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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
76/110

復活のエルゼターニア・1

後日談開始しますー

よろしくお願いいたしますー

 年末。共和国を揺るがせた『魔眼事件』の終結から概ね一月程度が経過した、もうあと数日で新年を迎えるという頃合い。

 もう少しで国そのものが崩壊するという一大事も、過ぎてしまえば過去のことでしかない。人々は今日も全国議会開催中の時期に特有の、飲めや歌えの大騒ぎを国中で続けていた。

 

「呑気なもんだよねー……ふふ、でもこれが平和なんだ。良いよね、こういうの」

「はい。私たちはこの光景を護るために、命懸けで頑張ったんすから」

 

 見渡す限りどこでも楽しげな町並みを高みから、ベンチに座りながら眺めて。特務執行官エルゼターニアとそのパートナー、ヴァンパイア・ハーモニは頬を緩めて身を寄り添わせた。

 首都の総合病院の屋上、凍える寒さだが陽光は柔らかく時折、温もりを届けてくれている。何より互いの体温に安堵を覚えながら、護り抜いた平和を噛み締めるこの時間は、二人にとってかけがえのないものである。

 

 『魔眼事件』最終局面にて瀕死どころか、ほぼ完全に死んでいたエルゼターニア。両手両足が崩壊し、顔半分も抉られ潰れていた程の凄惨な状態になってしまっていたのだ。

 そんな彼女を救ったのは、何の因果かこれまで相手取ってきた敵の、これまで苦戦を強いられてきた『魔眼』であった。

 

「どう? 右目の調子。痛みとか無い?」

「無いっすねー。不思議なくらい違和感無くて、逆に違和感あるくらいっすよ」

「絶対に適合するって、レンサスは言ってたけど……本当だったみたいだね。良かった、本当に」

 

 吐息混じりに安堵を呟く。ハーモニにとり、両手両足の調子もそうだが何よりも右目、移植された『転移魔眼』の調子が気にかかっていた。

 本人の言うところでは特に何ら問題が無いらしいため、ひとまずはそれで良しとしているが……何しろ得体の知れない代物ではあるのだ、常に気を配らなければと、決意を新たにする。

 

 『オロバ』大幹部レンサス。『ミッション・魔眼』の責任者にして『魔眼事件』を引き起こした、共和国史上最悪のテロリスト。そんな彼が己の持つ『転移魔眼』をエルゼターニアに移植したことにより、彼女は奇跡としか言いようのない復活を遂げていた。

 星の無限エネルギーを利用して製造されたがゆえの、適合者を復元せんとする治癒促進力。移植された直後からエルゼターニアの傷を超再生させていた程の癒しの力が、わずか一ヶ月という短期間の内に特務執行官を完全復活へと至らしめたのだ。

 

 顔の右半分、大きな眼帯を着けたエルゼターニアの頬に手を当て、ハーモニが呟く。

 

「この眼帯、まだ外さないの? ……エルの顔、とうに治ってるのに」

「外したいのは山々なんすけどねー。何しろ『転移魔眼』の子細も知れてない今、迂闊なことして暴走とかしちゃったら洒落にならないっすから。マオさんにもやんわり釘を刺されてますし」

「『魔眼』の大元になった人の言うことなら、従うしかないよねえ……」

 

 苦笑して答えるエルゼターニア。入院中、かの『魔王』ことマオも当然のように見舞いに来ていた。当時は面会時間が短かったため最低限のことしか話せなかったが、それでも『魔眼』についても専門家と言える彼女の言葉は価千金、エルゼターニアにとって価値ある助言となっていた。

 

 すなわち、右目に移植された『転移魔眼』の能力──効果、範囲、リスク、発動条件などの一切が知れるまで、眼帯は外さずに封印しておいた方が良い、というアドバイスである。

 最悪の場合、『魔眼』に宿るエネルギーが暴走して辺りを破壊したり、はたまた意図せぬ何処かへと転移する羽目になったりする危険性も十分に考えられるのだという。

 

 そんな話を聞いておちおち眼帯を外すなどできるわけもない。覆われた顔の右半分の下、『転移魔眼』を恐れるように、エルゼターニアは瞳をぎゅっと瞑った。

 

「私を救ってくれたこの『魔眼』、悪いものとは思いたくないっすけど……詳細な性能と適切な運用法を把握するまでは絶対に解放厳禁っすね」

「つまるところ、レンサスに詳しい話を聞くまでは、かあ。面会は来週だったよね。待ち遠しいなあ……早くエルの元気な顔全部、見たいよ」

「私も早いとこ、眼の状態を確認したいっすよ。片目をずっと瞑ってるの、割としんどいんすよねー」

 

 冗談めかして笑う少女を、ハーモニは目を細めて見つめ、そして強く抱きしめた。冬空の下、たしかに感じる温もり。生きている証。

 エルゼターニアが奇跡的に生き延びたことを誰よりも、あるいは本人以上に喜んでいるのがハーモニである。今となっては何より大事なこのパートナーが、寸でのところで永遠に喪われるところだった。それは、自分が死ぬことよりも辛いことだ。

 

 かの『魔眼事件』において結局、ハーモニはエルゼターニアと共にいられなかった。天使エフェソスの自爆攻撃に巻き込まれ戦闘不能に追い込まれたがゆえに、彼女を一人、レンサスとの最終決戦に向かわせてしまい……そして死なせかけてしまった。

 『電磁兵装』ルヴァルクレークのフルパワーを発動させた反動により、身体が崩壊する程の恐ろしい怪我をさせてしまったのだ。

 

 あの時の、もはや人の形を留めていなかったエルゼターニアを思い出す度にハーモニは泣き叫びたくなる。自分も傍にいれば、せめて盾なり囮なりできていれば、彼女はルヴァルクレークのフルパワーなど発動せずに済んだかもしれないのだ。

