いくら何でも綺麗すぎる。

 いや、こういうのは初めて見るものだし俺の気のせいかもしれないか?


 だがその時、俺の頭の中にグルッドの声が響いた。


 (ショウイチ様、お気を付けください。この村、少しおかしいです)


 これはグルッドの声……。契約獣となったモンスターと契約主は心の声で話すことが出来る。

 でもこれを使ったということは、ルーピンには聞かれたくないことがあるということか。


 ⦅どういう所が妙なんだグルッド?⦆


 (それがこの村、人の気配がまるでない。それなのに人間の匂いがするのです)


 ⦅人間の匂い? それならルーピンやその部下の匂いじゃないのか?⦆


 (いえ、あ奴らの匂いなら既に覚えておりますので。それにこれは女の匂い……、それと子供の匂いです)


 女性と子供……。グルッドの言うことが本当ならそれは確かに妙だ。

 ここに女性はメルしかいない。流石にメルの匂いを間違えることは無いだろう。

 

 俺はグルッドの言葉に昼間の兵士の言葉を思い出した。


 これはあいつの言っていた通り、ルーピンには何か裏がありそうだな。

 

 「さぁさぁショウ様! あなた方はこの家でくつろいでください! 運よく寝具などは置いていっているようですし、汚いところではございますが野宿よりはマシでございましょう」


 ルーピン達の側までやってきた俺に、ルーピンはいつものように笑みを浮かべながら目の前の家の扉を開く。

 確かに家の中には寝具が置かれていたがそれだけでなく、服や食器類まで残されている。

 流石にこうなるとグルッドの言葉と相まって不振に思わずにはいられないが、そう思っていることが知られ不審がられても困るからな。


 「分かりましたありがとうございますルーピンさん。ではお言葉に甘えて今日はここで休ませていただきますね」


 「ハハハハハッ、ではまた明日出立の時刻になればお知らせいたします」


 「ええ、よろしくお願いします。では今夜はこれで」


 俺はそう言うと、メルとグルッドを家の中に入れ扉を閉める。

 さて、これからどうするか。やはりあのルーピンという男怪しすぎる。

 案内役と言うメリットを差し引いてもこれ以上一緒にいるのは危ないかもしれない。


 「……グルッド、俺はこれ以上ルーピン達についていくのは危険だと思う。お前はどう思う?」


 グルッドは俺の言葉にしばらく考えた後口を開いた。


 「そうですね、私もその方がよろしいかと思います。あいつら程度主であれば虫けらを殺すよりも簡単に潰せるでしょう、ですがそれでは主の正体が人間どもに知られる可能性も捨てきれません。ここであのようなリスクを負う必要はないでしょう」


 こいつ、本当にバカなのか鋭いのかよく分からないな。

 でも俺もグルッドと同じ考えだ。

  

 「あの、ご主人様の正体って……」


 「あ、いや何でもないよメル。ほんとグルッドは何を言ってるんだろうな、アハハハハ……」


 俺達の会話を聞いていたメルは不思議そうに尋ねてくるが、俺は話をはぐらかした。

 するとしばらくして俺達がいる家の扉を一度叩く音がする。

 その音は俺達の間に一瞬静寂をもたらしたが、その後に聞こえた声で警戒を解除した。


 「……おい、少しいいか?」


 この声、確かあの時の護衛の兵士の……。


 「何か用があるのか?」


 俺がゆっくりと扉を開けると。そこには予想通りあの時の護衛の兵士が立っていた。

 

 「ここでは話しにくい。今の内に中に入れてくれないか??」


 「……分かった」


 兵士はマントのフードで顔を隠していたが、俺が中へと招き入れるとフードを取り顔を見せる。


 「それで何の用だ?」


 「……お前ももう気が付いているだろう? あのルーピンという男はただの商人じゃない」


 「ああ」


 「やはりそうか。……これはあまりやりたくない手段だったがこうなっては仕方がない。ショウ、と言ったな? 実はお前の力を見込んで頼みたいことがあるんだ」


 力を借りたい? これは何か事情がありそうだな。

 だが俺が答えるよりも早く、話を聞いていたグルッドが口を開いた。


 「話が読めないな。お前はルーピンとかいう男の仲間ではないのか? 何故主人を裏切るような真似をするのだ??」


 グルッドの言葉に、兵士は身に着けているマントの中から拳ほどの大きさの紋章が描かれている首飾りを見せる。

 俺にとってその紋章は初めて見るものだったが、グルッドは違っていた。


 「これはまさかモルディード王国の紋章か!? これを身に付けれるのは王国軍の……」


 「そう、俺はモルディード王国軍保安部 ヘンデル・ニリアだ」


 「やはりそうか! 保安部と言えば王国軍でも精鋭揃いの部隊。さらに犯罪組織などに潜入しその壊滅も任務とする王国の裏の組織ともいえる者達ではないかぁぁ!!」


 「…………」


 えっ?? 何このグルッドのテンション。

 俺が知らないからこのテンションについていけないだけなのか?

 ……いやメルも何が何だか分からないという顔だし、やっぱりグルッドがおかしいんだろうな。


 グルッドの突然の高揚についてはいけなかったが、しばらくしてグルッドも周りとの温度差に気が付き一度咳払いをした後話を戻した。

 

 「……いや、失礼した。だが保安部がここにいるとなると、やはりあのルーピンという男は……」


 「ああ、あいつは保安部が違法な奴隷売買を行っているとして目を付けていた。そこで俺が奴の組織に潜入することでその証拠を手にする必要があったんだ。だが盗賊の襲撃を受け、唯一の内通者だった男も殺された。そこで出会ったのがあなただったということだ」


 ヘンデルはそう言うと俺を指差す。

 

 なるほどな。内通者を失ったことで手段を選んでいる場合じゃなくなった、そんなところか。


 「……事情は分かった。でもそう言う事情なら俺が手を貸すメリットはないだろう? ただでさえ面倒に巻き込まれるかもしれないんだ、俺達はすぐにでもここを離れるつもりだ」


 そう言い身支度を始める俺に、ヘンデルは小さく首を左右に振った。


 「いや、メリットならある。その奴隷の竜人、その少女は恐らく違法なルートで奴隷となった者だ。となると保安部としても放っておくわけにはいかないからな、身柄を預かることになる」


 ヘンデルの言葉を聞いたメルは急いで俺の後ろに隠れ、俺の服を強く握った。


 元は間違いから俺の奴隷になってしまったメルだ、保安部とやらに保護されるのならそれが一番いいのかもしれないが……。

 メルに視線を移すと、メルは目に涙を浮かべこちらを見つめている。

 

 ……はぁ、何でこんなに懐かれたんだろうな。

 

 俺はメルの頭に手を置き笑みを浮かべると、ヘンデルに答えるのだった。


 「つまり協力すれば、その見返りとしてメルはこれからも俺達と一緒にいることが出来る。そういうことか?」


 「……まぁそういうことだな。彼女を人質にとるようで悪いが、こちらも手段を選んでいる場合ではなくなっているのでな」


 「……はぁ、分かったよ。ただ協力はするが俺達に危険があればすぐにでも逃げさせてもらうぞ? それだけは言っておく」


 「ああ、それでいい。ではよろしく頼む」


 俺の言葉に、ヘンデルは初めて笑みを浮かべるのだった。

 

 


 


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