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3 旅立ち

 俺がこの異世界に転移してから2カ月が経過していた。

 ただこれはあくまで俺が数えていた数字であって、この世界の1日が地球と同じ長さかまでは分かっていない。

 さらに驚かされたのは俺の姿。

 髪は一部が白くなり、容姿は高校生のように若い。

 バグドが言うには転移者は姿形が変容することが多いらしく、これもその影響だろうということ。

 この程度で済んで運が良かった。

  


 そして俺はこの2カ月でバグドからは多くの事を学んできた。

 まずこの世界についての事。

 この世界、今俺がいるこの森は帰らずの森と言われいるらしく多くのモンスターが生息しているらしい。

 まぁそれはこの身で体験したことだ、聞いても驚きはしなかった。


 そしてその帰らずの森はモルディード王国と言われる国の西側に位置している。

 モルディード王国はこの世界の中で東のウェハル帝国、西のモルディード王国と言われるほどの国力を持つ大国。

 ただ、亜人種も多く様々な文化が混ざったウェハル帝国とは異なり人間が殆どを占めるモルディード王国においては、俺が持つ転移紋は帝国以上に忌み嫌われる存在だという。

 これはモルディード王国が最初の転移者に対抗するために集まった人間が建国した国ということが背景にあるらしいのだが……。

 全く、どうせ転移するならこの国以外の方がよかったんだけどな。


 これらの知識をこの2カ月でバグドから学んできた俺だが、この日ついにその彼の元を離れる時を迎えていた。


 

 「では最後にこれまでの教えの成果を見せてもらうことにしようかの」


 いつものように家の前の空間で対峙する俺とバグド。

 幾度となく繰り返してきた魔法の訓練だが、この日で最後だと思うと少し寂しくもある。

 ただ感傷に浸る俺とは反対に、バグドは早く訓練を始めたいのか体をウズウズさせているのだった。


 ……相変わらずの魔法オタクだな。

 でも今日だけはお前に勝ちを譲る気はない。


 「ふぅ、なら早速俺から行かせてもらうぞ」


 「ハハハハッ、どこからでもかかってくるがいい!!」


 「……身体強化ストレングス


 俺は自分の魔力を体に留め巡らし、足元の地面が抉れるほどの速さでバグドの背後に移動。

 その威力を殺すことなく彼の胴体めがけて右足を振りぬいた。


 「ホホホホホッ! いきなり身体強化ストレングスを使ってくるとはな。だがお前さんは相変わらず動きが単調、それではいくら早くとも避けるのは簡単じゃの」


 「チッ、外したか……。でもな、今日の俺は一味違うぞ!」


 バグドは振り返ることも無く上空へと飛び上がり俺の蹴りを回避したが、これは計算どおり。

 上空のバグドへと右手を向けると、彼のさらに上空に雷雲が発生していく。


 「ほう、これはしてやられたわ。動きを読まれたのは儂の方であったか」


 「ああ、ここに来てから毎日あんたにしごかれてきたんだ。あんたに俺の動きが読めるのならその逆も当然だろう」


 「ハハハハハッ、確かにその通りだ!」


 「……行くぞ! 降りてこい、天雷てんらい!」


 俺が腕を振り下ろすと雷雲からは数本の雷が生み出され、それらは混ざり合い1つの巨大な雷へと成長。

 轟音と共にバグドへ一直線に落下してくるとバグドに衝突と同時に周囲には目を開けることが出来ないほどの閃光が森の中を駆け巡った。


 や、やったか……? あれで死ぬようなバグドじゃないが流石にやり過ぎたか。


 だがそんな心配も閃光が収まり視界が晴れると一瞬で吹き飛ばされた。

 天雷の落下で俺の目の前には10m程のクレーターが出来ている。そしてその中央には何事も無かったかのように体に付いた土を払うバグドの姿があったのだから。


 「ハハハハハッ、流石に効いたわい。儂でなければ死んでいる所だぞ」


 「……本当に化け物だな、あんたは」


 「それはお互いさまというものだ、よっと!」


 「ぐあっ!」


 俺は腹部に強烈な衝撃を感じると、次の瞬間には後方へと吹き飛ばされた。

 どうやら瞬時に目の前に移動してきたバグドの攻撃を受けたらしいが、そのことに気が付いた時には勝負は付いていたのだ。


 「くそ……。ま、参った、俺の負けだ……」


 「ハハハハハ、これで儂の130勝目だな。最後に勝ちを譲ってやろうと思っておったがこの程度ではまだまだ無理かの」


 「……ハハハ、精進することにするよ。痛てててて」


 俺はバグドの手を借り体を起こしバグドの治癒魔法で治療を受け始めた。

 だが再び体に衝撃を受けると今度は前方へと吹き飛ばされる。

 これはバグドの攻撃によるものではない。このモフモフとした感触。間違いなくあいつだ。


 「ショウイチ様! お怪我はありませぬか!!」


 「もごもがにもがぐもげ! びぐばびびばいばぼ!(その前に早く退け! 息が出来ないだろ!!)」

 

