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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
82/110

特務執行隊、発足前夜・4

「……負けた、か。敵わないとは分かっていても、やっぱり、悔しいな……っ!」

 

 勝敗が確定し、エイゼスは悔しげにしつつも、しかし潔く敗北を認めた。今の己に出せる最強の技『エイゼス・アブソリュート』をああもあっさりと打ち破られては、もはや反論の余地もない。

 手元のプラスリムラスを見る。電磁ネットに絡まれた愛剣は異様なまでに重く、持ちきれずに地面に刺さっていた。話に聞いていたルヴァルクレークの武装の一つを、彼は口にする。

 

「『エレクトロキャプチャー』……これが、ルヴァルクレークの機能の一つ」

「対亜人用捕縛網っす。当たれば最後、対象を麻痺させて亜人ならその能力を封じます。重量もすごいっすから、有翼亜人にも有効っすよ──『エレクトロキャプチャー』、解除!」

 

 解説をしながらエルゼターニアはルヴァルクレークを振るった。プラスリムラスにまとわりついた『エレクトロキャプチャー』部分だけを鎌にて引っかけ、そのまま引き剥がしたのだ。

 霧散する電磁ネット。一勝負終えて、特務執行官はエイゼスに笑い掛けた。

 

「お疲れ様でした、エイゼスくん。とても手強くて、驚いたのと同時に安心しました……貴方程の人が後任なら、私も憂いなく業務の引き継ぎができます」

「そんな、私などまだまだ……結局貴女には一太刀とて入れられず」

「一応私も二年近く、亜人なんて格上相手に戦い続けてきましたから。そこは経験の差っすよ……大丈夫、エイゼスくんならすぐに私だって超えられます」

 

 にこやかに後任の頼もしさを称えるエルゼターニアだが、当のエイゼスの顔付きは暗い──全力を尽くしてなお、結果としては軽くあしらわれたのだ。経験だけでは済まない実力の差を痛感し、意気消沈してしまうのも無理はなかった。

 

「二人とも、大丈夫か? ……お疲れさん、大したもんだ」

「元祖『電磁兵装』使用者と次世代『電磁兵装』使用者の初訓練、互いに得るところも大きかったろ。お疲れさん」

「ヴィア課長、ゴルディン部長……」

 

 そんな折、労いの言葉と共にやって来るヴィア、ゴルディン。ハーモニやレインも一緒だ。

 世界初の『電磁兵装』同士のぶつかり合いに立ち会った感動もひとしおのようで、それぞれが満足の笑みを浮かべている。特にゴルディンなど満面の笑みで、落ち込むエイゼスの肩を力強く叩いた。

 

「まだぺーぺーのお前が、歴戦のエルちゃんにあそこまで食い下がれたんだ。自信を持て! じきに創設される『特務執行隊』の総隊長になる奴が、たった一度の負けなんぞでいつまでも落ち込んでちゃいけねえぞ!!」

「痛っ……は、はい! ありがとうございます! この経験、必ず次に活かしてみせます!」

 

 乱暴ながらも心の篭った激励。ゴルディンの言葉はエイゼスの卑下を吹き飛ばし、更なる成長を遂げようとする炎となって彼の心を熱く燃え上がらせる。

 必要なのは落胆でも自嘲でも、ましてや諦念でもない──あらゆる経験を重ねて糧とし、己が力へと変換する進化への意志だ。未熟だからこそ今この時、挫けている暇などありはしないと、エイゼスは奮起した。

 偉大なる目標とたった今定めた、特務執行官エルゼターニアに向けて宣言する。

 

「貴重な経験をありがとうございました、特務執行官……エルゼターニアさん」

「あ、いえいえー。今後ともよろしくっす」

「はい、よろしくお願いいたします……今はまだ、何一つ届かない私、いえ俺ですが! いつかエルゼターニアさん、貴女にだって負けない戦士になってみせます!」

「……ふふ、はい。いつかきっと、共に戦える時が来るのを楽しみにしてますよ、エイゼスくん」

 

