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決戦、天使エフェソス!

 首都付近にて『クローズド・ヘヴン』たちが外周警備保安隊と合流し、迫り来る亜人たちを抑え留めている最中。

 あるいはマオとアリスが首都に進入し、上空の大陸蝶を気にしながらも目的地へと向かう頃合い。

 

 議事堂においては特務執行官エルゼターニアたちが、天使エフェソスとトリエントを相手取っての死闘を繰り広げていた。

 『オロバ』大幹部レンサスが内部へと進入してからそう時間も経っていない頃合いだ。しかして誰もが、焦燥を抱えて眼前の敵に攻撃を仕掛けている。

 

「『ルヴァルクレーク"プラズマスライサー"』!!」

「『マテリアル・アサルト』!」

 

 放たれた無数のプラズマの光輪を、雷纏う槍が迎え撃つ。一振りすれば拡散される稲妻が、迫る刃を一掃した。

 返す刀で槍を振り下ろす。間隙を縫うように、地面を這うがごとく身を屈めて接近するヴァンパイアが間近まで迫っていた。

 

「甘いですよ、ヴァンパイアっ!」

「そっちがね! 『ヴァンピーア・ファントム』!!」

 

 槍に捕捉されて、ヴァンパイア・ハーモニは己が身を霧へと変じた。すかさず天使の両側面に分身体を形成し、撹乱を図る。

 飛び掛かる『ヴァンピーア・ファントム』による分身たちを、紙一重で舞うように身を翻して回避するエフェソス。思っていたよりもハーモニの手練手管が洗練されていることに、感嘆の声をあげる。

 

「分身……! 『霧化』をそこまで昇華するとは、見事!」

「あんたに褒められてもちっとも嬉しくないねっ! ──とあーっ!!」

「むう……っ! 背後かっ!?」

「真っ正面からだよ、天使ぃっ!! 『ヴァンピーア・ミゼラブル』!!」

 

 両側面の分身体は囮、本命は背後──そう見せかけての正面突破。エフェソスの裏の裏をかいた戦術にて、ハーモニは正面から天使の体に組付き、関節技を放つ。

 両手足、首を同時に極める複雑な体勢。師匠たるアリスに教わり習得できた技の中でも、最高威力を誇る固め技だ。その難易度と破壊力の高さから滅多なことでは用いられないホールドが今、展開されていた。

 

「私の、最大最強のフィニッシュ・ホールド……! たっぷりと味わうが、良いっ!!」

「ぐ、く……っ!! た、大した、威力、ですね」

 

 身体中の関節をねじ曲げられる痛みが、エフェソスを襲う。そうでなくともアインに焼かれた痛みも未だあるのだ、嫌でも苦悶の声は漏れる。

  滲む視界の先、油断なく構えるエルゼターニアを見る──そして遠く、トリエントと一進一退の戦いを繰り広げるアインも。

 

 それだけでエフェソスには、不思議と力が湧いてきていた。一矢報いる、たとえ勝てなくともせめて一撃だけは入れる。そう誓って戦いを挑んだ己と、向き合う。

 全身に力を込めた。激痛が走るが構いはしない。天使としてのありったけの力を漲らせ、ハーモニの拘束を無理矢理撃ち破る。

 

「神雷よ……っ!」

「──嘘、破られる!?」

「まだ終われないっ! 天使として、戦士としてっ!! 終わるわけには、いかない! ──がぁあああああああっ!!」

 

 全身から雷を放ち、ハーモニを吹き飛ばす。かつてのエフェソスでは絶対に出せない威力だ……ここに来て出力が跳ね上がったからこその芸当である。

 

「こい、つ!? っう、ぅぐぁああああっ!?」

「ぐ、う……! 反動も大きいですが、ヴァンパイアは仕留めました! そしてっ!!」

 

 ヴァンパイアの全身を襲う雷電。身を焼くそれは、一切加減なく解き放ったゆえに当然ながら反動ダメージも大きい。雷が己さえ焼くのを、エフェソスは一顧だにせず構え直した。

 直後。

 

「『ルヴァルクレーク"リパブリックセイバー"』!!」

「来ると思いましたよ、特務執行官っ!!」

 

 ハーモニが離脱したのをすかさず飛び出し、一切の間を置かずに切りかかるエルゼターニアに、天使は槍にて持ちこたえた。

 予想できていた連携だ……この少女が、味方ごと切り捨てることのできる性質ならば今ので終わっていた可能性もあるが、後詰めに回るのならば間隙はある。

 

 防がれた一撃。目を見開くエルゼターニア。

 特大の隙だ──一撃を入れるに値する程に!

