〈第9-2話〉新たな目的地
短剣アゾットを振るうゴブリンのバッテリー、キハールを倒したアリスたち一行。
クロームたちとは別れ、新たな目的地を探すのだった。
……とはいえ、どこへ行くべきか……
早速、海外に足を運ぶのも一つの手だが少し急ぎすぎる気がする。
国内から探索をしたほうが良いかもしれない。
「アリス、次はどうするの?」
アスカは、にこやかな表情でこちらを見ている。
何を楽しみにしているんだろう。
「そうね……強い相手がいるところが情報も集めやすそうだし……」
魔将に関する情報がとりあえず必要だ……となると、雪山なんてどうだろう。
あの過酷な環境に適したモンスターはさぞ手強いことだろうし、人の手が入り辛い地域だから魔将の幹部みたいな奴もいるんじゃなかろうか。
「よし、スノウダートに行こう」
すると、フレイは嫌な顔を、ハインドは少々驚いた様子をしている。
「マジか! あの北ん所に行くのかよ」
「ええ……私、凍っちゃうよ~」
「大丈夫よ、フレイ。もし凍ったら、アスカとアルバスが溶かしてくれるわよ」
ともあれ、話はまとまったな。
スノウダートへは列車に乗って行く。それが一番手っ取り早く、安全だ。
ということで、駅を目指す。
王都の中心にある広場から左側の通路を通ると、クロノアの各地に繋がっている大きな駅がある。
ちなみに、反対の左側には大陸を結ぶ飛行船の港がある。
「まさか、また列車に乗れるとはな」
「お、アルバスは鉄道も好きだもんな!」
「ああ。あの蒸気機関の煙と音。あれは絶対に体に焼付くだろうさ」
珍しく、アルバスも活き活きとしている。
鉄道は最近に全線開通したばかりの代物で、蒸気機関とかいう以前は船で使われていた動力で動く機械だ。
実は、一年前に乗ったことがあるのだが、どんなものだったかな……
駅からは僅かながらの黒煙が見え、あの特有の汽笛の音が聞こえてくる。
自分の過ごしてきた国だというのに、なにか新しい空気を感じる……新鮮だな。
「ここね……」
「やっぱ、すげえな……」
大きいな……流石は王国の新たなプラットホームだ。
黒煙の数が一つでないことから、何両か停まっているみたいだ。
「ええと、スノウダートは……」
多くの始発が止まる大きな駅だけあって、目的の路線を探すのも一苦労だ……
「あれだ、四番線のやつだな」
「おお。アルバス、目ざといな!」
彼が来てよかった。私だったら、片っ端から調べているところだった……
早速、構内で搭乗券を購入する。
ドキドキ……自国のことだというのに、まるで海外に行くような新鮮さだ。
ホームへ向かうと、あの煙の匂いが次第に近くなっていく……
「楽しみだな! スノウダートの駅はまだ誰も行ったことが無いんじゃないか?」
「そうだね~。遠征では東のベルガットにしか行ったことがない……っていうか、そもそもあの時って東の路線までしかできてなかったんじゃない?」
「ああ。一年前ならな。スノウダートの路線は数か月前にできたばっかりだからな」
割と最近の話だな。
そんな話をしながら、ホームに着いた。
そこには、もう列車が停まっている。
先頭の車両は、煙突からモクモクと煙を発している……
「ククク……」
アルバスが一人で静かに笑っている。
彼がこんなに楽しそうにしているのは、初めて見た。
「楽しそうね、アルバス」
「フッ。人間は誰でも、興味のあることが目の前にあれば心が熱くなるのさ」
……私にはよくわからないな。私の興味があることってなんだろうか。
そんなことは、とうに捨ててしまったのかもしれない。いや、今はそんなことはどうでもいいや。
旅が終わった後にでも見つめ直すか。
そんな独り言を頭の中で呟きながら、開いている列車の中へ足をかけた。
外の煙の臭いとは違って、暖かい匂いを感じる。
飛行船の中のような……そんな匂いだ。
「ええと、席は……」
「三両目の5番室。だから一両向こうに行って、前から五つ目の部屋だ」
彼はホントに活き活きしているな。
これが俗にいう、マニアってやつなんだろうか。
……あった。
実は、列車の内部自体は飛行船と同じく部屋ごとに区切られている。
まあ、さほど珍しいわけでもないな。
ガラッとドアを開けると、ちょうど四人座るにはぴったりの広さの部屋だ。
固定されたソファがあり、窓際の壁には折り畳み式のテーブルのようなものもある。
「おお、久しぶりだな……っていうか、前より快適そうじゃないか」
「そうね。前乗った時は、もう少し狭かったんじゃない?」
「あの広さに不満が上がったから拡張したのさ」
彼はホントに鉄道に関して詳しいようだが、ひょっとして彼は鉄道局の回し者だろうか?
