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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
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救えオアシスの光、集う英雄たち・6

 王国南西部にある町は、その特徴的な外観から通称『砦町』と呼ばれることがままある。戦時下において防衛のためにと拵えた、町の外周を覆う天高い砦によるものである。

 結局戦禍に晒されず済んだ今現在においてもその砦は、町のシンボルとして観光名所となっている。今や世界で一番平和な地域とも言われる王国南西部を、ある意味で象徴する建築物であると言えよう。

 

 そんな町の全体を、中天に差し掛かる陽光が照らしていく。もうじきに昼となる頃、人でいっぱいの町並みには珍しいタイプの来客者が訪れていた。共和国の保安官が着用する制服に身を包んだ、背に大鎌を背負った黒髪の少女だ。初めて訪れる王国南西部の町並みに、目を輝かせている。

 

「ここが……アインさんとソフィーリアさんの住む、王国南西部は『砦町』っすか!」

「やー、相変わらず賑やかだねえ。共和国の首都も中々のもんだったけど、こっちはそれ以上だよ」

 

 少女──共和国治安維持局所属、特務執行官エルゼターニアは持ち前の好奇心を隠すことなく笑った。隣ではパートナーたるヴァンパイア・ハーモニが久々の光景に頬を緩めている。

 彼女らが普段住んでいる、共和国首都をも超える賑わいだ。戦後世界では唯一平穏無事なこの土地を求めて各地から移住者がやって来ている、というのは聞き及んでいた話ではあるのだが、それでも予想以上の人の多さだ。

 

「うわー! うわわー! すごい、いっぱいの人、お店! これが王国南西部なんだ、うわわわー!」

「ふふ……エルったらはしゃいじゃって。初めてよその国に来たんなら、そうもなるよね」

 

 エルゼターニアは今回が初めての王国南西部、もっと言えば初めての外国訪問となる。そのため浮き足立つ心を抑えきれずにいるのだが、反面ハーモニの方は世界各地を巡っていた経験豊富さもあり落ち着いていた。

 自分も初めて異国の地を踏んだ時は、こんな感じだったのかもしれない。そんなことさえ考えて微笑みながらも、けれど彼女はエルゼターニアに声をかけた。

 

「エルー。観光はひとまず後にしてさ、まずはさっさと用件済ませちゃおうよ。ほら、一応経費で来てるわけだし」

「う。そ、そうでした。すみません浮かれてしまって」

「いやいや、こっちこそ水差しちゃってごめんね? 後で一緒に、町を楽しもう!」

「あ……はい!」

 

 年相応の元気さを見せる彼女を、できることならばそのままにしておいてあげたい。せっかくの旅行なのだから、思う存分楽しませたい想いは、もちろんハーモニにもある。あるのだが……それはそれとして今回、ただ遊びに来たわけではないのだ。エルゼターニアももちろんそれは分かっており、すぐさま顔付きを仕事人の、特務執行官のものへと変えた。

 

 中央オアシスユートピアは関所付近にて、『不死魔眼』使いのシーラと交戦し、どうにか撤退してから既に一週間が経過している。

 その間、特務執行課は特務執行官の海外出張について手続きを取っていた。魔眼の製作者レンサスから受けていたアドバイスを実行するためにである。

 すなわち王国南西部に派遣して、『焔魔豪剣』アインと接触。そして彼の師匠たる『勇者』セーマに協力を仰ぐ。それらの目的のために今、エルゼターニアとハーモニは公務としてこの町を訪れているのであった。

 

「まずはアインさんと会って事情を説明。そしてアインさんのお師匠さん、『勇者』セーマさんの協力を得る。上手くいきますかね?」

「たぶんね。そのセーマって人は、前々から『オロバ』を明らかに危険視してた。わざわざヴァンパイアの集会にまでやってきて危険性を訴えてくるんだもの、並大抵じゃないよ」

「マオさんも『オロバ』には敵意満々でしたし、魔剣騒動以外にも何かしら因縁があったりするのかも知れないっすね」

「アインさんだけじゃなくあの二人まで敵に回すとか、『オロバ』も敵ながら哀れなもんだよ」

 

