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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
87/110

エルゼターニアとレンサス・2

「中央オアシスに……気を付けろ?」

「ああ。ちょっとばかし、厄介な案件を放置しちゃっててさ、僕が」

 

 気まずげにそのようなことを言って、エルゼターニアに警告をしてきたのはレンサスだ。頭を掻いて、申しわけなさそうにしている。

 特務執行官の謝罪を受け、一頻り後悔と救済の涙を流してからしばらく。他愛ない話を続けて、面会時間の終わりに差し掛かった辺りでのいきなりの報せであった。

 

「保安の連中にも伝えとくべきかと思ったんだが……まずは君が完治したことを確認してからじゃないとヤバいだろうなって思ってさ。あの魔眼には、似たような力をぶつけないとまず勝ち目ないし」

「魔眼……!? まさか中央オアシスにまで魔眼を流通させていたんすか!?」

 

 驚きと共にこみ上げる怒り。レンサスへの哀しみは別として、『オロバ』大幹部のまさかの蛮行にエルゼターニアの声音が硬さを帯びていく。

 それを受け、慌ててレンサスは首を左右に振った。見た目の幼さもあいまってか、さながら姉に叱られるのをどうにか回避したい、弟のような素振りである。

 

「いや! いやいや聞いてくれ、これに関してはまったくの偶然というか! 僕だって中央オアシスなんかに魔眼が渡るとは思ってなかったんだよ、実際!」

「……とりあえず、経緯を聞かせてください。話はそれからっす」

「う、うん……落ち着いて聞いてくれよ、な?」

 

 怒りのオーラを纏う少女に、身を縮ませながらも少年はおずおずと頷く。どこか姉シエルとの在りし日を思い出して、遠くなっても血は血か、と遠い目にすらなりながら。

 レンサスは、かつて接触したとある人間について語り始めた。

 

「『ミッション・魔眼』の実験のため、共和国にやって来てすぐのことだった。戦後まもなくって頃かな。『オロバ』に協力していた人間に、プロトタイプの魔眼を二つばかり与えたんだ。僕の活動を金銭面から支援してくれた見返りにね」

「人間が、『オロバ』に協力していたんすか!?」

「別にそこはおかしなことじゃないだろ? 『人間の進化』なんて御題目ですごい力をくれるんだからさ、欲かきなら目も眩むもんだよ。王国にだって馬鹿が何人かいたみたいだしね」

「それ、は」

 

 言葉に詰まる。人間とて当然、邪悪な者や強欲な者はいる。己の利を優先するあまり『オロバ』に与する者が、人間の中から出てこないと言えるはずもない。

 それでもどこか、人間を信じていたいエルゼターニアにとってはショックな話だった。甘言に惑い、大勢を苦しめ犠牲にする邪悪に荷担するなど──一共和国民、一人間として辛いことだ。

 そんな彼女を案ずるように見つめながら、それでもレンサスは続けて言った。

 

「……で、その目を与えてから僕も初めて知ったんだよ。ただの資産家だと思ってたそいつは、中央オアシスの政府関係者だったんだ。魔眼の力を使って奴は、瞬く間に中央オアシスを乗っ取った」

「の、乗っ取るって。国家一つ動かせる魔眼ってことなんすか」

「使い方によってはそういうこともできる魔眼ってことさ。『魅了魔眼』ってね、人間を半永久的に操作できる魔眼だ」

「『魅了魔眼』……!」

 

 明かされた魔眼の名、能力。視界に収めた者を半永久的に操ることができるなど、さわりを聞いただけでもとてつもない凶悪さだと分かる。

 その恐るべき能力を以て男は、中央オアシスを乗っ取ったと言うのだ。エルゼターニアは愕然と、レンサスに呟いた。

 

「もうちょっと……与えるならせめて、穏当な眼を与えときましょうよ……」

「僕だって後悔したんだ、これでも……まさか与えた途端に国一つ掌握するとか想定してなかった。下手すると『オロバ』の存在が露見する程の大暴れしやがるんじゃないかって、当時ヒヤヒヤしたよ」

「……でも実際は、そうはなってないっすね。中央オアシスは外界を完全にシャットアウトして、内外の出入りを一切禁止した状態っす」

 

 戦後から現在にかけて、中央オアシスという国は完全なる閉鎖状態にある。共和国に対しても王国に対しても、あるいは他の国すべてにも一切の出入りや干渉を受け付けていないのだ。

 人の出入りすら禁じているらしく、戦後まではそれなりに共和国にやって来ていた中央オアシスの民も、今では一切見かけることがない。それでいて国としては沈黙を保っているのだから、何とも不気味な話であった。

 ふん、と鼻を鳴らしてレンサスは言う。

 

