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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
90/110

救えオアシスの光、集う英雄たち・3

 山間を抜け、エルゼターニアたちを運んでいた馬車はいよいよ砂漠の手前にまで到達していた。ここから先は中央オアシス政府領につき、隣国との境目にやって来たことになる。

 馬車とはここでお別れだ。御者の治安維持局員たちと事前に打ち合わせていた通り、彼らはここで引き返し、首都へ帰ることとなる。砂漠に馬車は走らせられない。加えて万一荒事となり、撤退する必要が出てきたとして、馬車や御者らに待たれているのはまずいのだ。

 

「逃げるとなれば私の魔眼、『転移魔眼』で一気に首都に帰れますから。ここでお待たせしてしまうと、置き去りになりかねないんすよね」

「距離の制限がない瞬間移動、というのはとてつもないですねえ」

「一度行った場所ならどこでもってのも魅力的ですなァ」

「と言っても、ここみたいな未到達の場所はこうして、最初は自力で踏破しないと行けないんすけどね」

 

 エルゼターニアが己の右目を指差して説明するのを『クローズド・ヘヴン』の二人、オルビスとファズは感心して聞いていた。金色に微かな緑の混じる瞳──生来の彼女の黒い瞳と異なるその目こそが魔眼。レンサスから移植され、瀕死だった身体を癒してあまつさえ超常の力さえもたらした『転移魔眼』である。

 距離も回数も制限なしに、一度行った場所であればどこへでも往き来できる破格の性能を持つ魔眼で、制作者のレンサス自身、その便利さから多用していたという汎用性の高い代物だ。

 

 それを用いて最悪の場合、瞬時に首都へ避難してその場を凌ぐことは当然、前もって想定されていた。何しろ相手は未知の魔眼、それもプロトタイプとして、コストを度外視して限界を追求した結果生まれた『魔法』すら凌駕するものなのだ。どれだけ万一のことでも考えずにはいられない。

 

「『魅了魔眼』は私なら無効化できるとのことっすから、私が相手するとして……問題は『不死魔眼』っすね」

「死ぬと完全復活する無敵の能力、かぁ。うーん、何回考えても無茶苦茶だよ」

 

 危惧するエルゼターニアにハーモニも賛同して唸る。レンサスが渡したという二つのプロトタイプ魔眼、『魅了』と『不死』。恐らくはそれぞれが何らかの形で悪用されているのであろうが、正直、手が付けられない可能性を秘めているのは間違いなく『不死魔眼』の方だ。

 一応、ここに至るまでの話の流れは把握しているオルビスもまた、難しげに呟いた。

 

「殺さず無効化する、ってのが最善手なんでしょうが。逆に言えば保持者とて、自分がそうされてはどうしようもなくなると分かっているはず」

「当然、その辺も何かしら対策を考えているんでしょうね。中々気持ちよくなれそうな相手ではありますが、不気味ですねぇ」

「だね──ん、ん? 気持ち、よく?」

「ファズ坊。つまらんこと言うもんじゃねえよ」

 

 ファズの言葉に何か、聞き捨てならない違和感を覚える。戸惑いのハーモニに、当の本人は耽美に微笑むばかりだ。オルビスはそっと、ため息を吐いた。

 有り体に言えば変態なのだ、このファズという男は。亜人が恐怖する様に興奮する性癖を持つという、『クローズド・ヘヴン』でも一際難儀な男なのである。

 

 冒険者でなければ遠い昔に死んでいるか、そうでなければ大量殺人鬼に成り果てているかのどちらかだ──とは、彼の師オルビスが常々より考えていることだ。

 あまり自分を出しすぎるなと軽く弟子の頭を小突きながら、オルビスは多少強引にでも話題を変えた。

 

「あー、ここでいつまでもやり取りしてたって始まりゃしません。とりあえず馬車にはここで帰ってもらって、我々は中央オアシスを目指すことにしましょう。差しあたっては向こう側、砂漠の遠くに見える関所らしいところ、目掛けてですな」

「は、はあ。まあ……そう、ですね?」

「関所、っすか……最初に何かしら動きがあるのは多分、そこっすね。『不死魔眼』がいることも考慮した上で行かないと」

 