 

「『断罪・マテリアルバスター』!!」

「! しまっ──」

 

 カウンターでの一撃。それも初戦にて見せてきたあの、超遠距離攻撃だ。

 間に合わない。一気に死の予感が強くなるのを、それでもどうにか回避しようとエルゼターニアの意思が押さえ付ける。ここで倒れるわけにはいかないのだ……レンサスを止めなくてはならない!

 

「くっ……!」

「──やらせませんっ!!」

 

 今にも放たれんとする『マテリアルバスター』。必死に上体を逸らし躱そうとエルゼターニアが唇を噛み締めた、その時のことだ。

 エルゼターニアの後方から猛烈な勢いと速度で矢が通り過ぎ、エフェソスの手を刺し貫いた。

 亜人の手をも貫く威力……あまりに突然の痛みと衝撃に、さしもの天使も動揺して手元が狂っていく。

 

「なっ──ぁ。こんな、馬鹿な、これは!?」

 

 エルゼターニアから逸れ、何もないはるか彼方へと向けられる槍先。収束し放たれる寸前のエネルギーが今更になって抑えられるわけもなく、『マテリアルバスター』は発動した。

 閃光、そして虚空に伸びゆく稲妻。かつてエルゼターニアが見たそれよりもはるかに威力が高く、そして規模も大きい。

 

 危うくあれを食らうところだったのか──ゾッとする心地の特務執行官であるが、すぐに深呼吸を一つ行い精神を切り替えた。今ここで為すべきは、エフェソスの打倒のみ。

 ルヴァルクレークを振るい、未だ愕然としている天使を狙う。プラズマを纏う刃が、その体目掛けて唸りをあげた。

 

「終わりだ、エフェソス! 『ルヴァルクレーク"リパブリックセイバー"』ッ!!」

「しまっ……ぁ、ああああああっ!?」

 

 咄嗟に槍で受けんとするエフェソスだったが、迫るエルゼターニアの背後から更に飛来する矢に穿たれそれも叶わない。

 肩、腕、そして腹。手も含めれば4ヶ所に深く突き刺さる、矢の痛みに呻き叫びながらも。

 

 『リパブリックセイバー』の直撃を受け、天使エフェソスはついに倒れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全なる直撃を受け、倒れ伏すエフェソス。弟子の敗れ去る様を見て、師たるトリエントは目を見開いて叫んだ。

 

「エフェソス!! くう……っ!」

「よそ見ができる程、僕は甘くないぞっ!!」

 

 今すぐに駆け寄りたいところのトリエントであるが、眼前に迫る『焔魔豪剣』アインの剣を前にしてはそれどころではない。万全の状態でなお己を上回るという、人間の域を完全に越えている化物を相手に油断などできるはずもなかった。

 燃え盛る焔の剣、ヴァーミリオンによる猛攻を凌ぐ。それでもエネルギーの余波で体は少しずつ焼かれており、既にダメージも相当に蓄積している。

 

 つくづくふざけた話だ──これ程の相手に近距離戦を挑まざるを得ず、さりとて距離を開ければ遠距離攻撃によって更に追い込まれるのだから堪ったものではない。

 歯噛みして攻撃を捌きながら、トリエントは吼えた。突然エフェソスを襲った謎の矢の、出所を見ていたがゆえに。

 

「おのれ……っ! 貴様の連れ合いめ、単なる情婦に過ぎんと思っていたのが間違いであったか!!」

 

 矢を放った者、すなわち『焔魔豪剣』のパートナーであるソフィーリア。ただその場にいるだけの色ボケた愛人かと侮っていたのが根本的な間違いだったのだと、天使は痛恨の思い違いを悔やむ。

 彼女もまた、戦士だったのだ。バレルを取り付けた、特製のボウガンを両手に構えている姿には一流めいた気配すら漂う。

 そんな彼女にアインが叫んだ。

 

「ソフィーリア、ナイス! 早速役に立ったね、新型っ!」

「ええ! 改良型『ライフリング・ボウ』……改め『リボルビング・ボウ』! 連射機能も付いたから、まだまだ行けるわよ、アイン!」

 

 そう言って狙いを定めるソフィーリア。バレルによる矢の加速機能はそのままに、予め6本まで装填できる回転式の連射機能も追加で取り付けた彼女の専用ボウガンは、亜人の皮膚さえ射ち貫く威力を連発できるという破格の性能だ。

 弓職人の娘に生まれた彼女ゆえの、カスタマイズを重ねた逸品……普段は分解して持ち運んでいるため組み立てに時間が掛かりはしたものの、それが天使たちの油断を誘い結果的に対エフェソス戦において決定的な役割を果たせたのだ。

 青い髪の少女はアインに笑いかけ、次いでエルゼターニアに向けて告げた。

 