 どこまでも熱い眼差しが、真っ直ぐにエルゼターニアに向けられる。その情熱、熱意は自身にもある護国の意志と同種のものであり──

 特務執行官は、頼もしくも期待できる後輩に向け、柔らかく微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦も終わり、エイゼスが開発局のメンバーたちと何やら確認や意見交換を行っているのを遠目にしつつ、エルゼターニアは一方で今しがたの己の戦いぶりを確認していた。

 眼帯にて右目が塞がれた影響、一月入院していた後遺症、ブランクによる戦闘能力の劣化の有無。戦士として、特務執行官として今後もやっていけるかの確認である。

 

 エイゼスの武装から戦法を割り当て、それに対応して迅速に後の先を取った動き。攻防の最中にも冷静にボトルを使用、適切にルヴァルクレークの機能を引き出すことができた。

 左目の調子も良い。何より半分のみの視界だがそれを踏まえての動きがスムーズに行えていた。直感が異様に鋭くなっている気がするのは、勘違いというわけでもないだろう。

 総じて己の現状を省みて、彼女は力強く呟いた。

 

「戦える、よね……! 眼帯による視界の半減もそこまで問題なさそうだし。ルヴァルクレークも、私の勘も、一月前と同じ──ううん、それ以上に冴えてる感触がある!」

「そうだね、エル」

 

 己の手、そして握りしめるルヴァルクレークを見詰めてたしかな手応えを感じ取るエルゼターニア。

 そんな彼女に相棒、ハーモニが近寄って語りかける。嬉しそうに誇らしそうな、自慢気な笑みさえ浮かべて。

 

「ビックリしたよー。動きの鈍りとか視界の問題はいくらか見られたけど、それを補って余りあるくらい間合いとかタイミングが完璧だった」

「ハーモニさん……やっぱり貴女程になると、動きには違和感あったっすか?」

「まあそこはね? でも総合的に見ればむしろ、今のエルは前のエルより格段に強くなってると思うよ……信じられないけどさ」

 

 それはハーモニ自身にも不思議な所見であった。この一月、入院していたことで衰えていて然るべきエルゼターニアの動きが、むしろ一月前にハーモニが見た最後の戦い、すなわち天使エフェソス戦の時よりも鋭く強くなっていたのだ。

 普通に考えてあり得ない話だ。静養していた分だけ鈍りは生じるもので、しかも今の彼女は右目が閉ざされているという状態でさえある。

 

 にも拘らずこの強さ、この実力。ふうむと考えて、ヴァンパイアの英雄は推測するところを述べた。

 

「思うんだけど……レンサスとの戦いを経て、死ぬような目に遭ったことで心身のリミッターが解除されたんじゃないかな」

「リミッター、っすか?」

「うん。たまーにだけどある話でね、修羅場を乗り越えた戦士が、その前後では別人のように強くなる現象があったりするの。土壇場で潜在能力が解放されるんだね」

 

 生き死にを賭けた戦いを乗り越えて、死の淵から這い上がってきたものが得るある種の覚醒。生きようとする本能と意志とが、追い詰められた末に限界を打ち破るその境地は、生命に宿る不可思議で偉大な特性とも言えるだろう。

 恐らくエルゼターニアもその境地に至ったのだ。レンサスとの最終決戦にて、絶対に敗けられないと正義と信念を以て命を燃やし尽くした末に瀕死となり、そしてそこから奇跡の復活を遂げたがゆえ……爆発的なまでに限界を超え、大きく進化できたのだ。

 

 更に、とハーモニは続ける。

 

「たぶんね、右目の『転移魔眼』も関わってると思うんだ、私は」

「え……でも今は、この通り眼帯で」

「移植されて、今はエルの身体の一部になっている。それ自体に意味があるんだよ……潰れた両手両足さえ完治させるエネルギーが、もしかしたらエルの身体に影響を与えているんじゃないかな」