 どうにも引っ掛かる物言いに戸惑うハーモニとは裏腹に、エルゼターニアはそうしたことには一切目も暮れずに砂漠へと視線を投げ掛けている。

 ただひたすらに、砂地が広がる不毛世界。共和国の豊潤な緑地とはまるで異なる光景は新鮮だが、今はどこか、不気味さも感じる。見据える先には『魅了魔眼』によって掌握された国があるかも知れない、未知なる邪悪が待ち構えているのかも知れないと、否応なしに疑念を抱かせてくるのだ。

 

「共和国を狙っての『オロバ』の画策……その余波を受けた国が、中央オアシスなら。この砂漠にも平和を絶対に取り戻して見せる」

「エル……気負いすぎちゃ駄目だよ? 今はこんなに頼れる相棒と、とっても頼もしい戦士たちがいてくれるんだから」

 

 決意と闘志を秘めた呟き。改めて気合いを入れたエルゼターニアの肩を叩いて相棒ハーモニが言う。

 不敵な笑みを浮かべていた。特務執行官のパートナーとして、必ず為すべきことを成すという情熱に満ち溢れた表情だ。加えて『クローズド・ヘヴン』の二人にも話を向ければ、彼らもまた、肩なり首なりを回して身体を解しつつ応える。

 

「ま、お互い手分けしてやっていきましょうや。多少の亜人どもなら受け持ちますでな」

「その代わり魔眼は頼みますよ、お二方。そういう得体の知れないものは、対処経験豊富な貴女方にお任せします」

 

 エルゼターニアと異なり、その姿には余計な力がない。あくまで自然体のまま、それでも全力で本気で目の前の責務を全うせんというプロフェッショナルとしての自負があった。

 世界最高の冒険者としての誇りがあるからこそ、いつでもいつも通りに振る舞うのだ……それもまた一つの強さだと、エルゼターニアは深く頷いた。

 

「分かりました、お任せください……さて。それじゃあ行きましょう皆さん。中央オアシス、魔眼の待つ砂漠へと!」

 

 そして号令。共和国の外側、隣国の待つ砂漠へと。

 戦士たちはかくして、中央オアシスへと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬の砂漠は夏よりかは気温が上がることはない。一般的に思い描かれる熱砂の浜というには温いとさえ言えるだろう。日射時間が短いため、必然的に温度の上昇が抑えられるのだ。

 その代わり夜は極寒である。夏の夜でも寒いものを、冬ともなれば命に関わる程に低下する。条件が重なれば連邦の凍土にも匹敵するというのだから、人間にとっては極めて厳しい環境であると言えるだろう。

 

 夜までに、少なくとも関所にてひとまず話を付ける。中央オアシスに異変が起きているのかどうか、ひとまずはそこでたしかめる。

 そう決めてからエルゼターニアたちが歩き始めたのが1時間程前のことだ。慣れない砂に足を取られ、ゆっくりとした速度にならざるを得なかったのだが、それでもどうにか関所を目前とするところにまで到達していたのである。

 しかし。関所に広がる光景は四人にとって、まったく信じがたいものであった。

 

「どう見ても……臨戦態勢、っすね」

「完全武装した兵士が隊列組んで幾らでも。戦争でも始めるのかな?」

 

 強い緊張感を胸に、エルゼターニアとハーモニが口にした。言のごとく、関所は何やらひどく物々しい雰囲気に包まれている。重武装した兵たちが数百から千近く、いくつもの隊を組んで守りを固めているのだ。既にこちらの存在にも気付いており、警戒心を強めている。

 明らかに平時の状態ではない。以前に中央オアシスを訪れたことのあるオルビスが、厳しい顔で言った。

 

「こいつは……大分、ヤバそうですなァ。明らかに外部からの敵を想定している。それも、ここしばらくの内に必ず襲撃されると考えての布陣だ」

「確実に共和国ですよね、その敵って。ふーむ……我々がここに来るに辺り、件の魔眼について公式に書簡を送っていたわけですが、それを受けて慌てて迎え撃とうとしているって感じですか」

