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決戦、現れる『オロバ』

 突然現れた異様なる光景に、首都の人間たちは混乱していた。誰しもにとり生まれて初めての事態だ──空一杯を埋め尽くす巨大すぎる蝶。

 絶句する者、現実逃避する者、避難する者、静観する者。それぞれがそれぞれの反応を示す中、全国議会議事堂の門前にて、そうした異常にも果敢に立ち向かう者たちがいた。

 

「来たか……『オロバ』っ!」

 

 S級冒険者『焔魔豪剣』アイン。かつて王国南西部を救った新時代の英雄は誰よりも早く動揺を脱し、すぐさま星の焔の剣を現出させた。『ヴァーミリオン』、真紅のコートと銀朱の剣が顕現し、少年を星の端末機構へと変えていく。

 特務執行官エルゼターニアもまた、動揺は抜けきらぬまでも『電磁兵装』ルヴァルクレークを構えた。臨戦態勢。

 ハーモニと共にアインに問う。

 

「『オロバ』ッ!? これが!?」

「心当たりあるんすか、アインさん!!」

「かつて魔剣騒動の時にも、奴らは見たことない生物を操り攻撃してきていた! 『魔獣』だか『魔人』だか知らないけど、とにかくそんな類のやつだと思う、あの蝶も!!」

「経験者の言葉……! ハーモニさんっ!」

 

 他ならぬアインの言葉だ、こと『オロバ』に関しては十二分に信ずる価値がある。実際、かの騒動においては『魔獣』なる化物が数匹、投入されたのはたしかなのだ。

 得体の知れない上空の蝶とてその同類であろうと推測するのは、全国議会が『オロバ』に狙われる可能性が高いことと加味すれば当然の帰結であった。

 エルゼターニアに名を呼ばれ、ヴァンパイア・ハーモニもまた、闘志を高め応える。

 

「こっちは準備できてるよ! ホットドッグにサンドイッチ、食べられなかったのは残念だけど!」

「これが終わればいくらでも振る舞わせていただく! すまんが皆、ここを死守してくれ!」

「分かっています……『オクトプロミネンス・ドライバー』!」

 

 特務執行課長ヴィアの要請。首都を、国を護る決死の懇願に英雄は炎竜を発現させて諾を示した。

 『オクトプロミネンス・ドライバー』による飛行能力であの、巨大な蝶にまずは接近する……あれがただの陽動で『オロバ』は別ルートからやって来るにしても、蝶自体が決して捨て置けない代物であるのだ。

 

「とりあえずあの蝶をどうにかしてくる! 三人はここで、奇襲に備え──!?」

 

 まずは平和な空を取り戻す、その気概でエルゼターニアたちに先んじようとした、矢先。

 アインが向かおうとしていた空から一筋、轟音と共に稲妻が迸った。垂直にまっすぐ首都を直撃したそれは、かつて見覚えのある雷。

 その威力を身を以て知る、ハーモニが目を見開いて叫んだ。

 

「……『オロバ』のエフェソス! 蝶と一緒に来ていたのか!」

 

 天使エフェソス。先のクラバル戦直後に奇襲にてハーモニを戦闘不能に陥らせた『オロバ』の一員による雷。

 因縁浅からぬ相手の出現にますます戦意を高揚させるヴァンパイア。危うくエルゼターニアを死なせかけたことを含め、やったことの落とし前は絶対に付けさせる、そんな決意だ。

 

 そんな彼女の前に、エルゼターニアが突如躍り出た。エフェソスだけではない──もう一人、猛烈なスピードでこちらに突撃してくる者がいる。

 既に戦いは始まっているのだ。強襲され不意こそは突かれたが対応者はこちらだ。特務執行官は冷静に、迫り来る敵に向けてカウンターを合わせた。

 

「トリエント……! 『ルヴァルクレーク"エレクトロキャプチャー"』!」

「甘いぞ小娘! 『アストラル・スマッシュ』!」

 

 ルヴァルクレークの柄尻を向けて、捕縛の網を放つ。『エレクトロキャプチャー』、亜人を封殺する絶対包囲網だ。

 しかして敵、天使トリエントは上手を行った。雷を纏った槍を横薙ぎに一閃、電磁ネットを強引に絡め取ったのだ。粘着力も重量も気にしていない……むしろ武器として取り込み、そのままアインに襲い掛かる!

