〈第12-2話〉不帰の森
列車に揺られてスノウダートにやって来たアリスたち。
早速、バッテリーについて酒場で聞きこむと、以前に剣と弓の二体のバッテリーが町を襲撃してきたことがあったという情報を得ることができた。
アリスたちは「吹雪の猛威」と称されるこの二体を討つべく、町を出発するところであった。
「おいアリス。いいのかよ?あいつらを味方につけてから行けばいいんじゃないか?」
「そうね……でも、それはできない」
たしかに数的不利は、戦いにおいて大きなハンデになる。
しかし、もし兵が出払えば街の防御が手薄になり、それを狙って別のモンスターが来る可能性もある……
「数的不利だとジリ貧になるんじゃ……?全部倒しきれるかどうか……」
「まあ、今回の戦いでそのバッテリーどもを本気で駆逐する気はないんだろう? フレイ、わざわざ全員を倒す必要なんてないんだよ」
アルバスの言う通りだ。最初は敵地に侵入し、あわよくば大将の首を取る。
もし無理だったときは、即座に街に後退して報復に備える……って感じの一撃離脱の作戦だ。
「楽な任務じゃなさそうだな……」
「それだけじゃないよ、ハインド。こっちにはタイムリミットがある……」
「なんだって……!?」
タイムリミット、それはこっちの体力と魔力だ。
いくらトリガーを持っているとはいえ、24時間戦えるわけではない。北国の過酷な環境を鑑みても、長期戦は避けるべきだろう。
「厳しい戦いになりそうね」
「そ、そうだな」
ともあれ出発だ。
これ以上不安を煽ると士気に影響しそうだ。
「……思ったより寒くないね」
外は晴れている。照りつける太陽が、白銀の大地を美しく輝かせている。
だが、寒くない理由はそれだけではなかった。
「ねえ、服の文字が光ってるよ」
文字……?
私たちは一様に服に刻まれているルーン文字を見た。
ロンの言うとおり、本当にルーン文字が赤く光り輝いている……!
「ほ、ほんとだ……!」
「これは……火属性のルーンだな」
どうやら、このルーンの力のようだ。
専用服だからなにかしらあるのかと思っていたが、まさかこんな仕掛けがあるとは……!
これなら問題の一つだったタイムリミットが延長できる!
とはいえ、問題が一つなくなったところで大丈夫かと言えばそうでもない。
「おお、あれって王都の近くでは見ない鹿だよな」
「あれはスノーベイルってやつだな。身の危険を感じると、あのでかい角で突進してくるやつだ」
「へぇ、相変わらずアルバスは詳しいな」
王都では見かけないモンスターがいる。
過酷な寒さで鍛えられた奴らには、トリガーなしでは手強い相手になるだろう。
これから行く場所はそんなモンスターが強力なトリガーを持っているとなれば、苦戦は免れない。
「見えた!あの森じゃない?」
フレイの指差す方には大きな針葉樹林が見える。
あれが不帰の森……そう確信したとき、息をのんだ。
近くまで来ると、その大きさは壮大だ……!
「うわぁ……すげえ……」
「内部は相当入り組んでそうだな……」
「無事に出られるのかな……」
外からは白く輝く帽子を被っているように見える。
しかし、内部の様子は薄暗くて奥までは見えない……
「……みんな、準備はいいね?ここから先はなるべく無駄口を叩かないように」
ここから先は、どこから敵が現れるか分からない。
臨戦態勢を取るために、全員がトリガーを手に持った。
ザッ……ザッ……ザッ……
追撃部隊の二の舞にならないように、私たちは四方八方に警戒をする。
今のところは何もないが、緊張はしている。
ザザザッ!
何だ!? 敵か!?
一斉に振り向くと武器を構える!
……が、それは木から雪が落ちたときの音だったみたいだ。
まったく、心臓に悪いものだ……。
それから進み続けていると、不自然な切株を見つけた。
「これは……」
違う。明らかに斧や剣で斬り倒した跡ではない。
その証拠に、幹が抉れている……
「間違いない。強風で倒れたもの……みんな、絶対に油断しないで」
おそらくは、酒場で聞いた風を起こすトリガーの物だろう。
ひょっとしたら、私たちはもう既に狙われているかもしれない……!
執拗に辺りの木を見回す……見ても仕方ないのは承知しているが、何も意味がないことは……
すると、一つの枝葉の間から不自然な白いものが光った……!
