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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
34/110

新たなる仲間、ヴァンパイア・ハーモニ

 馬車の中、向かい合うエルゼターニアとハーモニ。縄は未だにヴァンパイアの身体を拘束していて、ルヴァルクレークは未だに特務執行官の手の内にある。

 凡そ平穏とは言いがたい光景。レインと、御者役の保安官たち三人が固唾を飲んで見守る中──事情聴取が始まった。

 

「まずは自己紹介だね、改めてさ……私はハーモニ。ヴァンパイア互助会の役員を務めてる、『新世代の七人』のリーダーだよ!」

 

 その声は場の雰囲気に反して、あまりにも明るい。戦いを経て捕縛され、半ば尋問めいた事情聴取を受けているにと関わらず、だ。

 構わずにエルゼターニアは更に続けて問う。まずはヴァンパイア互助会の役員という、新情報について。

 

「ヴァンパイア互助会の役員……正直信じがたいっすね」

「だよねー。私も正直、重荷だなーって思うんだけど……放り投げると師匠に半殺しにされそうで中々逃げられなくて」

「ずいぶん過激な師匠っすね……まあ、貴女の身分については後程、互助会に問い合わせることとして」

 

 自ら分不相応だと苦笑し、あまつさえやたらと実感の籠った言葉で師匠とやらを語るハーモニ。その表情に嘘偽りは感じられない。

 あるいは本当に、ヴァンパイア互助会の役員なのかもしれない。あまりにも軽挙妄動が目立つゆえにわかには信じがたいのだが、実際の真偽は後程にするとして、とにかくエルゼターニアは次の質問へと移った。

 

「『新世代の七人』とは? リーダーと言うからには、組織か何かで?」

「いやいや、単なるグループというか……うーん、何と説明したものかなあ」

 

 そこで初めて、ハーモニが言葉に詰まった。言いづらい、というよりは説明の難しい類の話であるらしく、しばらくうんうんと唸り考えていく。

 やがて彼女は、頬を掻いておずおずと答えた。

 

「……えっとー、『新世代の七人』について説明するにはまず、100年前に起きたヴァンパイアの世代交代について語らないといけないんだよね。聞いてもらえるかなあ?」

「ヴァンパイアの……世代交代?」

 

 あまり聞き馴染みがない言葉に、戸惑いエルゼターニアはレインたちを見た。ヴァンパイアという種族に関する、最低限の特徴は知っているつもりだが、その歴史についてはあまり知らないでいたのだ。

 とはいえレインや御者役の保安官たちとてそう多くを知ってはいないらしく、互いに顔を見合わせてから応える。

 

「ええと、聞いたことはあるかしらね。100年前まで、ヴァンパイアは人間に対して恐ろしく残忍な行為をしていた、とか」

「それが世代が変わって新しい、若いヴァンパイアたちが主導権を担った途端、人間に対して極めて友好的になった……なんて昔、学校でちらと耳に挟んだことはありましたね」

「……まだ人間さんたちの学校では多少、奴らのおぞましい蛮行を教えてるんだね。やっぱり種族単位での愚行は、風化しきれるものじゃ、ないかあ」

 

 レインたちの説明に、ハーモニは悲しげに悔しげに俯いた。『奴ら』が恐らく、古い世代のヴァンパイアを指しているのだろう……エルゼターニアは計り知れない深く重々しい風格を、目の前の女から感じ取った。

 たしかな英雄の相を浮かべてハーモニは、苦々しくも笑う。

 

「いかにも……100年前までのヴァンパイアは、主流派だった連中がとても酷い奴らだったんだ。人間さんを餌として、玩具として殺して弄んだり、口にするのも許しがたいおぞましいことをしたり、ね」

「それを、若い世代のヴァンパイアが変えた?」

「うん。だって、絶対にあんなのおかしかったからさ」

 

 凛とした眼差しで見据えるはエルゼターニア。しかしてその先には過去の決意が見えているような、遠い視線だ。

 当時を思い出しているのか、瞳に信念の輝きを煌めかせて女は呟いた。

 

