〈第17-1話〉西へ
幽霊退治から帰還したクロームたち。
限界階段で一度力尽きるが、目を覚ますとクロームはオニギリをカインと頬張った。
そして、レイカからミコトを同行させてほしいという頼みを聞き入れ、新たな仲間が加わったのだった。
そして、三人となった一行は新たな目的地を目指す。
心強い少女も仲間になったことだし、次は何処へ行こうか……!
「カイン、次はどうする?」
彼は手を顎に当てて、典型的な考える素振りを見せている……!
俺的には何処でもいい! ロマンの感じる場所ならどこでもだ!
「ねえ、二人とも。ラグナスに行かない?」
ミコトが話に割って入ってきた!
「おお、いいねえ」
砂の国……吹き荒れる砂嵐が頭の中に浮かぶ……!
一体どんなモンスターがいるんだろうか……! どんな食べ物があるんだろうか……!
そんな妄想を膨らませていると、カインが不機嫌そうにその風船を割って歩みを止めた。
「おいおい、俺は盗賊なんだぜ? そんでもって、シャナを奪ったことで俺はあの国から追い出されたんだぞ?」
「そ、そうよ! アタシからもあの国にまた行くのは、あまりいい気がしないわ」
そうだった……でも、一旦想像したことを「止めろ」と言われるのは、名残惜しいことこの上ない……!
なんとかして、あの砂の国に入れないものか……?
「へえ、あなたって盗賊なのね。……フフ、なら簡単な話よ。さあ、行きましょう!」
「「え……?」」
ミコトは再び歩き始めた。
簡単な話って言ってたけど……一体どういうことなんだろう。
「ミコト、結局俺たちはその砂の国に行くのか?」
「そうよ。トツカ。とっておきの秘策があるわ」
ありゃ?もう行く前提に話が……
「……おい、ミコト」
カインが歩調を上げて詰め寄るが、彼女はあまり気にも留めていないように、背を向けて歩き続けている。
「それはラグナスに着いてからのお楽しみよ。それまでは内緒」
「内緒だと……?」
彼はそれ以上問い詰めなかったが、不服なことには変わりなさそうだ。
まあ、何か策があるのなら、それに賭けてみたいところではあるけど……。
歩き続けていると、俺たちは港のある街に戻ってきた。
「また飛行船を使うのかい?」
大国間の移動となれば飛行船が大正義だろう。
……けど、ミコトは首を横に振った。
「ハズレよ。今回は列車を使うわ」
「列車……?」
なんだろう?
飛行船のことは前から知っていたけど、列車とは……?
「おい、クローム。列車も知らないのか? 列車っつうのは、蒸気機関で動くムカデみたいな奴だ」
「じ、ジョウキキカン……ムカデ……?」
な、なんだ……?
イマイチ、頭に浮かんでこないな……蒸気機関で動くムカデ……シュールな絵面しか出てこない……。
「まあ、乗ってみれば分かるぜ。お前なら「ロマンを感じるぜ!」とか言いそうだしな」
「クスクス……そうね。ほら、あっちよ」
ロマンを感じる……か! 面白い!
ミコトに案内されるまま、俺たちは向かう!
道中では、右にも左にも獣の耳と尻尾を持った人々が沢山いる!
ある人は店を開いていたり、子供は鬼ごこっこのような遊びをしている!
その中でも、俺は少し気になったことがあった……!
「……なあ、ミコト。あの剣みたいなのを差している人って、何者なんだ?」
「ん?ああ、あれは「武士」って人たちよ。他の町民たちと違って、帯刀を許されているのよ」
ブシ……?王都や俺の村で言うところの警備職みたいなものだろうか?
「つまり、衛兵みたいな奴ってことか?」
「そうね……具体的に言えばそうなるわね。戦いになったら戦場に赴くし、喧嘩ごとにも止めに入ったりするわ」
へえ……いわば、ヤマト版衛兵ってことか!
「……でも、その武士とやらが諍いを起こしたらどうなるんだ?」
カイン……確かに、他の町民は武器を持っていないんだし、やろうと思えばとんでもないことを……
「その時は「岡っ引き」っていう人たちが駆けつけるわ」
「な、なるほど……」
別の武士が来るんじゃないのか……?
どうも、ヤマトの自治組織は複雑そうだ。
「もうそろそろで着くわ」
歩き続けていると、空気に微かな炭のような匂いがし始めた……!
それと同時に、少し空を見上げるとモクモクと黒煙が!
「何この臭い!?」
どこかで火事でも起きているのかと、思わず驚いた!
「そんな驚くなって……火事とかじゃないからな。「駅」に近づくと大体こういう臭いがするのさ」
「私はこの臭いに慣れないわ……鼻が痛い……」
そ、そういうものなのか……!
