〈第13-2話〉血に塗れる白い森
吹雪の猛威を討つべく、不帰の森に着いたクロスレギオンズ。
奥へ奥へと進んでいくが、突如として奇襲に遭い、包囲されてしまう。
アリスが機転を利かせて包囲を崩し、バッテリーとモンスターを分断することができたのだった。
そして、反撃が始まる……!
モンスターの数はまだ多い……このままだと露払いが必要だろう。
ハインドが復帰してくるまで、ここで時間を稼ぐことにしよう……
となると、もう一つの魔法を使う時が来たようだ。
左手の五本の指先全てを敵に向ける……そして!
「【フィンガーフラッシュ】!」
指先から無数の光弾が放たれ、雨のようにモンスターに降り注ぐ……
この魔法は、試験のときは使用禁止だった光属性の攻撃魔法だ。
モンスターが怯んでいる隙にアスカを振り抜き、足や腕を斬りつけていく。
殺すことは考えるな……戦闘不能にさえできればいい……!
動くものは全て敵。
白い奴ばっかりでどれがどれだか分からないけど、目につく相手を斬るまでだ……!
ビョオオオオオ……
おっと……! あの熊みたいなモンスター、口から冷気を吐きだしてきた。
だが、世の中にはこんな言葉がある、「当たらなければノーダメージ」と。
とはいえ、遠距離攻撃してくるならば優先して斬る。
あの魔法を使いながら一気に距離を縮め、白い顔面に赤い一文字を刻み込んだ。
「グアアアァァァ!!」
接近できればなんてことはない。
しかし、流石にこんなところに何時までも留まることなどできない。
魔力切れになってしまえば、それこそ終わりだ……一匹でも多く狩らないといけない……!
すると不意に、あの剣を持った敵のバッテリーが空中で剣を交えてきた。
「大分弱ってきたみたいだな! 人間のガキ!」
こいつ……消耗したところを……!
とりあえず切り払って、地上でアスカを再び構える……周りはモンスターたちが囲んでいる。
「オルグ!やっちまえ!」 「殺せぇ!」
まったく、うるさい連中だ!
断っておくが、此処で死ぬ気なんてサラサラない!
「くらえ人間! 【氷牙】!」
「くっ、【竜火】!」
燃え盛るアスカの炎と凍てつくアルマスの冷気がぶつかり合い、それは鍔迫り合いのような形になった……
「……だ、だめだ、ボクの炎だとアルマスの冷気は消しきれないよ!」
ッチ、恐れていたことが……最初から回避をしておけばよかった……!
やはり、冷気を炎で消しても水分をかき消すことまではできないのか……。
このままでは……!
その時だった。
横から私の眼前に迫る冷気に、何者かが横から電気のようなものを流した……!?
それは溶けかけの冷気を伝って、バッテリーに感電した。
「ぬおおおお!?」
そのバチバチ、ビリビリと音を立てるその正体……私は横を向いた……
「遅くなったな! アリス!」
「アスカ、あたいを置いて自分だけいい思いをできると思ったのかしら!?」
ハインド……。
複雑な気持ちだが、私は褒めるほどやさしくない……!
「……遅すぎなのよ! あんたは! 今まで何してたの!?」
「あ、ああ、すまんすまん。なにしろ、シユウが中々雪から抜けなくてさ……」
いままで戦線離脱していた言い訳が、その程度……? ちょっと眉唾物すぎやしないか?
「む、無理がある話だよな? で、でも本当なんだぜ! だから、その鬼のような顔はやめてくれないか……?」
色々と言いたいことはあるが、今はそれどころじゃない。
「……わかった。ここはあんたに任す。いいね?」
「お、おう! コイツは俺とシユウにまかせてくれ!」
ったく……さて、取り巻きを片づけるとするか……!
もしあいつがヘマしたとき用に、退路を作っておかないと。
「ふん……斧のガキ……」
「そうやってガキって呼んでる相手に倒されたらどんな気持ちかしら?」
シユウとアルマス、互いがぶつかりながらも、うるさくしゃべってるな……トリガーっていうのは器用なものだ。小賢しい。
「てめえには負けたかねえよ。そんな情けないバッテリーに扱われている身の程を知れ!」
「身の程? 言っとくけど、ハインドは見た目は冴えないけど実力は確かな人間よ」
「減らず口を……!さっきから防戦一方のくせに!」
いや、彼……彼らは追い詰められてるわけじゃない。
以前私にやったように、一瞬の隙を狙っている……!
そして……!
「ぐあああ!」
本格的な一撃を貰ったのは、モンスターの方だった。
おそらく、突きを武器で逸らしてカウンターを当てたのだろう……。
「次でトドメだぜ! アレをやるぞ!」
「ええ! 前回は当たってなかったからね!」
一度距離を取って、斧を構え直している。
いや、あの構えはたしか、前にゴブリンに放った技だろうか?
