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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
33/110

戦い終えて、いざ聴取

「えっへへー! 特務しっこーうかーん!」

 

 勢いよく体当たりしてくる、女──ヴァンパイア。痛みはない。戯れているのか、むしろ甘えるように擦り寄ってきている。

 はあとため息を吐き、エルゼターニアはそれに応じた。

 

「動きづらいんで寄り掛かるの止めて欲しいんんすけど……ええと、ハーモニーさん?」

「うへへ、惜しいー! ハーモニ! 伸ばすんじゃなくて途切らせて、ハーモニだよ!」

 

 頬擦りさえしてくるようなハーモニを鬱陶しがりながらも、エルゼターニアは歩いていた。向かうは退却を指示した馬車の駆けていった先、合流するためのものだ。

 

 いきなり襲いかかってきたにも関わらず、特務執行官たるエルゼターニアの力になりたいと志願してきたヴァンパイア・ハーモニ。

 その処遇とそもそもの経緯を聴取するために今、二人はひとまず馬車と合流せんとしていたのだ。

 

「ねえ特務執行官さーん、この縄ほどいてよ、歩きづらいよお」

「解放した瞬間、私の首がへし折られないとも限らないっすからね。それは無理な相談すよ」

「しないよ!? いや、あんな風に仕掛けといて信じろって方が無理なの、分かってるけどさあ!」

 

 今、ハーモニはその腕と胴体とを縄にて拘束されている。『エレクトロキャプチャー』の電磁ネットにて一時的な麻痺状態に陥ったところを、エルゼターニアによって縛られたのだ。

 対亜人用に研究された、特殊な手順を踏んでの極めて拘束力の高い縛法だ。縄自体も並大抵の亜人では破ることができない材質で製造されている。

 そこまで拘束してもなお、エルゼターニアは一切の油断もできないとハーモニを注視していた。

 

「……『霧化』しようとしたら今度は、こっちもフルパワーで応対します。ルヴァルクレークの機能はまだ、引き出しがあるんすから」

「だろうねー。明らかに手札のいくつかを制限した上で貴女は戦っていたもの」

「……!」

「何か、段階的に実力を引き出す基準があるのかな? 国の法律とか。人間さんは、特に集団内での取り決めに縛られがちだもの、ね」

 

 確信を込めた断言。未だ見せていない実力の、底の底まで見通すかのような発言にエルゼターニアは静かに動揺した。

 

 たしかにハーモニだけでなくエルゼターニアもまた、先程の戦いにおいては全力とは程遠い状態で戦っていた。『電磁兵装運用法』に定められた範疇でのルヴァルクレークの行使を徹底していたのだ。

 すなわち強盗犯たるオークたちに対して許可の下りていた『クイックフェンサー』、『エレクトロキャプチャー』、そして『リパブリックセイバー』の三種類のみである。

 

 本来の執行相手でないヴァンパイア・ハーモニであったにせよ、オークたちを殺しあまつさえエルゼターニアにまで襲いかかった危険人物だ。

 特務執行官には現行犯に対する判断および対応の特権が与えられているため、そちらに則ってオークたちと同等の対処をハーモニに対して適用した形であった。

 

 そのような経緯もあり、エルゼターニアは6つあるルヴァルクレークのボトルの内、半分を封印して戦っていたのであるが、まさかそれを見抜かれていたとも思っていなかった。

 思わず沈黙する少女に、ヴァンパイアは構わず楽しそうに興奮し、続けて言う。

  

「間合いの取り方だって、遠距離攻撃の存在を微かだけど感じさせてたし! だけど近接技しか使えない場面にも対応できるような距離感が絶妙で、私すっごい感心しちゃった! その大鎌みたいな長物ならではの、中距離戦闘法だね!」

「あれだけのやり取りで、そこまで見抜くんすか……」

「だから言ったじゃん! 『貴女のことはある程度分かった』って! 私は馬鹿なバトルジャンキーだけど、その分バトルで相手のことを分かることができるんだから!」

 

