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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
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憩い、そして『焔魔豪剣』

「いやーヤバかったねエル! もしもあのスライムが強かったら、私もエルも死んでたかもね! あっはっはっはっはー!!」

「笑いごとじゃないっすよ、ハーモニさん……」

 

 全速で駆ける馬車の中、エルゼターニアとハーモニは互いにもたれて座り込んでいた。九死に一生を得た心地で二人、脱力しているのだ。

 実際、死ぬところだった。神父クラバル自体はエルゼターニア一人でも圧倒できるものではあったが、彼に味方した『魔眼』の能力によって窮地に追い込まれたのだから。

 

 ハーモニがいなければあそこで死んでいた。そんな確信と共に恐怖に震え、エルゼターニアはこぼした。

 

「……ハーモニさん、ありがとうございました。おかげで命拾いしました」

「そんなことないって! エルに出会ってなかったら単身、あの兄妹のことにも気付けずに突っ込んでたわけで……そう考えると命拾いしたのはむしろ、こっちの方かもねー」

 

 ハーモニも照れたように笑い、素直なところを述べた。

 彼女はクラバルを追ってこの地域にやって来たのだ。エルゼターニアの存在があろうがなかろうが、いずれ彼とは相対していただろう……そうなれば初見ゆえ『磁力魔眼』による拘束に対応できなかった可能性も大いにある。

 

 恐ろしい魔眼だった。一切の身動きが取れなくなるなどと、戦場においてこれ程凶悪な能力もそうそうないように二人には思える。

 ましてそのような恐るべき力を振るっていたのが、まだ年端もいかない幼子たちなのだから。エルゼターニアには今回の『磁力魔眼』が、いつも相手取る亜人よりも遥かに性質が悪いと判断していた。

 

「マリオスくん、リアスちゃん……そして、あの子たちの『磁力魔眼』。クラバルめ、何てことを」

「あれはやりづらいねー……あの子らもあのスライムにしっかり懐いてるもんだから、説得も効果あるかどうか」

「育ての親だからって、犯罪行為に荷担するなんて……!」

 

 二人の傍ら、ソファにてレインがうちひしがれていた。先日には兄妹と交流していただけに、彼女のショックは大きい。

 怒りとも、困惑とも、悲しみともつかない複雑な表情。そんなレインに、エルゼターニアは言葉をかけた。

 

「……それだけクラバルが、親としてあの子たちに愛情を以て接していたのかもしれないっす」

「魔眼を与え、自分のための尖兵としたのに?!」

「それでも与えられる愛情には応えたくなるものなのかも知れません……子供は特に、親は絶対っすから」

 

 言いながら、特務執行官は深呼吸を数回行った。気分を変えて精神面での仕切り直しを図る動作だ。

 マリオスとリアスには思うところはあれど、この段階に至ってはもはや、敵なのだ。凶悪なスライムに与し、詳細不明の魔眼を用いる強大な相手である。

 そのような認識にて彼ら三人との再戦を考えれば、エルゼターニアには自然と思い付く案があった。

 

「ともかく最初にやるべきは、あの兄妹の無力化っすね。『磁力魔眼』が具体的にどういう性能なのかはさておくにしても、あれを野放図にしていたらこっちがやられます」

「そうだね。最低でもどっちか一人は目を潰すなりしておかないと、また動きを止められる。エルの言う通りだよ、さすが!」

 

 まずはクラバルよりも魔眼を叩くべき、との案に諸手を挙げて賛同したハーモニは不適な笑みを浮かべている。

 そのまま体勢を変え、エルゼターニアの肩に腕を回して抱きつくように、しなだれかかるようにして彼女の耳元で続ける。

 

「『霧化』してエルに纏わりついてる間、一部始終を観察してたんだけどさ……」

「ちょっと、近いんすけど……息が耳にかかる!」

「あの『磁力魔眼』、たぶんだけどガキんちょ二人が同時に魔眼を使わないと、拘束能力は発揮できないよ」

「──えっ!?」

 