「ヴァンパイアだからって人間を、いや命を踏みにじるなんて許せない。当時私は、今よりもっと馬鹿で若いヴァンパイアだったけど……それでもあの最低な連中の行為に我慢できずに、戦いを仕掛けたんだ」

「一人で、っすか?」

「最初はね。でも、すぐに仲間が集まってくれたんだ」

 

 淡く微笑む。たった一人の戦いに、けれど集っていくかけがえのない仲間たち。

 絶望的な反抗を、決定的な革命の潮流へと変えた愛すべき者たちを、ハーモニはつらつらと並べて述べていく。

 

「師匠が大好きで、だけど師匠からは割と本気で鬱陶しがられていたタトシャ。無口でたまに口を開いてもいまいち要領を得ないことしか言えないカムリ、ことなかれ主義を気取ってるけど誰よりもすぐキレるコーザン」

「……」

「チビのガキんちょで、でも老成しすぎなクインシー。私より酷い戦闘狂、師匠に半殺しにされた回数トップのサイナ。そして誰よりも出世欲の強い、戦闘以外は無能以下のマロク」

「あんたボロッカス言いますね!? 本当に仲間っすか!?」

 

 あまりの罵詈雑言ぶりに思わず突っ込めば、しかして、ハーモニは辛辣さとは裏腹の暖かい笑みで以てエルゼターニアに応えた。

 

「仲間だからここまで言えるんだよ。あいつらだって、私のことは『戦い以外のことが頭に入らない、猿未満の馬鹿なハーモニ』くらいに言うと思うよ?」

「は、はあ……そんな、もんっすかねえ?」

「そんなもんだよ。それに今更だしね……あいつらが最高に素晴らしい仲間だなんて、言うまでもない」

 

 まるであっけらかんと仲間たちを評するハーモニが、エルゼターニアには眩しいような、いくらなんでも毒舌すぎのような、けれどどこか羨ましいものに見えた。

 こうまで忌憚ない言葉を交わし、同時に強い信頼と敬意を抱き合う。そんな行為そのものにどこか憧れめいたものを感じてしまう。

 

 そんな自分はさておいて、エルゼターニアはならばと口にする。そうして集まった七人の英雄ヴァンパイアたちが、世代を変えたと言うならば。

 

「それで、『新世代の七人』っすか」

「そう! 私たち七人を指して、いつの間にかグループ名みたいになっちゃってさ。何かカッコいいし、私たちもそれで通すようになったの!」

「なるほど……それについては分かりましたが、そんな方が何故、今回このような行為に?」

 

 ヴァンパイアという種族のあり方そのものを変えて見せた『新世代の七人』、そのリーダー。

 まさしく英雄だ。そのような人物が何故、エルゼターニアに戦いを仕掛けるに至ったのか……核心を問えば、彼女はやはり、明朗に応えた。

 

「戦争から戦後にかけて、私は世界各地の互助会支部を回ってはトラブルを処理してきたんだけど……そんな中、貴女の噂を聞いてさ」

「私の?」

「たった一人で共和国の亜人犯罪に立ち向かう、『特務執行官』ってさ。詳細は知らないままだったけど、それ聞いてすぐさま共和国に戻ってきたんだ。特務執行官の力となって、故郷に平和をもたらしたいって」

「貴女、共和国のヴァンパイアなの?」

 

 思わずレインが口を挟んだ。ヴァンパイアは世界各地に数多く存在しており、もちろん共和国にも暮らしている者もいる。

 ハーモニもこの国の一員なのか。問いかけに、ヴァンパイアは力強く頷いた。

 

「いかにも私、生まれも育ちも共和国は北西部。なだらかな土地とのどかな牧場が自慢の地域出身のヴァンパイアだよ! まあ、最近はすっかり戻ってきてなかったんだけどね。やっぱり共和国の空気は美味しいよ」

「わざわざ帰国してまで、私に協力をしたい、と……?」

 

 他国を転々としていた者が帰郷するにしては、それはあまりにもあっけない理由に思える。いくら故郷のこととは言え、見ず知らずの他人に協力するために遥かな旅を終えて来るとは。

