〈第17-2話〉嫌な予感
ラグナスを目指し、長い行列に並ぶクロスレギオンズ。
雑談をしていると、突然のシュタールラントの鎖国に疑問を抱く4人であったが、深く考察する前に順番が来たのだった。
そして、魔将……ギャラクスを討つべく一行は飛行船に乗り込んだ。
まだ出発してから一時間程度しか経っていないが、この耳のキーンとするのにも慣れてきた。
「よくよく考えてみるとすげえよな。俺たち、座って空飛んでるんだぜ?」
何を今更……と、思ったが彼は浮遊魔法が使えなかったか。
にしても、ヒマだな……
「砂漠か……」
「どうしたの?グリダ」
「なに、大したことじゃないさ。シユウ。砂漠で私たち四人の中で、誰が一番有効かなってね」
また変な話題を……これでは列車の時の二の舞ではないか……
「ふーん……砂漠って暑いイメージだからロン辺りかしらね」
「えっ!?」
何……?列車の時は、相当非難していたはずのロンの名前を真っ先に挙げたぞコイツ。
「おや、自推はしないのかい?」
「もちろんするよ。電気は何処でも使えるんだから。でも、フツ―に考えるならロンじゃないかしら?」
……バカなのか、他のトリガーを割と見ているのか分からんな……。
ロンの技的に考えて、「厚い外皮を持つ砂漠の奴らを貫く」という意味では理に適ってはいるが……。
「ボクの出番はあまり無さそうだね。高温に強い相手がいるなら、斬るしかないし……」
たしかに。自慢の炎も外皮に防がれてしまうだろう。
外皮を切り裂いてから、炎を撃てば何とかなりそうではあるけど。
「……なんか変じゃない?」
「どうした?」
フレイとアルバスは空を見上げている。
「……別に何もおかしくはないと思うが……」
「そう?……何か嫌な予感がするの」
嫌な予感……? 私とハインドも窓を覗く。
しかし、そこには普段と変わらない青空と、所々に雲があるようにしか見みえない……
周囲に大きな雨雲があるわけでもないし、竜巻があるわけでもない。
とてもじゃないけど、何かが起きるようには思えないが……
「気のせいじゃないか?」
「かな……?」
席に戻ろうと、窓を離れたその時だった……!
「……! 今の声!」
突然、フレイが驚愕の声を上げる……
思わず私は、心臓がキュッとした……。
「今度はどうしたの……?」
「聞こえないの? 今、翼竜の声が……!」
はぁ? 仮に飛龍だとしても、こちらを襲ったりはしないだろう。
そんなことをすれば、すぐに五大国が手配を出して抹殺する……私が仮にモンスターだとしたら、絶対に避けたいヘマだ。
ギャアオオオオン……!!
「お、おい、今の……!」
「聞こえたでしょ!?」
確かに翼竜の鳴き声だ……!
いや、それも只の声じゃない。相当気が立っているようだ……!
「落ち着いて、みんな! モンスターはこちらから刺激しない限り何もしてこない!」
まずは落ち着こう。取り乱すのは何事でも一番まずい。
「そ、そうだよな。ははは……」
場が平静を取り戻しかけ、椅子に着こうとした……
ドシン!! ……という衝撃音と共に、船が上下に激しく振動する……!
「きゃあ!」
「おおう!?」
フレイとハインドが態勢を崩した。
その時、何が起きたのかはすぐに察知ですることができた。
翼竜が甲板の上に乗っている……! それも、かなりでかい……!
いったい何の真似かは知れないが、攻撃の意図はここからでも掴めている。
「……みんな、甲板に上がるよ!」
何かまずいことをされる前に、一刻も早く翼竜を討つ。
幸いにも、私の持っているアスカはドラゴンスレイヤ―だ。まさかこんな時に出番が来るとは……!
ドアを開け、廊下を走る。
「お、お客様、どこへ……?」
乗務員は真っ青な顔をしている。
彼らも、この事態に何が起きているのかは大体掴めているみたいだ。
「甲板に行きます」
すると、乗務員は私たちをいかせまいと、通路に立ちふさがった。
「い、いけません! 甲板には大型の飛龍が……!」
「わかっています。だからこそ行くんです」
「し、しかし……」
必死に制止する乗務員……
このままあの飛龍を野放しにする方が、よっぽど危険だというのに……
「行かせてやりなよ。オイラもついてく」
乗務員の後ろから声が。
塞がれてよくは見えないが、黒髪で褐色の肌が見える……ラグナスの人だろうか。
「な……君は……」
「ほら、通してやりなよ。このままアイツをほっとくのかい?オイラは望まないよ」
正論を叩きつけられた乗務員は、渋々と道を開けた。
そこには、背中に杖のようなものを背負った黄色い瞳の少年が立っている。
「やあ、少しの間共闘させてくれ。ロイヤルの戦士たち」
あの国の特徴的な服装に、独特な帽子……間違いない、ラグナス人だ。
「さあ、行こう。時間が惜しいだろ?」
「え、ええ」
彼が何者かはとにかく、今は飛龍を倒すことが先決だ。
廊下を走り抜け、階段を上がる。
そして、甲板と客室を繋ぐ扉を開いた……
青と白の鱗を陽に当てて、美しく輝かせている大きな飛龍が待ち構えている……
「な、あ、あいつは……!」
ハインドがその姿を見て狼狽する。
「ワイバーン・バルカン……!」
大型の翼竜で、普通なら飛行船を襲ったりはしないはずの大人しいモンスターだ。
しかし、目の前の個体はどう見ても気が立っている……!
「アルマ、あのでっかい竜をやるのか?」
聞きなれない声……少年の杖から声が聞こえる。
……もしや、バッテリーか?
「そうさ、ヘカ。いつものでやるよ!」
「へっ、無茶言うね!」
彼は杖を振りぬいた。
すると、彼の前に魔法陣が発生する……!
「風よ、大気よ、虚空に潜む者へ呼びかけよ。我が元へ舞い降り、暴風で敵を討ち、神風で我を守りたまえ。 解き放て! そして顕現せよ! 疾風の化身、トルマータ!」
詠唱が終わると、杖先から下半身が竜巻のような渦を巻いている怪人が現れた……!
ヒュルルルルル……!
「あの精霊は……!」
あの風切音……! ラプラタ戦争で幾度も目にした精霊だ。
砂嵐を引き起こし、軍の進撃を妨害し続けたあの厄介な化け物……。
「お、お前、精霊使いなのか!?」
ハインドが驚くのも無理はない。
こんな子供があれほどの精霊を……普通ではありえない……!
「そんなに驚くことかな? それより、あのドラゴン、こっちに気付いたみたいだよ」
ギャアオオオオオオォォォォォン!!!
飛龍はこちらを向いて、けたたましい咆哮を放っている。
分かってはいるが、すごいプレッシャーだ……!
「……いつまでも見てないで、早くあたいたちも行こうよ!」
ッチ、シユウに言われるとはな……
まあいい、今のあの国は敵ではなく味方だ。
「いくよ、みんな!」
一足遅れて、私たちもトリガーを振り抜く。
「アスカ、今回は頼むぞ!」
「わかってる! ドラゴンスレイヤーとして頑張るよ!」
シユウ「次はアスカの無双回になりそうね……」
グリダ「だな。ドラゴンスレイヤーというくらいだし」
アスカ「え、ええ……なんかすごい期待が……」
ロン「ちょっと、私たちがサポートしないとダメなんじゃないの?」
アスカ「あ、ああ。ロン、みんな、頼む!」
シユウ「お願いなんてしなくても、無双なんてさせるつもりは元からないし!」
次回もお楽しみにね。