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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
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オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・4

 どこまでも広がる大空洞。光源などどこにもないものを、けれど不思議と日中の地表のように明るく照らされている。暗がりではきっと不気味ですらあるのだろう険しい岩肌の連続も、こうなってしまえば雄大な大自然としてただただ、見る者に畏敬の念を想起させるばかりだ。

 

 そして──信じがたい光景だが、音を立てずに大瀑布が流れていた。空洞の上部から下部にかけ、洪水めいた激しさで墜ちるように流れていく水。その勢いたるや視覚的にも聴覚的にも暴力であろうはずのものだが、何故かそれを起因とした音が一つも聞こえてこない。あまりに不自然な自然。

 

「な──なん、すか。これは」

「す、すごい……信じ、られない」

 

 壮絶な光景に言葉を失う寸前のエルゼターニアとアイン。事前にセーマから、驚くべき光景であるとは再三言い聞かされており、覚悟と期待を胸にこの大空洞にまで出たのであるが……眼前の光景はそのような思惑など簡単に吹き飛ばし、彼女たちを茫然自失へと追い込んでいた。

 後ろからセーマが、微笑んで語りかける。

 

「すごいだろ? 俺も初めて見た時はそんな感じになったよ。もっとも当時はまだ、暗くて暑くて蒸してて、爆音だって響いてたんだけどさ」

「爆音……もしかして、あの激流のっすか? 何でか音がまるでしてなくて、すごく違和感あるんすけど」

「そこがマオのすごいところでね。『魔法』を駆使してここの環境を変えたんだ。人間でも利用できるくらい、快適にね」

「音まで消せるんですか、マオさん……」

 

 マオの力の汎用性、万能性にアインも唖然とする。彼こそは一部とはいえ『魔法』を使える存在の一人なのだが、それでもマオのような芸当は到底不可能だ。

 ましてやエルゼターニアなど、ルヴァルクレークと『転移魔眼』を持つとはいえ素の能力では人間の範疇を超えるところはない。それゆえ今はまだ再会していない友が、このようなすさまじい環境を作り上げたということにひどく驚愕していた。

 

「すごい……マオさん、こんなすごいことを」

「『魔王』としてはひたすら迷惑な奴だったのはたしかだけど、力の使い道によってはこういうことだってできるってことだね。俺やアインくん、そしてエルゼターニアさんにも言えることだけど」

「私にも、っすか?」

「ああ。もちろん君だってそうだ」

 

 頷くセーマ。アインも師の言いたいことを読み取り、同様に応える。彼ら二人は力を手にした経緯もあり、余計に強く思っていることだ。

 

「どんな風に力を手に入れても、何をきっかけにして得た力にせよ。それをどう使うかは僕らの決めることなんだ、エルちゃん」

「俺の持つ『勇者』の力とか、アインくんの星の端末機構としての力とか。それに君の背にある大鎌や、右目の魔眼……それらだって違わない」

「……元々『オロバ』のものだったとしても、使っている私たちが正しければ、それは」

「正しい力になってくれる。力があろうとなかろうと、大切なのはいつだって『ここ』なんだ」

 

 己の胸を強く叩いてアインは言った。つまりは心──正義あってこそ、力は正しく使えるのだと。

 ただの力だけでは何も成せはしない。正しいこと、信じることのために用いてこその力なのだ。元を糺せば三人ともが『オロバ』によって力を得、人生を著しく変えることとなったからこその意見、信念である。

 

 マオもまた、そのようなことを言ってくれたことをエルゼターニアは思い出した。大切なのは自分自身がどうあるかで、そしてエルゼターニアならばきっと正しく力を、ルヴァルクレークを扱えるはずだ、と。

 あるいはマオもまた、セーマやアインの影響でそのような思考に至ったのかもしれない。

 

「思えばアインくんは最初から、炎の魔剣を使うことに特に葛藤とかなかったなあ。何て言うか、迷いがなかった」

「あははは、お恥ずかしい……何にも考えてなかっただけですよ。今もそうですけど」

「そんなことないさ。大切なことをしっかりと知っていたんだ、はじめから。やっぱりアインくん、君は英雄だ」

「いやいや、そんな」

 

 語らう二人の姿を見る。数多の苦難を乗り越えた彼らに、あるいはそこで初めて少女は強く実感したと言えるだろう。

 彼らは自分の先達なのだ。邪悪に翻弄されて、それでも自らの道を切り開き、そして今は新たな時代をも担おうとしているアイン。そんな彼を支え導き、次なる時代を託そうとしているセーマ。かつてとこれからの、英雄たち。

 

 この二人に、並び立ちたい──自然とそう思う自分にエルゼターニアは気付いた。

 時代を託し、そして担おうとする彼らと同じ景色を見てみたい。同じ目線で世界を見て、共に戦い走り抜けたい。きっと自分の後に続き出てくるだろう、これからの英雄たちとも同じように。

 そう、強く願う自分がいる。

 

「私……私も」

「……エルゼターニアさん?」

「私も、そう思います。どんなに強くても心がなければ、きっと悲しいだけだって。そして今はたとえ届かなくても、心さえあれば、いつかは……!」

 

 いつかはきっと、届くはずだ。目の前の遠い憧れたちにも、未だ見ぬ邪悪の陰謀にも。

 心が正義に震えるのをたしかに感じて、エルゼターニアは強く、呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大空洞に出た後の移動は元よりアインの『オクトプロミネンス・ドライバー』に頼ることを三人は決めていた。急ぎの行程なのだから、悠長に王国南西部から中央オアシスまでを歩いてもいられない。