 後悔と、不安。実は自分は既に狂っていて、目の前にいるエルゼターニアは幻影だったりはしないかという、トラウマめいた恐怖。

 そんな想いを振り払いたくて、ヴァンパイアは特務執行官をただただ、強く抱きしめた。

 

「エル……もう絶対、無茶なんかしちゃ駄目だよ。私は、二度と貴女を失う怖さを、味わいたくない」

「私もあんなの二度とごめんっすよ。フルパワーはあれで二度目っすけど、やっぱりろくなもんじゃないっすねえ」

 

 ハーモニとは裏腹にエルゼターニアの口調は軽く明るい。彼女としても二度とあのような怪我はしたくないが、そもそもあの場で死ぬつもりだったところがどうにか生き延びられたのだ。しかも怪我も完治しているのだから、これは儲けものだというくらいのあっさりした感覚の方が強い。

 人間の身にしてこの一年以上、亜人たちと向き合い戦い続けてきたがゆえの胆力。特務執行官としての覚悟が成さしめる思考回路であった。

 

「まあ、どうあれ私の方がハーモニさんより先に死ぬのは確定してるんすけどね。ほら、どうしても寿命がありますし」

「それなら良いよ、この前も言ったけどさ。人として、最後の最後まで生を全うしてくれた上で死ぬのなら、寂しいけれど受け入れる。むしろそれ以外で死ぬなんて、私が許さないんだから」

「あー、あのプロポーズじみた」

「そ、そんなにプロポーズっぽかったかなあ……? 言われると何か、恥ずかしくなってくるんだけど」

 

 それは数日前の誓い。エルゼターニアをあらゆる艱難辛苦から護り、必ず寿命まで生きさせてみせるという、ハーモニの決意と覚悟のやり取りである。

 あまりにも真面目に正面から告げたものだから、まるでプロポーズのようだと何度かからかわれている宣誓だったが、本人はどこまでも必死で真剣だ。

 

 抱きしめるエルゼターニアの耳元で、そっと祈るように囁く。これまで散々な無茶を繰り返してきた彼女へ何度も繰り返し言う、心からの願い。

 

「もう……もう、あんなの無しだよ。辛すぎる」

「ハーモニさん……」

「頼むよ、お願い。どうか生きることを投げ捨てないで。私の、傍にいて」

「……はい」

 

 微かに震えるハーモニの体と声。本当に、心底からエルゼターニアの瀕死が堪えてしまったのだろう……完全にトラウマになってしまっていることを察して、少女は申しわけ無くも頷いた。

 強く、誰よりも頼りになる相棒。そんなハーモニをここまで打ちのめしてしまったのは、誰でもなくエルゼターニアの仕打ちだ。

 

 常に特務執行官として進むべき道を歩んできた自負はあるものの、人としてはあまりに惨いことをしてしまったという自覚もある。

 不安に震えるハーモニを抱きしめ返す。自分は生きている、ここにいると彼女に告げるように。

 そして誓うのだ──もう絶対に、ルヴァルクレークのフルパワーは使うまい、と。どれだけ強力でもあの力は、自分も他人も不幸にする。最終手段としても下の下だ。

 

 あんなものに頼るのではなく、それこそハーモニや他の仲間たちに頼ろう。そして無事に生きて帰るのだ。今の自分は、決して一人ぼっちではないのだから。

 エルゼターニアは改めて、自身の意識や価値観、判断基準を変えていかねばならないと強く、思うのであった。

 

「──あ、いたいた。エルゼターニアさーん、そろそろお時間ですよ、荷物を持ってフロントまでお越し下さいー」

「あ……はーい。分かりましたー」

 

 そんな折、背後から看護士がやって来てエルゼターニアに声をかけた。入院中、世話になっていた馴染みの女だ。

 時間が来た。その報せを受けてハーモニの背を撫でる。柔らかく微笑み、エルゼターニアは告げた。

 

「それじゃあハーモニさん、行きましょう。私たちもようやく、日常に戻れるんすよ」

「そう、だね。ようやく、私たちも平和になったこの国に戻っていけるんだ」

「年は越さずに済んで良かったっすー。これならギリギリ、祭も楽しめますしね」

 

 言いながら二人は立ち上がった。看護士が先導するのを、彼女たちは並んで付いていく。

 ハーモニの手には荷物が少し。エルゼターニアの入院中のもので、着替えや日用品が入っている。

 

「自分の荷物なんすから、自分で持ちますよ」

「ダーメ、病み上がりなんだから無茶しないの」

「荷物持ちで無茶扱いなら私、まだ入院してた方が良いんじゃないっすかねぇ……」

 

 顔をひきつらせて呻くエルゼターニア。我が身を案じてくれるのは大変ありがたいのだが、案じすぎるあまり過保護になっているきらいがなくもないハーモニだ。

 とはいえ今は好きにさせておくべきかと、静かに吐息を漏らす。彼女には一際心配をかけたのだから、これも仕方ないと言えば仕方ないことだ。

 

「少しずつ、こういうのも収まっていくんだろうしね……」

「何がー?」

「ハーモニさんの過保護さんがっすよー」

 

 茶目っ気めかして笑う。エルゼターニアに釣られてかハーモニも、しっかりと笑みを浮かべて応えた。

 

 『魔眼事件』にて多くのもの、多くのことが傷付き変化した。良いものは更にその先へと進め、良くないものはまた、時間をかけてでも治っていくことだろう。

 そう信じて、エルゼターニアはハーモニと共に階下へと降りるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はエルゼターニアの退院日。

 ほぼ一月、入院していた『共和の守護者』がまさにこの日、完全回復して復帰するのである。

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