 やたらと密着してくるヴァンパイアを鬱陶ししがりながらも、しかしもたらされた発言にエルゼターニアは驚愕した。

 ハーモニが『磁力魔眼』の性質を看破し、あまつさえ対応策まで考えていたとは思っていなかったのだ。

 

 ──クラバルとの面会前、ハーモニにはたしかに『霧化』を行って己の周囲にいるよう頼んでいた。

 仮にもしも、彼女の言うようにクラバルが亜人であった場合、『気配感知』でハーモニの存在が悟られてしまう。話の成り行きによってはそのまま戦闘になることが予想された都合上、ヴァンパイアの特性を最大限利用し、彼女には半ば奇襲要員としての役割を期待していたのだ。

 

 実際、窮地に陥ったエルゼターニアを寸でのところで助け、クラバルの虚を突く形で戦線離脱を行えたのだからそれだけでも十分に意味はあった。

 しかして更にヴァンパイアは戦いの中、冷静に事態を俯瞰した上で気付いた点があると言う。

 未だ少女に密着したまま、ハーモニは説明を始めた。

 

「あの魔眼はたしかに、エルを拘束してたわけだけどさ……見た目としてはおかしな話でね。エルはガキんちょどもの方を向いてなかったから分かんなかったろうけど」

「え、ええまあ……完全に死角から奇襲されましたから」

 

 戸惑いがちに答える。クラバルを追い詰めたエルゼターニアが魔眼による奇襲を受けた際に兄妹は、彼女の視界の外、つまり背後から魔眼の能力を行使していた。

 

「本当に身動き一つできなかったっすから、客観的にあの時、どういう状態に陥っていたのかは分かりかねますね……」

「だろうねー……エルはさ、拘束されてたんだよ。それぞれの魔眼から出た赤と青の光の縄、二本でぐるぐる巻きさ」

「光の、縄」

 

 当の本人にはいまいち、想像のしづらい話ではあったが……ハーモニの言う通りであった。

 マリオスとリアス、二人の片目からそれぞれ放たれた『磁力魔眼』の光線。これが赤と青のまるで縄のように彼女に巻き付き、身体の自由を奪っていたのだ。

 

「エルが拘束されている間、あいつらはずっと目から縄めいた光を出していた。エルを見つめて、ずーっとね」

「……つまり、魔眼は対象を見つめていなければ発動しない?」

「『ヴァンピーア・ファントム』で無数に分身を出して視線を遮った途端、エルは拘束から解放された。そう考えるべきだろうね」

 

 更に、とエルゼターニアを抱き締めるように絡み付きながら続ける。

 

「分身で視界を遮ったのは、妹の方が先だった。わずかなタイミングの差だけど見逃しはしなかったさ……兄の方の魔眼は機能していたはずなのに、エルの拘束は妹の目を遮った時点で解除されていた」

「それで、『磁力魔眼』は二人が同時に対象を見ていなければ発動できない、と」

「少なくとも拘束能力に関してはね。他に、単独でも使える能力があると想定しておくべきではあるよ」

 

 そのように見解を述べるハーモニに、エルゼターニアもレインも舌を巻く他ない。わずかな時間、ほんの少しの情報から『磁力魔眼』の拘束能力に関する性質を見抜いてみせたのだ。

 歴戦の戦士、ヴァンパイア社会の英雄としての経験から来る、観察眼と勘働き。さしもの特務執行官といえどその点においてはハーモニに勝るはずもなく、ただただ感嘆の念を漏らすばかりだ。

 

「よく……あのタイミングと成り行きでそこまで見抜けましたね。すごすぎっすよ」

「そ、そうかな? いつも一応、初見の相手にはこんな感じに試してみてばかりなんだけど……えへ、すごいんだ!?」

 

 エルゼターニアの賞賛を受けて、ハーモニの顔が緩みに緩んだ。尊敬すべき戦士と定める特務執行官からの賛辞に、心が舞い上がっているのだ。

 もはや背後から抱き締めていると言って良い状態の少女を更に抱き寄せて、ヴァンパイアは嬉しそうに笑って言った。

 

