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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
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オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・1

 一週間後、王国南西部は『砦町』の冒険者ギルド前。未だに陽も微かに見えてきた程度の明け方。夜風の名残が肌を刺す、黎明の空を彼方に見据えて。

 ──英雄たちは今まさに、この場所に集結していた。

 

「朝早くから集合ってのは、何かワクワクするねえ……いや、目的が目的だから遊び気分なわけじゃもちろん、無いけど」

「あー、何となく分かりますねそれ。普段と違う風景に心踊る感じと言いますか」

「その内、館の皆でどこかに旅行でも行こうかと思っているんだけどさ。その時もこんな感じでワクワクするのかも」

「旅行かあ……良いなー。私もエルと、どこかに遊びに行きたいなー」

 

 『勇者』セーマが呑気に呟くのを、『新世代の七人』のリーダー、ハーモニが同意した。どこかマイペースなところが似通うこの二人も、最初と比べればずいぶん打ち解けている。

 

「めっきり冷え込んできましたねー。最近寝起きが辛くって」

「人間も中々、難儀じゃのう。まあ館のメイドにも何人か寒いのが苦手な者もおるし、それぞれか」

「亜人さんでもそういう方、いるんですねえ」

「十把一絡げとはいかぬよ、さすがに。どんな生物にも得手不得手はあるでな」

 

 『焔魔豪剣』の最愛、ソフィーリアが寒がり、『女帝』アリスもふうむと唸る。たしかに寒くなってきた昨今、亜人といえども体調を崩しかねない者も館にはいる。『森の館』料理班長として今度、暖かい鍋でも拵えるかと内心、考える。

 

「砂漠での戦闘はとにかく足場の確保が重要だって言われてるんだ。細かく柔らかいから、何も考えずに動くとすぐに足を取られて隙を晒しちゃうそうだよ」

「ジナさんは砂漠での戦闘経験、おありなんですか?」

「浜辺の砂浜くらいならね。でも砂漠は初めてだし、正直不安……跳ね回っての空中戦メインで行くかな。アリス直伝の空中殺法なんだ」

「……拳法だったり空中殺法だったり、引き出し多いですねー」

「戦法の数なら館の誰より、それこそリリーナさんさえ抑えてトップな自信はあるよ。単純な実力はさておきね」

 

 星が認めた新時代の英雄、『焔魔豪剣』アインに向けて不敵に笑うのは『森の館』のメイドだ。獣の耳が生えたブラウンのロングヘアに、緑のメッシュが一房垂れた小柄で幼げな少女で、溌剌とした明るい印象とは裏腹のシニカルに肩を竦める動作が知的な一面を覗かせる。

 

 ──A級冒険者『疾狼』ジナ。リリーナとアリスの二人からそれぞれの戦法を叩き込まれた結果、今やリリーナに次ぐ世界屈指の達人へと大成したワーウルフのメイドである。

 セーマやリリーナ、アリスから事情を説明されて彼女も今回の作戦に参加することとなった。紛れもなく実力者であり、はっきり言えばアインですら彼女を相手取るには不足な程である。アインからしても先輩冒険者で、魔剣騒動の時に少なからず世話になった相手だ。

 

 そして。そんな相手に敬意をもって応対するアインを眺め、特務執行官の少女エルゼターニアは呟いた。

 

「アインさんもこうして見ると、年相応と言いますか……魔眼事件の時は本当に、結構年上のベテランお兄さんって感じだったから新鮮っす」

「『焔魔豪剣』と呼ばれる程の戦士となったとは言え、彼もまだまだ冒険者としては新米だ。年相応でなくてはむしろ、気負いすぎと言うものだろうさ」

 

 返事するのはエルゼターニアの隣に佇む美女。メイド服にマフラー、そして帯剣と特徴的な見た目をしたS級冒険者『剣姫』ことリリーナだ。

 世界最高の冒険者もまたアインを見やり、出会った頃にはまだまだ未熟だったかの英雄を思い、微笑む。

 