 「な、なんと仰いましたか??」


 「……退けって言ってんだこのクソ狼がぁぁ!」


 「ぬがぁぁぁぁぁ!!」


 我慢の限界に達した俺は再び身体強化ストレングスを発動。

 体の上に覆いかぶさる物体を一気に吹き飛ばす。

 上空に飛ばされ地面に叩きつけられる灰色の物体。

 もうお分かりだろうが、これは2か月前俺を襲ってきた闇狼ダークウルフである。


 「な、何をするのですかショウイチ様」


 「うるさい。お前自分の体重を自覚してるか? 普通の奴なら死んでるところだぞ」


 「フフフフッ、承知しておりますとも。我が主ショウイチ様はそのような事気にも留めないほどの存在ということを!」


 「ハハハハハッ、相変わらず仲が良いのお前さん達は!」


 俺達のやり取りを聞いていたバグドはいつものように大きく笑い声を上げる。


 こいつはグルッド、闇狼ダークウルフの族長を務めていたモンスターだ。

 初めて会った時は俺を襲おうとしてきたが、大地竜ランドドラゴンから命を助けてやってからというもの族長の座を息子に譲りこうして俺の側から離れようとしない。

 それは俺が転移紋を持っていると分かってからも変わらなかった。

 何でも俺の初めての配下になったのだとか……。俺はそんなことは許可していないんだけどな。


 「所でショウイチ様! 今日は遂にあなたがこの地を離れる日。このグルッド、もちろんお供させていただきますぞ!」


 「あ、あぁそう言えばそうだったな……、ってお前も付いてくるのか??」


 「当たり前です。私はショウイチ様に命を救われた身、この命をもって尽くす所存」


 「い、いやそれはいくら何でも無理じゃないか?? この世界のことはよく知らないが流石にお前みたいなモンスターが人間の街には入れないだろう」


 「…………っは!!」


 あぁ、こいつやっぱりアホだな。

 グルッドは俺の言葉で気づいたのか口を開いたまま固まってしまう。

 だがこればかりはどうしようもない。2か月共に暮らしてきたんだ、寂しくないと言えば嘘になる。

 それでも俺は元の世界に戻る方法を見つけるまでは変に目立つことは避けたいのだ。


 「……ではショウイチ、グルッドを契約獣とすればよい。それであれば街にも入れるであろう」


 「契約獣? なんだそれは」


 バグドの発した言葉でグルッドの表情はみるみる明るくなっていく。

 どうやらグルッドは契約獣というものを知っているらしい。


 「その手がありましたか! 流石は賢者バグド様」


 「ちょ、ちょっと待て! 2人だけで盛り上がるなよ、俺にもその契約獣とやらを教えてくれ」


 「ホホホホッ、すまんすまん。契約獣というのはな、人間と主従契約をモンスターのことだ。契約獣は主人の魔力を糧とするため人を襲うことはない。そのため街でも数は多くは無いがモンスターが共に暮らしておるのだ」


 な、なるほど。その契約獣にグルッドをすれば一緒に連れて行くことが出来るのか。

 

 だがそこで俺はある疑問にぶつかった。


 「……ちょっと待て、今魔力を糧にするって言ったか? それじゃあこいつに魔力を吸い尽くされる危険もあるんじゃ」


 「ハハハハッ、そんな心配はない! 契約獣が分けてもらう魔力は微々たるもの。それにお前さん程の魔力があれば闇狼ハイウルフ1000匹と契約してもお釣りがくるわ!」

 

 「その通り! 我が主は自分の力をもっと自覚するべきなのです! 私ごときがあなたの魔力を吸い尽くせるわけがないではありませんか!」


 「す、すみません……」


 あれ、なんで俺責められてるんだ?

 ハァ……、でもまぁ1人で旅をするよりはこんな奴でも一緒にいる方がいいかもしれないか。


 何故か得意げな表情のグルッド。

 その顔に少し苛立ちを覚えつつも、俺はグルッドを契約獣とすることに同意するのだった。












 ─帰らずの森 東端─


 「では達者でな、ショウイチ」


 「あぁ、バグドもありがとうな。この礼はいつかさせてもらうよ」


 「ハハハハッ、それは楽しみな事だ」


 俺達はバグドによって帰らずの森の東端に移動していた。

 バグドの話では、ここからグルッドの足で東に3日行ったところに西の都 アマリリアと言う街があるらしい。

 そしてそこにいるバグドの友人 エルラという男性を尋ねろということだった。

 バグドからの紹介状も手渡された。まったく、何から何までありがたい。


 「それじゃあ行ってくる。色々装備も貰ってよかったのか?」

 

 俺の体はバグドからもらった装備で固められている。

 右腕を覆う白い装甲。魔法で編まれいくら引っ張っても破れることのない衣服。

 他にもいくつかの装備を身にまとい、まるでファンタジー映画の様な出で立ちだ。


 「ああ、餞別と思ってくれ。それにそれらの装備は儂特製の物、必ずお前さんの役に立つだろう」


 「……そうか。それじゃあグルッド、行くか!」


 「了解しましたショウイチ様! では参りますぞ!!」


 「……っておいぃぃ、早すぎるぞぉぉぉ」


 バグドに最後の別れを告げた俺だったが、騎乗するグルッドは想像以上の速さで駆けだすと瞬く間にその場を後にしていくのだった。

 

 「まったく、せわしない奴らだ。ショウイチ、お前さんは気づいていないだろうがお前さんの魔力はこれまでの転移者とは比べ物にならないほど膨大な物、この儂など足元にも及ばないほどにな。その力を使いこなせるようになればお前さんの敵はどこにもいないだろう。だがそれが良いことばかりではない。ショウイチ、お前さんには儂と同じ道は歩んでほしくないものだのぉ……、ハハハッ、儂、いや私も年を取ったかな」


 小さくなっていく俺達を見つめていたバグド。

 その時の俺はまだ気づいていなかった。小さくなっていくバグド、風に吹かれいつもは腰まである白髪に隠され見ることのなかった彼の首元。

 そこに俺と同じ紋様、そう転移紋が刻まれていることに。 

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