「エルさん、ハーモニさん! ここは私とアインに任せて、貴女たちはレンサスのところへっ!」

「トリエントは僕とソフィーリアでどうにかする! 君たちは行くんだっ!」

 

 アインも続けて言う。特務執行官とそのパートナーへと、国を護り『オロバ』を打ち倒す最後の一手を託す言葉だ。

 着々と手傷を負わせているとはいえトリエントは未だ、強敵だ……アインが抜ければエルゼターニアたちでは対処しきれない可能性も大いにある。

 ゆえに、ここは自分たちが受け持ちレンサスを任せる。そうした判断からのものだ。

 

「分かりました! ──ハーモニさん」

「ぐ……く、う、あ。い、行ける、よ、もちろん。行くに、決まってる……っ!!」

 

 頷き、ハーモニに静かに声をかける。けれどエルゼターニアにはもう、分かっていた。彼女はもう、戦闘不能だと。

 自爆めいたエフェソスの攻撃を一身に受けてしまったのだ、動けるはずもない。動きを封じてエルゼターニアの攻撃へと繋げるために密着していたこと、また元々の戦法が超近接スタイルであったがために、彼女のダメージは深刻なものだった。

 

 倒れる寸前、どうにか意識を失うことだけはしていないような状態でもなお、そんなハーモニは立ち上がろうとしていた。

 このままエルゼターニア一人にすべてを託すなど、できるはずもない話だ。彼女と共に戦い、彼女と共に生き延びる──誓ったのだ、彼女の両親と。誓ったのだ、己の信念と。

 ゆえにもがく。『霧化』すらできない程に消耗した身体で、血さえ吐きながらも。

 

 そんなハーモニに、エルゼターニアは近付く。

 苦悶に呻く相方をそっと優しく抱きしめて、そっと額に額を当てたのである。

 

「エ、ル」

「無理しないで……後のことは任せてください。きっと、全部終わらせてきますから」

「そんな……待って、待ってよ。行ける、行けるよほら、私。行ける──く、う」

 

 微笑み立ち上がるエルゼターニア。その瞳は強い決意に彩られている。ここにいるハーモニやアイン、ソフィーリアたちだけではなく、この国のすべてを背負って今、すべてを終わらせるという強い決心。

 付いて行こうとするハーモニだったが……やはり身体は言うことを聞かず、むしろ力が抜けてしまいとうとう倒れ伏す。

 彼女の瞳から、幾筋もの涙が流れ出た。

 

「くそぉ……っ! くそ、くそっ、こんな、こんな……っ!!」

「ハーモニさん……」

「嘘だ、こんなの……っ! 肝心な時に、大切な人の盾にさえなれないっ!! こんな情けない、最低だ、私、私は……っ!!」

 

 己の不甲斐なさを絶望と共に嘆くハーモニ。ヴァンパイアの英雄、『新世代の七人』リーダーは今、どうしようもない無力感に襲われていた。

 そんなハーモニに、エルゼターニアは毅然と声をかける。

 

「私の大切な、大事な人の悪口なんて言わないでください──ハーモニさん、大好きっすよ」

「う、く、うう……っ」

「貴女がいてくれたから、今ここに、この状況にまで辿り着けたんす、ハーモニさん。誇りに思います……貴女のような最高のパートナーに出会えた、私のこれまでのすべて」

「エル……! エル、エルぅ……っ!!」

 

 透き通るような笑みで、エルゼターニアは少しだけ瞳を閉じた。ふと思い出される、これまでのすべて。

 特務執行官になってから孤独に戦った一年。マオと出会い、『魔眼』の存在を知り──そしてハーモニに出会った。

 良い出会いとは言いがたかったが、それでも今では胸を張って言える。ハーモニがパートナーで良かった。ハーモニに逢えて良かった、と。

 

「それじゃあ行ってきます。この国は、絶対に終わらせません。何があろうと必ず、『共和』を護り抜いて見せますから」

「エル、ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……!!」

「謝らないでくださいよ……これが終わったら、きっとまた、抱きしめ合いましょう。結構好きなんすよ、ハーモニさんの温もりとか、匂いとか、柔らかさとか──えへ、なんちゃって!」

 

 泣き咽ぶハーモニの頭を一つ、柔らかく撫でてから。エルゼターニアは鋭い眼差しと共に議事堂内へと駆け出した。

 既にルヴァルクレークは50%のエネルギーを発動しており、先程放った『エクスキューショナー』によって体には相当のダメージもある。

 けれども向かうのだ。今を生きるすべてのものを、きっと未来に無事、辿り着かせるために。

 

 絶対にレンサスを止める。その覚悟でエルゼターニアは駆けるのだった。

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