〈第11-1話〉耳チャンス!
行き先が決まらずに困っていたクロームたちは、獣人の幼女「ミコト」にヤマトを案内してもらうかわりに、彼女も飛行船に乗せるという条件を結んで乗り込んだ。
すると、ミコトが大幣のトリガー「トツカ」のバッテリーであることが判明し、盛り上がるのだった。
ふと、窓を眺めると、そこはもう空の上だった。
「おお、すっげえ……」
思わず窓に張り付いた!
高い空の上から地上を見下ろすなんて、初めてのことだ!
夕焼けの緑の大地を彩るように各地にある村や町……そして、日に焼けて赤く染まった海原も近くに見える!
ロマンだ……! こんな壮大な景色……見ておかないと絶対に損だ!
「まったく、おめでたいやつだよお前は」
カインは幾度もそれを見て慣れているのか、腕を組んでいる。
「ちょっとクローム、見えないじゃないの。座って」
後ろにはミコトが浮遊していた。彼女は魔法使いなのか?
「あ、ああ。ごめんよ」
つい、熱くなってしまった……!
再び腰を下ろすと、ミコトは浮遊を止めて窓を眺めている。
「……なに?」
「え?いや、さっき浮遊してたのは魔法なのか?」
彼女は首を傾げた。
「魔法ってなによ。魔術じゃないの?」
え? ま、魔術? どういうことだ?
お互いの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ……
「クローム、ミコト、教えておこう。ロイヤルでいうところの魔法、ヤマトでいうところの魔術は同じものだと思うぞ。ユニオンではマジック、シュタールではマギーなんて呼ばれているが」
「「へぇ……」」
流石は盗賊!情報面はペーペーの俺の倍……いや、5倍はありそうだ!
「でも、共通の呼び名はよくわからんな……シャナは知っているか?」
唐突に話題がトリガーへ振られていく!
悠久の時を見てきた彼女たちなら、何か知っているかもしれない!
注目の目は、それぞれのトリガーに向いた!
「ちょ、アタシに言われても……でも、確かに気になる」
「多分、私たちだと答えられないと思うよ」
「昔は全部同じ呼び名だったり……なんてな。昔のことを俺たちに聞いても無駄だぞ」
「みんな違って、みんないい」まさにこの言葉通りだろう! ロマンだ!
いつかはこの世界の「裏話」も知りたいんだけどな! そのためには冒険だ!
「そろそろ晩飯時だな。外も暗くなってきてるし」
気づけば夕焼けは黒に染まりつつあり、海はまるで朱と黒でラインが引かれているみたいだ……!
「夕食のサービスです」
ドアが開き、ウエイターが食事を持ってきた!
さて……飛行船での初めての食事! 考えても見てほしい、俺たちは空中で食べ物を食べている。
つまりは普通は何もないはずの空の中で、座って食べている……!
シュールな絵が浮かぶだろう……だがしかし、その「シュール」というのは常軌を逸したもの……つまりは、ロマンの一つだ!
さて、ウエイターから円柱状の食事の入った銀色の箱がミコトに、カインに、そして俺に渡される。
渡し終わると、彼は足早に戻って行った。
ワクワクしっぱなしだ! 早速、俺は蓋を開いた……!
「おおっ!」
思わず声が!
「ははは、何今の。クロームって、変わった人なのね」
「ああ。単純っつうか、なんていうか……」
中身は……ミートソースパスタだ! その隣にはサラダがある。
フォークとスプーンで巻き取って口へ運ぶと、あの味と、懐かしさを思い出す……!
たまに妹が作ってくれたことを……!
そういえば、妹はどうしてるだろうな……。
昔からいつも一緒にいたから、案外泣いたりするんだろうか……?
いや、そんなことはない! レイアはいつも俺より頼れるし、自慢の妹だ! きっと上手く過ごしてるだろう!
「ふう……」
少ししんみりしたけど、もう平気だ!
外を再び眺めると、そこは綺麗な夜空が見える……!
「夜もすげえな……!」
紺色の空に浮かぶ星々……
それが地平線の彼方まで広がっている様は、まさしくロマンだ……!
「飛行船で見ると綺麗よね……」
「この景色は旅を語る上で欠かせないな。何度見ても飽きないんだからな」
カインもこの景色はお気に入りみたいだ!
俺たちはしばらくの間ただ窓の外を見ていた。
「……ふあぁ……眠くなってきた。私はそろそろ寝る……」
ミコトは眠そうな欠伸をして、眠りにつこうとしている。
やっぱり、そういうところは子供なんだな……口に出すとなにかされそうだから言わないけど……
ん? これはチャンスじゃないか?
ミコトのかわいいケモノ耳、いまなら完全に無防備だ! 少しくらい触ってもいいんじゃないか?
俺は手を伸ばす……!
あと少し……あと少し……!
7cm……4cm……!
届いた……!! と、思ったその時!
ゴンッ!
ミコトが寸でのところで寝返りを打ち、立てかけてあったトツカに彼女の手が当たり……
それが俺の頭に落ちてきた!
「ッ……!!!」
「お、おい……大丈夫か?」
痛い! 痛みのあまり声が出ず、思わず頭を押さえてしまった……!
木で人を叩いてはいけない……! いや、木でできているとは思えないほどの威力だ……!
トリガー恐るべし!
「あぁ……痛かった……」
「……クローム、俺たちもそろそろ寝ないか?明日は何か一波乱ありそうな気配がする。ミコトは只のマセガキじゃなさそうだからな」
一波乱……!? 何が起こるっていうんだろう……。
ヤマトという未知の大国で、一波乱……危険な気もするが、ロマンの予感もする!
とりあえず、今日はもう寝るとするか。
トツカ「何か当たったのか?」
デュラ「クロームが倒れてきたあなたに直撃してたよ」
トツカ「そうだったのか。後で謝っとく」
シャナ「ミコトに何かしようとしてたからセーフよ」
トツカ「……じゃあいいや」
次回も楽しみにしていてくれ!