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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
打ち破れ信仰、少女とヴァンパイア
30/110

特務執行課、出発!

 精霊信仰教会を出てから概ね一時間程。エルゼターニアとレインはチェックインした宿へと戻り、部屋にて明日の準備を行いながらものんびりと憩いを過ごしていた。

 食事も風呂も済ませた後だ──やはりグレード相応だったそれらで腹を満たして身を清めてからの、羽を伸ばせる時間帯。

 ソファに座り、呑気に茶など啜っていたエルゼターニアが、そう言えばと口を開く。

 

「バッテリーチャージャー、どのくらいのタイミングで使うんすか? 一応、『クイックフェンサー』がちょっとだけ消費されてますけど」

「そうねえ……さしあたり明日、オークたちを捕縛してからにしましょうか」

 

 向かい合うソファのレインが、読んでいた書類から目を離してエルゼターニアに答える。町への道中にも話をしていた、ルヴァルクレークのボトルエネルギーを回復させる、携帯型バッテリーについてだ。

 電磁兵装研究部から渡された試作品であるそれを、実際に運用してみて報告するために今回、本来は後方勤務のレインまでエルゼターニアの職務に同行しているのである。

 

 近くに置いていたバッグから、件の装置バッテリーチャージャーを取り出す。無骨で大きなそれをテーブルに乗せ、指先で撫でるように触りつつレインは言う。

 

「この試作品で補充できるエネルギーは概ね、ボトル一本分をフルチャージできる程度なの」

「結構行けるもんっすねえ……それならどうせなら、全部使いきりたいのが人情ってところっすけど」

「明日にどのくらい使うか、よね」

 

 エルゼターニアは腕を組んだ。明日のオーク五人との戦いを組み立て、それによって使用するボトルの種類と頻度を考える。

 今回、『電磁兵装運用法』においては特殊事項D……すなわち『亜人による犯罪』に該当すると判断され、ルヴァルクレークの出力は20%までの使用が許可されていた。

 これはボトルで言えば『クイックフェンサー』及び『エレクトロキャプチャー』、そして『リパブリックセイバー』が使用可能であることを意味している。

 

「『クイックフェンサー』は使うとして……奇襲が行けるなら何体かは『エレクトロキャプチャー』で無力化したいところっすね。残ったのを『リパブリックセイバー』で制圧……たぶん、三本合わせてボトル一本分はエネルギーを使うと思いますよ、レインさん」

「分かったわ。というか……特殊事項Cまでは下りなかったのよね。『プラズマスライサー』があれば、多人数相手にも有利に立ち回れるでしょうに」

「人死には出てないっすからねえ。客観的に見れば今回はただの強盗っすから」

 

 にわかに憤懣の意を示すレイン。今回の事件解決にあたり、特務執行課は『電磁兵装運用法』 における特殊事項Cの適用を国に打診していた。

 つまりは『亜人による犯罪』でなく、『亜人による凶悪犯罪、およびテロリズム』として今回の牧場強盗を処理しようとしたのである。

 

 特殊事項Cと認定されればルヴァルクレークの出力制限が30%まで解放され、『プラズマスライサー』の使用が可能となる。広範囲をカバーする能力が使えるのならば、たとえ複数の亜人が相手であっても戦闘を有利に進められる……はずだった。

 ところが国が下した結果はD。単なる犯罪として20%までしか出力解放を認めず、結果として今回のエルゼターニアには『プラズマスライサー』使用が叶わないのである。

 それがレインには許しがたい話であった。

 

「そんなにルヴァルクレークが怖いの? 政治屋たちは。女の子がたった一人で亜人に立ち向かって国を守ろうとしているのに、その国が、一々こんな風にして足を引っ張るなんて……!」

「し、仕方ないっすよそこは。本当に危険なんすから、ルヴァルクレークは」

 

 端正な顔立ちが怒りに染まる、そんなレインに戦きつつも宥めるエルゼターニア。彼女自身は、融通を利かせるつもりがまったくない国の姿勢に、しかし納得と理解を示していた。ルヴァルクレークの危険性を誰よりも理解しているがゆえに。

 たとえ20%だけでもなお、やりようによっては数多の亜人を単独で鎮圧してしまえる威力なのだ……そんなものを常時、何の制限もなく行使させるなど国としてはあり得ない話だろう。

 

「極論、『クイックフェンサー』と『リパブリックセイバー』、それと『エレクトロキャプチャー』だけでも十分っちゃ十分なんすよ。『プラズマスライサー』から先のボトルは、使い方を間違えると周辺に大きな被害をもたらしちゃいますし」

「でも、だからって」

「亜人以上の力を無造作に振るって、それで被害を広げていたら……私だってそんなの、テロリストっすよ。だから、これで良いんす」

 

 かつて100%の力を行使させた経験のあるエルゼターニアだからこその言葉だ。ルヴァルクレークは、使い方を間違えないためにも平時には多少制限されるくらいがちょうど、良いのだ。

 他ならぬ使用者本人の言葉。エルゼターニア本人がそれを良しとするならば、レインも二の句が中々継げない。

 考えて、思いあぐねてやっとの思いで、口にする。

 

「……エルちゃんなら、制限なんてなくても適切に運用できるはずよ」

「ありがとうございます。だけどまあ、私も国からルヴァルクレークを預かっている立場っすから。中々自主判断で、とはいかないっすよ」

「そう、ね」

 

 どこまでも共和国の番人、『特務執行官』としての立場を貫く少女。

 エルゼターニアの迷いない言葉に、レインはただ、苦い思いでバッテリーチャージャーを眺めるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝。特務執行課の面々は保安部駐在所の前に集まり、最後の確認を行っていた。

 

