〈第3-2話〉団員
次回からはサブタイをもっと捻ってだな……
二戦目の戦いも無事退けたアリス。しかし、彼女が本当の問題と考えていた二日目の筆記試験への不安は、並大抵のものではなかった。
地獄の筆記試験で疲労困憊になったアリスは、ふらつく足取りでベッドに倒れたのだった……
目が覚めると、外は夕方だった。
体がだるいなぁ……ぼんやりする……
昼寝は苦手なんだよ……次から気をつけなきゃ……
しばらく、人形のように壁に寄りかかってジッとしていると、腹がぐうと鳴った。
空腹だ……でも、仮眠のお蔭なのか空腹の信号を無視できるなにか別の力が湧いてくる……不思議な感覚だ。
「練習にでも行くか……」
こんな時は、練習でストレスを発散してこよう。
一階の中庭。そこはいつも、私が汗と思考を費やして自分自身を切磋琢磨させて、ここまでの力を得た……幾度となく見て、来て、世話になった場所で、模擬戦の場所でもある。
すると、金属に木を叩きつける音が聞こえる……先客がいるようだ。
「はぁ、はぁ……っく、えい!」
あの人物は……昨日戦ったランス使いのフレイだ。
騎士を模した鎧の的に、彼女は果敢にランスを突き立てている。
さて、私も的と木剣を持ってきて打ち込みを始める。
少し距離を開けて……剣を右手に構え、右脚を引き……
的へ走り込む……!
途中に攻撃が来るとイメージする……今回なら魔法使いの雷撃魔法だ。
ジグザグに左右に跳んで的確に落ちてくる雷撃を躱し、着地狩りを避けるためにギリギリの空中機動……そして、動きを止めないための前転回避。
さらに走り抜けて右肘を相手へ向け、胴へ柄突き……そこから追撃に十字斬りでトドメを決める。
「わぁ〜……すごい……」
背後では、フレイが釘付けになっていた。
「アリスって、いつもそんなに実戦を意識しながらやってるの?」
「……ええ、そうね」
いつ何時、どんな戦いになるかなんて誰にも分かりはしない。
それに対策をするならば、こんな風に自分の考えられる範疇で模索するしかないのだ。
「ところで、明日は何の試験?」
「明日は戦闘らしいよ〜、お互いに頑張ろう」
もへっとしてるな……まあ、ハインドみたいにやる気がないというわけではないからいいか。
「そうだ、アリス。夕ごはん一緒に食べに行かない?」
団長たるもの、団員のことを何も知らないでは始まらない。
食事に付き合うとするか。
***
食堂にやって来た。此処では安定と信頼のバイキング方式。
さらに言えば、早いものが得をする。
さて、ささっと用意して席を取っておくか。
サンドイッチと、スープと……ステーキがあるじゃないか、ラッキーだな。
席は……あの窓際にしよう。きっと、フレイもそれがいいだろう。
……なかなか来ないな……。夕方から来ていたのに、すっかり夜になって、みんな来てるじゃないか。
「あれ?もうステーキがないぞ!?」 「おいおい、いくら人気っつても限界が……」
どうやら、もうステーキが品切れになったようだ。
私が取った時にはかなりの量があった筈だが……早く来て正解だったか。
「アリス〜あっ、此処にいたんだ、ちょっと早すぎるよ〜」
そこには、ピラミッドのようにステーキを盛ったトレイを持ったフレイがいた……
私は何処からツッコミをかければいいんだ?
「あ、アンタ……も、もしかして、ずっと……?」
「うん。いっぱい食べれば背が伸びるんでしょ?」
いやいや、流石に多すぎだろ……そもそも、食べられるのか……?
私なら途中で胸焼けを起こしちゃうね。
「アリスは、その量でいいの?もっと食べないの?」
「えぇ、そうね、私はもう背は十分だから……」
そう話していると、ある二人の人物が近くに座ってきた。
「よう、アリス! 元気そうじゃないか」
またハインド……もう、トランプゲームでジョーカーを見る気分だ……
そしてもう一人は、あのメガネをかけた焔の錬金術師か。
「なによ……わざわざ私の隣に座って……そこの錬金術師クンと場所をチェンジしてくれない?」
「相変わらず冷たいなぁ」
彼は大人しくチェンジしてくれた。
いちいちウザい奴だ……バカにつける薬があったなら、すぐに奴の頭に塗ってやりたい。
……アルバスはすごく静かだな……緊張してるのだろうか。
彼の方へ向くと、何やら錬金術の本を読みながら定期的に食べ物を口に運んでいた。
「……」
どうやらこちらに一切興味はないようだ。
しかし、それでは困る。何か話してくれなければ……
「あ、あのさ、錬金術って、私は使えないんだけどさ、どんな感じなの?」
「……」
こっちを向きもせず、黙々と読んでいる。
……これじゃラチがあかないな。
「あっ、ねえ、アルバス、それだけでいいの?」
「え?うん」
は? 何だこいつ、私の言葉は完全にスルーしたくせに、フレイにはマタタビ持ってきた時のヘルキャットみたく、一発で反応したぞ。
「ね、ねえ……」
「やめとけやめとけ、アリス。そいつの頭ん中に干渉できるのはフレイだけなんだよ」
バカが止めに入ってきた。
しかし、そのままだともし団に入った時に苦労するに違いない……
とはいえ、本当に何を言っても聞いてくれそうにない。
ここはハインドの言う通り大人しくしておくか。
「……でさ、あいつ、アリスの真似して木剣振った時にすっぽり前に飛んでっちまって、その隙に一気に畳み掛けられちまったんだよ!」
「ははは、……そんなことがあるの〜?」
フレイのステーキはいつのまにか消えていくし、ハインドはしょうもない笑い話を話してる。
……こういう話題に乗り遅れた時、私はどうやって入っていけばいいか迷う……
「ああそうだ。アリス、団員に選抜されたら一人一人にトリガーが配られるらしいぜ?」
なんだと……? トリガー……!?
ハインドのやつ、意外と情報には詳しいんだな……邪魔したのは許してないけど。
「どういうのが配られるのよ?」
「えーと、そこまではわかんないけど多分、剣、斧、槍、杖でどれか一つじゃないかな」
多分……一応抑えておくか。
「ところで、アリスって、彼氏とかいる?」
なんで自分から評価を落としていくんだこいつは……
せっかく奴なりの長所が見えたと思ったらコレだよ。
「はぁ……いないわよ。きっと、これからも」
「勿体無いなぁ、そんなにカッコ可愛いのに」
「だよね〜きっとすごくモテるよ〜」
かっこかわいい、か……。
だがハインド、貴様から褒められても出すものはないぞ。
「その黒髪だって、赤い瞳と相まってすごく綺麗だと思うぜ」
「うるさいなぁ……だからなによ……。私、そろそろ帰らせてもらうわ」
これ以上は、下ネタまで絡ませてきそうだ。
とっとと戦略的撤退をするに限る。
「またね〜」
「つれないなぁ……」
***
ふぅ、シャワー浴びて寝よう。明日も早い筈だ。
トリガー……私は、両親の仇とともに生きる必要があるのか……
我ながら、数奇な運命になりそうだ。
下ネタは嫌いよ。
次回もお楽しみにね。