とりあえず、私たちは腰をかけた。
「ふう。あとは何もしなくてもスノウダートに着くんだよね?」
「ああ、フレイの言う通りさ。楽だな」
***
ブオオオオオオ!!!
大きな汽笛が鳴り響いた。
「そろそろ動き出すな」
アルバスはいつも通り魔導書を読んでいる。
でも今は、楽しそうな笑みが見なくても分かるぐらいの口調だ。
少しすると、車両揺れて、前に進みだした感覚が体を伝わる。
そして、次第に記憶がよみがえってくる。
船ほど揺れたりしないが、飛行船ほど穏やかではないという記憶がある。
……まあいいや。
何もせずに目的地に着くなんて、ゆっくり寝れそうだ。
「グリダ、さっきから何を考えてるのさ?」
「ん?いや、どんなところか少し考察していただけだ」
「寒いところらしいから、ボクの出番みたいだね!」
「アスカはもう十分戦果上げたでしょ?あたいに譲ってよ!」
「そういうシユウちゃんも、今日はアゾットを倒したでしょ? 私なんて、まだ目立った活躍してないのよ?」
むう、トリガーたちは元気だな。これじゃあ、夜まで寝かせてくれなさそうだ。
「アルバス、どれくらいでスノウダートに着くんだ?」
「そうだな……このパスには、明日の昼って書いてあるな」
「そこに書いてあったのか……。ところで、あんな北国にそんな早く着くのか……俺たちが歩きで行ったら、その倍以上の時間はかかるよな」
便利なものだな……。
暇だし、外でも見るか。暇つぶし用の本を持ってくるのを忘れてしまったからな。
外は、沢山の木々が見える森が広がっている。
中には中小のモンスターや動物の姿もチラホラ見えるが、線路に近づいてくる様子はない。
もし、線路を潰したら国の報復が来るんだろうな。
「そうだ、トランプやんないか?」
「いいね~」
「そうだな。やるか」
「私はパス。外みてるから」
休めるときに休む。だから今は何もしたくないの。
「そうか。じゃあ、三人でやるか」
テーブルを展開して、ハインドたちはトランプをやり始めた。
……この感じはポーカーだな。
***
外を見ていると、時折りトンネルを通過する。
その時は外が暗くなるから、少し眠くなってくるなぁ……
「おお、ストレートフラッシュか! アルバス、運がいいな」
「ハインド、お前もファイブカードじゃないか」
「二人ともすごいなぁ……私なんてフルハウスだよ……」
楽しそうだな……
でも、私は段々眠くなってきた……安心しているのかな……。
瞼を閉じてる時間が長くなってきた。
そして、私の目の前は暗闇へ誘われていった……
ハインド「みんな、唐突に変なことを聞くようだけど、何歳?」
アリス「15」
アルバス「15」
フレイ「じゅ、14……」
ハインド「フレイ以外15か……俺も15だぜ」
フレイ「むう……」
次回もお楽しみにね。