〈第3-1話〉バッテリー
バッテリーとなったクローム。夢の一つを成し遂げた彼は、新たな仲間「デュラ」とともに、明日を迎えた。そして、彼は村長から旅に出る許可を得ることができたのだが、そこにはある問題があるのだった……
旅に出れない理由とは……
「俺が旅に出ちまったら、その間は誰が代わりに警備を……?」
仮にも俺は「村一番の腕」だ。
もし旅に出ている最中に、ヤバいモンスターが此処に来たら不味いことに……
しかし、エレナさんはキリッとした笑みを浮かべて頷いた。
「そんなことなら心配無用。クロームの代わりに私が警備に着けばいいってことよ」
なるほど! その手があったか!
師匠が警備に着くともあれば、みんな安心だ!
「そして、クローム。この包みを開けて見てくれ」
包みを解くとそこにはやはり、腕輪のようなものがあった。
……これは只の腕輪じゃない。
「これってもしかして、「リスト・ベル」ですか!?」
「ご名答。実は、前に王都を訪れたときに貰ってきたものなんだ」
リスト・ベルとは、腕時計の役割を果たすほか、品別に番号が割り当てられており、その特定の番号を入力すると、その番号に当てはまるベルが鳴る……
まあ、簡潔に言えば通信機みたいな感じだ。
「旅に出てもし、仲間が出来たら通信できるものがないと不便だろうからね」
感謝してもしきれない。俺一人のために、こんなに沢山の物を……
「あ、ありがとうございます! 俺、みんなに旅に出ることを伝えてきます!」
「それは大丈夫だ。もうみんな外で待ってる」
「マジですか!? じ、じゃあ……!」
ついにこの時が来た……一気に緊張してきた……すごくドキドキしている……!
デュランダルを、リスト・ベルを身に付け、旅の扉の先へ……ドアを開く!
そこには、村の人々が集まっていた。
「おお、クローム。その剣すげえ似合ってるぜ!」 「ついに旅立つんだな!」
世話になった人……警備の仲間たち……見慣れた人々……あれ?でも、誰かいないような……
「お兄ちゃん!まってぇ!」
この声は……レイア!
家の方から急いで走ってきていた。
「お兄ちゃんがホントに旅に出るって聞いてね。これ、作っといてよかった」
妹から手渡されたのは、小さな剣の縫いぐるみだ。
手のひらくらいの大きさだけど、刀身から柄頭に至るまですごい完成度だ。
「これ……昨日作ってたやつか!?すっごい精密だ……」
「お守りだよ。お兄ちゃんが、危機に曝されても打開できるようにってね」
よかった。来てくれるか心配していた妹もこうして来てくれた。
これで、心置きなく胸を張ってあの扉の向こう側へ行ける。
「クローム、まずは平原と森を越えた先にある「ロイヤル・キングダム」を目指してみたらどうだ?あそこはお前も知っていると思うが大陸一の大都会だ」
「はい、村長! みんな! 見送りありがとうな! 俺はいつか必ず、ここに帰ってくる!」
ついに俺は、村の外へと足を踏み出した。
頭の中は、ロマン一色だ。とりあえず、村長の言っていた通り、王都ロイヤルを目指すか!
平原を歩いていると早速、モンスターを何体か見かける。
スライムとか、ゴブリンとか……村で警備をしていた時に撃退していた奴らだ。
すると、聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
「クローム……」
この声は……後ろを振り返ると、そこには、夢で見たときのデュラの姿があった。
「ふう、やっと出れた。また会えたね」
「あっ……え?どういうこと?」
彼女とは寝てる時じゃないと会えないはずだ。
「驚くのも無理ないよね。バッテリーは、一日過ぎると、トリガーが現実でも見えるのよ」
「そうだったのか……! じゃあ、これからは戦闘の時も……?」
「私が鞘に入っていない時は、出てこれないわ」
抜刀中は彼女とは会えないのか……二人で一人!っていうのも熱いと思ったんだけど。
「そうか……まあでも、俺と、デュラはタッグってことだよな!」
「そうね。よろしく」
そんな話をしているといつの間にか、俺たちはモンスターに囲まれていた。
「うわ、こいつら何時の間に……」
ゴブリンに、スライム、大ネズミ……言うなれば、冒険者が最初に遭遇するであろう雑魚たちだ。
「早速、私とクロームの出番ね」
「ああ!」
俺は背中からデュランダルを引き抜いた。
握ると改めてわかる不思議な感覚。数では不利なはずだけど、負ける気がしない。
これもデュラの力か……!
