〈第9-1話〉飛行船
ゴブリンの巣窟から袋を奪還するために、クロスレギオンズと共闘するクロームたち。
独自に探索を開始し、虱潰しに部屋を調べていく。
ついに宝物庫を見つけ、ゴブリンの謎の日記を見つけるが、アリスたちの戦闘に巻き込まれてしまった。
その後、何とか袋を見つけ、地上に戻った一行は一度解散した。
クロームたちは、一度ロイヤルに戻ってきたのだった。
俺たちはひとまず街に戻ると、袋の中身を売りに道具屋に来た。
「へい、ここは道具屋だ」
何気に道具屋に来るのも初めてだ……!
緊張するぜ!
「こ、この保存袋の中身を売りたいんだ」
中身を台越しに見せる。
すると店主の顔が変わり、興味津々に見ている!
「おお、こりゃあドラゴンの鱗と、こっちはドラゴンの肉か!」
カインの言う通り、めちゃくちゃ高級なんだな……!
店主の人、思わず袋の中に頭を覗きこんでる!
「……いくらぐらいで買い取ってもらえますか?」
「うん、これなら5万ロンドってところかな」
「ご、5万!?」
思わず声が出てしまった……! 五万なんて数字、時たま……いや、滅多に見たことがない!
……これは俺が田舎者だからか? いや、だれでも驚愕するんじゃないか!?
「待ちな。もっと高値じゃないか?」
「えっ……!?」
カイン!? 田舎者の俺にはさっぱりだが、五万以上って……どういうことだ?
「よく考えてみろよ。この鱗は、最近武具の研究で対象になっている素材だ。軍に売ればかなりのリターンがあるんじゃないか? それに、この肉は胸肉。神出鬼没のドラゴン・オークの肉なんて、アンタが考えているよりも価値があると思うぜ」
え……か、カインは物知りだなぁ……世渡り素人の俺にはさっぱりなんだ……
「お、おお、そうだったな……じゃあ、7万でどうだ?」
二万増えやがった! すごい大金だ……!
「もっとだな。」
えぇ……俺ならもう7万でオッケーだと思うんだけど……
カインはまだ目を黒くしている……厳しくないか?
「ええと、じゃあ、8万でどうだ!?これが限界だ」
店主も冷や汗を流している……なんとしても欲しいみたいだ……!
やっぱり、高級素材と高級食材は伊達じゃないってことか!
「……足りないね。別んとこ当たるか。いこうぜ、クローム」
「え!?ちょ、ちょっと……」
カイン、何を言いだすんだ!? 8万もあれば十分じゃないか!?
呆然とする店主を余所に、カインは歩き出した……
「……わかった!9万だ、これで最後のチャンスにしてくれ!」
店主の必死な声を聞いて、カインはニヤリと笑った……!
ひ、ひょっとして、これを待っていたのか!?
「ああ、いいぜ。売ってやるよ」
戻って店主に袋の中身を差し出し、9万ロンドを受け取った。
9万……こんな大金、俺は初めて見た……!
「カイン、どうしてあんなことを?」
すると、シャナが出てきて、めんどくさそうに説明し始めた。
「クローム、アレは半分芝居よ。値段を釣り上げるためのね」
芝居……だと!?
「えっ……じゃあ、国の研究対象とか、神出鬼没とか……アレ全部嘘なのか!?」
「ああ。シャナの言う通りさ。「物は売るときに限界まで釣り上げる」ってな」
「へぇ……」
でもさ、それってズルくないか……?
わがままで値段上げるなんて、俺にはとてもじゃないがマネできないな……
少し店主に申し訳ない気がする……。
「この持ち金なら、飛行船には乗れるだろうな」
「飛行船!? あの、アレか? 空飛んでるあの……」
俺、飛行船は本でしか見たことがないんだけど、あれは見てるだけでワクワクしてくる!
とうとうアレに乗ることができるのか……!
「ああ、そのアレだ。それに乗って何処か行きたいところだな……」
「それがいい! そうしよう! 早速、乗り場に行こう!」
「あ、ああ」
ということで、俺たちは飛行船の港を目指す!
***
カインの後ろについていくと、道中すごい数の人々とすれ違った!