 

「初撃はいただくぞ、『焔魔豪剣』ッ!!」

「く──『オクトプロミネンス・ドライバー』!」

 

 エルゼターニアの力をも利用しての一撃は、無理矢理で強引だが殺傷力に関しては随一だ。それを受け、アインは飛翔用だった『オクトプロミネンス・ドライバー』にて応戦する。

 トリエントを食らうべく向かう炎竜。いぜんは予想外の能力ゆえに翻弄されるばかりであったが、今回は折り込み済みゆえに動揺もなく、落ち着いて天使は己の背、しがみつく少年に声をかけた。

 

「炎だ、やれるか」

「任せろ──『停止魔眼"オンリー・ユー"』!」

「──レンサスっ!? しまった、炎が!」

「アイン、危ないっ!!」

 

 背後から顔を出し、少年──『オロバ』大幹部レンサスはその左目に宿る奇跡を行使した。『停止魔眼』による、炎竜の拘束である。

 トリエントの移動速度が早すぎることから時間にして数瞬、動きを止めただけですぐに解除したがそれで十分だった。

 それだけで炎竜を一顧だにもせず、天使は『焔魔豪剣』に肉薄することに成功したのだから。

 思わずソフィーリアが叫ぶ中、トリエントは決死の突撃から流れるように攻撃へと移った。

 

「間合いは詰めたぞ『焔魔豪剣』! ここからが本当の勝負だッ!!」

「貴様、トリエントっ!」

「この町中、この至近距離! 自慢の焔も思うようには使えまい!」

 

 完全に接近戦へと移行し、槍による連撃でアインと矛を交える。まずはこの状況に持ち込めたことを内心で安堵しながらも、トリエントは卓越した技術で槍を振るう。

 してやられた形になるアイン。咄嗟にヴァーミリオンにて防ぐものの動揺は残っていた──レンサスの存在は当然予想していたものを、己自身でなく炎竜を停止させるとは。

 

 トリエントという極めて強大な戦士がいてこそのサポート的な動き。まんまと敵の意図する策に嵌まったことに、彼は歯噛みした。

 

「……だけど、近接戦なら僕だって本領なんだ! 『インペトゥスファイア・ドライバー』!」

「貴様の焔と我が雷と、雌雄でも決してみるかッ!! 『アストラル・スマッシュ』!」

 

 ぶつかり合う焔と雷。一合すればそれだけでトリエントの槍に付着していた『エレクトロキャプチャー』が焼き切れて消滅する程の、莫大なエネルギーとエネルギーのぶつかり合い。

 激しく火花散る鍔迫り合いの中、あまりの激突に周囲も身構えるばかりでいるほんのわずかな瞬間。

 トリエントの背中からレンサスが飛び降りる。議事堂の前であることを当然確認し、ふふんと鼻で嗤い……そしてエルゼターニアとハーモニ、ソフィーリアとヴィアに言葉をかけた。

 

「よう特務執行官と愉快な仲間ども。お元気そうで何よりだ……お祭り騒ぎでも警護とは気の毒だね?」

「レンサス……!」

 

 呻くようにエルゼターニア。襲撃は予想できていたが、まさかこうまで簡単に詰められるとは思いもしなかったことだ。

 正体不明の巨大生物による強襲、首都への攻撃と同時にアインをトリエントで抑える戦術。ことここに至るまで概ね、『オロバ』の思惑通りにことが進んでしまっている。

 

 絶対に、ここからは通さない──構える一同の中、戦力を持たずエルゼターニアの背後に守られるヴィアが、レンサスに向けて叫んだ。

 

「貴様が、『オロバ』の大幹部か!」

「あん? ……誰お前?」

「治安維持局直轄特務執行課長、ヴィアだ! 答えろ……なぜこんなことをする!? 全国議会を襲撃して、何をするつもりだ!?」

 

 特務執行課長として、『オロバ』大幹部への怒りと正義の問い掛け。なぜ共和国を狙うのか、なぜ全国議会を襲うのか。

 まっすぐなまでのその言葉に、失笑さえ浮かべてレンサスは告げる。

 

「そこの特務執行官の上司ってんなら、答えてやろうかな……決まってるだろ? 皆殺しだよ、皆殺し」

「何……っ」

「今この時期、この建物の中には国を動かす連中がたくさんいるだろ? じゃあそいつらを一人残らずぶち殺せば、後は好き放題だ……法も秩序もなくなって、ゆっくりこの地の人間どもをいたぶり殺し尽くせる。シンプルで良いだろ、ははは」

「そんな……!」

 

 それは、おぞましい解答だった。政治家たちを皆殺しにし、それを皮切りにこの国の人間たちを殺し尽くすのだという。

 紛れもなく共和国を崩壊せしめんとする悪意──これまでにない程の抹殺宣言。しかもそれでいてレンサスの瞳には、狂気らしい狂気も見当たらない。完全に正気のまま、恐るべき行為に手を染めている。

 慄然としたものを覚え、エルゼターニアは即座に行動に移した。この少年、この亜人は何があろうと今ここで、止めねばならない!

