〈第10-1話〉新たな同行者
ドラゴン・オークの肉と鱗を高額で売却したクロームたち。
次の目的地を目指すため、飛行船への搭乗を試みるがそこには問題があったのだった……
振り返るとそこには、シルバーリーフのような銀髪にポニーテールと深蒼の瞳をしていて、ロイヤルでは見た事のない服装をした小さな少女がいた。
……さらに、猫みたいな耳が付いている!
「え?あんたは誰だ?」
「ちょっと、乙女に向かって「あんた」は無いでしょ?」
彼女は背中に大きな棒のようなものを担いでいる……。
でも、俺はそんなことより彼女の耳が本物かどうか知りたいな!
「頭のそれって本物かい?」
耳を触ろうとすると、パシッと手を叩かれてしまった……!
「勝手に触らないでくれる? これは本物よ!」
彼女は若干不機嫌そうに、耳をピョコピョコと動かして見せた!
……ってことは、獣人は四つ耳があるのか。妙なロマンを感じるぞ……!
「クローム、こいつは「獣人」だぜ。ヤマトにしかいない人間だぞ」
へえ!?じゅ、獣人だと……文献でしか見たことないけど、これが獣人……!
俺は驚きのあまり、立ち止まって彼女をじっと見つめる……!
「そんなジロジロと見ないでくれる? ひょっとして、私みたいな人が珍しいわけ?」
「え、ああ、ごめん。俺、つい最近に田舎から出てきたからさ、獣人は初めて見るんだ!」
「へえ、けっこうイケメンなのに田舎者なんだ……」
自分から田舎者だと暴露していくスタイル……
嘘をつくのは俺の趣味に合わないからだけど、田舎じゃ何か悪いか?
「おいおい、二人とも前詰めろよ。自己紹介程度なら歩いてでもできるだろ?」
気が付いたら、後ろから「はやくしろ」の圧が来てた……!
少しの間だったけど、モンスターの威嚇より怖かったな……
「まったく、お前はもうちょい周りを注意しとけよ」
「あ、ああ。ところで、君は俺たちになんか用があるのか?」
少女は頷くと、話を続ける。
「あなたたち、さっき話を聞かせてもらったけど、行くあてが無いんでしょ?」
「あ、ああ。どうせならこのまま引き返そうかと……」
何時の間に話を聞かれていたんだ?
そんなに大きい声は出していないはずなんだけど……
「一つ、取引しない?」
「取引……?」
どういう取引なんだろう……と、聞こうとしたときカインが話を遮ってきた。
「おいおい、お前はまだ子供だろ?取引なんてマセたことはあまりするもんじゃないぞ」
ちょ、ちょっ、カイン……確かに、彼女は8歳ぐらいの子供に見えるけど……
「最後まで話を聞きなさいよ。私は大和に帰りたいんだけど、お金がないの。だから、一緒に乗せてってくれたらヤマトを案内してあげるわ」
なんか上から目線だけど、ヤマトを案内してくれるのならちょうどいい!
……けど、カインは全然乗り気じゃない顔だ……
「おい、まて。なんだその条件は、俺たちにリターンはあるのかよ?」
「ま、まあまあ、カイン。このまま引き下がるわけにもいかないだろう? だったら、この子の取引を受けてあげてもいいんじゃないか?こっちのリターンは、新しいものが見れるってことで……」
このまま待っているのもジリ貧だ。引き返すなんて骨折り損。
それに、今の所持金なら3人分は十分だ。
「……ッチ、しょうがねえな。お前がそこまで言うなら引き受けるか……」
よかった! これで取引成立ってことだな!
「あら、茶髪の彼はなかなか気が利くのね。私の名前は神奈月 美琴。気安く「ミコト」って呼んでくれればいいわ」
ミコト……美しい名前だ。
でも、彼女は「美しい」っていうより、少し幼いから「可愛い」かな?
「俺の名前はクローム。クローム・アクセルだ。そして、青髪のこっちが……」
「いいや俺がやる、カインだ。カイン・レビュート」
カイン、そんなに彼女の取引受けるの嫌だったのか?やけに食い気味だけど……
すると俺たちはついに券を買うところまで来た。
「三人分で頼む」
カインが不機嫌そうに受付に話しかける。
「はい。1、2……もう一人の方は?」
しまった、ミコトは身長が低いから受付の人にぎりぎり見えない位置にいる……
「むう!」
彼女はそれがコンプレックスなのか、不機嫌そうに背伸びをした。
「ああ、子供でしたか。じゃあ、割引しますね」
ワリビキ……!?
