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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
83/110

新たなる年を迎えて・1

 年の瀬。長かった全国議会も閉会していよいよ、共和国にも年末年始の大詰めが到来していた。この日を以て今年が終わり、明日からは新年が始まるのだ。

 全国議会中ずっとお祭りムードだった共和国は、年末年始も続けて祝宴を行う。今年は『魔眼事件』があるなど若干の異変も見られたが、概ね例年通り、誰もが飲めや歌えで去年と来年の交錯をめでたく迎えようとしていた。

 

 人で賑わう首都の公園。誰もが笑顔で平和を享受している光景を眺めて、エルゼターニアは微笑んだ。ベンチに座り、隣のハーモニに話しかける。

 

「何かこう……年末って感じ、しますね。今年一年が終わる浮わつきとか、来年一年が始まる期待感とか。こういう空気、好きなんすよ」

「そうなんだ? たしかに皆、高揚してるけど」

 

 特有の空気に当てられてか多少、頬を上気付かせてにこやかなエルゼターニア。特に年末年始に思い入れの無いハーモニであったが、隣の彼女が楽しいのならばそれは良いことだと、合わせて笑う。

 今日も二人は一緒だった。じきに発足される『特務執行隊』の候補生エイゼスとの模擬戦から数日、今年の最終日を休日で迎えた彼女らはそれゆえに首都の町中に出ているのだ。

 

 寒々しさも極まる冬空の下、けれど賑わいで熱気は街並みを温める。吐息を白く染めながらも、エルゼターニアはゆっくりと背伸びをした。

 

「んー……っ! すー、はー。今日はお付き合いくださってありがとうございます、ハーモニさん」

「何さ水くさい。エルが許してくれる限り、私はいつだってエルの傍、エルの隣にいるんだからね? 今日だって言われなくても付いていくつもりだったし」

「あ、あはは……一人の時間もたまには必要っすよ、お互いに」

「それはもちろん。さすがにそこは弁えるって!」

 

 常に一緒にいるつもりらしいハーモニ。エルゼターニアが寿命によって穏やかな死を迎えるその時まで共にいる、という彼女の誓いは、あからさまなまでに分かりやすく行動に移されている。

 大切な相棒がいつも近くにいてくれるのはもちろんありがたいのだが、本当に四六時中一緒というのも息が詰まるだろう。苦笑しつつもエルゼターニアは立ち上がり、街並みに向けて歩き始めた。

 

「本当なら実家で新年を迎えたいところでしたけど……退院してすぐじゃ、難しいもんっすね」

「まあねー。家族と新年を迎えたかったエルには気の毒だけど、レンサスとの面会も控えてるし、実家に帰るのはそれからじゃないかなあ」

「できれば眼帯、外してから帰りたいっすしねえ」

 

 道すがら話す。本音を言えば年末年始は久しぶりに実家で過ごしたかったエルゼターニアなのであるが、諸事情により結局見送ることとなっていた。

 退院から間もないことによる体調面での問題と、新年すぐにレンサスとの面会が予定として組まれたからである。

 

 ゴルディン部長による根回しの末決まったことなのであるが、如何せん昨日の今日という感じで話が早すぎる。退院してから一週間も経たずに面会は行われるのだ、慌ただしさは否めない。

 とはいえ国家転覆を企み実際にその寸前まで歩を進めたテロリストとの面会など、いかな保安部長でも好きなタイミングでとはいかなかったのだろうこともまた、エルゼターニアには十分理解できた。

 

 ともあれそうしたいくつかの理由によりエルゼターニアは、実家への帰省はまたの機会にしてこの年末を、首都にて間借りしている自宅にて過ごそうと決めたのであった。

 二人並んで歩く。エルゼターニアにしろハーモニにしろ見目麗しく、それなりに人目を引く。そうした視線に気付いたり気付かなかったりしながらも、彼女らは会話を重ねる。

 

「……それで? 今日の予定はどうする?」

「えーと、とりあえずぶらぶらうろついて。頃合いになったら商店街で夕食の材料買いましょうか……そしたら家でちょっとしたパーティーっすよ。二人だけっすけど」

「ヴィア課長さんとかレインさんとか来ないの? 王国に帰っちゃったアインさんやソフィーリアさんは仕方ないけど」

 

 ハーモニが問いかける。王国南西部に帰還し、今では故郷で年末年始を過ごしているのだろう『焔魔豪剣』アインやそのパートナーのソフィーリアはともかくとして、直属の上司や同僚たるヴィア、レインとも何ら関わらずに二人きりで今年最後の夜を迎えるというのは、ハーモニとしてはそれはそれで楽しそうな話だが、少しばかり不思議な話でもある。

 頭を掻いてやや気まずげに、エルゼターニアは応える。

 

「お二人にもお二人の年末年始があるでしょうから……それに正直、プライベートでの親交って案外無いんすよ私たち。仲は良いんすけどね」

「そうなんだ」

 

 意外な言葉に、ハーモニは目を丸くした。普段から何かにつけてエルゼターニアを気にかけている特務執行課の二人だが、それでも仕事を離れたプライベートにおいてはさしたる付き合いが無いらしい。

 特にレインなど同性なのだし、エルゼターニアに向けてかなり庇護的というか、母性を発揮しているような状態なのだが……

 

「私は基本外働きで、それも国内をあちこち行ったり来たりの日々でしたからね。中々そういう、個人的な交流を持つ機会も無いままここまで来た感じっすよ」

「あー……あの二人、特務執行課のデスクで事務処理が役目だもんね。実働のエルとはそもそも接触することすら少ないか」

 

 元々が外勤のエルゼターニアと内勤のヴィア、レインとで交流を持つ時間が少なかったことが大きいのだ。それも特務執行官たる彼女の場合、泊まり掛けで他の町村にまで捜査に赴くことも日常的だったのだから当然の話である。