 

「『ルヴァルクレーク"プラズマスライサー"』!!」

「はっ──相変わらず威勢が良いねお姉さん」

「どうして、どうしてこの国を滅ぼそうとする!? 何の恨みがあるんだ、貴様はっ!」

「──」

 

 瞬間、レンサスの顔から表情が抜け落ちた。空虚なその面構えに、ゾッと背筋の凍るものを覚える特務執行官。

 直感的に、彼女は悟った──何もない。この少年亜人には、実のところ何もないのだ。『世界さえ失ったかのような虚無』ばかりが、彼にはある。

 

「貴様らに……何が分かる」

 

 空洞めいたレンサスの、言葉が不思議とエルゼターニアの心を揺さぶる。何故か分からないが無性に悲しく、やるせない。

 目の前の少年を見ることが、ひどく苦痛だった。嫌悪があり、憎悪があり、けれどそれ以上の嘆きと哀しみ。

 『プラズマスライサー』を目前にまで迫らせて、レンサスは……両目を虹に輝かせ、叫んだ。

 

「僕から『姉さん』を奪ったこの国の貴様らに、何が分かる! 何百年と、何もないことを抱え続けた僕の、何が分かるっていうんだっ!!」

「姉……さん?」

「もう誰にも邪魔はさせない……これは正当な復讐だ。奪われたから奪うんだ、お前らから何もかもをっ──『防御魔眼"ドント・リーヴ"』ッ!!」

 

 もはや彼自身にさえどうにもできない何もかもの鬱屈。それを表出させ歪みきった憎悪の相と共に、第三の魔眼は発動した。

 『防御魔眼』。対象の肉体を極めて頑健なものにするその力は、かつては殺さぬように加減されていたとはいえ『勇者』の攻撃さえ凌いだ程だ。『プラズマスライサー』などものの数ではない──切り裂かんとする電磁の光輪すべて、逆に強化された身体にぶつかっては砕かれて散っていく。

 

「もう誰にも止められない、止めさせないぞ……共和国は今日、僕のこの手を以て滅び去るのさっ!! はっ、ははははは!!」

「させるわけ、無いでしょうがぁっ!!」

「ハーモニさん! ──『ルヴァルクレーク"エクスキューショナー"』ッ!!」

 

 必ず止めると飛び掛かるハーモニに、息を合わせてエルゼターニアも応えた。ルヴァルクレークの出力を50%解放し、傷付きながらもレンサスに迫る。

 方や組み付きへし折るために、方や切り裂くために。揃って接近した二人だったが……『防御魔眼』のあまりの強固さに、纏めて弾き飛ばされてしまう。

 

「そん、な!?」

「ぐっ……50%、でも通じない!?」

「『魔王』の力なんだよこちとら……そこらの亜人や、まして人間なんぞがこの防御を抜けられるわけないだろ」

 

 愕然とする二人に嘲笑を一つ飛ばして、レンサスは悠然と議事堂に向け歩いていく。彼の言う通りだった──誰も止められない、誰にも止められない。

 

「レンサス、待てっ!」

「待つのはお前だ『焔魔豪剣』! よそ見されては困るなぁっ!!」

「くっ──トリエント、貴様はッ!!」

 

 唯一、その圧倒的な火力を以てレンサスの防御を貫通できるであろう『焔魔豪剣』アインも、天使トリエントに肉薄されてそちらに対応せざるを得ない。

 戦闘力自体はアインの方がやはり上手らしく、トリエントの身体は徐々に焼かれているものの……技術や手練手管はさすがの天使と言うべきか、中々致命打を入れるには至れていなかった。

 

「まだだ……まだ、何かあるはず!」

「絶対にここで止める、レンサス!!」

 

 それでも諦めず、立ち上がるエルゼターニアとハーモニ。ここが共和国の瀬戸際なのだ、膝を折るわけにはいかない。

 だが……レンサスはそれさえ嘲笑い、更なる絶望の一手を繰り出した。

 

「もう無理だってんだよ。お前らの相手、代わるしな」

「何……!?」

「後は任せたぞ……しっかりやれよ、エフェソス!」

 

 その声と共に、上空から飛来する者、一人。

 包帯まみれの有翼亜人が、それでもしっかりとした振る舞いでエルゼターニアたちの前に降り立った。

 

「お任せくださいレンサス。天使エフェソス、参ります」

 

 天使エフェソス。エルゼターニアにとってもハーモニにとっても因縁ある女が今、立ちはだかるのであった。

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