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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
99/110

オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・2

 町から馬車で数時間と、遠く離れたところに『森の館』はある。王国南西部国境沿いに広がる大森林のただ一点、館へと至るための入口からでなければ進入することができないのだ。

 もしも別なところから館を目指して進もうとすれば、瞬く間に撃退されてしまうだろう……『剣姫』リリーナ率いる館の戦闘防衛班が仕込みに仕込んだトラップの数々は、鍛えた亜人でさえ如何様にもできる威力を持つ。

 

「かと言って正規ルートを真正面から攻略しようってのは、むしろそちらのが大変なんだよね」

「トラップどころか戦闘防衛班、それこそリリーナさんたちを相手取るから、ですか……」

「リリーナさんは言わずもがな、副班長のダーイルちゃん以下班員は皆、館の中でも上位の実力者たちだ。そんな彼女らが全力で向かってくるわけで」

「おっかないにも程がありますよ、それ……大人しくトラップにやられた方がまだ、楽かもしれないっすね」

 

 館の防衛事情を語るセーマに、アインもエルゼターニアも背筋が凍る心地がしていた。もちろん許可も用もなく館を目指すことなどありはしないが、それはそれとして館へ進入しようとして戦闘防衛班たちに攻撃される自分たちをつい頭に思い浮かべてしまえば、戦慄が走るのも仕方のない話ではある。

 

 豪華な車内、手持ち無沙汰に語らう三人。中央オアシスユートピアへと続く『隠しルート』を目指してエルゼターニアたちは今、セーマの所有する馬車にて館を目指していた。

 相当な、少なくともエルゼターニアが知るそれとは比べ物にならないスピードで走る馬車。しかし車内はほとんど揺れもなく快適そのもので、ソファやデスク、果てはベッドまで備え付けられている内装と合わせれば、共和国首都に構える彼女の家よりも豪華ですらある。

 

 馬車に負けた自宅のことは努めて考えないようにもしつつ、感心してエルゼターニアは言った。

 

「すごい馬車っすね、これ……揺れも全然ないし、速度も半端じゃなくて」

「一応この馬車、王国でも一番質の高い業者の特注品だからね。多少の悪路でもびくともしないように設計されている、らしいよ?」

 

 他人事のように語るのは、この馬車そのものはセーマの預かり知らぬところで用意されたものだからだ。

 戦後数年、ゆえあって各地を転々としていた彼はその間、館に戻ることはなかった。去年の春にどうにか、記憶喪失という状態でだが帰還したのであるが、その時には既にこの馬車は存在していた。

 

 セーマの帰還を待ち続けて館を管理、維持し続けたメイドたち曰く、町や村へ物資を調達するにあたり、必要だったため注文したものだという。

 しかもメイドたちは『森の館』とその主、すなわちセーマの威光を損ねないようにと気を利かせたようで、最新にして最高品質の技術を惜しみ無く注いだ特注品に仕上がっていた。並の貴族はおろか王族とて中々用意するのは骨が折れる程の資金を費やした、世界最高クラスの馬車なのである。

 

 それゆえ安定感、快適度については他の追随を許さぬレベルだ。加えてこの速度にも秘密がある。セーマは続けて言う。

 

「それに速度の方は……馬が良いんだ。あの子たちは特別強靭で、一緒に戦場だって駆け抜けた相棒たちなんだからね」

「戦争でのセーマさんの愛馬だったんですか! 道理で妙に早くてスタミナもあるなと思ってたら」

「ノワルとブラン。それぞれ黒い方と白い方。暴れだしたら並の亜人でも抑えることができない、じゃじゃ馬なところもある子たちだよ」

 

 言いながら、馬車の荷台の方──窓が付いていて覗くことも可能だ──を指差す。御者をしているメイド二人の更に向こう、黒と白の双馬がすさまじい勢いで走り、馬車を牽引している。体格も通常の馬より明らかに大きく逞しく、ダイナミックな生命の躍動を全身で表現している。

 この2頭がノワルとブランだった。戦時下において世界各地の戦場を遊撃して回っていた『勇者』セーマを移動面において支え続けた、相棒とも言える駿馬たち。今では『森の館』にて住人を運ぶ役目を担う、頼りになる名馬たちだ。