「さあ、来い!」
俺の声に呼応するように、スライムが跳びかかってくる!
「はあ!」
斜めに一文字を放つと、スライムは見事に真っ二つに切れてその場に崩れた……!
すごい!スライムは普通の剣だと両断どころか、なかなか切れない相手。
それをいとも簡単に……!
続いてゴブリンと、ネズミも挑みかかってくる!
まるで、彼女に後押しされているような感覚で、次々と、モンスターを蹴散らせる……!
「これがトリガー……!」
気が付けば、周りの傷ついたモンスターたちは散り散りになって逃げ出していた!
これ以上戦う必要はないだろうと、鞘にデュラを納めて再び歩き始めた。
「この程度の相手、敵じゃないでしょ?村一番の警備員さん」
「あ、ああ、でも、ちょっといいか?」
たしかに、俺は村一番の腕を持っていると言われてきた。
しかし、それは少し違う。
「実は俺さ、ああいう戦闘よりも罠を仕掛けたりするほうが得意なんだ」
デュラは驚いた表情をしている。
「じゃあ、今までも……?」
「そういうことさ。村では、罠と剣を総合したときの最強が俺ってこと」
落とし穴や、奇襲、地形や、自然のものまで使って戦うのが師匠の教えであり、俺のスタイル!
でかいモンスター相手にそうやって弱くて小さい奴が勝つ。これはロマンだろう?
「変わった人ね」
「まあな! ……ん? あれ、人じゃないか?」
森の入り口の木の下に人が座っている……いや、寝ているのか?
とりあえず近づくと、そこには俺くらいの歳で、蒼空みたいな色をした髪の少年が居た。
服装は薄汚れているし、起きる気配もない。
衰弱しているのだろうか……!?だとしたらマズイぞ!
「お、おい、大丈夫か?」
肩を揺すって呼びかけるが、彼から返事はない。まだ心臓が動いているのは分かるが……
すると、彼の代わりに木の後ろ側から声がした。
「うるさいな……今度は誰……?」
そこには、デュラみたいな服装をした少女がいた。
背の高さは彼女より一回り小さく、髪は金髪で、二つのキツネの尻尾のようなものが付いている。
「あなたは……シャナ……だったかしら?」
シャナ……?デュラが知ってるってことは、彼女もトリガーなのか?
「あら、デュランダル……久しぶりね。そして、その茶髪の彼がアンタのバッテリー?」
「うん。クロームっていうの。」
「へえ、けっこうなイケメンじゃないの。ところで、コイツを運んでくれない?さっきまでいろんなことがあって、コイツ、ぶっ倒れちゃったのさ」
勿論だ!倒れている人間を助けないわけがない!
とりあえず、彼を担いで森に入る。
平原だとモンスターが寄ってくるかもしれないからな……!
***
しばらく歩き続けると、ちょうど良く開けた場所を見つけた!
彼を寝かせると、俺は焚き火の準備に取り掛かる……!
「……ねえ、枝なんて漁って、何してるの?」
「ん? 君のバッテリーを起こすためにキャンプをするのさ。そのためには、モンスターの襲撃を避けるためにも焚き火用の枝が必要だからさ」
「へえ、変わったバッテリーね。」
いくらバッテリーと言えど、武器を納めていたらただの人間。
だからこそ身の守りは万全にしないとな!
***
「よし、こんなもんかな」
集めた枝を地面に置き、俺は久しぶりの火おこしを始めた……!
クローム「いきなり、俺と同じバッテリーと出会うなんてな……まあ、次回も楽しみにしていてくれ!」
デュラ「シャナのバッテリーの人、なかなか起きないですね……」
次回も楽しみにしていてくれ!