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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
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激突、エルゼターニアvsクラバル!

「……どこからその情報を? 聖霊諸島のコミュニティは極めて閉鎖的で、少なくとも他国には及んでいないはずです」

「だから他国に逃げたんすか。他所なら、バレることはないと高を括ってたんすか。だったらそんなの、お門違いも良いところっす」

 

 特務執行官の強い視線が神父を貫いた。穢れなき正義の瞳。情熱と気高さを秘めた正しさが、強い言葉で彼の打算を否定する。

 逃げることなどできない。誰も、どんなことからも。必ず付いて回るのだ。そして、いつか報いを受ける。良いことも悪いことも。

 

 そしてとりもなおさず、今しがたの彼自身の言葉によって証明されたも同然だった……穏和で人の良い町の神父クラバルの、殺人と不法入国を犯した亜人としての正体。

 やりきれない思いに悲痛な表情を浮かべ、エルゼターニアは呻くように言った。

 

「どんなに閉鎖的でも、排他的でも、口を閉ざしても……真実は必ず広まるもんなんすよ。どこまで逃げても、正しさは必ず追い付きます。そしていつかは、向き合わなきゃならないんす」

「真実……貴方は、詳しくまで分かっていると?」

「いえ。詳しくはまだっすね」

 

 クラバルの言葉に、エルゼターニアは頭を左右に振った。件の事件の、概要は知ったが未だ、子細については知らないままだ。

 かのヴァンパイア・ハーモニもそこまでは知らないでいた辺り、あるいは何か退っ引きならない事情とてあるのかも知れない。

 

 けれどエルゼターニアにとって、そこはどうでも良かった。如何なる事情があったとしても結局、捕まえる捕まえないの判断には影響しないのだから。

 他国の犯罪者が共和国に不法入国していた。彼女にとって重要なことはその点に尽きる。どんなにセンチメンタルでも、心情的に辛くとも、特務執行官としてその点だけはぶれさせられない。

 強固な信念で少女は答えた。

 

「どうあれこれから分かることっす。貴方を逮捕して、詳しく事情を聞くことによって」

「逮捕、するのですか? 私を」

 

 クラバルの纏う空気が、変じた。穏和な顔付きはそのままに、硬質な……敵意を含んだ気質が滲み出る。

 やむを得なかった。本当ならば、特務執行官には滞りなくオークを捕縛した後、速やかにこの地を去って欲しかった。そうなることを願って彼は、特務執行課に協力したのだ。

 

 それがこうなるなどと、あまりにやるせない話だ。クラバルは世の無情を改めて嘆いた。

 しかして己ももう止まれない。止まるわけにはいかないのだ。踏みにじってきた者たちをせめて無駄にしないためにも、彼は理想を貫く。

 

 悪しき空気と共に一歩踏み出した亜人を前に、静かに特務執行官は大鎌を構えた。少女もまた、臨戦態勢である。

 どこまでもまっすぐに清らかな、正しい闘気。つくづくこの少女は善なる性質なのだと感動さえ抱くクラバルに、エルゼターニアは告げた。

 

「逮捕します。殺人に関しては聖霊諸島での犯罪ゆえ身柄を拘束した後、聖霊諸島統括政府に引き渡すことになりますが、その前に不法入国についての裁きはこの国で受けてもらいます」

「……どうあっても、そうなりますか」

「どうか、お願いします。抵抗しないでくださいよ、クラバルさん」

 

 懇願めいた声音に、神父の胸は痛んだ。特務執行官と言えど未だ子供と言って良い少女に対して、何という惨い仕打ちをしてしまっているのだろうかと、己を憎む。

 それでもなお、貫くべきものが彼にはあるのだ。

 

「それは無理ですね。私とて、思うところがあってこの地にいるのです。申しわけありませんが──」

 

 神父の服の下、右腕が崩れた。不意のことだ……肉体がゼリー状の、水の集合体へと変わる。

 彼の亜人としての能力だ、エルゼターニアもそれは分かっていた。

 