 

 普段は大人しいが一度敵に相対すれば、セーマの愛馬に相応しい大暴れをするのだという。ノワルとブランを窓から見やり、エルゼターニアとアインは感嘆と畏敬の念で呟いた。

 

「亜人すら圧倒するって……馬一頭とっても規格外っすねえ、『森の館』は。何か、これから訪ねるのかと思うと怖くなってきました」

「奇遇だねエルちゃん、僕もだよ……何だかんだ初めてお邪魔するわけだけど、何が待ち構えているか緊張してきた」

「いやいや二人とも、そんな怖いところじゃないって! 皆優しいし気にしすぎだよ、ははは!」

 

 戦く若者たちに、何やら怯えさせてしまったとセーマは慌てて取り繕う。けれどその態度がむしろ、余計にエルゼターニアやアインには空恐ろしいものに思えてくる。

 とはいえ馬車は駆ける。もうすぐ大森林の館への道へ到達する彼らは、とにもかくにもそんな調子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹海の中、不自然なまでに舗装された一本道をしばらく進み、ついにエルゼターニアたちは『森の館』へと辿り着いた。早朝からの出立だったがゆえ、まだ昼には遠い頃合いだが……おそらく別動隊は既に、中央オアシスユートピアの関所前にて待機しているだろうというのは予想ができた。

 

「予定通りにいけば正午には俺たちも中央オアシスの背後に、『隠しルート』を越えて到達できる」

「そしたらセーマさんが『狼煙』をあげて、同時に別動隊が関所を攻め始めるわけですね」

「ああ。別動隊が先んじると『不死魔眼』のシーラとやらがそちらに対応してしまうだろう。その子にはなるべく、俺の方に来て欲しいからね」

「別動隊から『不死魔眼』を遠ざけつつ、同時に敵陣営全体に混乱を与えるわけっすか……にしてもその、『狼煙』って」

 

 言い澱むのはエルゼターニアだ。作戦の概要、その要たる『不死魔眼』封殺を説明されてもなお、彼女には解せない点がある。

 中央オアシスユートピアへと到達した時点でセーマがあげるという『狼煙』について、彼女はそれがどのようなものであるのか知らされていないのだ。セーマやアインを疑うつもりなど欠片とてないが、実態を知らないのでは不安も感じる。

 おずおずと、エルゼターニアは尋ねた。

 

「……どんな感じなんすかねえ? やっぱりこう、煙とかあげるんすか?」

「それだと距離的に、別動隊には見えないかも知れないね。もっと突拍子もない方法だよ。何かこう、無限のパワーがどーん! みたいな」

「ど、どーん?」

「僕もセーマさんとの訓練の時に一度だけ見たんだけどさ、すごいよ。光が迸って、余波で辺りが吹き飛びかけたりとか」

「え、えええ?」

 

 要領を得ない、イメージのつかないアインの言葉になおも混乱は続く。何やら察するにセーマが何かしらエネルギーを放出するようだが、それがどのようなものであるかは想像もできない。

 疑問符の絶えないエルゼターニアの様子に、セーマは苦笑いして告げた。

 

「まあ、悪いことは起きないよ。見たらビックリするかもしれないから先に言うと、遠距離まで届く攻撃を放つんだ」

「攻撃……するんすか? 誰に?」

「それこそ『狼煙』だからね。適当に放つだけだよ。誰に当たろうが死なせないように加減するし、本当に別動隊への合図でしかないと心得といてもらえれば」

「はあ……わ、分かりました」

 

 もはや煙に巻かれているも同然なエルゼターニアだが、それでも頷く。何やら超常の現象を引き起こすのだということは伺い知れたので、とりあえずまったくのいきなりで驚かされることだけは回避できたのだ。今はそれで良しとするかと少女は己を納得させた。

 

「さて、それじゃあ降りようか。あまり悠長にもしてられないし、すぐに『隠しルート』に向かわないとね」

「そうっすね……わわわ! 大きい!!」

「これが、『森の館』……!」

 