「ルヴァルクレーク、よし。ボトル、ホルダー、よし。制服に手袋、よし──オールオッケーっす」

「こちらも馬車の準備は整ってるわ。いつでも発てるわよ、エルちゃん」

 

 エルゼターニアは亜人と戦うにあたっての装備一式の準備を、レインは他の保安官たちと共に馬車の準備を行い、既に完了させている。

 こうなれば後は馬車にて海岸へ向かい、亜人と戦うのみだ。少女の背負う大鎌を見て、町の保安官たちが口々に囁く。

 

「あれが電磁兵装……『ルヴァルクレーク』だったかしら。すごい大きな鎌ね」

「数多くの亜人を捕らえてきた、共和国の切り札。見てるだけで圧倒されるわ」

「そしてそれを扱う特務執行官……大したもんだ、本当に」

 

 町に来て真っ先に宿に向かい、ルヴァルクレークを置いて駐在所へと向かった関係上、彼ら彼女らはエルゼターニアの特務執行官としての姿を見るのがこれで最初だ。

 身の丈以上の大鎌を背に、当たり前のように携えるその姿からは貫禄さえ感じられて、保安官たちにはひどく頼れる姿に映っていた。

 

「特務執行官! 御者はお任せください」

「共和国南部は海岸へ! 治安維持局一の駿馬が、執行官をお連れいたします!」

 

 そして本部から随伴している御者役の二人が、馬を撫でて可愛がりながら言う。遠方へ向かうあらゆる場面にて馬車は用いられるため、御者担当の彼らもまた、プロフェッショナルとしての拘りと信念を胸に馬車を駆る。

 治安維持局本部に在籍する、共和国を護るために日夜奔走する者たちはこうして互いに確認し合った。

 

「──それじゃあ行きましょうか! 目的地付近までどのくらいかかりますか?」

「一時間と少しです! 午前中には問題なく到着するでしょう!」

「分かりました。私は車内で集中を高めてますので、道中何かあればすぐにお声掛けお願いしますね」

「承りました! それではお二方、車内へどうぞ!」

 

 促され、特務執行課の二人は馬車へと乗り込む。ソファに二人横並び、エルゼターニアはルヴァルクレークを傍らに置いて座る。

 そうしてからすぐに、彼女は目を瞑りゆっくりと深呼吸を始めた。仕事前に彼女が行う、精神統一の動作だ──戦いにおいて思考に無駄を混ぜることなく、常に最善最高の行動を意識できるようにするための集中法。

 

 これを受け、レインと御者役たちは頷いた。自分たちもやるべき使命に取り組もうと、いよいよ意識を高めたのである。

 御者役は現地へと特務執行官を案内し、また捕縛した亜人ごと連れ帰ること。

 レインはエルゼターニアの戦いを見届け、報告書を作成。そして戦いの後になればバッテリーチャージャーを用いてボトル・エネルギーのチャージを行うことだ。

 

「それでは出発します──出発ー、進行!」

「お気を付けて! 特務執行官!」

 

 すべてが整い、走り出す馬車。馬によって牽引され少しずつ回りだす車輪が、事態が動き出したことを予感させていて。

 町の保安官たちが手を振り、応援の言葉で以て見送った。こうなれば彼らにはもう、ことの推移を見守る他はない。

 

 ゆっくりと速度を上げていく馬車が、町並みに消えていく。今日は昨日に引き続いて天気も不安定で、ややもすると海岸に到達する頃には一雨来るのかもしれない。

 保安官たちは傘を持つよう進言したものの、それはエルゼターニアに断られていた──いつ戦闘が始まるかも知れない場面で、行動が制限されがちになる雨具は控えておきたい、と。

 

 雨具一つ、携行することさえ命取りになるのだ。特務執行官という職務の過酷さ、激烈さを感じて町の保安官たちは皆、最後にひとつ敬礼するのであった。

 

「行きましたか……はてさて、どう転ぶことか」

 

 そして、そんな一連を陰ながら眺めていた男が二人。精霊信仰教会の神父クラバルと、『オロバ』所属の天使トリエントだ。

 彼らもまた、エルゼターニアを観察しにやって来ていた──特務執行官としての彼女の姿は、やはり昨日見た無邪気な少女とは一味違う。

 

「あれがルヴァルクレーク……対亜人用兵器『電磁兵装』ですか。恐ろしい代物もあったものですね」

「レンサスによれば元『オロバ』の科学者が拵えたらしい。自らを悪魔とか抜かしていたらしいが……」

「ほう、悪魔? たしか数千年前に滅びたと聞いていますが」

「そのはずだ。クラウシフとか言う輩……下らんことをほざく」

 

 吐き捨てるトリエント。かつて悪魔という亜人と種族単位で敵対していた、という伝説を持つ天使にとり、今や絶滅したとされる悪魔の存在は、それでもなお唾棄すべきものだ。

 この男がここまで敵対意識を剥き出すなど珍しいですね、と内心で興味を抱きながらもクラバルは、去っていく馬車を見つめて呟いた。

 

「仕事は恙無く終えて欲しい思いですが……勢い余ってこちらにまで感付かれたりするのは、遠慮願いたいですね」

「いずれ必ず立ち塞がるとしてもか?」

「立ち塞がるとしてもですよ。誠実で一生懸命な命は、報われて欲しい。そう願う気持ちに変わりはありませんから」

「ふん……理解はしよう」

 

 薄目で穏和に笑うクラバルを、トリエントは否定せずに同意した。エルゼターニアのひたむきに使命を遂行する姿は、立場こそ敵だが敬意を表して然るべきだ。

 つくづく、今の『オロバ』の立場でいることが悔やましい──そう思いながらも、天使もまた、走っていく馬車を遠くまで見つめていた。

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