「【轟雷旋風】!」
一層激しくなるバチバチという音と共に、敵へ向かっていく……!
「ぐ……【氷牙】!」
最後の抵抗だろうか。冷気がハインドへ襲い掛かる……
「この技を……舐めるなよ!」
なんと、ハインドはシユウを持ったままハンマー投げの如く回転しながらも前に進んでいる!
その様子は、電気を帯びた小さな竜巻だ……!
冷気がハインドを包む……しかし、どういうわけか冷気が逸れていく!
「な、なにぃ!?」
「くらえええええ!!!」
グシャッとも、バチィッとも取れる音が発された。
私も、モンスターも思わずその方へ向く……
「嘘……だろ……?負けた……」
モンスターは見るも無残な姿で崩れていた……
開いた手からは、アルマスが茫然とした声を出している。
「嘘……だと思った? 残念でした! アルマス、あたいに負けたのよ!」
シユウの奴、嬉しそうだな……私がアルマスだったら死ぬほど恥ずかしいだろうな……。
この様子を見た他のモンスターたちは、いつの間にか消えていた。
「……終わったようね」
「ああ。どうだった? ずっとアリスに見られている気がしたんだけど……」
やっぱりコイツは好きになれない!
「見てるわけないじゃない! さあ、とっととコイツを回収してフレイたちの方に行くのよ!」
「そ、そうだったな……まあ、あの二人なら絶対大丈夫だろ!」
どうだろうか……相手はあれほどの風を生み出す弓のトリガー……
恐れ多くも、私たちは二人の元へ急ぐ……
途中から金属音が鳴り響きだした。
二人は生きてる……!
現場に着くと、凄まじい光景が広がっていた……!
「はぁ!」
フレイがアルバスの前で攻撃をただひたすらに防ぎ続け、
「【フレア】!」
アルバスは魔法と錬金術を駆使してモンスターを倒していく……。
二人の足元には幾多のモンスターの死骸や無数の折れた矢があり、周辺の木には沢山の矢が刺さっている。
「ククク……初めてだ! たった二人の人間が、ここまでやってくれるとは……!」
一体どうやって、あの矢を耐えていたんだ……?
そんな疑問を明らかにするように、敵のバッテリーから矢が放たれた。
「えい!」
フレイの一振りで、矢は二つに折れて地面に落ちた。
まさか、すべて捌き続けていたというのか!?
「すっげえ……あれ全部フレイが折ったのかよ……」
しかし、何時までも攻撃を防ぐだけでは決着というものは着かない……
反撃しようにも、あのバッテリーは高い木の天辺から見下ろすように狙撃をしている……
これではラチが空かない……。
「アリス、行こうぜ! あのままじゃ二人が……」
言われるまでもない、二人に合流する。
「アリス、ハインド!」
「そっちはもう終わったのか?」
さっきまであんなに強張った表情だった二人が、今は安心したような顔をしている。
「ええ、アルマスは回収した。後はフェイルだけよ」
「あと少しだぜ……!」
これでトリガーは4対1……とはいえ、油断せずに行きたいところだ……
「オルグのやつ……死んだのか……」
フェイルのバッテリーは冷静に機会を伺っている……
「……フレイ、そろそろ使ってもいいんじゃない? みんな揃ったし」
「そうね……! 見せてやろうじゃないの!」
なんだ……? フレイがロンを投擲しようとしている……!?
無茶だ……投げても絶対に届かない距離だぞ!?
「何をするのか知らないが……【裂空剛射】!」
三発!? フレイがどう見ても受け止めきれない態勢……っく、私たちがやるしかない!
「しまった!」
二発は私とハインドが落としたが、あとの一発は……!
「そうはさせん!」
アルバスがフレイの前に現れ、見覚えのある火炎を放った……!
炎に包まれた矢は燃え尽きこそしなかったが、軌道が逸れて、近くの木に命中した。
……暴風こそ起きなかったが、木には円形の抉られた跡が刻まれているのが見える。
「今だ……! 【大槍天牙】! いっけええええ!!!」
ホントにロンギヌスを投擲した!
しかしそれは、驚くことに一直線に飛んでいく……それどころか、風魔法のような強烈な風圧を発しているのがここからでも分かる……あんなものをくらったら、ひとたまりもないだろう……!
「なんだと!?」
バッテリー……いや、狙いはそのずっと下……
あの大きな木の中間を一撃で貫通した……! さらに余波で大きな穴が空き、不安定になったそれは音を立てて倒れ始めた……!
「お、おわあああああ!!!」
木から真っ逆様に落ちていくバッテリーの絶叫が聞こえる。
あの高さから落ちたのなら、到底無事では済まないだろうな……
ひとまず、勝負は着いたな……!
シユウ「ははは! 敵の大将を討ち取ったよ!」
アスカ「今回は嬉しそうだね、シユウ」
ロン「私もやっと戦果を挙げられたよ!」
グリダ「これで私以外は全部披露したようだな……」
次回もお楽しみにね。