「たった半年でよくぞあそこまで成長して見せたものだ。人間とは本当に、少し見ない内に大きく育つ」

「あの人は特別だと思うんすけどねぇ……魔剣騒動の時からもう、あんな感じだったんすか?」

「いや? もう少し落ち着きはなかったし、感情に振り回されるきらいはあった。主様という大いなる道標があってこそだな、共和国にてエルゼターニア殿を導いて見せた『焔魔豪剣』の姿というのは」

「ふえぇー……そうなんすねえ」

 

 懐かしむような口振りのリリーナだが、エルゼターニアにはいまいちピンと来ない話だ。彼女にとってアインとは出会った時点で既に完成された、世界屈指の冒険者『焔魔豪剣』なのだ。

 それ以前の、新米冒険者だった頃の彼など想像もつかない。もちろんどんな人物にも──それこそアインはおろかセーマやリリーナ、ハーモニにさえ──右も左も分からなかった最初の頃、というのがあったのだろうとは思うが、大成した彼らしか知らない身としては、いまいち実感が沸かないというのも本音である。

 

 見るからに納得の及んでいないエルゼターニアに、軽く微笑みリリーナは言った。

 

「ふ……いずれ貴女もアインと同様、後進たちから偉大な先達と見られることになる。その時になれば、色々と腑に落ちることもあるだろうな」

「私がっすか? どう、なんすかねぇそれって」

「ハーモニが認め、マオが友としたのだ。必ずそうなるさ……もしかすると近い内にでも、な」

 

 どこか確信を得たかのように断言する世界最高の冒険者『剣姫』。自信に満ちたその言葉に、エルゼターニアは首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さておき、集いし英雄たちは行動を開始した。何も娯楽目的で一堂に会したわけではなく、力を合わせて中央オアシスを邪悪なる『魔眼』から解放するための共同作戦なのだから、何を置いても迅速さが求められるのは当然のことだ。

 金色の右目を虹色に煌めかせ、エネルギーを放つエルゼターニアがそれではと声をあげた。

 

「まずは私の『転移魔眼』でハーモニさん、ソフィーリアさん、アリスさん、ジナさんを共和国の外れ……中央オアシスユートピアの砂漠付近にまでお連れします」

「そこで『クローズド・ヘヴン』の二人と合流して、正規ルートからの進入、つまり関所を真正面から叩き潰すわけだ」

「本命である隠しルートからの奇襲を、よりやり易くさせるための囮部隊だね」

 

 続けてハーモニとジナが作戦について説明する。作戦の要である首都を直接攻める奇襲部隊、そのカムフラージュとして正規の陸路から中央オアシスユートピアへと進行する、まさしく囮部隊だ。

 激戦が予想されるため、人員は多めに割いてある──エルゼターニア、アイン、セーマ以外の全員がそちらの部隊で行動する手筈となっているのだ。作戦の性質上、最小限の人数で動くのが望ましい奇襲部隊とは対照的であった。

  

「ご主人にお付き添えできぬのは悔しいが、こちらも重要な役割ゆえ仕方あるまいか……」

「むしろ我らが奮戦すればその分、主様にスムーズな進入をしていただける。メイドとしては腕の見せ所だろう」

 

 館のメイド、アリスとリリーナが互いに顔を見合わせて話す。二人にしろ先のジナにしろ、セーマの傍で戦いたいという想いはいつだって強い。とはいえ状況や作戦を鑑みれば仕方のない状況ではあるのだから、駄々をこねることまではさすがにしないが。

 この鬱憤、件の『魅了魔眼』で操られている者たちには悪いが戦働きを以て発散しよう──そう考え気炎をあげる彼女らを、恐々と横目にしつつソフィーリアがアインと向き直った。

 

「アイン……無茶しちゃ駄目よ? 絶対無事に、帰ってきてね」

「ありがとう。ソフィーリアこそ、危険なことしないでよ? ……ソフィーリアに何かあったら、僕は」

「アイン……」

「ソフィーリア」

 