 『スライム』。亜人種の中でも有翼亜人と並びカテゴライズされる変わり種、『無形類亜人』の一種だ。

 意思あるゼリーと称する他無い外見と性質を帯びた知的生命体であるのだが、普段は人の形を象って他の亜人同様の文化を形成している。

 

 人間社会とはあまり関わる個体のいない種の一員。クラバルがついに、その真なる力を発揮したのだ。

 青白い肌が、透き通る純水へと変わっていく。

 

「精一杯の抵抗をさせていただきます。私にも私なりの、正義があるのです」

「罪を償うことさえしない、そんな正義などありはしない……! 『電磁兵装運用法』特例事項Cに則り、電磁兵装ルヴァルクレークの機能を限定的に解放!!」

 

 クラバルの正義を一顧だにせず、少女は吼えた。『電磁兵装運用法』特例事項C、すなわち亜人による凶悪犯罪に対する措置として、ルヴァルクレークの性能を30%まで引き出す。

 

 国会による承認は経ていない──代わりにレインの許可を得ている。

 特務執行官たるエルゼターニアが持つ特別権限の一つであり、緊急性のある案件に関しては他の特務執行課員、ないし現地に駐在している保安官の承認を以て限定的な範囲において『独自判断で』特例事項の適用を行う。

 これにより特務執行官は突発的な事態にも臨機応変に対応することが可能であるのだ。

 

「我が名はエルゼターニア。共和国の盾、『特務執行官』の責務と使命において──特務執行!!」

「させません……! 我が理想、我が夢は、未だ半ばなのだから!!」

 

 宣言し、突撃するエルゼターニア。抗い、迎え撃つクラバル。

 かくして両者、互いに辛い心情の戦いは幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれたゼリーがまっすぐにエルゼターニアへと目掛けられる。スライムとしての本性を表したクラバルの、殺傷力を伴った右腕だ。

 

「ルヴァルクレークッ!!」

「……っ!」

 

 まともに受ければ人間の柔らかな皮膚など容易く貫ける。それ程の威力をしかし、エルゼターニアは防いだ。ルヴァルクレークを小手先にて回転させクラバルの腕を弾いたのだ。

 既にプラズマと蒸気が少女を包んでいた──『クイックフェンサー』。戦闘に発展することを当然ながら織り込んでいた特務執行官はあらかじめ、ボトルをセットしていた。

 一本だけではない。力を込めて踏み出す。

 

「『"リパブリックセイバー"』ッ!!」

 

 白兵戦用ボトル『リパブリックセイバー』。プラズマを纏う大鎌の、鋭い刃がクラバルを襲う。

 強い踏み込みによる突撃めいた一撃だ。しかもリーチが長い得物ゆえ、敵に間合いを悟らせにくい。

 鎌という、滅多なことで戦闘に用いられることのない武器を振るうことの利点を、エルゼターニアは活かしていた。

 

「くっ──!? さすが、戦い慣れていますね!」

 

 『リパブリックセイバー』によって胴体を切り裂かれたクラバルは、少女の凶悪と言って良い攻撃に呻く。

 ダメージはない。不定形亜人にとって身体が裂かれる程度、痛みはあれどすぐにまた元の形へ戻るのだ。

 とは言え服はそうはいかず、大きく破けた神父服を脱ぎ捨て、上半身を露にして彼はエルゼターニアに向かい合った。

 

「哀れですね。ここまでできてしまう程に、貴女は戦ってきた。その年で、辛かったでしょうに」

「あんたのような、国を、人を脅かす亜人は絶えないもんでしてね……!」

「そろそろ解放されても良いでしょうに……どうか降伏なさい。私にはその鎌は効かない」

 

 憐れむように降伏を促すクラバルは、既に己の勝ちを確信していた。ルヴァルクレークの攻撃を体質により無効化できる時点で、どうしたところで斬撃しかない彼女に為す術はない。

 戦闘力自体は間違いなく特務執行官の方が上だが、そもそも向こうに手立てがないのだ。負けるわけなどないと、彼は考えていた。

 