「何を企んでるんだか知らないけど、こっちはもう義理も何もないからね。放置してたら姉の末裔たる君にも迷惑かかりそうだし、こうして今、白状したってわけ」

「……話は分かりました。ですが人間を操る魔眼だなんて、正直私にも手に負えるとは思えないんすけど」

「いやいや、そんなことはないよ。あれは結局、無限エネルギーによる干渉だからね。今の君なら容易くレジストできるはずだ……ルヴァルクレークと『転移魔眼』が揃ってりゃ、あんなもん脅威じゃないよ」

 

 あっさりとエルゼターニアの不安を笑って拭う。レンサスとて勝算があるから今の話を切り出したのだ──無限エネルギーを引き出す『電磁兵装』と『魔眼』。これらがあればプロトタイプに過ぎない魔眼など敵ではないと断言する。

 けれど、と彼は続けた。

 

「問題なのはもう一つ渡した魔眼の方でね……そっちについては特に、アドバイスってか忠告しとくよ」

「はい……?」

「──もしも、そっちの魔眼を埋め込まれた者が向こうにいて、敵対することになったら。迷うことなく王国南西部に行くんだ、エルゼターニア」

 

 唐突な王国南西部への促し。怪訝に思うエルゼターニアへ、レンサスは真剣に、深刻な表情で告げたのだった。

 

「『焔魔豪剣』アインに接触して、彼の師匠である『勇者』セーマに助力を乞うんだ。アレをどうにかできるのはあの化物しかいない」

「『勇者』セーマ……さん!? 戦争を終わらせたっていう、伝説の戦士!?」

「そうだ。敵だった頃にはあんな恐ろしい奴いなかったが、頼れそうとなるとあんな頼もしい奴もいないね。くく、バルドーの奴なんかあの世で眼ぇ剥いてそうだが」

 

 愉しげに笑うレンサス。彼を尻目に、エルゼターニアはまさかの人物との接触の予感に、胸を高鳴らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンサスとの面会を終えて、特務執行課のデスク。帰還したエルゼターニアの報告を受けて、ヴィアとレインは苦い表情を浮かべた。件の『魅了魔眼』……その力によって掌握されたという、隣国中央オアシス政府領に関しての反応だ。

 

「『オロバ』め……適当なノリでとんでもないことをしてくれたな」

「戦後、急に鎖国した中央オアシスが、まさか魔眼によって制圧されていただなんて……!」

「話を聞く限り意図的なものでは無さそうでしたが……それでも引き起こされた結果は大惨事も良いとこっすね、まったくもう!」

 

 続いてぷりぷりと怒るのは特務執行官、エルゼターニアだ。他ならぬ彼女の遠縁、先祖に当たる人物の更なる暴挙が明るみになり、彼女としてはもはや、穴があったら入りたいような心地ですらある。

 そんな彼女をあやすように抱きしめて、ソファに座らせて相棒のハーモニが言った。

 

「まあまあ。向こうもさすがにヤバいと思ったから自発的に白状したんだろうし、何より今の論点はレンサスじゃないよ三人とも」

「む……そうだなハーモニ殿。何はともあれ一番の問題は中央オアシスの現状と、かの国を乗っ取った『魅了魔眼』の保持者だ」

「元からして政府関係者だったって話っす。見ただけで半永久的に人間を操れる能力なんて得たら、そりゃ即座に国一つだって握れますよね」

 

 『魅了魔眼』の使い手と思わしき、現在の中央オアシスを掌握しているらしい何者かを考える。邪悪なる『オロバ』に荷担して資金援助まで行っていた時点で相当に悪辣なものを、あまつさえ出自を隠して魔眼を得、それを以て国家一つを意のままにするなど言語道断も良いところだ。

 改めて怒りに震えるエルゼターニアを、やはり抱きしめたまま、宥めながら──ハーモニは、次いでレンサスよりもたらされた情報とそれに関しての警告について言及する。

 

「そしてもう一つの魔眼……もしも使い手が現れたら即座に王国南西部にいる勇者を頼れ、だなんて相当だよね」

「他ならぬ魔眼を製造した本人の言葉っすからね……それに話を聞く限り、たしかに私たちの手には負えない魔眼っすよ、あれは」

 

 レンサスの、深刻な表情を思い返す。『魅了魔眼』とは別にもう一つ渡したというその魔眼は、『ミッション・魔眼』責任者をして恐るべしと言わしめる凶悪な性質を内蔵しているのだという。

 伝え聞かされたその名と共に、その能力をエルゼターニアは語る。

 

「『不死魔眼』。『魅了魔眼』と同様に魔眼のプロトタイプで、本家本元たる魔法ですら再現できないというその能力は──ずばり、『完全蘇生』」

「完全、蘇生?」

「息絶えても即座に蘇生する能力だそうっす。それも傷や体力、病ですらも完全に癒えた状態で、タイムラグも回数制限も無しとか。『寿命以外に死ぬ方法の無い魔眼』とはレンサスさんの言葉っすね」