恐る恐る進み続けると、駅という建物に着いた!
「おお……」
飛行船の港ほど大きくはないが、それは立派な建物だ!
あの炭の臭いもここではより一層強くなっている……!
「ほら、圧倒されてないで行きましょ!」
「あ、ああ!」
構内はヤマト特有の独特な装飾が施されている……!
飾られている絵は、ロイヤルのようにはっきりしている絵ではないけど、どこか壮大な感じがする……!
「あの絵はなんだ?」
「あれは浮世絵よ。ロイヤルにはないのかしら?」
ミコトは自慢げな表情をしている!
分かっちゃいたけど、ヤマトの文化はやっぱり斬新だ!
さて、チケット売り場に到着した……!
窓口の人もヤマトの独特な服を着て作業をしている!
よし、次は俺の番だ!
「三人分で頼む!」
意気揚々と窓口の人に頼みかける!
「はい。1…2……あと、貴女は子供ですね」
おっと、またミコトが……彼女は眉をへの字にしている……!
また機嫌が悪くなっちゃうのか……?
「どうぞ」
三枚のチケットを受け取り、ミコトとカインに配る!
「……また私のことを子供って……」
ああ、やっぱり……
でも、俺から見ても彼女は子供なんだけどなぁ……
「ま、まあ、そんな気にするなよ! 俺からしたら料理とか、幽霊退治ができるっていうのは立派な人間だと思うぜ!」
「……まあいいわ」
あれ、意外とすぐに鎮火した……よかった。
「さ、二人とも、ホームに上がるぞ」
ホーム……家ってことは、飛行船で言うところのドッグか……?
ロマンをヒシヒシと感じつつも、俺たちは階段を上がった。
ボオオオオォォォォ!!!
けたたましい轟音と共に、そこに待ち構えていたのは、大きな機械……!
「すっげえ……!!!」
ロマンが俺のアドレナリンをかき回す……!
血液が沸騰するこの感覚……!
「フッ……クローム、感動しすぎだろ……まあ、お前らしいけどさ」
「予想通りね」
カインとミコトの言うとおりだ!
その場にある炭の臭い、形、音……すべてが俺を刺激する!
「さ、行こうぜ。クローム」
「早くいこ」
むう、もう少し外見を見ておきたかったが、席を取らねば……!
「えっと座席は……あった。ここだぜ、二人とも」
俺たちは、三両目の二番目の部屋に指定されていた!
先頭の黒い車両を含めて七両あるのがこの列車の編成だ!
そして、出発を告げる汽笛が鳴り響いた!
「耳が痛いなぁ……」
「相変わらずの轟音だぜ……」
それから少しして、ついに車輪が動き始めた!
「おお……!」
動き出す時の感覚がまた何とも言えない!
段々と加速している感覚も心が震える!
「……クローム、寝とかなくていいのか? 俺もお前も寝不足だぜ?」
カインは両手を頭の後ろに組んで、すっかり寝る体制だ。
たしかに、俺も帰ってきたときに頭がシャットダウンされてしまった。
でも、今は寝たくない!
「俺は外を見ているぜ!」
この窓から見える景色。記憶に焼き付けずにはいられない!
俺は張り付いていた。
「ちょっと、私が見えないじゃないの」
忘れていた! 彼女は身長が……でも、外が見たい……!
そうだ!
「ミコト、俺の上に乗ってくれ!」
彼女は突然のことに驚愕している……!
まあ、そうだろう。いきなり「乗ってくれ」なんて言われたらな!
「な、なに? 肩車?」
「ああ。こうすれば万事解決だろう?」
我ながら、ナイスアイデア! こうすれば二人で窓を見える!
「む、無理よ! 子供みたいじゃない!」
え、ええ!?
予想外だ……くそう……完璧だったはずなのに!
「じ、じゃあ、俺を肩車するっていうのは……?」
「出来るわけないでしょ! 女性にそういうことさせないで!」
むう……逆転の発想とはならなかったか……!
渋々、俺は窓から離れて仮眠をとることにした……
シャナ「ふう、うるさかったわ……」
トツカ「ははは。もしかしてでかい音が苦手なのか?」
シャナ「なによ。悪かったわね!」
デュラ「ねえ、二人は列車に乗ったことがあるの?」
トツカ「あるぜ」
シャナ「あるわ。もしかして、デュラは乗ったことないの?」
デュラ「な、ないよ……?」
シャナ「へえ、世間知らずなのね」
トツカ「まさか、ロイヤルには鉄道が無いんじゃないか?」
シャナ「鉄道自体はあったわよ。でも、ヤマト程進歩はしてないわ」
デュラ「そうなんだ……」
次回も楽しみにしていてくれ!