〈第11-2話〉吹雪の猛威-アークブリザード
スノウダートへ向かうアリスたちクロスレギオンズ。
シユウの一波乱があったものの、極寒の地「スノウダート」にたどり着いたのだった。
スノウダートの駅を出ると、太陽に照らされた雪が光り輝く町が私たちを迎えた。
ロイヤルでもたまに雪が降ることはあるが、スノウダートはいつも雪が残っているらしい。
「おお、噂通りのところだな!」
「そうね。でも、ここに来たのは雪で遊ぶためじゃないのよ?ハインド」
何度も言うが、ここにきたのは雪合戦をするためでも、雪だるまや雪像を作るためでもない。
あくまで情報収集だ。
「まずはどうするの?さっそく外に行くの……?」
フレイが不安そうな表情でこちらを見てくる……寒がりめ。
しかし、今必要としているのは近くで拾える情報だ。
「そうね、まずはモンスターのバッテリーについて。だから……酒場に行きましょう」
バッテリーの居場所さえ把握できればあとはそこへ突撃できる。
そして、酒場は一番情報が行き交う場所。マスターか、誰かが何かを知ってるだろう。
「ん?あそこにスノウダートの地図があるぞ」
「え?……」
アルバスの指を差した先には、雪で見えにくいが地図らしきものが看板に入っている。
近づいて看板の雪を払うと、全体像が見えてきた。
「意外と広いんだな……」
酒場……酒場……あった。
駅から西に行ったところに酒のマークが描かれている。
「そこか……ちょっとまて」
アルバスがグリダを取り出し、先を酒のマークに付けた。
「【ガイズ】」
すると、緑色の粒子のようなものがその場所へ向かっていった。
この魔法は探索魔法の一つで、目的地へのルートを示すもの。
「ありがと、これで探すのが楽になったよ」
「いいなぁ……魔法……俺もやりたいぜ……」
「何言ってるの、ハインドにはあたいがいるでしょ!」
そういう問題なのか……? 魔法とトリガーは話が別だと思うけど……
とりあえず、酒場を目指して歩を進める。
ガチャ……
ドアを開けると、暖かい空気が出迎えてきた。
酒の匂い……葡萄酒や蜂蜜酒みたいなものの香りも続いてくる。
人の数は……まあそれなり。警備隊っぽい人や、普通の一般市民もいる。
マスターに近いカウンター席にちょうど四人分の空席があった。
ここに座ろう。
「……」
マスターは無口に銀の食器を拭いている。
こういう時って、話しかけづらいんだけど……
「マスター、ホットコーヒーを4つ……あと、ちょっといいか?」
ハインドが静寂を切り裂いた。
くそ、ハインドに先を越されてしまうとは……
私もまだまだコミュ力っていうのが足りないな……
「なんでしょう?」
「この辺りにいるモンスターのバッテリーについてなにか知らないか?」
マスターは訝しげな表情をすると、話を続ける。
「バッテリーですか。……このあたりのモンスターは時折り此処を襲うことがあるのですが、その中に特殊な武器を使う奴がいたというのを聞いたことがありますね」
もしやそれが……今までの例にもれず、なにか特殊な力を持っているには違いない。
「いつもは何処に潜んでいるとかは聞いたことは……?」
彼はそっと首を振った。
くそ、肝心な場所が分からないとは……
すると、私の横に座っていた鎧を着こんだ騎士が話しかけてきた。
「嬢ちゃんたち、あの「吹雪の猛威」に興味があるのかい? やつならここから東に行ったところにある「不帰の森」にいるって噂だぜ」
「ち、ちょっとお客さん、困りますよ!」
周囲は、その場所がいかにヤバいか知っているだろう……
さっきまで酒を飲んでいた輩も、冷静なマスターも血相を変えて止めようとしてきた。
「やめとけって、帰れなくなるぞ!」
「その年で死に急ぐな!」
不帰の森……! どこまで危険な場所だというんだ!?
一応言っておくが、スノウダートの警備隊はロイヤルの精鋭部隊に匹敵する化け物たちだ。
その彼らが、ここまで恐怖する相手……!
「……お嬢さん方、不帰の森に関する話をしましょう。これを聞いてなお、行くと言うのなら私たちは止めません」
マスターはさっきのような静かな口調で話を続ける。
会話の概要は以下の通りだ。
以前、猛吹雪の昼にモンスターたちが群れを成して攻めてきた。
防衛隊や警備隊がこれを撃退しようと試みるが、なかなか撃退できなかった。
それは、前線と後方の両方で指揮を取っているバッテリーがいたからだ。
前線で剣を、後方の奴は弓のトリガーを用いていたらしい。
冷気と氷を放つ剣と、着弾と同時に強烈な風を巻き起こす弓。
二つに悪戦苦闘の最中、幸運にも空が晴れたおかげで勢いが衰え、撃退に持ち込むことができた。
そして、こんな危険なモンスターを野放しにはできないということで、追撃部隊が組織されて森へと向かうことになった。
森の中を進むと、最初は驚くほど静かで出てくるモンスターも少なかったそうだ。
しかし、突如として謎の吹雪が巻き起こったかと思うと、続いて四方八方からモンスターが襲撃してきた。
視界が悪い森の中で氷や風で白い嵐が巻き起こって部隊は恐慌状態に陥り、潰走。
その部隊の生き残りは初期の人数の約半分だったという。
それからそのバッテリーたちを差して、「吹雪の猛威」という異名がつけられたそうだ。
「どうでしょう、これでも向かうつもりですか?」
確かに恐怖と不安を煽る話だ。
でも、私たちは行かねばならない……!
それほど強いモンスターなら、魔将の何かを一つくらい知ってておかしくない。
それに、そのバッテリーを放置していてはまたスノウダートが襲撃されてしまうだろう。
「……私たちは王立遊撃旅団。トリガーを取り上げる旅をしているのです。そんなところに行かないはずがありません」
「おお……」 「ってことはロイヤルが直々に!?」
周囲からは心配や不安を越えて、歓声や、驚愕の声が聞こえる。
「そうですか……。最後にこれだけは守ってください、「無事に帰ってくること」です」
「そんな心配するなって、マスター。俺たち、こう見えて意外とできるんだぜ!」
トリガーがこちらは四体いる。エモノの数ではこちらが上だが、手数では向こうが上……これが有利と言えるだろうか。
まあ、そこまでは実際にやってみないとわからないだろう。
プラスして武器の能力や魔法、錬金術が絡んでくるからだ。
場所も分かったことだし、後はそこを目指すだけだ。
……とはいえ、今回はハードな戦いになりそうな予感がする。
「いくよ、みんな!」
そんなやつに負けるようでは魔将を討つことは叶わない!
いつも以上に気を引き締める……!
そして、私たちは不帰の森を目指して酒場を後にするのだった。
アスカ「いよいよだね……!」
シユウ「……アスカ、あたいもがんばるんだから!」
ロン「二人とも、私も忘れないでよ!」
グリダ「……(いつも役に立ってるし、戦闘だけ手を抜いてもバレないかな……)」
次回もお楽しみにね。