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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
97/110

救えオアシスの光、集う英雄たち・10

「……隠しルート!?」

「主様、それは……」

「アインくんの能力はたしかに便利だけど、目立ちすぎたり消耗もあったりするからね。奇襲ともなればギリギリまで使わないで済むし、それならそっちの方が良いはずだよ」

 

 そう説明するセーマに対して驚愕するエルゼターニアたちであったが、とりわけリリーナは一際驚きを示している。彼女にしては珍しく、否定的ではないにしろ困惑の色が強い反応だ。

 

 通常、王国南西部と中央オアシスは大森林に阻まれる形で陸路が封じられている。ゆえにここからオアシスへ向かうにはまず、海路で共和国に行き、そこからのルートとなる。

 しかしてセーマの言では一般に知られていない、隠された陸路があるのだという。

 その存在について知っているリリーナが、だからこその戸惑いもしきりに主へと尋ねた。

 

「主様、よろしいのですか? その、ルートの……『経路』の存在を外部へ漏らすこととなりますが」

「うん、ちょっと迷ったけどね……新しい時代を護ろうと闘う彼らに協力するなら、それしきのことを惜しんでもいられないかなって。それにどの道、近い内にオアシス以西へのルートは封鎖するつもりなんだ。元々意図していなかったんでしょ? アレ」

「それは……そうですね。たしかにあのルートは偶然発見してしまったもので、厄介ごとの種でしかありません。正しいことに用いた後は消し去るのがせめてもの道理でしょうね。それに、そうすれば余人に知られたところで害もありませんでしょうし……ふむ。さすがは主様、即座に的確なご判断をなさいます」

「あ、あの……」

 

 二人、何やら事情を把握している同士で話をしているのを、たまらずエルゼターニアが声かけた。その顔はひどく不安げだが、裏腹の希望も垣間見える。

 

 得難い話ではあった……王国南西部から中央オアシスに陸路で到達できるルートがあるのならば、セーマの言うように完全な奇襲も視野に入ってくる。

 中央オアシスは元より地理上の袋小路、背にした大森林という壁から敵が来るなど相手方が予想しているとは考えにくい。その上、戦前の情報のままであれば恐らく敵本陣たる中央オアシスの首都は大森林寄りで、すなわち関所より近い位置から攻勢をスタートできるかもしれない。

 

 あるいはアイン一人に負荷をかけ、真正面から突破する作戦よりもよほど、万全の状態で首魁と相対できるかもしれないのだ。期待は否応にも膨らむ──

 けれど。セーマとリリーナがかくも言い淀む姿を見ると、そもそも知るべきでない、知ってはいけない類のものなのではないかという不安も強く頭をもたげてくるのだ。話ぶりから元は何か別の目的のための『経路』なのだろう、それゆえ二人はこうまで迷っていると思える。

 

 知らなくても良いものを知ってまで、奇襲にこだわらなくても良いのではないか。そう考えているのはエルゼターニアだけではないようで、セーマの隣、アインも緊張と不安を織り混ぜた微妙な表情でいる。他の面子も大なり小なりそんなものだ。

 一同の代表として、特務執行官は続けておずおずと言う。

 

「ええと……話すのがまずかったり、知られると困ることでしたら何も、無理に仰っていただかなくても……」

「ん……気を使わせてごめんね。まあ、現状のままだとまずいかもって程度のことだよ。この騒動が終わった後は問題点を潰して無害にするつもりだからさ、心配しなくて良いよ」

「だが、そうだな。エルゼターニア殿やアインはもちろん、ここにいる皆全員──その『経路』について他言は控えてもらえるとありがたいな。何より主様が、貴君らならば言いふらさないと信じておられるのだから、どうかその信頼を裏切らないでほしい」

 

 穏やかに笑うセーマと裏腹に、厳しい眼差しで告げるリリーナのプレッシャーが強い。それだけ『経路』について外部に漏れることを危惧しているのだろうし、けれど伝えるに値するとエルゼターニアたちを見出だした、セーマの心を裏切らせないようにと強めに言っているのだろう。

 セーマの信頼と、リリーナの期待。それらに応えないエルゼターニアたちではない。自分たちを信じて言ってくれているのだという自覚を胸に、皆で頷く。

 

「それはもちろんっすよ! 絶対に他言なんてしません、たとえ上司でも家族でも、一言だって言わないことを共和国の盾、『特務執行官』の使命と誇りにかけてここに誓います!」

「当然、僕も誓いますよ。『焔魔豪剣』として、セーマさんの弟子として」

「私もアインのパートナーとして誓います!」

「ん、なら私もエルのパートナーとして誓います!」

「いや、さすがにお前はアリスの弟子として、ヴァンパイア互助会役員として誓え……ハーモニ……」

 

 次々誓いを立てる新世代の若者たち。偉大なる先輩たちがこうして信じて託そうとしてくれているのだから、是非にも応えたいという情熱が意気となって現れる。

 そんな四人の姿に、勇者も剣姫も目を細め、たしかに彼ら彼女らならば、きっと正しく隠しルートを扱い、そして他言することなくいてくれるのだろうと確信するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあ、話をまとめようか」

 

 作戦会議も兼ねた食事も一頻り終わり、多少落ち着いた空気の流れ始めた頃、アインはそう切り出した。一応の纏め役らしい、仕切りである。

 この頃になるとエルゼターニアたちもコーヒーやら紅茶やら飲んでくつろいでおり、何なら軽い雑談など交えていた程であるのだが……その声を皮切りに皆、彼の方を向く。

 集中する視線に応え、アインは続けて言った。

 

