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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
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英雄vs天使、圧倒たる焔

 凄まじい加速で天使二人が突撃する。手にした槍は雷光を纏い、必殺の威力と気迫を以てアインへと一直線に迫る。

 

「『アストラル・スマッシュ』!!」

「『マテリアル・アサルト』! 覚悟しなさい、冒険者っ!!」

 

 トリエントとエフェソスの、いずれも名を付けるに足る威力の攻撃。ほんの一瞬で距離を詰め、敵を突き穿ち仕留めるための技能。

 これまで幾人もの敵を討ち滅ぼした超高速近接攻撃は、しかし。

 

「行くぞ、ヴァーミリオン──! 『インペトゥスファイア・ドライバー』ッ!!」

 

 アインの、星の無限エネルギーを焔として纏わせる『焔星剣・ヴァーミリオン』にて容易く受け止められた。

 燃え盛る豪炎が刀身を強化し、二人の神速を防ぎ、弾いてそして、返す刀で攻撃する。振り抜いたヴァーミリオンの炎が、『焔魔豪剣』の意思に呼応して天使たちを襲った。

 

「何いぃっ!?」

「馬鹿な、この炎はっ!?」

 

 防がれると思っていない攻撃を防がれ、あまつさえ正体不明の炎により反撃された。完全なるカウンターを決められた形のエフェソスとトリエント。

 トリエントの方は槍を振るいどうにか炎をいなしたが、エフェソスは……防御も回避も間に合わず、アインの炎をまともに受け、盛大に燃え上がった。

 

「く──ぁ、ああああっ!?」

「エフェソス!!」

「炎よ! 敵を打ち払えぇっ!!」

 

 全身を焼かれるエフェソスに、トリエントが気を取られた一瞬。その隙を突いてアインが、炎纏うヴァーミリオンで追撃を仕掛けた。

 速度も重さも申し分ない斬撃の数々が、極めて殺傷力の高い炎と併せて一撃必殺の威力に到達している。ただの一度でも、ほんの少しでも掠めればそれで終わりだ。

 これまでに見たことの無い程に殺意の塊めいた攻撃。まったく戦慄を禁じ得ず、トリエントはアインの斬撃から己とエフェソスを防ぎつつ、上空へと飛び退く。

 同時に未だ炎に焼かれる彼女へと叫ぶ。

 

「エフェソス! 飛べ、空へ逃げろ!! 神雷にて炎を散らすのだ!!」

「ぐ、ぅ──! 神、の、雷よっ!」

 

 声を受けて、燃えながらもエフェソスは空へ逃げた。がむしゃらに高度を上げながら、必死に槍から雷光を放つ。己に纏わせ炎をかき消すのだ。

 目論みはどうにか功を奏し、エフェソスの身体を焼く炎は後から発現した雷光によって霧散した。したが……彼女の身体は今や、戦闘など行えるはずもない程に焼け爛れている。

 焦げて見る影もなくなった美貌の顔で、天使の美女は息を荒くした。

 

「っ……! はぁ、ぐっ……そんな、そんなことが。この私が、こんな、簡単に、一撃でっ」

「エフェソス!! 離脱しろ、もうお前は戦えない!!」

「くっ──おのれ、おのれぇ……!!」

 

 トリエントの必死の声に、彼女は歯噛みして、しかし認めざるを得なかった。

 たったの一撃。それもこちらの攻撃に合わせただけのカウンターで、『天使』たる己が戦闘不能に追いやられた。しかも相手は人間にも関わらず、だ。

 高潔なプライドが歪み、折れる心地がして、エフェソスの瞳から一筋の涙がこぼれた。今すぐにでも屈辱を晴らしたいが、状況的にも実力的にもそれは、難しい。

 

 わずか一合のやり取り。それだけの攻防で、天使エフェソスを撃退して見せた『焔魔豪剣』。そのすさまじさにソフィーリアの治療を受けながらも、エルゼターニアは畏怖を込めて呟いた。

 

「す、すごい……あの天使を、あんなにあっさりと」

「ほ、本当に人間さんなの……? さっきの攻撃、炎を差っ引いても亜人並じゃない」

 

