〈第1-2話〉王国の剣士
こちらの1-「2」話では、女主人公の視点が中心となっております。
クロームと間違えないよう、気を付けてください。
「彼女」をよろしくおねがいします。
__世界には、魔法と、錬金術、そして新たに、工業というものがある。
でも、そのどれにも当てはまらないものがある……「トリガー」と、「バッテリー」というものだ。
「私」は、この二つには浅からぬ感情を抱いている。
なぜならこれらが、人とモンスターを二つに分け、世界を歪め、私から大切なものを奪っていったからだ。
もし、こんなものがなければ……父さんも、母さんも……!
そして「私」の名は、アリス・ランドール。
この北西の大陸の王都「ロイヤル・キングダム」の剣士の一人だ。
今日からは、モンスターの持つトリガーを奪い取る王立遊撃旅団「クロス・レギオンズ」の団長の座を他の団員と巡る争奪戦が始まろうとしている。
さてと、そろそろ例の訓練の時間だ。
鎖帷子に鎧と木剣……これが実戦訓練の用具だ。
私は目的を果たすため、負けるわけにはいかない。
必ず隊長の座は私がいただく!
「おお、噂をすれば来たか、アリス」
この男の名前はハインド・バーツ。
同じ団員の一人で、めんどくさい斧使いだ。
「何の話よ、ハインド。下らない恋愛話をする暇があるなら、もっと別のことをしたらどうよ?」
まったく、他の団員はもう少し使命感を持ってほしいものだ。
遊撃旅団は遠足のような生易しいものではないし、旅行のように人生謳歌をするものでもない。
「おっと、名前を憶えてくれてたか。……まあ、誰が団長になっても、お前とは一緒になるんだろ?へへ、よろしくな」
握手か?つくづく気安いやつだ。
団員の中でも、こいつは特に口数が多すぎる。
「はいはい……でも、私が団長になったら、無駄なことはさせないわ」
「お堅いな~。ま、お互い頑張ろうぜ」
コイツとそんな話をしていたら、いつもの訓練場に着いた。
ちょっと大きい庭くらいの大きさで、そこには3つの土俵や、魔法で使う的が置いてある。
此処でいつも私は自主練習や、訓練に勤しんでいる。
「よーし、団員諸君。今日は早速、模擬戦をやってもらう。組み合わせは決めてあるぞ。そして、魔法は使用禁止だ」
さて、ちょっと説明だ。
団長を決める方法は、今日からの4日の間に「戦闘能力」、「指揮能力」を試す。
そして、どの日にどの訓練が来るか、そしてそのルールは決まっていない。完全にランダムだ。
「おいおい、早速模擬戦かよぉ~」
チッ、ハインドめ……私を常にイライラさせる……!
「ちょっとハインド、やる気あるのかしら?」
「え?ああ、まあ。やるからにはやるけど……」
今一つ、はっきりしないやつだな……
ともかく、戦いは戦いだ。
組み合わせは……よかった、ハインドとは組まされてないな。
「あっ、アリスさんはあなたですか?」
声のする方を見るとそこには大きな木でできた、先端の丸いランスを持った薄桃色の髪の少女がいた。
「ええ、そういうあなたは、フレイ・ハーキュリーズね」
「はい! よろしくです」
彼女はおっとりした性格の持ち主だが、見かけによらずカウンターを得意とするガードのエースと聞いている。
……面白い戦いになりそうだ。
定位置に着き、騎士道の精神として互いに挨拶を交わす。
そして三回。三回相手に打撃を与えたものの勝利というのが模擬戦のルール。
《始め!!!》
こちらは剣を、向こうはランスを構え、互いに出方を窺っている。
案の定、カウンターを狙っているのか、向こうから攻めてくる気配は見えない。
まるで岩の要塞のような様だ。こちらから攻めるより他になさそうだ。
剣を立て、正面に走り出す。
相手は真剣な表情を崩さず、迎え撃つ構えをしている。
よし、ここだ!
フレイがランスで突く……そのギリギリを狙って横へ跳ぶ。
「あっ、しまった!」
側面をもらった!
今ならカウンターはおろか、ガードすらできまい。
片足だけを地につけて、遠心力で大回転切りを叩き込む!
その一撃は、フレイの肩に命中した。これでまずは一つだ。
「ガードと攻撃は同時にできないようね」
「バレちゃってましたか……でも、次はそうはいきませんよ……!」
そういうと、彼女から流れる気迫が変わった。
さっきののような「不動」ではなく、岩の悪魔「ゴーレム」のようにも感じる。
「行きますよ!」
彼女は私との距離を縮め始めた。
ガードを待っているわけではない。単純な接近戦ならば、明らかに槍より剣のほうが有利だ。
何か魂胆があるのなら調べてみるしかないが……
渾身の跳び斬りで、彼女の胴を捉える。
……が、次の瞬間、驚くことが起きた。
なんと、ランスを回転させて柄でこっちの攻撃を弾き、返す刃でこちらに反撃をお見舞いしてきた。
なんという早業……これがガードのエース……!
「っく、やるわね……!」
すぐさま、カウンターの隙を狙って攻撃を仕掛ける。
戦いは常に相手の意表を突くことだ……
私は手が滑ったように、剣を真上へブン投げた。
「はぇ!?」
「おいおい、なにやってんだ?アリスは」 「剣を上に……」
フレイ含め、観衆も驚いている。
そして、上空から私の投げた木剣が落ちてきて、フレイの脳天にコンっと当たった。
「あいた……!うぅ、痛いよ~」
「二本目よ」
続いて、彼女が痛がっているすきに、武器を回収してトドメに出る!
「あぁ!えい!」
彼女の焦り気味の反撃なら、見切るのは容易い。
体勢を低くして躱し、無防備な胴に最後の一撃だ!
「うわあぁ!」
その一撃を受け、彼女は後ろにコロンと倒れてしまった。
《勝負あり!!!》
よし……!無事勝つことができた。
私は、休憩所へと向かって歩いていく。
「おお……」 「やっぱ、強いのは見た目だけじゃないんだな……」
当然だ、この四日間のために私はいつも鍛錬を続けてきたんだ。
蜂蜜酒呑んで笑い合っているやつと一緒にされるのは、いささか不満だな。
「よお、アリス。さっきの戦いはすごかったなぁ!」
またハインドか、うざったいな……早くどっかいけよ。
「なによ、アンタは私に興味でもあるわけ?あったとしても、私からはノーサンキューよ」
「お、おいおい、つれないなぁ……少し話をするくらい、いいだろ?」
ナンパに付き合うなんて御免だ。それに今、私は日記を書いてるところなんだ。
「日記書いてんの?」
「やだ、見ないでよ!」
不用意に近づいてきたハインドの顔面に、反射的な直突きを見舞う。
「あだ!……いててて……」
すると、私の腕にはめていたリスト・ベルが鳴った。
次の模擬戦の用意が出来たようだ。
「じゃあね。私、次の模擬戦があるから」
ハインドにそう吐き捨てて、私は再び土俵へ向かった。
一話目、読んでくれてありがとう。
次回もお楽しみにね。