〈第18-2話〉アリス流血! 船上の大激闘!
飛行船でラグナスに移動中のクロスレギオンズ。
船旅を楽しんでいたのだったが、突如として翼竜が襲撃を仕掛けてくる。
これに対して、アリスたちはラグナス人の少年と共に甲板にて、迎撃するのだった。
翼竜も私たちも、戦闘準備は整った。
とはいえ、この動いている船の上で浮遊魔法は使えない。
そういうわけで、船上戦だ。
「いけ! トルマータ!」
「【フリージス】!」
手始めに、少年が呼び出した精霊から緑色の風の刃と、アルバスから氷結魔法の大きな氷が放たれた。
牽制を追いかけるように、ハインドとフレイが攻撃を仕掛ける。
その前衛に私も加わって、まずは一撃を仕掛ける。
ギャアアアス!
抵抗が激しい……鉤爪や、噛みつきが容赦なく飛んでくる……!
その上、奴が動くたびに船が揺れる……こちらの攻撃は中々入らない……!
「おわっ! やべえ!」
しまった!
ハインドが、船の揺れた振動で態勢を……!
腰を着いた彼に、鉤爪が……!
「はぁ!」
フレイが急いでカバーに入り、鉤爪を受け止める。
「ガキン!」という、甲高い金属音と共に、少量の火花が辺りに飛び散る。
翼竜の大きさの差は比べるまでもない。しかし、質量差を物ともしないように彼女の槍は、鍔迫り合いに競り勝った……!
「助かった……ありがとう、フレイ」
今だ!
攻撃を弾かれた今なら大きなチャンス。
翼竜の懐に入り込み、アスカを両手に持ち直して胸を斬りつけた!
ギャアアアアアァァァァ!!
外皮がまるで紙のようにあっさり切れ、内側の肉もすっぱり切れているのが良く見える……。
流石、ドラゴンスレイヤーだ……!
反撃を警戒して、速やかに仲間の元に戻る。
「すごい切れ味だな!」
「ハインド、まだ油断しないで!」
胸に一太刀をくらった翼竜は、パックリ開いた傷から血をボタボタと流している。
しかし、その目はまだこちらを睨みつけている。
ギャアオオオオオオン!!!
咆哮が響き渡る……!
どうやら、まだ帰ってはくれないようだ。
「くそ、しつこいやつね……!」
再び構え直す。次で殺す……!
「ククク……やるな、人間のバッテリー……!」
なんだ? 翼竜から声が……!
「……! ね、ねえ、あれ!」
フレイが背中に指を差す。
よく見ると、そこには小さなモンスターがいるのが見える……!
「スノウダートの二匹のバッテリーが倒されたと聞いたが、その実力、本物のようだな」
背中のモンスターは、翼竜から尻尾を伝って降りて来た。
奴には小さな羽が生えており、顔はゴブリンにも似ている……おそらく、インプという種族だろう。
さらに、その後ろにうっすらトリガーらしき人物が見える。
「我が名はオロス! ギャラクス様に仕える四天王の一角、策謀のオロスだ!」
なんだあいつ、謎の決めポーズをしている……
「そして、私は魅惑のテンプクリーク!」
奴のトリガーも同じポーズしているし……
「だ、誰?」
「あ、テラじゃん、久しぶり!」
少年の素朴な質問と彼のトリガーの挨拶に、オロスとかいうインプと、そのトリガーはズッコケた。
「お、おい、そこのショタ! お前ラグナス人だろう!? 知らないのか!?」
「今、ポーズ決めたとこなんだから、もうちょい言うこと弁えてよ!」
ふざけた奴らだ……。
……とはいえ、「ギャラクス様に仕えている」と言っていた。
ということは、こいつが……!
「オロス、あんたが何者なのかはこの際どうでもいい。でも、ギャラクスについて知ってることを全部吐いてもらうわ」
「……ぬう! ま、まあ、いいだろう……。だが、情報は渡さんぞ! どの道、貴様らは此処で死ぬんだからな!」
そう言い放つと、オロスは構えた。
トリガーの形は鞭だ……しかし小さいな。あんなものでどうしようというんだ?
「さあ行け! ワイバーン!」
オロスが地面に鞭を打ちつけると、翼竜は呼応するように咆哮しながら突進してきた!
ギャアオオオオオオン!!!
分かりやすい能力だ……おそらく、「使役」する能力だ。
突進を軽く躱す。
ヒュルルルルル……
続いて、左舷側でスタンバイしていた精霊から風の刃が放たれた。
十数発ほどの緑の「風弾」は、柔らかい翼膜を切り刻んだ。
ギャアオン!
怯んだ隙に、翼竜の尻尾を鱗のない外皮にアスカを刺しこむ。
「はあああああああああ!!!」
そして走りながら、首元まで一本線を引くように、一気に切り裂く!