 ハーモニもまた、そのあまりの実力に呆然としつつ疑問符を浮かべている。

 端的に言えば人間業ではない。何処からともなく炎を発現させたこともそうだが、単純に天使二人の攻撃に対応した反射能力、対応できた身体能力が人間の領域を大幅に越えていた。

 どちらかと言えば亜人に匹敵するものだ、あの力は。訝しむハーモニに、ソフィーリアが笑って答えた。

 

「あはは……『魔剣騒動』で色々ありまして。でもアイン、とってもすごいですけどやっぱり人間ですよ? この間も間違えてお酒飲んじゃって、たった一杯でへべれけになって甘えてきたんですから、うふふ!」

「そ、ソフィーリア! それ言わないでよ、恥ずかしいよー!」

「えー? だってあの時のアイン、可愛かったんだもの! ね、大人になったらまた飲みましょうね、お酒!」

「いや、僕はもう飲まないよ!? セーマさんにも迷惑かけて、本当に後悔したんだから!」

「え、ええと……?」

 

 鉄火場の中にあって唐突に始まった少年少女の語らいに、エルゼターニアもハーモニも困惑しきりだった。あまりにも場にそぐわない空気が、アインとソフィーリアの間にのみ流れている。

 ついさっき、恐るべき天使を軽々と瀕死に追いやった戦士とそのパートナーとも思えないやり取りだ。

 

 そう言えばマオが、王国南西部の冒険者は呑気すぎていけないなどと溢していたなあと漠然とエルゼターニアが思い出していると、トリエントはその間にもエフェソスに話しかけている。

 

「良いから逃げろ、我々が奴を防ぐ! 構わんな、レンサス!」

「分かってるよ! ったく……こっちに合わせて動けってんだよボンクラどもが! お陰でまたベッド暮らしかよ、エフェソス!」

「っ……申しわけありません。離脱、します……!」

 

 レンサスの嫌味にぐっと歯を食い縛り、それでもエフェソスは撤退を受け入れた。弱々しくも踵を返し、彼方へと飛び去ろうとする。

 ソフィーリアと話していたアインだったが当然、それを見逃すはずもない。

 

「逃がすか! 『オクトプロミネンス・ドライバー』!」

「させるかよ『焔魔豪剣』!」

 

 再び炎竜を八匹繰り出す。猛烈なる勢いで燃えるそれらはアインの意思の下、まるで本当に生物であるかのような躍動感を以て敵に襲いかかる。

 対するはレンサス。大怪鳥の背に乗ったまま、アインに向けて瞳を光らせた──比喩でなく本当に、その左目を虹色に煌めかせる。

 不可思議な紋様を瞳孔に映し、少年は叫んだ。

 

「たとえ星の端末機構でも、これは通じるだろう──『停止魔眼"オンリー・ユー"』!!」

「っ! 魔眼!?」

 

 名を呼ぶと共に発動するは魔眼……『停止魔眼』。レンサスの左目に宿る、奇跡の眼だ。

 効力はシンプルかつ凶悪なもので、視線の先にあるものすべての身動きを停止させる。

 

 マリオス、リアス兄妹がそれぞれの『磁力魔眼』を組み合わせた時に発動する能力を一人で扱えると言って良い。適用範囲もより広く、レンサスならば『霧化』したヴァンパイアでさえも拘束できる程の、まさしく相手を完全に停止させる魔眼であった。

 

「くっ……!? 動けない、のか!?」

 

 そのような眼に晒されたアインも例に漏れず動きを束縛された。

 先の『磁力魔眼』による拘束を受けたエルゼターニア同様、まったく身動きが取れない状態に陥り、さしもの彼もいささかの動揺を見せる。

 

「これが、魔眼の力か……っ!」

「そうだっ! ガキが調子付いてるとこうなるんだよ! トリエント、やっちまいなぁっ!」

「承知! 冒険者よ、覚悟するが良い!」

 

 レンサスに応じすかさず、トリエントが槍を構えて突撃した。その身には雷を纏っており、この好機を逃すまいと必殺の気概を見せている。

 治療を受けながらもエルゼターニアたちが反応した。

 

「アインさんっ! そんな、レンサスまで魔眼を!?」

「あのままじゃ殺られるよ! どうにか、支援を……!」

 