 セーマに促されて馬車を降り、外へ出る。そうしてエルゼターニアとアインの眼前に広がるのは、樹海の中にも関わらず拓けた土地と、そこに聳える広大な館だ。

 町の富豪や名士でもここまで立派な屋敷ではない。家を十軒分、並べたよりもなお大きくしかも三階建てで、敷地内には他にも広場やら庭園やら、何やら離れらしい家屋までいくらかある。いずれも華美に過ぎずけれど地味にも過ぎない、品の良い高級さを顕現させており、総じてエルゼターニアやアインの見たことのないレベルの豪邸と言えるだろう。

 

 そして。何よりも異様な光景が二人の目の前にあった。

 メイドだ。それも一人二人でない、数十人が揃って整列し、頭を下げて恭順を示している。全員亜人だ──獣耳が生えていたり翼が生えていたり、角が生えていたりと一人残らず人間にはないそれぞれの種族的特長を有している。

 

 これ程の数の亜人が、揃ってメイド服を着て折り目正しく振る舞っているのだ。完全に現実離れした光景で、さしものエルゼターニアも絶句を禁じ得なかった。

 そんな彼女や同じく息を呑んでいるアインを尻目に、メイドの一人、一番前にて三人を迎えていた銀髪のエルフが微笑み、言う。

 

「お帰りなさいませ、セーマ様。無事のご帰還をこのフィリス、心よりお待ちしておりました」

「うん。ただいまフィリスさん、皆。と言っても今日は打ち合わせた通り、すぐ地下に降りて中央オアシスを目指すんだけどね」

「承知しております。そちらのお二人……アインさんと、ええと、『特務執行官』の?」

「え……あ、はい! 初めまして!」

 

 メイド──フィリスの視線がエルゼターニアに向けられる。クールな美貌を持つ彼女の目は、同性である少女からしても美しく奇妙な迫力がある。

 内心どぎまぎとしながらも、特務執行官として恥じぬ覇気で以て応える。

 

「共和国治安維持局特務執行課所属、特務執行官エルゼターニアと申します! 『勇者』セーマ殿をはじめ『森の館』の皆様には、中央オアシスを巡る事件の捜査についてご協力いただきまして感謝に絶えません! 本日はどうぞよろしくお願いいたします!」

「ああ、やはりそうなのですね……フィリスと申します。非才ながら当館のメイド長を務めさせていただいております。何卒お見知り置きをお願いいたします」

「は、はい!」

 

 名乗りと共に優雅に一礼するフィリスは、メイド長だけあってか気品に満ち溢れた所作だ。女として憧れさえ感じるそんな姿に思わず見とれていると、今度はアインがフィリスに会釈をする。

 

「お久しぶりですフィリスさん。今日一日、セーマさんにはお世話になります」

「ええ、アインさん。今回の事情については既にお聞きしております。国一つを巡っての戦い、苛烈とは思いますが……どうかお三方無理をなさらないでくださいませ。無事な帰還をメイド一同、心より祈願しております」

 

 中央オアシスへ至る『隠しルート』を通るにあたり、既に『森の館』の皆にはセーマから説明をしている。ゆえにフィリスも戦士たちの無事を祈った。

 至高にして最強無敵と崇める主セーマが付いているのだ、万に一つも危険などありはしないと確信しているものの……それでもやはり、こうして知り合った者たちが戦地に赴くというのは気掛かりにもなる。そうした想いからの、心優しい祈りである。

 

 想いを受け止めて、表情の引き締まる英雄たち。案じてくれる人々の存在に、気炎があがる心地だ。

 気迫の強まるエルゼターニアとアインを見やり、微笑むセーマ。次代を担う若者たちの闘志溢れる姿が、かつて時代を切り拓いた者としてひどく嬉しい。

 ついつい微笑みながらも、彼はフィリスに言った。

 

「ありがとう、皆……なるべく早くに帰れるようにするよ。そうしたら早速、地下に降りようと思う」

「畏まりました。扉の前までご案内いたします」

 

 セーマにしろエルゼターニアにしろアインにしろ、叶うことならばこのような戦いは早く終わらせるに限る。

 一も二もなく中央オアシスへの道を希望すれば、フィリスはゆっくりと、けれど重く頷くのであった。

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