「エルに褒められると何だろ、すごい嬉しいなあ! アリスさんに誉められた時とはまた、別の嬉しさがあるよ。あは、えへへへ!」

「それはそれとして離れてもらえないっすかねいい加減……暑いんすけど!」

「あーん、やだ! すりすりー」

「首筋止めてもらえますかね!?」

 

 制止してもなお止めず、あまつさえ首筋に頬擦りなどもして見せるハーモニに、エルゼターニアも弱り果ててレインを見る。

 

「レインさーん……」

「わ、私を見られても……その、気に入られたのねえ」

「気に入られたっていうか、何なんすかねこの扱いは……」

「うへへへ、エルー」

 

 当たり障りのない反応を返され呻くエルゼターニア。ハーモニは未だ、そんな少女を抱き締めている。

 ひとまず戦いが終わっての休息。明日の朝の決戦に向け、特務執行官とヴァンパイアはそのようにして温もり、気をほぐしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃──

 共和国首都は治安維持局特務執行課のデスクにて、特務執行課長ヴィアはいつになく緊張した面持ちで眼前の客人と相対していた。

 

「……それでは、今後しばらくは我々にご協力していただける、と?」

「はい。そうするように、師とそのパートナーの方から依頼を受けました。『特務執行官』エルゼターニアさんに助力して、共に『オロバ』を打ち倒すようにと」

「何ともはや……」

 

 言葉が中々、出てこない。あまりのことに、これは夢かと錯覚しそうな心地であった。

 ヴィアにとり、いや共和国にとり眼前の人物はまさしく天からの助けだ。喉から手が出る程に欲しかった人材であり、しかし調査の結果、スカウトするには難しかろうと諦めていた人物でもあった。

 

 その少年──赤毛の、一見すると少女にも見えかねない顔立ちの彼は、隣に座る青い髪の少女と一瞬、目を合わせて微笑んだ。

 夢見心地のヴィアに言う。

 

「さしあたりエルゼターニアさんの元へ向かいたいのですが……今、彼女はどちらに?」

「え? あ……い、今は共和国南部の町におります。強盗をしでかした亜人の捕縛に向かっています」

「南部ですか。分かりました、明日の早朝には向かうようにしますね」

「え、ええ。どうかお力添えを頼みます」

 

 にこりと微笑むその顔は華やかで幼げだ。

 しかしヴィアは知っていた。見かけによらぬ、彼にはすさまじい実力と実績があることを。

 

 王国南西部で勃発した『魔剣騒動』において、中心的な活躍を見せた若き天才剣士がいた。

 冒険者となって半年で瞬く間にS級冒険者の座に登り詰めたその剣士は、王国が誇る『豊穣王』直々に二つ名を賜り、今では戦後世界において新時代の英雄として世界的にその名声を広めている。

 

 『剣姫』リリーナや『タイフーン』ロベカル。『クローズド・ヘヴン』のメンバー、ゴッホレールやカームハルト。

 いずれも『魔剣騒動』にて活躍したS級冒険者たちだ。そんな錚々たる顔ぶれとも共に力を合わせて戦い抜いたその英雄が……今、ヴィアの目の前にいる。

 そして共和国のために力を貸してくれると言うのだ。高揚と期待を禁じ得ず、課長はごくりと唾を飲んだ。

 

「──というわけだから、ソフィーリア。明日はちょっと早いかも。観光はまた今度だね」

「気にしないで。観光より何より、まずはエルゼターニアさんに会わないと、ね?」

「うん、そうだね」

 

 少年は少女に微笑んだ。唯一無二のパートナーに愛しげな視線をやってから、ヴィアへと向き直る。

 

「それでは明日、南部に向かいエルゼターニアさんと合流します。向こうでの用件が片付いたらまた戻ってきますので、本格的な協力体制はそこからスタートしていただければ」

「分かりました。それまでにはこちらも手続きを済ませておきましょう……どうか今後ともよろしくお願いいたします、『焔魔豪剣』アイン殿」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 頭を下げるヴィアに、少年──史上最年少のS級冒険者『焔魔豪剣』アインは、やはり微笑んで力強く頷くのであった。

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