初めて聞いた単語だが、料金を見ると普通の三人分より安くなっている……!
これが割引ってやつなのか!
チケットを受け取ると、俺たちは飛行船のドックへ向う!
「……あの人、今私を子供って言わなかった?」
「え?う、うん」
彼女は眉をへの字にしている……相当気にしているみたいだ。
「何にもわかってないんだから……私は一人前よ!」
「いや多分、お前はマセてるガキにしか見えないと思うぞ」
「カインまで何よ! 私の何を知ってるのよ!」
この子怖いなぁ……
ヘルキャット並に気が強すぎる。いや、まるでヘルキャットだ。
「ま、まあまあ、落ち着きなよ。これから飛行船に乗るってのに、そんな機嫌を斜めにするなよ」
「……そうね。悪かったわね」
彼女の機嫌を宥めたところで、やっとドッグに着いた!
「おお、すごいな……」
「早く奥に行きなさいよ、後ろが詰まってるのよ」
思わず立ち止まってしまった!
近くで見ると、なんて迫力なんだ……!
「5-B……あの部屋だな」
内部は本で見た通りだ。向かい合った固定のソファに、折り畳みのテーブルが付いている部屋が左右に配置されている。なんだかワクワクしてくる……!
部屋に入ると、早速俺たちは腰を下ろした。
「私、クロームの方に行くわ」
「え?ああ」
見知らぬ女性……いや、女の子が隣にいるってなんか怖いな……ミコトだから尚更だ。
「カイン、どれくらいで着くんだ?」
「えっと……」 「明日よ」
彼が答えるよりも先にミコトが答えてくれた。
……なんか、カインが妙に居心地悪そうだな。
「ほら、ココに書いてあるでしょ?」
彼女の言うとおり、チケットの裏に書いてあった!
「話は一通り終わったか?ミコト」
何だ!? ミコトの背負っている大きな棒から黒髪の少女が……!
……まさか、バッテリーだったのか!?
「ええ。どうやら、彼らはバッテリーのようね。どうよ、私のトリガー。かっこいいでしょ?」
こんな幼女もバッテリーなのか……! トリガーの方の彼女は長い長い黒髪に、ミコトと同じく蒼い瞳をしていて、服装は彼女と似ている……美しい。
「ほう、デュランダルとヅダルシャナだな」
「ええっと、誰だっけ……?」
デュラって意外と忘れっぽいのか……?
シャナが前のように口を挟んできた。
「ちょっとデュラ、彼女はトツカよ。大幣のトリガーね」
「ああ、そうだった。ごめんね」
ん? 大幣ってなんだ?聞いたことがないぞ……?
外見もただの長い木の棒のようにしか……
「まあいいさ。俺みたいに変わり者なトリガーは、他にはあまりいないからな」
「あ、あのさ、その大幣ってなんだ?」
無知な田舎者ですまない……!
これでも、本は割と読むタイプなんだけど……
「大幣っていうのは、幽霊退治によく使われるブツだ。ただの木の棒じゃないからな?」
幽霊退治……だって!? 通りで普通の外見じゃないわけだ!
他の武器にはない独特のロマンが伝わってくる……!
「クローム、やけに楽しそうだな」
「そりゃあ、大幣なんて俺初めて見たし、ロマンがあるじゃないか!」
カインには何か申し訳ないけど、ロマンを感じずにはいられないッ!
「俺が気になるか?クローム」
「ああ。どんな能力を持ってるか知りたい!」
こんなボーイッシュなトリガーは初めて見たし、色々知っておきたい!
「じゃあ、明日な。ここじゃあ披露できん」
くう……焦らすなぁ……! でも、明日は到着と彼女の力が両方見れる……!
待ちきれない気持ちをひたすら抑えつつ、ヤマトに着くその時を待ち続ける……。
ミコト「ロマンってなによ?」
クローム「男の摂取しなきゃいけない栄養素の一つさ!」
ミコト「……なにそれ、聞いたことないわ」
次回も楽しみにしていてくれ!