 溌剌に笑うハーモニとは裏腹の、驚愕と苦々しさに特務執行官は呻いた。そこまで長くはない戦いの中で、このヴァンパイアは容易くこちらの手の内を見透かしていた。それだけの実力差があるのだ、本来ならば。

 完全に、こちらを試すつもりで仕掛けてきていた。元より戦闘中にも余裕綽々な、明らかに手心を加えながらの態度を見せていたことから分かっていたことだが、やはり忸怩たるものはある。

 

 ハーモニクラスの相手と本気で戦う場合、どう低く見積もってもルヴァルクレークのフルパワーを引き出さなければ、恐らくは。

 そんな確信に渋面を浮かべ、エルゼターニアは呟く。

 

「……貴女程の相手には、あの段階じゃどうしても及ばないっすか」

「んっとー……まあ、一応私もそれなりの位置にいるヴァンパイアだしね。でも特務執行官さん、貴女が弱いなんてことは絶対にあり得ないからそこは勘違いしてほしくないかな」

「そんなこと言われましても」

 

 頭を掻いて戸惑いを見せる。実際問題、加減されていた上に性格面での隙を突いてようやく一時的に無力化する形で勝ちを拾えた相手に、そのような評をされても実感は薄い。

 褒められているというよりは慰められている感覚になるのだ。

 

 だがハーモニはそんなエルゼターニアの様子を不服に思ったのか、より熱を込め、力強く言う。

 

「本当のことだよ、自信持ってよ! この私、ニューエイジ・ヴァンパイアが筆頭『新世代の七人』リーダーたるハーモニを、たとえ全力でないにしても貴女は倒したんだよ! これは、誇らなければならないことだよ!!」

「ニューエイジ・ヴァンパイア……『新世代の七人』?」

「そーこーはーあーとーでー! とにかく、貴女は強いの! 強くて、高潔で、そして優しいの! 初めて聞いた時からずっと憧れて尊敬してた、特務執行官その人なのー!!」

「え……えぇ……?」

 

 異様なまでに特務執行官へ、そしてエルゼターニアへ入れ込んでいる様子のハーモニに、当の本人はすっかり引いてしまっている。

 それでも熱意に瞳を輝かせる彼女に、どうしても悪い気がしない自分を察知して、エルゼターニアは自嘲のため息を吐きながらも馬車へと向かい、歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向かった先は海岸の近く。そこまで戻ってきていたのかと思いながらも近付けば、エルゼターニアに気付いてレインが馬車から下り、駆け寄ってきた。

 

「エルちゃん! 大丈夫!?」

「ええ、まあ……何だか変なことにはなりましたが、これこの通り無事っすよ」

「ああ……良かった! 本当に、良かった……!」

 

 まずは無事、生きて帰ってきたことへの安堵からか、エルゼターニアを抱き締めて涙するレイン。

 何やら過剰な気がして戸惑うも、そう言えばこの人はこうして、特務執行官の務めを果たす場面を見るのは初めてだったなと、思い出して少女は得心した。

 抱き締めるその背に、そっと手を置く。

 

「大丈夫っすよレインさん。このくらい、割といつものことっすから。生きて帰れたんでそれで良しっす」

「……っ!」

 

 その言葉に、レインは……より強く抱き締めることでしか想いを表現できないでいた。

 初めて間近で見た、特務執行官としてのエルゼターニアの姿。退却していく馬車から見た、小さな背中には悲壮なまでの覚悟が感じられていて。

 短くも逃げろと叫ぶ常ならぬ姿もあって余計に、衝撃的な光景だったのだ。

 

 この子は今までああして、たった一人、あんな背中をして、あんな風に亜人と戦ってきたのだ。

 そう思うと、レインはすっかり感情を抑えることができなかった。元より心優しく繊細な感性を持っていることに加えて、エルゼターニアに対して過度の思い入れがある彼女だからこその、ある種の暴走であった。

 

