〈第2-1話〉旅の扉へ……
ウォルタに住むロマンに生きる少年、クローム。
村長から錆びついたトリガーを借り、鍛冶屋で修復したところそのトリガーを貰い、バッテリーとなった。彼はロマンの炎に包まれながら、帰宅したのだった……
「レイア!念願のトリガーを手に入れたぜ!」
帰ってきて一番に意気揚々と報告する!
「へえ、良かったじゃない。ところで、夕ごはん食べよう?」
うーん、妹には今ひとつ反響がないな……
ま、まあいいや、食事の準備をしてからゆっくり話すとするか。
「今日はお兄ちゃんの好きなものを用意しておいたよ〜」
「おお、ホントか!?」
俺は好きなものを想像して、ワクワクしながら鍋を開けてみた。
そこにはやはり、期待を裏切らない幸せがあった。
「よっしゃ、これだ!」
カレーライス……!!
かつて幼い時、まだ生きていた祖母が用意してくれたご馳走……それ以来、滅多に食べる機会はなかった!
「ありがとうな、レイア!」
「ふふん……ねえ、お兄ちゃん。なんでカレーを用意したと思う?」
「え?」
さあ……一体どういうことなんだろう?
気まぐれで用意してくれたわけじゃないってことか?
レイアは少し切なそうな表情で、話を続ける。
「なんだかね……昨日の夜、お兄ちゃんがどこか遠いところへ旅に出る夢を見たんだ。それで気が変わって用意したんだ」
「……マジか、俺が!?」
遠いところ……旅……なんだかよく分からないけど、体の芯が燃えている。
熱い情熱と見たことない世界への妄想……旅に出る確証があるわけじゃないけど、考えるだけでも果てしなくワクワクする!
「旅……ロマンを感じるぜ……レイア、そのために用意してくれたのか」
「うん。だって、もしかしたら……いや、しばらく会えなくなるかもしれないから、ね」
我ながら、なんて良い妹なんだ! そこまで謙虚に……!
お兄ちゃんは誇りに思っているぞ!
情熱に唸る手でポンとレイアを撫でた。
「大丈夫さ。俺は必ず、各地のロマンを体験して、絶対帰ってくる!心配しなくて良いぞ!」
彼女の表情はたちまち、素の明るい笑顔に戻ってくれた。
「まったく、ロマンバカなんだから……」
さて、今日の俺の警備は非番。
明日が気になるし、シャワー浴びて早く寝るか。
食事を済ませて、俺は早速シャワー室へ向かった。
「ふう……やっぱ、ワクワクしながらシャワーを浴びると、違った気持ち良さがあるな〜」
浴びる水滴が本で見た砂漠の熱砂にも、北国の吹き付ける吹雪の雪のようにも見えてくる。
もうすっかり気分は、旅のリハーサルだ。
でも、いくらリハーサルしても、それは単なる予行練習。
実際の暑さや、寒さなんて俺の想像を遥かに超えるものだろう……
明日が楽しみだ。トリガーを持って、寝台へ向かおう。
リビングに立てかけておいたトリガーを持つと、何か不思議な気分になった。
近くに見えない誰か……まるで、カメレオンみたいな「透明人間」がこっちを見てるような……
「……どうかしたの? お兄ちゃん」
近くには裁縫をしている妹しかいない。
「え?ああ、いや。なんでもないさ……じゃあ、ちょっと早いかもしれないけど、俺はもう寝るぜ」
「おやすみなさ〜い」
おかしいな……明らかに、トリガーを持ったところで……
まあいい、それはそれで一つのロマンを感じる!
よし、寝るか。
……といっても、ワクワクして、寝台に横になっても、なかなか寝れそうにないな。
だが、俺には睡眠の必勝法がある!
まず、目を閉じる。
そして次に頭の中に単語を思い浮かべて、その頭文字でしりとりをする。これなら一発で眠りに誘われる。
今日は……旅にしよう。
旅……タイガ……タービン……タイガー……ターコイズ……
……よしよし、眠くなってきた……太陽……怠惰……対決……タイマー……
「…ム…て………きて……クロー…起きて」
なんだ?……妹か?……シャワーの水はちゃんと止めてきたはずだけど……
「!?」
「やっと起きてくれたね、クローム」
目を覚ますと、そこには薄桃色の髪の少女……いや、俺と同じくらいの歳かな?
俺に起きてと言ったのはこの子だろう……可愛い。
「あ、えっと、誰?」
「初めまして、私はデュランダル。そして、この姿はトリガー・フェアリーっていう状態」
で、デュランダル……トリガーフェアリー……ってことは、あの剣か!