 ため息混じりにエルゼターニアは呟く。

 

「これからはちょっとくらい、プライベートでも仲良くなれたらなーって思いますけど……言ってる内にたぶん私たち、連邦に行きますしね」

「うーん、難しいねえ。こればっかりは上手くいかない、かあ」

 

 いずれ近い内、『オロバ』を追って連邦へと向かう特務執行官とそのパートナーとしては中々、思うような交流は出来ないのが現実なのだろう。

 案外狭い交遊関係に白い吐息を漏らすエルゼターニアの、背中をそっと擦るハーモニであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬の町中、商店街を歩く。立ち並ぶ店はいずれも年末商戦真っ只中で、やれ何%オフだの特別セールだのと宣伝広告の叫びがあちこちで響く。それに群がるように人々も殺到しているのだから、これも年末の風物詩と言えるのだろう。

 エルゼターニアとハーモニはそんな光景を眺めながらも二人、そこそこに空いている店に立ち寄っては適当に見て回り、欲しくなれば買い、そうでなければ立ち去るを繰り返していた。

 

「あ、この服良い感じっすね。色合いも良いし、防寒性能もありそうで」

「靴も見繕った方が良いよ、エル。何しろ雪国だからね連邦は、滑り止めだって付いてないと」

 

 今、彼女らがいるのは一風変わった店で、登山用のグッズを専門としている。山を登る予定はないのだが、彼女らには入り用のものが多い──極寒の国、連邦へと向かうからには雪山装備めいた用意さえしておかねばならない。

 

 たまたま目に入ったこの店で、エルゼターニアたちはある程度連邦での装備を考察していた。実際に買うわけではないのだが、どのような格好、どのような装備が必要なのかは想定しておいて損はない。

 遊びの合間にも仕事を挟む、ワーカホリックな一面が如実に現れた場面であった。

 

「どのくらい雪があるのか、吹雪いてたりすれのか、っすよね問題は……ハーモニさん、連邦には?」

「何度か経験あるけど、私はほら、人間さんよりかは頑丈だし。やばくなったら『霧化』したりとかさ」

「ヴァンパイアはそういう時、一時避難が簡単で良いっすねえ」

「むしろ人間さんこそすごいと思うよ? 普通あんな寒いとこ、住み着こうとか思わないし」

 

 ハーモニをしてそう言わしめる程に、連邦という国、地域の気候は過酷なものだ。夏場こそそれなりに気温は上がるものの、それ以外はほぼほぼ冬と言って良い寒さで、取り分け真冬などは何の対策もせずいれば間違いなく死んでしまう程である。

 そのような環境下ではさしもの亜人とて、かの地では防寒着が必要だ。永らく住み着いた亜人種の中には環境に適応し、『雪人』なる独自な種へと進化を遂げた亜人もいるが……一般的な場合、人間も亜人も共通して厳しい自然を前にはしっかりと準備をせねばならないのが現状であった。

 

「ま、ともかくあんなところで何週間か何ヵ月か過ごして、しかも『オロバ』の奴らとも戦おうっていうんだから。万全の準備を整えていかないと、とてもじゃないけど仕事どころじゃないからね」

「そうっすね……戦いは既に始まっていると思うべきっす。ここでどれだけ体勢を整えられたかで、『オロバ』との勝負が決まる」

 

 顔を見合わせて頷く。人間とヴァンパイアの英雄同士、互いに通じあったパートナーとして、見解は一つであった──まずはここから。一歩ずつ少しずつでも、平和のためにここから戦い始めよう、と。

 気を引き締めて物色を続けようとする二人。そんな彼女らに、背後から声がかけられた。

 

「素晴らしい心がけですなあ二人とも……さすが『共和の守護者』とそのパートナー、大したもんだ」

「本当、素晴らしいプロ意識ですねぇ師匠。うちの何人か、特に馬鹿のゴッホレールさんなんかは見習えば良いんですよ、この方々を」

「いやいやあいつはあれでそういうところはしっかりしてるぞ? むしろシオンとかメルクファルクの奴だな、職業意識が今一つなけしからん連中は。あと言うまでもないがお前も」

「酷いなあ、師は」

「え──あ、貴方がたは!」

 

 いきなりの声に振り向くエルゼターニア。そこには男が二人、感心した様子でうんうんと頷いてこちらを見ている。

 白いロングコートを着込んだ、角刈りに髭を蓄えた中年男と背丈の高い、金髪の美青年だ──こちらはラフな格好でジャケットなど羽織っている。

 

 どちらもエルゼターニアやハーモニにとり見覚えのある人物だ。一度だけ、病院に見舞いに来た折りに知り合っていた。

 その時はまだ、エルゼターニアの容態が思わしくなかったため挨拶と名乗りばかりに留まっていたが、それでも彼女らはしっかりとその名を覚えていた。

 『魔眼事件』の折、首都外周警備保安隊に助太刀する形で亜人たちと戦い、首都を守り抜いた者たち。世界最高峰の冒険者集団のメンバーたる彼らの、名前は。

 

「『クローズド・ヘヴン』の、 オルビスさんにファズさん! こんなところでお会いできるなんて!」

「覚えていてもらってるとは光栄ですなあ……いかにも『クローズド・ヘヴン』No.4オルビスと」

「同じく『クローズド・ヘヴン』No.6のファズです。後れ馳せながら退院おめでとうございます、特務執行官殿」

 

 S級冒険者集団『クローズド・ヘヴン』メンバー、オルビスとファズ。

 エルゼターニアたちと形は異なれど共和国の危機を打ち砕いて見せた、実力者たちの姿がそこにあった。

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