 軽口を叩きながらも肩を竦めるハーモニに、エルゼターニアは内心にて好奇心と期待感が膨れていく。『勇者』セーマ……どのような人物なのだろうか。

 『魔王』マオを倒し戦争を終わらせた英雄にして、人間世界に光をもたらした救世主。だというのに世間一般にはその存在が秘匿されていて、今ではこの王国南西部の国境に位置する大森林の中にて隠居しているのだという。

 

 世界最強と呼べる力を有しながらも、今では静かに平穏な生活を送っている男。亜人の美女ばかりを集めてハーレム暮らしをしているらしい点にはいささか、女性の身として思うところは無いでもないが、それはそれとしてたしかに畏敬の念は沸き上がる。

 アインがセーマを尊敬しているのも影響していた──エルゼターニアはアインを強く尊敬している。まさしく英雄という言葉はアインのためにある称号だとさえ思う程に、彼女は焔の英雄のファンなのだ。

 

 そんなアインがまったく敬意を隠すことなく師たるセーマを称えている。曰く世界最高の英雄、永遠の憧れ、と。そうしたこともあって、エルゼターニアはセーマという人物に早く会ってみたいと、逸る心を抱いているのであった。

 

「それじゃあ、まずは手筈通り冒険者ギルドに向かいましょうか。話は通してますから、アインさんとソフィーリアさんが待ってくださっているはずっす」

「あの二人とも久しぶりだねー。エルが入院してる時以来だから、一月ちょっとかな? 元気してると良いね」

「きっといつものようにラブラブっすよ。見てるこっちが胸焼けしちゃいそうなくらい、イチャイチャしてると思います」

「たぶんねー!」

 

 話ながらも町並みを歩く。人でいっぱいの通りを、ぶつからないように気を遣いつつも冒険者ギルドを目指す。そこは町の中央、特別区にある施設だ。

 再会に胸を踊らせつつも二人は、お互いはぐれないように手を繋ぎつつも進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王国南西部の冒険者ギルド施設は共和国のそれと比べても格段に大きく、広く、そして清潔なものだ。単純にかけた金が違うというのもあるのだろうが、何よりも冒険者たちの気質の違いに依るものだろうとエルゼターニアは推測する。

 彼女の知る限り、共和国の冒険者というのは概ね粗雑だ。言ってしまえばその日暮らしの連中であるのだから、中々安定しない生活が心を荒ませてしまっているのは当然考慮するにしても、時には閉口する程に粗野な人間もいるのが実際であった。

 

 それに比べて王国の冒険者たちの、何たる穏やかで呑気なことか。

 依頼を取り合い殴り合うようなこともせず、和気藹々と談笑しながら一日の仕事量を決める。受付にもしっかり列を成して並ぶし、ギルドの職員に対して喧嘩を売るような真似をする者もいない。品行方正そのものだ。

 

 国が違えばこうも変わるものなのか。唖然とするエルゼターニアに、ハーモニは笑って言う。

 

「王国が特別なんだよ、エル。どこも大概は貴女が見聞きして知っているような連中さ、冒険者ってのは」

「お、王国に何があるんすかねえ。『豊穣王』の威厳とかっすか?」

「まあ……実質そんなもんかな? この国の冒険者ギルドは国の管轄だからね。下手な真似したら国に締められかねないわけで、そりゃ良い子ちゃんにもなるよ」

「な、なるほど」

 

 曰く──

 王国の冒険者ギルドは戦後、王国による統治機構の一つに組み込まれたという。『豊穣王』ローランによる施策であり、ドロップアウト寸前の者たちの集いだった冒険者という集団を、職業としてイメージアップさせることにより社会に馴染ませる目的があったそうだ。

 果たして目論みは成功した。冒険者に対する手厚い保障と教育により、彼らの意識改革や全体的なレベルの向上がなされ、またそれにより冒険者という職業そのもののイメージも良いものへと切り替わりつつあるのだ。

 

 また実力による級分けは上級冒険者たちの英雄視へと繋がり、S級冒険者やA級冒険者に付けられる二つ名と併せ、今では世界中の冒険者界隈においてスタンダードな制度として普及するまでに至っていた。

 

「S級とかの区分や二つ名制度も王国が発祥なんすね……なるほど、つまり現代の冒険者事情は元を辿ると、この国が起点になったわけっすか」

「そういうこと。冒険者界隈においては最先進国なんだよ、この国はさ」

 