「この後、エルちゃんとハーモニは共和国に帰ってヴィアさんやゴルディンさん、そして『クローズド・ヘヴン』のお二人に作戦について説明する……セーマさんの隠しルートは省いてね」

「もちろんっす!」

「そして僕とソフィーリアはギルドに今回の経緯を説明する。こっちも当然、隠しルートについては話さない」

「変に隠しごとをさせてごめんね、皆」

 

 謝るセーマだが、エルゼターニアやアインからしてみれば彼の秘密を言いふらす気など当然ないのだし、そうまで気にされる必要もないことだと穏やかに首を振る。

 単純な話、厚意から本来秘匿していたものなのだろう隠しルートについて知らせてくれたセーマを裏切るなど、人としてできるはずがないことだ。生来、真面目な性質のエルゼターニアやセーマを師として仰ぎ敬うアインにはなおのことであった。

 若く誠実な英雄たちに感嘆の念を抱きつつも、今度はセーマが言う。

 

「そうしたら俺は隠しルートの点検でもしていようかな。あと、ローランにも今回のことを説明したいんだけど、構わないかなエルゼターニアさん?」

「『豊穣王』? ……あー、そう言えばセーマさん、ローラン王とご友人だとかマオさんにきいたことありますね」

「まあね。あいつとは対『オロバ』でよく情報をやり取りしてるから、今回についても話しておきたいんだけど……共和国が絡む話なら、あまり独断で言うのも悪いし」

 

 ふむ、と考えるエルゼターニア。王国が誇る名君『豊穣王』ローランがセーマと、ひいてはマオとも知己であることはかつての温泉村にて聞かされていたことで驚きはない。ただそうなると、ことここに至ればかの王にも話がいくことは成り行き上、自然のことである。

 共和国を代表して王国南西部にやって来た立場として、それを由とすべきか否か──問うたセーマの予想より格段に早く、返答はなされた。

 

「私、いえ共和国の立場からは大丈夫っすよ、セーマさん。この件については共和国というより中央オアシスの問題っすから、こちらとしましても説明しておいていただけましたら助かる話っす」

「ありがとう……それじゃあローランにも事態の成り行きを説明しておくよ」

「お願いいたします」

 

 かくして三者三様、この後の行動が決定された。エルゼターニア、アイン、セーマそれぞれに関係各所へと説明に走るのだ。

 おそらく数日はかかるだろう。説明自体はともかくその後、実際に中央オアシスへ赴くための準備の時間も必要だ。アインやセーマはどうか知らないが、エルゼターニアはルヴァルクレークのメンテナンスも十全に行ってからことに及びたい。

 つまり作戦決行は。

 

「──1週間後、っすね。場所はここ、王国南西部の冒険者ギルドにて朝に集合。メンバーは今回と同じっすかね」

 

 来週、このギルドから行われる。時間帯こそ朝からの話になるだろうが、集うメンバーも変わることはあるまい。

 アインが一応の確認を取る。

 

「エルちゃんとハーモニ、僕とソフィーリア。そしてセーマさんとリリーナさん、かな」

「あ、いや……こちらはアリスちゃんとジナちゃんにも来てもらおうかな。うちのメイドさんの最高戦力三人には、『クローズド・ヘヴン』のお二人のサポートに回ってもらいたいし」

「主様と離れるのは遺憾ですが……作戦の都合上、やむを得ないことですね。承知いたしました」

 

 意外なことにセーマからは、二人の追加人員があるらしかった。一人はエルゼターニアも知っている、アリス──ハーモニの師匠たる最強最古のヴァンパイア。『魔眼事件』においても終盤、マオと共に顔出しして入院中のエルゼターニアを見舞ってもいた。

 しかしてもう一人、ジナという名は噂には聞いているが会ったことはない。隣のハーモニも同様で、驚きや緊張と共に呻くように言った。

 

「アリスさんに……ジナさん! 話に聞いてる天才戦士ですね、ワーウルフの!」

「天才……まあ天才か。普段あまりに身近すぎるものだからピンと来なくはあるが、たしかにあの子は天才だな」

「今やアリスちゃんを超えてリリーナさんにも迫る勢いだもんねぇ。マオも、そろそろ相手取るにはヤバいかもって時折、顔をひきつらせてるよ」

「マオさんがっすか……!?」

 

 エルゼターニアの知る限り、アインさえも超える最強の存在、それこそがマオだ。以前にも難敵エフェソスをわずか数秒で半死半生の目に遭わせた場面を見ており、『魔王』という正体とも併せ、もはや無敵の存在であるとさえ認識している。

 そんなマオをして戦うには危険な相手だという、ワーウルフのジナ。そう言えば『クローズド・ヘヴン』のオルビスやファズも、彼女について言及していたことを思い出す。

 

「『疾狼』ジナ……『クローズド・ヘヴン』のオルビスさんとファズさんも勧誘するって言ってましたね」

「そっちでも言われてるんだ? 『魔剣騒動』の時にも『クローズド・ヘヴン』の二人、カームハルトとゴッホレールが色気を出してたよ」

「ずいぶん買われているものですね……あの子の実力ならば当然ですが」

「本人はそんなつもり、毛頭ないみたいだけどねぇ」

 

 ジナをよく知るセーマとリリーナが、どうやら『疾狼』獲得に向け色々と動いているらしいS級冒険者集団へと苦笑いを溢す。当のジナ自身は『クローズド・ヘヴン』はおろか、S級冒険者になることさえも億劫がっているのが多少、面白くはある。

 

 ともあれ、中央オアシス攻略に向け話は纏まった。

 一同はかくして、一週間後に向けて各自の準備を整えるのであった。

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