「みんな! 伏せて!」
咄嗟に注意を送って後ろへ退避を……!
あの矢……トリガーの物だとしたら、どんな風が……!?
「おわああ!」
「ぐっ……!」
「きゃああ!」
くそ! なんて風圧だ……! 思わず吹き飛ばされた……!
これがあのトリガーの力なのか……!
いや、驚いてる場合じゃない!
こちらが見つかって、奇襲を受けたということは……!
「アリス! モンスターが!」
出てきた……!
今まで全然気づかなかったが、一体どこに潜んでいたんだ……!?
具体的な数は不明だが、完全に四方を囲んでいる……それだけは察知できる……!
完全に迂闊だった……。
「おや、バカな人間が迷い込んだみたいだなぁ?」
正面から、剣を持ったイエティが現れた。奴には銀髪の少女がついている……
間違いない、氷を放つトリガーだろう。
「ククク……まさかあの最大出力の矢を耐えるとはな……オルグ、こいつらはバカじゃねえぜ」
後ろには矢を持ったイエティ……さっき矢を放ってきた奴で間違いない。
「あの剣……アルマス!?」
アルマス……アスカの声に呼応するように、イエティの剣から声が発せられる。
「……お前は……アスカか……。それに、ロン、グリダ……あとは斧のガキもいるのか」
「あ、あたいにガキって言った!? このバカ!」
早速口げんかが始まってる……。
大体わかっていたけど、シユウの煽り耐性が無さすぎる。
「今、自分でガキって認めたろ? だからてめえは相変わらずガキなんだよ」
「な、なに……!?」
これには敵ながら同情したいと思うが、あのトリガーの所有者がモンスターである以上、それは心の中にとどめておこう。
「それはいいとして、アスカ。まさかお前と戦うことになるとはな……」
属性的にはこちら……いや、氷は溶かせば水……有利とはいえないな。
「話は終わった?アルマス」
今度は後ろ……弓のトリガーからだ。
緑の長い髪をしている少女が腕を組んでいる。
「ほう、やっぱりフェイルノートか……」
「グリダ……みんな久しぶりね」
アルマスとは違って、どこか爽やかな感じがするトリガーだ。
「フェイル、こんなところにいたんだね」
「ロン、あなたのバッテリーは子供なのかしら?随分背が低いけど……」
「こ、こどもじゃないよ! 他の三人より一歳年が低いだけだから!」
そんな再開の挨拶をしている間に、私は作戦を練っていた。
包囲されている状況下で取るべきことは、慎重に動くこと……焦って隙を作ろうものなら全滅待ったなしだ。
まず、トリガーの能力は氷と風……一緒くたに受けるのは危険だ。
となると、敵を引き離すしかない。
「ハインド、手を」
「え?どういうことだよ?」
ハインドもまさか私が手を差し出すなんて、1mmも思わなかっただろう。
私だって出来ればハインドとは手を繋ぎたくないが、今は仕方がない。
「それは聞かないで」
内容は秘密だ。
この作戦を仕掛けてみよう……勝算は十分にある作戦だ。
「へっ、挨拶はここまでだ。これからお前らは地獄を見ることになるぜ……!」
ジリジリとモンスターたちは包囲を狭めていく……
それに対して私たちは背中合わせで機を伺う……
限界……限界まで……限界まで引き付ける……引き付けてから……!
「今よ! 【アイドフロート】!」
「え?ええ!? アリス!?」
飛び越える! ここまで包囲が狭くなれば、飛び越えることは造作もない!
「なにぃ!?」
「オルグは飛んでった奴を狙え。槍と杖の奴は俺に任せろ」
「ッチ……わかったぜガイル……野郎ども、とっとと追うぞ!」
大成功だ!
包囲が崩れて、バッテリーも片方だけを引き付けられた!
「え、ええ? どういうことなんだよ!」
「そうよ! 説明しなさいよ! 逃げる気!?」
ああ、うるさい! クソガキともども、ハインドは適当な場所に投下だ!
「お、おい! うわああ!」 ボフッ……
ちゃんと雪の上に落ちたし、これでいいか。
さて、戦いはこれからだ!
ハインド「おい!俺にしても、シユウにしても扱いがひどくないか!?」
アリス「それくらい作者から気に入られてるのよ。そんなことより、敵が来るよ」
次回もお楽しみにね。