 話しながらもギルドの受付へと向かう。いくつかある窓口の、冒険者用でない方だ。

 事務員もこちらに気付いていたようでどこか、緊張した面持ちで立ち上がろうとしている。共和国から訪問者が来るというのは事前に聞いていたのだろうし、エルゼターニアが共和国治安維持局の制服を着用していることから、件の来訪者であることにも思い至ったのだ。

 ならば話は早いと、二人は窓口にて事務員と相対した。

 

「ごめんください。御連絡しておりました、共和国治安維持局のエルゼターニアとハーモニと申しますが……」

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 

 やはり話はスムーズなもので、事務員はすぐさまエルゼターニアたちを別室へと案内した。受付の横の通路を通って右、面談室だ。

 事務員がノックをし、ドアを開ける。そこにいたのは見知った顔と、見知らぬ顔と。既に準備を整えてくれていたのかと驚きと共に、エルゼターニアは声をあげた。

 

「──アインさん、ソフィーリアさん!」

「エルちゃん! それにハーモニ!」

 

 見知った顔……赤髪の少年、S級冒険者『焔魔豪剣』アインとパートナーの青髪の少女ソフィーリアだ。魔眼事件に際し、共和国の平和を護るために尽力してくれた二人が、喜色満面にエルゼターニアたちを出迎えてくれていた。

 

「久しぶりだ、元気そうで良かった!」

「二人ともご無沙汰してます。それにエルゼターニアさん……すっかり元気そうで、本当に何よりです」

「お二人のお陰っすよ! 本当に、その節はお世話になりまして」

「いやいや! 大したお力にもなれず申しわけない」

 

 久しぶりの再会に双方、喜んで握手を交わす。特にアインとソフィーリアの喜びようは尋常ではなかった。最後に会ったのがエルゼターニアの入院中だ、こうして元気に復帰した姿を見れば、嬉しさが込み上げてくるのも無理はない。

 エルゼターニアも二人の変わらぬ姿と様子が嬉しく、笑顔が溢れる。そしてハーモニを見るのだが──どうしたことか彼女はぽかんとしていた。驚きのあまり、硬直しているといった様子だ。

 

「……ハーモニさん?」

「あ……貴方、は」

 

 視線はアインたちではない。同じ方向を見やると、そこには男が一人。黒髪の、どこにでもいる風貌をした中肉中背の少年だ。こちらはこちらで、感心したような微笑ましそうな表情でアインたちを眺めている。

 知り合いだろうか? 訝しむエルゼターニアを横にして、ハーモニはおずおずと、困惑を隠しきれずにその少年に話しかけていた。

 

「あの、お久しぶりです……来ていらしたんですね。話が早くて何よりですけど」

「え? あ、どうも! お久しぶりですハーモニさん。ええまあ、アインくんから話は聞いてまして。色々込み入ったことになってるみたいですね、共和国」

「そ、そうですね……ちなみにアリスさんはここに?」

「あー、ごめんなさい。今日は来てないんですよ。代わりと言って何ですが、リリーナさんが来てます。今は食事処で席を確保してもらってますね。ほら、もうすぐお昼ですし」

「リリーナさんが! それは心強いです!」

 

 どこか距離のあるやり取り。友人知人と言うよりは、知り合いの知り合いといった程度の関係性らしい。それにしてもハーモニがどこか、怯えている風なのが気になるが。

 アインが呼び出した辺り、何かしら関係のある御仁なのだろう。努めて失礼のないように、エルゼターニアも挨拶する。

 

「あの、初めまして。共和国治安維持局特務執行課所属、『特務執行官』エルゼターニアです。よろしければ貴方様のお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、やっぱり貴女がエルゼターニアさんですか! いやいや初めまして、俺はそこのアインくんの友人で、セーマと申します。何やらお手伝いできることがあるとのことでやって来ました。どうぞよろしくお願いいたします」

「──セーマさん?! 貴方が、あの!?」

 

 仰天。名乗った男に、エルゼターニアは眼を剥いた。

 セーマ。ということは目の前のこの男こそが『勇者』だというのか。本当に町中のどこででも見かけそうな見かけの、優しげな雰囲気をしたこの少年が。

 

「どのセーマかはともかく……まあ、セーマです」

 

 彼は──セーマは、どこか気まずげに頬を掻いた。

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