 見詰め合う二人。朝焼けに照らされて赤く染まった互いの顔が、お互いに見惚れる程に愛しくて。

 アインもソフィーリアも、言葉さえいつしか途切れさせながら恋人を視界一杯に収めている。

 

 幼い頃からずっとこの二人はこうしてきた。ただの農家の三男坊だったアインと、ただの弓矢職人の娘のソフィーリアと。周囲の人々が早くから公認していた程に、彼ら少年少女は真っ直ぐに愛し合っている。そしてそれは、アインが新時代の英雄となってソフィーリアがその相方となった後も当然、変わらない。

 

 初々しさはもちろんありながら、しかしてもはや老成した雰囲気さえ漂う、通じ合った二人。

 絆の深さ、強さにおいて師たるセーマをも唸らせる程の彼と彼女の唐突なラブシーンに、エルゼターニアは頬を染める。まるで恋愛経験のない特務執行官には、いささか目に毒な光景だ。

 

「うう、バカップルっす……」

「エルゼターニアさん、こういうのは見慣れてないのかな? まあこの二人と付き合ってたらその内慣れるよ、うん」

「な、慣れとかの問題なんすかねえ……?」

 

 呻くエルゼターニアに苦笑するセーマ。彼もアインとソフィーリアがこうして時折、周囲を一切視界に入れずに自分たちだけの世界を構築する場面に遭遇しているので、そういう意味では慣れていると言えた。

 若さだとか青春だとかを感じられて微笑ましさがあるのだが、同年代の少年少女などからすれば見ていられない類のものであるのもたしかだろうとは思う。

 特にエルゼターニアのような、生真面目な少女であればなおのことだろう……気遣いながらも言い募る。

 

「好き合っている者同士、こうなることは誰にでもあるものさ。ま、出くわしたら苦笑いでも浮かべておいてやるのが一番だよ」

「……セーマさんも、マオさんとこんな風になったり?」

「マオと? ……あるかもねぇ。あいつもたまに、甘えたになるから。あるいは俺もね」

 

 エルゼターニアの、好奇心半分からかい半分の質問にも至って普通に返す。そこには照れや恥じらいなどもなく、完全に平常心である。

 見た目少年のセーマだがこれで26歳だ。大人としての落ち着きなども多少はあるのだし、一々交際関係についてあれこれ言われたところでそこまで過剰反応するつもりにもなれない。

 

「う。何だか大人っぽい返しっす」

「一応これで成人してるからね、あはは」

 

 穏やかに笑う。エルゼターニアが子供らしさも多分に含んで唇を尖らせている姿をも微笑ましく思えながらも、彼女にゆっくり言う。

 

「さ、本当にそろそろ皆を連れていって欲しいかな。俺たち奇襲部隊も、急いで隠しルートを踏破しないといけないからね」

「あ! す、すみません。それじゃあ皆さん、お手を拝借っす!」

 

 本題に至り、慌てて両手を出す。『転移魔眼』発動の際、複数人を一度に転移させるにはまず、転移者同士で身体の一部を触れ合わせている必要がある。

 号令に合わせて手を繋ぐ、アインとセーマ以外の戦士たち。ここまでめいめい好きなことを話してリラックスしていた彼らだが、今やまったく様相が変化していた──迫る戦場を前に、引き締まる表情。

 

 頼もしいことこの上ないと、エルゼターニアも不敵に笑う。そしてアインとセーマに向けて、言うのだった。

 

「私はすぐ戻ってきますから、馬車の準備だけお願いしたいっす、お二方」

「ん、任せて!」

「皆、今日はよろしくね」

「──『転移魔眼"ウィー・アー"』!!」

 

 叫ぶ能力、消える姿。

 発動した『転移魔眼』は滞りなく発動し、アインとセーマ以外、そこにいた者たちを全員転移させた。今頃は作戦通り、共和国と中央オアシスの狭間にいることだろう。

 

「本当に使えるんだなあ、『テレポート』」

「エルちゃんも中々、人間離れしてきたなあ」

 

 残されて二人、感心する。

 どこか似たような仕草で、アインとセーマはエルゼターニアたちを見送ったのであった。

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