マッチポンプって知ってる?
ようやく目が覚めたシオン。しかし全てが遅過ぎた。
緑の龍は焦げながらもシオンの側で控えている。
この圧倒的な力を目の当たりにして、エルフの人々も震え上がっていた。
『『この方の眠りを妨げてはいけない!』』
この場にいる人々の気持ちが1つになる瞬間であった。
すでに獣人達は全て動けない状態で、倒れながら呻いていた。
スピカとスフィアは抱き合いながら震えていた。目覚めさせてはいけない怪物がいる事を知ったのであった。
「みんな!獣人達の手当てをしてあげて下さい!」
シオンの声でエルフの人々は獣人達の手当てを行った。
「うぐっ………守護精霊様の契約者にお願い致します。妾はどうなっても構いませぬ!どうか、食糧を分けて頂けないじゃろうか!?」
まだ録に動けぬ狐の獣人がシオンの足を掴み、しがみついた。
「頼む!妾は奴隷でもなんでもなる………じゃから頼む………お願いします」
涙を流しながら狐の獣人は懇願した。
「ちょ、ちょっと待って!」
シオンだけ状況がわからず混乱していた。
「シオン、ちょっと良いかしら?」
スピカとスフィアがシオンに近付き、ある程度の状況を説明した。
ダラダラ………
『やっべー!?今の私は極悪人みたいじゃない!?』
※みたいではありません!その通りです!
冷や汗が止まらないシオンであった。そして誤魔化すために狐の獣人に話し掛けた。
「き、傷は大丈夫?名前を教えてくれる?」
傷の手当てを受けていた狐の獣人が起き上がり答えた。
「………妾は獣人の集落のまとめ役、玉藻」
「集落が魔物に襲われたと言っていたけれど、被害の詳しい状況は?」
躊躇いながら玉藻は答えた。
「先日、魔物の大群が襲ってきたとき、妾達は戦った。襲ってきた魔物達は撃退出来たが、外の田畑は全滅じゃった。しかも食糧庫もやられて妾達は困窮した。しかも近隣の動物も居なくなり狩りすら出来ぬ状態じゃ。せめて、子供達の分だけでも恵んでは頂けないじゃろうか………」
ダラダラ………
ダラダラ………
あうあうあう!?どうしようーーーー!!!!
まずい!このままでは極悪非道の人物になってしまう!
※すでに極悪人です!
何とかこの現状を打破する方法はないものか!?誰かヘルプミーーーーー!!!!!
はっ!?
ピコッーーーン!!!!!
「大丈夫!私に任せて!!!」
シオンは集落の外に出ると緑聖魔術を使った。
「さぁ!見ていなさい!緑聖魔術『成長』!」
すでに収穫した麦畑がどんどん成長していった。青い芽が出てきて、すぐに立派な黄金の麦畑に変わった。
エルフ、獣人達は唖然としていた。
「わ、妾は夢でも見ておるのか?」
そして、立派に育った麦畑はウッド君が刈り取ってくれた。さらに小麦粉にする過程もウッド君がやってくれた。その工程を5度ほど繰り返すと、優に3年分ほどの量の小麦粉の袋の山が築かれた。
「これを集落へ持っていきなさい。エルフもまだ余裕がないのなら少し持っていきなさい。まだまだいくらでも作ってあげるわ!」
シオンの見る目が変わった。
「私は、元アクエリアス公爵家令嬢シオン・アクエリアスです。私は植物を操る魔法が使えます。そして【緑の癒し手】の2つ名を頂いております!」
シオンの紹介に獣人達から歓声が上がった。
「お、おお!これで集落が救われる………」
シオンを見る目が恐怖から、畏怖と敬意の目に変わる瞬間であった。
「シオン殿じゃったか?本当に感謝するのじゃ!これで女、子供達を飢えさせなくてすむ。本当にありがとうなのじゃ!」
ううぅ………、良心が痛いデス。
あれ?これって私、マッチポンプってヤツやっちゃった?
※マッチポンプとは自分で火を着けて自分で消す事をいう。自分で事件を起こし、自分で解決する例えに使われる。
こうしてシオンは良心と罪悪感でやるせない気持ちでいっぱいになるのでした。
「何かお互いに誤解があったようです。申し訳ありません。これからは交流を深めて、お互いの親睦を深めていきましょう!」
シオンの提案に玉藻は感動していた。
この森に住む者達は、基本的に不干渉を貫いていたからだ。その前提を覆そうというのだから。
こうしてシオンは獣人族とも繋がりを持つことになるのだった。
次回、罪悪感!
流石のシオンも罪悪感を感じます!
お楽しみに!
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