 巨大な炎竜に股がって座る。前から順にアイン、セーマ、エルゼターニアだ。使用者であるアインや何度か乗ったこともあるセーマはともかくとして、初めての騎乗となるエルゼターニアは興奮に顔を赤らめて興味津々の様子である。

 

「これが『オクトプロミネンス・ドライバー』の乗り心地っすかぁ! うはぁー、何か不思議っすねこれ、暖かいんすけど生物的じゃなくて!」

「そりゃまあ、生き物じゃなくて炎だからね」

 

 微笑ましくも返すアイン。魔眼事件の際には結局、このようにエルゼターニアやハーモニを炎竜に乗せることはなかったことが何となく、心残りですらないが惜しい気はしていた。それがこうした形で叶ったのだから、彼にとってもこれは嬉しいことだ。

 

 『オクトプロミネンス・ドライバー』が大空洞の中、中空を素早く駆ける。徒歩どころか馬車さえまるで比較にならないスピードだが、アインの速度制御が完璧なためかセーマとエルゼターニアの二人には何ら負荷は掛かっていない。

 強さだけではない、アインの能力。その利便性に舌を巻くエルゼターニアに、セーマは振り向いて言う。

 

「さて、エルゼターニアさん。このペースだともう少しすれば中央オアシスの地表に辿り着く。今の内にもう一度、そこからの行動を確認させてもらっても良いかな?」

「え……あ、は、はい! すみません、はしゃいじゃって」

「いやいや、大丈夫大丈夫」

 

 笑って流すセーマだが、エルゼターニアとしては恥ずかしさが募る。よりによってこれから戦いに赴くというのに無邪気にはしゃいでいるところを、協力者たる彼に見られたのだ。

 ペチり、と己の両頬を叩いて気を引き締める。ここからはもう、戦場なのだ──特務執行官として、私情は挟まない。

 

「……それでは今一度の確認っす。私たちが地表に出た後、セーマさんによる『狼煙』で別動隊に到着を報せます」

「それによって別動隊は関所の攻略を開始。派手に暴れて敵の気を引く、と」

「そうして注意が向こうに行っている間に僕らが首都目掛けて進行するわけだね、エルちゃん」

「はい。首都まではもう目と鼻の先、『オクトプロミネンス・ドライバー』ならすぐに到達できるものと思われます」

 

 それは電光石火の戦術だ。地表に出た途端、即座にセーマによる攻撃で戦線を開始し、直後にはもうエルゼターニアたちは首都を目指すのだから。

 長引けば長引く程、『魅了魔眼』による被害者から怪我人が出てしまう……できる限り速やかに首謀者を無力化したいがゆえの、超速攻作戦である。

 続けてセーマが確認する。

 

「エルゼターニアさんとアインくんは首謀者の下へ。そして俺は『不死魔眼』シーラを見つけ出してその子を相手取る、と」

「あるいは一番、負担のかかる部分をお任せしてしまうことになります。申しわけありませんが……」

「大丈夫、気にしないで良い」

 

 苦い表情で謝るエルゼターニアの、頭を撫でる。少年の見た目とは裏腹の深みある表情で、セーマは少女を慰めた。

 

「……俺にできることがあるなら喜んで手伝うさ。君たちのようなこれからを創る若者の、助けになりたいから」

「セーマさん……」

「そしてそれは、シーラという子にも言える。俺は、その子を倒したり殺したりしに行くんじゃない。助けに行くんだ」

 

 シーラの、『不死魔眼』について聞いてからそれは心に決めていたことだ。年端もいかない少女が、命の価値を奪われて、あまつさえ己を汚し踏みにじる行為を繰り返している。それは『勇者』だった男として絶対に捨て置けないことだ。

 

 ──かつて異世界から妹共々拉致されて、人間であることを奪われ戦争に巻き込まれた改造人間、人造亜人『勇者』セーマ。

 そんな彼だからこそ、命と尊厳を踏みにじる存在には誰よりも怒りと憎しみを抱いている。そして若者に、自分のような苦しみを背負わせたくないとも。

 

 ゆえにシーラは必ず救う。『不死魔眼』など絶対に否定して、彼女が本来持っている命の尊厳と価値、そして輝きを取り戻すのだ。未来を、邪悪に貶めさせはしない。

 今こそ『勇者』の力、その片鱗といえど発動する刻!

 

「シーラのことは俺に任せてくれ。君たちは油断なく、首謀者を打ち倒すことだけに専念するんだ──任せたよ『共和の守護者』、『焔魔豪剣』」

「っ! ……はいっ!」

「お任せください、『勇者』さんっ!!」

 

 そして己の後継たちが、力強く頷くのを見て。

 セーマは密やかに、誇らしげに笑うのだった。

 

 炎竜はついに地点へと到達した。変わらず大空洞だが、天高くからは魔法のものとは違う光源がみえる。

 太陽の光だ。すなわちそれは、地表へと続くルートであることを示していて。

 

 さあ今こそとセーマは叫んだ。

 

「──到着だ! 上に光が見える、後はそこへと飛べば良い! 地表に出たら一刻の猶予もないつもりで頼むよ!」

「分かりました……! 『オクトプロミネンス・ドライバー』ッ!!」

 

 応えてアインが炎竜を操る。遥か天に向け、一心不乱に登っていく。

 ぐんぐん加速していく焔。すぐに大きくなっていく光。呼応してセーマが、己の力を引き出し始めた──静かに、けれどこの世の何よりも激しく強く大きな力。

 

 もう、地表はすぐそこだ。

 エルゼターニアもまた、気炎をあげて叫ぶ。

 

「光に向かって! 天に、昇れ──!!」

 

 そして次の瞬間。

 地盤を突き抜け炎竜は、三人を乗せて遥か天空へ……砂漠広がる中央オアシスの上空へと飛翔した。

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