「……インチキじゃん!?」

 

 あまりに常軌を逸したその魔眼の内容に、ハーモニは叫びヴィアとレインは絶句していた。完全蘇生──病も怪我も一度死ねば皆癒す、事実上の不死身を実現した究極の能力と言えるだろう。

 魔眼製造の最初期段階において、まずは無限エネルギーを用いてどんなことを、どこまでできるのかを試すために造られた、コストやデメリットを完全に度外視した魔眼。『魅了魔眼』共々まさしくプロトタイプと言える、それが『不死魔眼』であった。

 

「もっとも、製造にかかるコスト……無限エネルギーを引き出すための特殊鉱石とやらがあまりに多く用いられるため、安定した量産体制の実現という観点からプロトタイプの魔眼はこの二つきりに終わったとのことっす。追加で変なものがひょっこり現れる、なんてことは無さそうでそこは助かりました」

「いやいや『不死魔眼』一つでもどうしようもないよそんなの……死ぬと完全回復って意味分かんないよ。追い詰める方法無いじゃん事実上」

「死なない程度に痛め付けたとして、致死毒なりで自死するとイコール完全蘇生っすもんねえ……」

 

 ため息を吐くエルゼターニア。いくら対策を考えてみたところで、『不死魔眼』を封殺する方法が無いことを思い知るばかりだ。そもそも追い詰めることが完全蘇生に繋がっているのだから、捕縛にしろ討伐にしろ攻撃を介する以上はどうすることもできない。

 

 重い沈黙。もたらされた情報は驚きと恐ろしさの連続で、一同どうしたものか唸る外ない。

 それでも、と呟いて少女は前を向いた。

 

「それでも、中央オアシスに魔眼があって、悪用されているのなら……私は追及します。『魅了魔眼』は元より『不死魔眼』だってどうにかしないと、いずれ必ず世界に牙を剥く時が来るでしょうし」

「そうだね……もし本格的に『オロバ』に与して暴れだされたら大変なことになる。今ここで、何としても止めないと」

 

 エルゼターニアもハーモニも、敵の強大さを予想しながらもなお、決して負けることのない信念を以て気炎をあげる。揃って英雄の相、すなわち人々のため、正義を為さんとする輝きの相を浮かべている。

 そんな二人の英雄に呼応して、ヴィアもレインも頷いた。

 

「分かった! まずは局長に報告して、そこから中央オアシスに確認を取ることになる。おそらくは否認してくるだろうが……最悪、『クローズド・ヘヴン』のお二人にも同行してもらう形で中央オアシスへ向かってくれ二人とも」

「『クローズド・ヘヴン』のメンバーには有事の際、超国家的捜査権限が国際的に与えられているわ。それを利用して中央オアシスに潜入するの」

 

 提示されたルートはある種の裏技だ。『クローズド・ヘヴン』メンバーが国際秩序の維持という名目のため与えられた特別捜査権限、それを利用して内政干渉とも取れる捜査を強行しようというのだ。

 普段ならば決して取らない方法だが、それだけ『魅了魔眼』と『不死魔眼』の存在と予想される中央オアシスの現状が緊急事態だと言うことだった。

 エルゼターニアとハーモニも、それに応じる。

 

「『不死魔眼』が出てこなければ良し、出てくればまずは一戦!」

「……するかはともかく、適度に退いてその後王国南西部へ。アインさんに事情を説明して『勇者』様に協力を依頼しましょう」

「えー!? いやまずは戦うべきでしょそこは! 『不死魔眼』、面白そうじゃん!?」

「バトルジャンキーも時と場合っすよ!?」

 

 『不死魔眼』にもあくまでも戦う姿勢を見せるハーモニに、思わずエルゼターニアは叫んだ。バトルジャンキーはこれだからと、抱きしめられながらも呆れたように息を吐く。

 少しばかり和らぐ空気。だが皆、分かっていた──戦いは近い。

 ひとまずは話を纏め、一同は来る時に備えて心身を落ち着けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして間もなく、砂漠の中心にて英雄たちは集う。

 『共和の守護者』、『炎の英雄』、そして──『勇者』。

 古今に渡り世界を救い、また救わんとする英雄たちが力を合わせ、邪悪を撃ち破る時が来たのだ。

 

 特務執行官エルゼターニアの、魔眼を巡る戦いの真なる最終エピソード。偉大な英雄と星の化身から、新たな時代を託される戦いがこれより、始まろうとしていた。

次話から「共和国魔眼事件エルゼターニア」最終エピソードの幕開けですー

よろしくお願いいたしますー

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