ギャアアアァァァ!!
さっきの攻撃よりも深く切り込んだ。これなら流石に……
「危ない!」
少年の声に気付いて振り返ると、翼竜が口を開けて噛み砕こうとしている……!
口の中の唾液すら一目で分かるようなこの距離で……!
「さあ、まずは一人だぁ!」
死ぬ……! 回避もガードも、カウンターも間に合わない……! 喰われる……!
瞬間がまるで、何倍にも引き伸ばしたようにも感じる……死地だ……。
「「「アリス!」」」
ヒュルルルルルルル……
次の瞬間、私は不可抗力のようなものにズドンと飛ばされた。
死を覚悟していただけに、痛みも何も感じなかったが、後ろにあったであろう構造物に強く衝突し、突き破った中でようやく止まった。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「アリス! しっかりして!」
しばらく何が起きたのか処理できなかった。
……冷や汗がまだ流れている。
アスカの必死の呼びかけも聞こえてくる。
少しして、あの少年がやって来た。
「ごめん、大丈夫? お姉さん」
腕が無くなった時、父は刺すように痛んだらしい。
母は肋骨が折れると、何かが胸でつっかえているように感じるらしい。
でも、そのいずれもなかった。
「頭から血が出てるよ」
彼のトリガーの言うとおりに、額の少し上を手で触ると、ドロッとした液体が付いた感触がした。
それは汗なんかではなく、赤い血だった。
おそらく、ずっと流れているこれも血なのだろう……
「はぁ……はぁ……へ、平気よ……これくらい……」
血だと認識した途端、頭がジンジンと痛み始めた。
でも、すぐに戻らないと……戦いはまだ終わっていない!
団長たる者が離脱するなんて、あっていいはずがない!
血まみれの剣と身体を引きずって、戦場に戻る……
「まって、【キュア】!」
回復魔法……少年のお蔭で、少しは身体が楽になった。
これなら何とかやれそうだ。
「ありがとう……」
「なに、礼を言うにはまだ早いよ。あの翼竜、まだ立ち上がって動いてるんだ」
正中線を斬ったというのに、まだ動けるのか……タフな個体だ……!
急いで戦場に戻ると、衝撃の事態が待っていた。
「ハインド……!」
フレイがハインドの攻撃を受け止めている……!
「くそ、動け! どうなってんだ!」
アルバスはというと、単独で翼竜と交戦していた。
「……アルバス、このままじゃ不味くないか?」
「わかっている……!【フレア】!」
魔法を駆使して何とか善戦しているけど、押されているのは明白だ……!
ともかく、まずはフレイとハインドを何とかしないと!
「二人とも、どうしたの!?」
「わ、わかんねえ! あのインプの鞭に当たっちまった時から、身体が言うことを聞かねえんだ!」
ハインドは悲痛な声で訴えている。
嘘ではないことは分かる……でも、どうすれば……!
考えているうちに、翼竜がこちらに迫ってきた……!
頭の裂傷はまだ痛むが、アスカを再び握り直す。
鍔迫り合いを続ける二人から離れて、舷側に立つ……
「……来い! オロス!」
「ハッ、死にぞこないがぁ!」
私を押し潰そうと、翼竜は突っ込んでくる!
斜め右に回避すると、すかさず棘のついた尻尾を振り回してきた。
「がぁッ!」
一撃を肩に受けてしまったが、関節が外れたりはしていない!
続いて、振り抜かれた鉤爪が追撃に来る……!
必死に躱してみるけど、頬が切れた気がした……けど、それだけで済めば安いものだ!
「【アイド・フロート】!」
今なら跳べば届く!
数秒だけ浮遊魔法で飛んで、背中に跳び付いた。
ここまでくれば……!
暴れる翼竜のせいで頭が激しく揺さぶられる……意識が遠くなりそうだ……!
「はぁ……はぁ……」
前に前に、這うように進んで、ついに首元に来た……。
跨るように態勢を変えて、アスカを立てた。
そして、ザックリとアスカの刀身が突き刺さり、確実に首の動脈を切った感触が手に伝わる……
引き斬ると、首は切れて、赤い鮮血がドクドクと湧き出てきた。
「やった……!」
ここまでやれば……さすがに首が取れた翼竜は、その場に崩れた。
「やったぜ! これであとはあのバッテリーだけだな!」
戦いはまだ続く……!
グリダ「ヘカ、久しぶりだな」
ヘカ「なんだ、グリダはロイヤルに居たのか」
グリダ「ああ。しばらく予備役でね。寛がせてもらった」
ヘカ「へえ、それはいいな。こっちは随分と忙しくてね……ラグナスは大変さ……」
次回もお楽しみにね。