ひょっとすると、あの透明人間はこの子だったのかな。
ロマンだ……これがトリガーの少女ってことか。
「な、なるほど、デュランダル。ところで、此処はどこなんだ?真っさらで、何もないけど……」
「デュラでいいわ。此処は、トリガーと、バッテリーの精神世界。憩いの場みたいなところよ」
つまり、トリガーと談笑できるって感じかな。
いいねえ!いろんな妄想が膨らむし、聞きたいことでいっぱいだ。
「デュラ、どうして俺の名前を……?」
「それは私が目を覚ました時に、あなたの妹から名前を耳にしたのよ」
ってことは、風呂に入っていたときか……?
知らない相手に名前を呼ばれるのは、なにかむず痒いものだ。
「……そろそろ、時間よ。とにかく、これからよろしくね。クローム」
「え?まって、時間?なんの?」
「そろそろ朝だから」
早くないか?もう朝か……。
聞きたいことがまだ全然残ってるけど、致し方ないか。
開けていた瞼がいきなり降りてきた。
そして次に目を覚ますと、そこはいつもの寝台の上だった。
……そうだ、明日が来たんだ。早く朝ごはんを食べなければ!
「……クローム、まって……」
この声は……デュラ!
危ない危ない。デュラを置いて行くところだった。
鞘のまだないデュラを持って、リビングへ向かう。
「あ、お兄ちゃん。おはよー」
妹は俺より先にリビングにいた。
昔からだけどやっぱり、早起きの速度じゃあレイアには勝てないな……
「お兄ちゃん、今日は急いでるでしょ?ほら、一度寝かしたカレーがそこにあるよ」
「そうか、相変わらず気が効いてくれて助かるよ」
カレーをよそって、トレイに乗せる。
そして、テーブルに着き、持ってきたスプーンでそれをよそって、口へ運ぶ。
「!?」
ぐっ……なんだこのカレーは……!?
一口目でもう辛い!!舌が、胃が痛い!昨日の3倍くらい滅茶苦茶辛い!
「ははは、ドッキリ大成功ってね。ちょっとイタズラしちゃった」
「ヒ〜!ミルク〜ミルクはどこだー!」
なんとか、保存庫からミルクを見つけて、口に流し込む。
「ふう……俺の情熱並みだ……ミルクがなかったらノックアウトされてた……」
とはいえ美味しかった。(代わりに舌と胃が死にかけたが)
「流石にやりすぎじゃないか……?」
「ごめんごめん、つい魔が差しちゃって……」
まあいいか。
それより、そろそろ村長のところに行かないと。
「行ってくるぜ! レイア!」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
さあ、何が待ってるかな……ワクワクが止まらない。
「お、クローム。それはあのトリガーか」
警備の仲間だ。腰にはエストックと呼ばれる剣が下がっている。
「ああ。デュラ…デュランダルっていう剣さ」
「へえ、かっこいい名前だな!ところで、エレナさんがお前を探してたぞ」
エレナさんが……聞けば聞くほどワクワクが込み上げてくる。
レイアの夢……デュラ……俺は、新たな世界への扉に近づいているみたいだ。
その扉の目前……村長の家についた。
「あら、クローム。探していたわ、さあ、中へ」
リビングに通されると、昨日はデュラが置いてあったテーブルには鞘のようなものが置かれている。
「あれは……コレの鞘ですか?」
「その通り。鞘がない剣なんて不便極まりないだろう?おやっさんが作ってくれたのよ」
その鞘は、強固な皮で覆われ、触ると、金属のフレームが入っているのが分かる。
すごい……特注品だ。おそらく、普通に作るなら何時間もかかるだろう……
エレナさんの言う通りデュラを納めてみた。
……ちょっと大きいかと思ったが、不思議にもぴったり収まった。
「おっと、クローム。もう来ていたか」
ドアから村長が入ってきた。その手には何やら包みのようなものを持っている。
「あっ、村長。お邪魔して……その包みはなんです?」
村長は、包みをデュラの入った鞘のとなりに置いた。
大きさからしてリストバンドかブレスレットだろうか。
「うむ。実はな、旅に出そうと思うんだ」
「旅……俺がですか!?」
「そうだ。お前は昔から冒険に興味を持っていたからな。 昨日、みんなと話し合って決めたんだ」
レイアの夢の通りだ……ホントに旅に出れるのか……!!!
ロマンの焔が、俺の心を包み込んでくる。
新たな世界への扉が開いた瞬間だった……
……が!俺は旅に出る前に、一つ大きな問題があることを思い出したのだった……
俺が旅立てない理由とは……
次回も、楽しみにしていてくれ!