「単なる示威にしても殺気立ち過ぎている。紛れもなく矛を交えるつもりだぜあれは。いやはや、中々。最悪のパターンが見えてきたじゃねえか」

 

 ファズとのやり取りも常より険しい。既にオルビスは、見解を固めつつあるようだった──すなわち中央オアシスは『魅了魔眼』に乗っ取られており、干渉せんとする共和国を撃退するつもりなのだ、と。

 苦々しくも『クローズド・ヘヴン』は態勢を整えた。あからさまに己の得物を取り出すことはしないにしろ、何かあればすぐさま戦闘に入れるように息を落ち着ける。相手は下手をすれば千人はいて多勢に無勢も程があるのだが、逃げるにせよいくらかは攻撃をやり過ごさねばなるまい。

 ハーモニもまた、いつでも『霧化』できるように構えながらも告げる。

 

「亜人の気配は無し……でも変だよあの人間さんたち。気配がひどく薄い」

「ふむ? 『気配感知』的には生命の危機と判断できるところですが、ありゃどう見ても元気一杯な連中ですなァ」

「うん。何か無理矢理、気配を抑え込まれているような感じがする。もしかしてあの人たち、意識が曖昧だったりするかも」

「……『魅了魔眼』っすか。本人の意思を封じ込めて、己の意のままにする、と?」

 

 『気配感知』による探知において、人間にしても気配が薄すぎることにハーモニが気付いた。

 通常、気配が薄いというのは死にかけているか隠しているかのどちらかであるが、前者にしては目の前の兵士たちは元気一杯。後者とするには全員が全員、ハーモニの探知能力を凌駕する技能を備えていることになる。そしてそのような実力者らしい風格は、今のところ千人はいる者たちの中に一人としている様子は見られない。

 

 となれば第三の理由──何らかの外的要因により意識を封じられ生きる屍、操り人形にされている状態なのだと推測される。そしてそのような真似ができる力など、『魅了魔眼』をおいて他にはない。

 なるほど、たしかにレンサスが危惧するだけのことはある。極めて厄介かつ凶悪だと、エルゼターニアは唇を噛みしめた。見ればたしかに兵士たちにはどこか覇気がない。呆けた様子で、けれど動きだけは整然としている。

 

 正気でないのだろう。かの魔眼に操られているのであれば、彼らとて立派な被害者だ。特務執行官として、そのような者たち相手にルヴァルクレークを振るうことはできない。

 ふう、と息を吐いてエルゼターニアは力を抜いた。そして仲間たちへ、告げる。

 

「この時点で大方見えてきました……帰りましょう。まさかここまで過激な反応をされるとは思いも寄りませんでしたが、得たものは大きい」

「ですなァ。さすがにこの数相手はキツいですし、何より操られているだけらしい人間を痛め付けるのも気が引ける」

 

 号令に応え、四人は静かに後退し始めた。距離を取り、ひとまずの安全を得たところで『転移魔眼』で帰還するのだ。

 もはや中央オアシスの現状が恐るべき事態になっていることに疑いの余地はない。かくなれば一刻も早く首都へ戻り、この事実を伝えた上で打開策を協議しなければならない。

 

「戦争しに来たわけじゃないですからね、我々。亜人もいない以上、僕も楽しめなさそうですから」

「……何か、時折不穏になるね、ファズさん?」

「そうですか? お気遣いなく、僕はご覧の通りの紳士ですとも」

 

 軽口を叩きつつも油断せず、関所から引き下がる戦士たち。幸い、兵士たちは追撃する様子もないようでじっと虚ろなまま、こちらを見るばかりだ。

 とりあえずこの場は凌げるか。そう思った矢先──ハーモニが叫んだ。

 

「……何か来る!? 空から、すごいスピードだ!!」

「えっ──空、有翼亜人!?」

「違う、人間! あれ、は……!?」

 

 言われるがまま空、関所の向こう側を見る。曇り空の果て、猛烈に迫り来る何か、燃え盛る炎。鳥の形を模した、炎だ。

 炎の鳥は一度天高く舞い上がり、そしてそのまま、エルゼターニアたちのところへと急降下を仕掛けた!

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたしますー

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