「エルちゃん、エルちゃん……!」

「あ、あはは……まいったっすねえ」

 

 そんなレインに、エルゼターニアも困り顔だ。とはいえ心配してもらえる嬉しさもあり、邪険にする気も毛頭ないが。

 と、そんな二人を見ていたハーモニが呟いた。

 

「何やらあれだねー……心配性の姉と無茶ばっかりする妹って感じ。もしかしてお姉さん?」

「いえ、同僚さんっすね……ていうか無茶ばっかりってなんすか、無茶させてくれた張本人の癖に」

「あ、あはは! そこはほら、感動と興奮のあまり、ね?」

 

 今しがたの自分の所業を、誤魔化し笑いで取り成しにかかる。そんな姿にエルゼターニアはため息を一つ。

 恐らくはそれなりの地位であろうヴァンパイアなのだろう、ハーモニは。ニューエイジだとか『新世代の七人』のリーダーだとか、本人の口ぶりからも分かっているのだが、ことの子細が未だ明かされてはいないので計りかねるところもある。

 

 ともかくそのような身分のヴァンパイアが、ここまで行き当たりばったりに人を襲撃するのはいかがなものだろうか──そうあからさまに示す視線から目を逸らすハーモニ。

 ようやく落ち着いてきたのかレインが、抱き付きを止めて距離を取り、恐々とヴァンパイアを見た。

 

「ヴァンパイア……! 捕まえたのね、エルちゃん」

「ええ、まあ。あからさまに加減されての、譲られた勝利っすけど」

「譲ってなんかないよー!? お互い全力じゃなかったけど本気ではあったんだし、だったら雑じり気なしの貴女の勝利だよ、執行官!!」

「はあ……」

 

 頑なにエルゼターニアの勝利を主張する。そんなハーモニの考えがいまいち理解できずに、少女は困惑した。

 レインの方はそれどころではない。捕縛されたヴァンパイアを見るや、畏怖と怒りと恐怖と困惑に表情を染め上げる。やけに親しげな態度が意味不明に感じたらしく、問う。

 

「ど、どういうことかしら……エルちゃん、彼女は一体?」

「それを聴取したくて合流したんすよ。特務執行課に協力したいとか、さっきのは単なる腕試しだとか言ってるバトルジャンキーさんっす……正直、私にもよく分かりかねますね」

「そ、そう……」

 

 疲れたように──実際に疲れているのだろう──頭を抑えるエルゼターニア。その身を、レインが労る。

 ともあれ本当の問題はこれからなのだ。

 

「さて……無事に辿り着けたんで、改めてお話しをお聞きしましょうか、ハーモニさん?」

 

 強盗オークたちを殺したヴァンパイア・ハーモニ。特務執行官に協力せんとする彼女が何故、このような地域でそのような行為をするに至ったのか、詳しい事情を聞かなければならない。

 ハーモニも快く頷く。

 

「良いよー! あ、ところでこの縄いい加減、外してもらえないかなあ?」

「事情聴取の成り行き次第っすねそこは。現状、貴女は私の……特務執行官の任務遂行を妨害した形になりますし、一応は拘束を続けないと」

「げげげ……殺すのアウトなんだ。そっかあ」

「いや当たり前っすからね? 共和国は法治国家で、特務執行官は共和国の番人なんすから」

 

 呆れて呟くエルゼターニア。どうあれ法の裁きを受けさせる関係上、どのような凶悪犯でもひとまずは無力化し拘束した上で法の裁きを受けさせるのが共和国における筋だ。

 それを無視して殺人を犯した以上、ハーモニを今すぐ野放しにする選択肢はない。たとえ法においては亜人間のトラブルについて、基本的に関与しないものであったとしてもだ。

 

「詳しい話を聞いて、すべてはそれからっすよ。だから教えてくださいハーモニさん、ここに至るまでの、貴女の事情についてを」

 

 エルゼターニアが促す。それに一つ頷いて応え、ハーモニは口を開き始めた。

 事情聴取の、始まりである。

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