「カイン、港に続く道ってこんなに混雑してるのか?」
「これぐらいが普通さ。うっかり迷わないように気をつけろよ」
色んな人々がいる……帽子をかぶっていたり、大きなトランクを引いている人。
人、人、人……村ではこんなにたくさんの人々見たことが無かったな……若干、恐怖すら覚える……!
そんな中、何とか無事に通り抜けて港に着いた。
「うわあ……すっげえ……」
なんて迫力なんだ……! いろんな形、大きさの船がある!
中には今さっき入港してきたものもあるし、これから出航しようとしている船もある!
「いつまでも圧倒されてないで、早く券を買いに行くぞ」
初めて見るものばかりで、今日も忙しいな……好奇心のドキドキが止まらないぜ!
搭乗券売り場に来たが……まず気づくことは、人、人、人……すごい人の行列だ!
さっきの道中と違って、場所が小さいだけにかなり多く見える……!
「す、すごいな……」
「そうか?港ってのは大体こんなもんだぞ」
俺たちはしばらくの間、長い長い順番待ちをすることになった。
***
「シャナはどれくらいの間カインといるの?」
「そうね……およそ半年ぐらいかな。彼といると楽しい。前のバッテリーなんて、私のことをまるでインテリアのような扱いをしてきたから全然詰まらなかったわ」
「はは、そうなんだ。私はずっと眠ってたから、クロームと同じように新しく見るものばっかりだよ」
彼女たちの会話は聞いてるだけでいろんなことが分かる。
そんな俺が一番聞きたい話は、デュラたちの過去についてだが……まあ、教えてはくれないだろうな。トリガーの根幹に関わることだし。
ところで、行列ってのは長いな……カインはいつもこれを我慢していられるのか……!
俺はもう痺れを切らしそうだぞ……
「……なに!?」
カインが突然驚いた!……ことに俺も驚いた!
「な、どうしたんだ?」
「アレを見てくれ」
カインの指をさした先は、行き先の載っている掲示板!
上からシュタール・ラント、ラグナス、ヤマト、ユニオン……この四つは大国だ!
その下には、それに連なる小国へのアクセス情報がある!
「おお……アレがどうしたんだ?」
「よく見ろ、シュタール・ラントの隣に赤いマークがあるだろ? あれは、入国不可能を意味するんだ」
「あ、ああ。なんかまずいのか? 別の国に行けば……」
カインは深刻そうな顔で首を横に振った。
いったい、何が問題なんだ?
「クローム、お前に教えといてやるよ、国についてな」
く、国について……!?
「いいか、まずユニオンについてだ。あの国は盗賊や、パスポートを所持していない奴を通してくれるような国じゃないから、選択肢にはないぜ」
聞いたことがある。
ユニオン共和国は、ロイヤルから西側にあるラドキア大陸にあり、世界で一番民主的な国家らしい。それだけにルールも厳しいという……
「次はラグナス。この国はかつて俺がいたこともあるところだが、シャナを盗んだ時にお尋ね者になっちまった。行くのはちょいと無理だな」
そうだった……。
ラグナス公国はロイヤルから南に位置するアドミア大陸の広大な砂漠にある国で、それだけに独自の文化を持っていると聞く……まあ、カインがダメなら仕方ないか。
「続いて、ヤマトだ。この国はつい最近まで「鎖国」っていう他の国と交流を絶ってた国なんだ。それだから、情報がまるでない。よって、行くのは得策じゃないぜ」
なるほど……。
ヤマト皇国はラグナスより東側にあり、ラドミアの大きな緑の土地を有する大国……カインの言う通り、どう言う文化があるかなんて、数少ない文献でチラッと見た程度だ。
「だから、もともとシュタールラントに行こうかと思ったんだが……こんな時期に行けないなんてな。何が起きてんだ……?」
シュタール・ラント帝国は、ロイヤルから東南にあるインドラ大陸の大国。
聞くところによれば、「発明の国」と揶揄されるように、この世界の発展に一番尽力しているんだとか……
「じ、じゃあ、どうする?」
「うーん……弱ったな。ここまで来て何処にもいかないなんて、酷な話だとおもうが……」
ここまで来て引き返すのか……骨折り損な気がしてキツイな……
「……ねえ、そこのお二人さん。ひょっとして困ってる?」
急に後ろから声がして、その方向を見ると……
クローム「カインは親とかって居た?」
カイン「唐突だな……さあな。お前は?」
クローム「……」
カイン「……そうか」
次回も楽しみにしていてくれ!