 しかしてハーモニは淡く微笑んだ。敬意と親しみを湛えた瞳で、特務執行官を見据える。

 

「故郷が今、危機に脅かされている。今にも崩れ落ちそうなすべてを、たった一人の人間さんが瀬戸際で食い止めているんだ……そう思ったら何がなんでも絶対に助けないとって、そう思った。私もこの国が好きだし、何より孤独に戦う辛さは、多少知ってるつもりだからね」

「それは、どうもありがとうございます。でもそれならやっぱり、何で私に戦いを」

「あ、あはは……本当にごめんね? 正直、一目見て貴女が特務執行官だってことは、分かったんだけど……」

 

 鼻の頭を掻きながら、申しわけなさそうにするヴァンパイア。出会い頭に戦いを仕掛けたことが、エルゼターニアの怒りを根強いものにしていることを今更、痛感していたのだ。

 エルゼターニアからしても危うく殺されかねないところだった……相手にその気が無かったとしても、ついうっかりで命を奪われかねない程の差が、人間と亜人の間にはある。

 未だ厳しい顔付きの少女に向けて、ハーモニは言い分を重ねた。

 

「これから協力する相手だから、より深く知っておきたいなって。私、戦うのが一番のコミュニケーションだしさ。手っ取り早いなーって」

「……たしかにあの短い戦いで、互いに互いを知るところはありましたけど」

「でしょでしょ!?」

「だからって乱暴すぎるんすよ! もし私が死んでたらどうするんすか!?」

「ううう、ごめんなさーい!!」

 

 拘束されたままテーブルに突っ伏す、器用な真似をして見せるハーモニ。

 コミカルでさえあるその姿に、彼女の経緯を聞いた今となってはついに毒気を抜かれ、エルゼターニアはため息と共にルヴァルクレークを手放した。

 このヴァンパイアには害意はない。一応だが共和国の治安平定に向けて協力の意思を持つ存在であると、特務執行官として判断したのだ。

 

「分かりました、ハーモニさん……オークたちを殺したことについては特務執行の妨害と見なしますが、それでも私は、貴女を信じます」

「良いの、エルちゃん!?」

「悪い人には見えないっすからね。互助会への問い合わせで身分が証明でき次第、協力できたらなとは思います」

 

 不安げなレインにそう笑うエルゼターニア。既にハーモニの身分に関しても信じているのだが、一応の身分確認を取ってから彼女を解放しようと考えている。

 感激と共にハーモニが口を開いた。

 

「特務執行官さん……! 殺しちゃダメとは知らなかったの。ごめんなさい。これからはもう、殺しはしないから。ご迷惑をお掛けしました!」

「お願いしますよ、本当に……それと、私の名前はエルゼターニアっす。エルゼターニアでも、エルでも、好きなように呼んでください」

「エルゼターニア……エル! 分かったよエル、よろしくねエル! 私のこともハーモニって、呼び捨てで呼んでね、エル!」

 

 エルゼターニアの名を、大切そうに何度も呟く。ハーモニからすればようやく会えた特務執行官の本名だ、宝物めいているのだろう。

 一方エルゼターニアは至って平静に、冷静沈着に返事する。

 

「いえ、年嵩の方を呼び捨てにはちょっと。ハーモニさんと呼びますね」

「なんでぇー!? 良いじゃん友達なんだし、ねえハーモニって呼んでよお!」

「それはちょっと……」

 

 友達にまではなった覚えもないのだが、と閉口するエルゼターニア。どうにもこのハーモニ、感情表現がストレートでかつ、性格も天真爛漫なためかひどく馴れ馴れしい印象を受ける。

 実力あるヴァンパイアが協力態勢を示してくれたことは率直にありがたいのだが、今後はこのテンションと付き合っていかなければならないのかと、何やら気分の重い心地すら感じるエルゼターニアであった。

 

「えへへ、エル。えへえへ、エルぅー! よろしくね、エール!!」

「よろしくっす、ハーモニさん……」

 

 ともあれこうして、共和国を護る戦士が一人、エルゼターニアに合流したのである。

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