 王国から助けに来てくれた英雄の危機を、指を加えて見ているばかりではいられないとハーモニと二人、どうにか立ち上がろうとする。

 せめて牽制に『プラズマスライサー』だけでも放てれば──歯を食い縛り身体に力を込める満身創痍のエルゼターニアと、そんな彼女を支えようと自らも踏ん張る、奇襲によりダメージを受けているハーモニ。

 そんな二人を慌てて押し止め、ソフィーリアが言った。

 

「二人とも落ち着いて! 大丈夫です、アインなら……ね!」

「もちろん! エルゼターニアちゃんもハーモニも、心配せずにそのまま治療を受けていて!」

「し、しかしそんな……!」

「舐められたものだな『焔魔豪剣』ッ! 受けてみよ天の迅雷──『天誅・アストラルキャノン』!!」

 

 指一本とて動かせぬまま、なおも余裕を見せるアイン。そんな彼に怒りさえ見せつつもトリエントが技を発動、更なる加速と威力を以て一心に敵を貫かんと進む。

 S級冒険者『焔魔豪剣』は、しかし不敵に笑った。

 

「レンサス──お前のことはセーマさんから聞いている。いくつかの魔眼を持っていることもな」

「……勇者め、余計なことを」

「そして魔眼についてもマオさんから聞かされたよ。その性質と発動条件、そして僕ならどうすれば打ち破れるかさえも。『発火魔眼』……あの人の手に渡ったのは痛恨だったな、『オロバ』!」

「っ!? トリエント、離れろォッ!」

 

 『勇者』セーマと『魔王』マオ。いずれも『オロバ』にとり最重要警戒対象だ。特にセーマなど極力近寄らず刺激せず、関わり合いになることすら避けねばならないとまで組織内にて認識が統一されている。

 そんな存在によるレンサスについての分析と対策が、他ならぬ眼前の『焔魔豪剣』相手に行われていたと言うのだ。

 

 間違いなく何かある。咄嗟に退避の指示を飛ばせばトリエントは、こちらもまた反射的に突撃のスピードを鈍らせた。

 

「何っ──」

「僕に魔眼は通じない……! 『イグニスボルケーノ・ドライバー』ッ!!」

 

 その瞬間が命取りだ。アインの声と共に、彼の能力が発動した。

 大地がひび割れ、亀裂からマグマが遥か空へと立ち上ぼる。一ヶ所だけでなく無数に、辺り一帯を溶岩の樹で埋め尽くしていく。

 

「これはッ!? 貴様、この炎は!!」

「地中奥深くに流れるマグマ、正真正銘の星のエネルギーだ! 受ければひとたまりもないぞっ!」

 

 数えきれない程の溶岩の樹が立っていくのを、トリエントはどうにか回避するだけで精一杯だった。もはやアインに攻撃するどころか、近寄ることもままならない。

 加えてレンサスの視線をも炎で防いだことにより、彼は問題なく動けるようになっていた。『魔眼』の、視線を定めた相手にのみ効力を発揮するという性質を踏まえての、これが対抗策だ……敵の視界を塞ぐ。

 

 麗らかな青空の下、緑豊かな大地に炎の森がすっかりとできあがった。呆然と見上げて、エルゼターニアが呻いた。

 

「なん……すか、これ。もう、何がなんだか」

「これが、『焔魔豪剣』……亜人だってここまで滅茶苦茶やれないよ。信じられない」

 

 ハーモニもあまりの事態に半ば夢見心地だ。およそ人間はおろか亜人にさえできない芸当の数々に、彼女たちは身を寄せ合ってことの成り行きをどうにか追いかけるのが精一杯だ。

 そんな二人にソフィーリアは、まさしく自分のことのように鼻高々とアインを称えて言う。

 

「すごいでしょう? これがアイン、私のとっても大事なパートナーなんです!」

「は、はあ」

「うっふふ! アイン、格好良いなあ! 素敵ぃ!!」

「と、蕩けてる……ってか、驚いてもないよこの子」

「つまり割と、いつものことなんすね。これ……」

 

 うっとりと見惚れるソフィーリアに、眼前の光景が『焔魔豪剣』の身近な人にとってそう珍しいものでもないことを確認して、エルゼターニアは顔をひきつらせる。

 視界の先、『焔魔豪剣』アインは更なる追撃に移ろうとしていた。

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