「あ──そっか。『転移魔眼』に宿るエネルギー、私の身体を治した後は特に発現してないっすけど、存在自体はしてるはずっすもんね」

 

 目から鱗が落ちたような心地で、エルゼターニアはハーモニの指摘に納得した。右目に移植された『転移魔眼』、奇跡を起こす眼に宿る無限エネルギーは、今なお健在であるはずなのだ。

 移植された直後から身体が癒えきるまでの間は治癒に用いられていたのだろうそのエネルギーだが、治った今となってはどう作用しているか、それは分からないところだ。実はエルゼターニアの身体機能を増幅させているというのは考えられる話であった。

 となれば、と特務執行官が唸る。

 

「うーん……こうなるとますますレンサスさんに会って話を聞かないといけないっすねえ。想定以上に『魔眼』が私に影響を与えてるんなら、詳細を把握しておかないと不慮の事態だってあり得ますし」

「戦闘中に突然補正が切れて戦闘不能に、なんて洒落にもならないしね。ねえ課長さん、それに部長さん! 聞いての通りだし、早目にレンサスとの面会の都合、付けてあげてよー?」

 

 『転移魔眼』がエルゼターニアの身体的な面にまで何かしらの干渉を行っている可能性があるのならば、差し当たり『ミッション・魔眼』責任者として魔眼の製作を指揮していた『オロバ』大幹部レンサスとの面会は何をおいても最優先事項と言えるだろう。

 ハーモニの要請に、ヴィアもゴルディンも深く頷き答えた。

 

「ああ、もちろんそこは分かってる」

「申請は既にしてるし、急ぐようにもしてるぜ。何せエルちゃんの今後に関わる話だからな、ダラダラ役所仕事で済まそうなんざこの俺がさせやしねえ。安心してくれよ」

 

 力強い言葉。特務執行課長と治安維持局保安部長、二人の辣腕にかかればレンサスとの面会もそう遠くはないことだろう。

 それに、とヴィアが告げる。

 

「レンサスの方も、エルには会いたがっていたよ。それに傷の具合とか入院中の経過とか、しきりに気にしていた」

「そう、なんですか。レンサスさんが……」

「やっぱり自分の姉の子孫、ともなると気になるのかもなあ。俺にはまるで想像もできん話なんだが」

「私もっす。遠い昔のご先祖様の、弟さんだなんて……改めて不思議な感覚っす」

 

 しみじみと奇縁を想う。『オロバ』大幹部レンサスの正体は、他ならぬエルゼターニアの先祖にあたる女性シエルの弟。つまりエルゼターニアにとっては遠い血縁にあたるのだ。

 過去の共和国が引き起こした非人道的な人体実験の犠牲となって死んだ姉の敵討ち。先月に起きた『魔眼事件』の発端は結局のところレンサスの復讐心によるものだった。哀しいスモーラの少年に思いを馳せて、エルゼターニアは言う。

 

「何百年と怨みを抱いて、憎しみを抱えて……『オロバ』になんて協力してまでシエルさんの仇討ちを考えたレンサスさん。私のルーツに纏わる人たちが、他ならぬ共和国によって人生を狂わされていたのは率直に──複雑っす」

「エル……」

 

 正直な吐露に、ハーモニが寄り添う。エルゼターニアの手を握り気遣わしげな視線を向ければ、彼女はにこりと笑い、そして続けた。

 

「だからそういう点でも、お互いに落ち着いた状態であの人と話し合ってみたいっすね。私は特務執行官として正しいことをしたと自負していますけど、それはそれとしてレンサスさんの想いにも向き合うべきだと、そう思いますから」

「……そうだな。そうするべきだと俺も思うよ。善も悪も関係なく、彼の縁者であるエルにはその資格がある」

 

 特務執行官として。シエルの子孫として。何より一人の共和国民として。

 エルゼターニアはレンサスと対話すべきなのだろう。そう強く感じてヴィアは、彼女のためにも早急にレンサスとの面会の場を設けるよう今一度、関係各所に話を通すかと考えるのであった。

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