「殺しはしません。ただその武装は危険すぎるので破壊はしますが。貴女はもう、戦わなくて良いのです」

「舐めるな、スライム……! この国が平和になるまで、私の戦いは終わりはしない!!」

 

 ──当然ながら当のエルゼターニア本人の見解は異なる。勝ち目がないなどと、彼女は微塵とて考えていなかった。

 吼える。完全に勝ちを確信したクラバルは、それゆえに気が緩んでいる。殺人者ではあるが戦士でない者の、如何ともしがたい油断である。

 一息に決める。そう決意してエルゼターニアは、ルヴァルクレークを振るった。

 

「この国の誰もが、平穏な日々を当たり前のものとできる時代が来るまで……私は戦うっ! 『ルヴァルクレーク"プラズマスライサー"』!!」

「!? プラズマの、飛び道具!?」

 

 思いも寄らない遠距離からの攻撃。ルヴァルクレークから発生した、十数個のプラズマによる刃の円盤がクラバルを襲う。

 

 まさかそのような攻撃方が少女にあると思っていなかった神父が叫んだ。大鎌からの印象で近距離ないしは中距離戦特化だと考えていた分、彼の驚きは大きい。

 不意に、天使トリエントとの会話が思い起こされた。彼はたしか同胞たる天使エフェソスがエルゼターニアと交戦した際、遥か上空からその一部始終を観察していたという。

 

 戦いになど興味はなく、トリエントもエフェソスの敗戦を語りたがらない様子であったことから子細を聞きはしなかったが……今頃になって、それが悔やまれる。

 

「せめて戦法くらいは、聞いておくべきでしたかね……!!」

「スライムッ!! コアを狙い撃てば、斬撃無効化だって!!」

 

 猛るエルゼターニア。『プラズマスライサー』の刃を四方から襲い掛からせて、己は大鎌でクラバルに斬りかかる。

 狙うはコア──不定形亜人の心臓部。

 

 斬撃や打撃に対して滅法強いスライムであるが、ただ一点、体内に潜む中心核は明確に弱点と言える。身体が自在に変化してもコアだけは一切変わらず、物理的な衝撃をもろに受ける箇所であるためだ。

 加えてそこは脆弱であり、わずかなダメージを受けるだけでも簡単に全身の動きが止まる。完全に破壊すればすなわち死が待っているのだから、不定形亜人にとっては命そのものと言えた。

 

 無論、特務執行官たるエルゼターニアにはクラバルを殺すつもりはない。あくまでもコアに衝撃を与え、一切の抵抗を封殺するのがその目的だ。

 しかしてその気迫は殺人者たるクラバルでさえ戦慄させるものがあり、彼は咄嗟に後ろに飛び下がりつつも呻く。

 

「コアは……やらせませんよ、特務執行官!!」

 

 迫り来る斬撃を避けながらの咆哮。クラバルとて必死なのだ……命の瀬戸際だけでない。己が夢、理想、描いてきた目標。邪道といえども積み重ねてきた道のすべてが、今水泡に帰すか否かの正念場である。

 決して負けられない。そのような強い想いでクラバルは、ルヴァルクレークと共に襲い来る特務執行官を迎え撃つ。

 

「来なさい! 貴女を乗り越えてこそ、この共和国にて我が理想、真なる聖霊信仰は芽吹き育つ!!」

「その身勝手、理屈もろとも叩き斬る──『ルヴァルクレーク"リパブリックセイバー"』!!」

 

 接近、そして必殺。

 今一度放たれた特務執行官の電磁兵装、亜人を幾度となく打ち倒した近接戦闘技能に対し、神父は己が両腕を水に変え、前方に突き出してうねる螺旋の激流として放った。

 『プラズマスライサー』を弾き飛ばす程の威力を持つそれはクラバルの、戦士でない身にしてそれでも編み出したたった一つの必殺の技。

 

「『激水静流・ハンマーフォール』!!」

 

 かつて人間を三人殺めた彼の殺人技法が今、エルゼターニアに向けられていた。

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