〈第8-1話〉奪還
ゴブリンの巣窟に乗り込んだ一行。
立ちはだかる敵を蹴散らしながらも奥に進んでいくが、クロームたちは探索を続けている……
「……ゴブリン、もう来そうにないな」
「ああ、ひょっとしたらビビって逃げてったのかもな」
さっき大量のゴブリンを撃退したからか、来る気配がない……
まあ、こっちとしてはそのほうが心置きなく探索をできるってもんだ!
「お、銅貨だ。持ってこうぜ、こういう小さい物もなんかの役に立つ」
「カインがそう言うなら構わないよ」
彼が言うには「取れるものと貰えるものは、なんでも持っていくのが一番」らしい。
悪く言えば貧乏性だが、今の俺たちは手元が少し寂しい。カインの精神には俺も学ぶべきものがあるな!
「この剣も売れば金になるな……おっと、これは服……いいね、持ってこう」
俺たちの入った部屋は、全てもぬけの殻になっていく……
言えた口じゃないが、ちょっと悪いことをしている気分だな……
「クローム……こんなことしてていいの?」
「そんなこと言われたって、あの袋を返してもらわないと旅が進まないだろ?デュラ、ここは割り切ろうぜ」
幾つかの部屋を空き家同然の丸裸の状態にしていくと、ある部屋に変なものが机の上に置かれていた。
……カギだろうか?古びた文字が刻まれているのが見える。
「……カイン、これ、何の鍵だろう?」
「ん?どれどれ……形からして、部屋の鍵っぽいな。少なくとも机の鍵とかじゃあないな」
部屋の鍵……?おかしいな、部屋と言っても此処に施錠された扉なんてまだなかったはずだ。
……もしかして、これが保管庫の鍵だったりして……!?
「よし、クローム。この鍵に合う部屋を見つけるぞ」
「ああ、分かった!」
早速走り出そうとすると、カインはそれを止めた。
「ちょいちょい、そんなめんどくさいことをしなくても分かるぜ。【フィット】!」
すると、鍵の先端から矢印状のレーザーのようなものが出ている……!
見た目はまるで、ダウジングのアレみたいだ。
「この光の指してる方向にあるからよ」
すごい! なんて便利な魔法なんだ!
……でも、探す手間が省けちゃったか。個人的にはもう少し手探りをしたかったなぁ……
「早くいこうぜ。これ意外と魔力を食うんだ」
光の示す方向に従って進むと、そこには一際大きな扉が見える。
……まて、扉の大きさに対して鍵が小さくないか?と思ったが、鍵穴自体は意外に小さかった。
「ここみたいだな……開くぞ」
鍵が押し込まれ、一度回す。カチャッという音が聞こえ、それから反転させて鍵を取り出す。
人間もモンスターも、こういうところはなぜか似てるんだな……不思議だ。
中には、いろんな袋やパンのマークがついた食料が入っているであろう木箱、そして部屋の右手には一つの机がある。
「……ビンゴだな。あの袋、絶対ここにある」
それは見ればわかるが、どうやってこの大量の袋の中から見つけようか……
それに、あの机の上の手記はなんだろう。
「カイン、その前にアレを見ておかないか?」
「うん?あれか。ゴブリンのことだし、大したことは書いてないと思うが……」
俺たちは手記を読み始めた。
字はゴブリンらしく、小さくて所々読みにくい部分もある。
そして、筆跡がすべて同じというところから察するに、個人の所有物か?
『今日は、「ギャラクスの使い」と名乗る謎のフードを被ったキラーハーピーが来た。そいつは、「ギャラクス様に協力してくれれば、あなた方もきっと明るい未来が待っていますよ~」という旨の話をしてきた。 下っ端のオイラからすれば、このギャラクスとかいうやつの味方をしたほうが良いと思う。いや、みんなそう思った。なにがなんでも、今の現状が改善されるに越したことはない』
『案の定、バッテリーのキハール様はこの提案に乗って、手を結んだわけなんだが……どうなるんだろう?明るい未来っていうのはどういうことなんだ?』
『最高だ! ギャラクス様からは多くの物資が届くし、それのお蔭で各地の同志たちがどんどんと集まってくる! これなら、いずれはあの国にも侵入ができるんじゃないか!?」
『キハール様が人の国に侵入して、無事帰ってきた! 戦利品はなんと、ドラゴン・オークの肉と鱗が入った保存袋だ。 人間のバッテリーがいたらしく、そいつらからぶんどって来たって話だ。 こりゃあ、今夜はご馳走だな!』
……日記はここで終わっている。
ギャラクス……どうやら、コイツが関わったがために、ゴブリンたちはここまで血気盛んになったのか!? この人物の正体は一体……!?
そんなことを考えていると、カインはとっくに次の行動に出ていた。
なんと、ナイフを取り出したのだ! いったい何をする気なんだろう……?
彼はそれを使って、沢山並んでいる袋を切り始めた!
「カイン!? なんで袋を切ってるんだ?そんなことしたらあの袋も……」
「それは大丈夫。あの袋は、こんなちっぽけなナイフじゃ切れないようになってんだ。ほい、それやるからお前も手伝ってくれ」
彼からナイフをもらった!
よし、切れないと分かれば安心して袋を勝っ捌れるな! スパスパ切っていくぜ!
「おいおい、そんな大きく切る必要ないぜ。ちょっぴり切れ込みを入れてだな……」
ドオオン……!!
突然、謎の大きな地鳴りと共に、地面がピシピシとひび割れ、崩れ始めた!!
「う、うわあ! なんだこりゃあ!?」
「俺にもわかんねえ! でも、下でなんかあったのか!?」
次の瞬間、床がばらばらになって崩壊した!
「おわああああああ!!」
ガラガラドォン! という音と共に起きた落盤によって、俺たちは下の階に落とされた……
***
いてて……生き……てるのか?
体は少し痛みを感じるが、起こせそうだ……ってことは、まだ俺は現世に居る……?
ひとまず三途の川はまだ渡っていなさそうだ……よかった……!
「クローム!?」
「ど、どうなってんだ!?」
声のする方を見ると、そこにはトリガーを片手に持っているアリスたちが、驚いてこちらを見ている。
「っていうか、キハールは?」
「落盤にモロ巻き込まれてたな」
???俺には何が何だかさっぱりだ……。
「う、うーん……」
「カイン! しっかりしなさいよ!」
カインたちはどうやら無事みたいだ。
と、とりあえず、彼女たちに状況を聞かないとな!
「いったい何が起きたんだ? 保管庫を調べていたらいきなり地面が抜けたんだけど……」
「ああ、すまん。俺がシユウをぶん回したら壁に当たっちまって、そしたら天井まで崩落しちまったんだ」
そうだったのか……って、いやいや! どんな威力なんだ……!?
おもむろに地面を見ると、そこにはゴブリンらしきモンスターが息絶えている。
「うわ! 死んでる……」
そのゴブリンの手元には、小さな剣が握られていた。
「クローム、そいつの剣を寄こしてくれる?」
アリスが手を差し伸べている……なんだ? 彼女、めちゃくちゃ冷たいオーラを放ってる……なんか、素直に言うことを聞いておかないとまずい気がする。
「ありがと」
無愛想な返事だ……
女の子っぽい可愛げがないっていうか……
「クローム! 袋を見つけたぜ! 中身は無事だ!」
「よかったわね。これでもう用済みってことよね?」
「あ、ああ」
と、とりあえず用は済んだし、外に出よう。 いてて……
***
そんなこんなで地上に帰ってきた!
外は昼過ぎくらいだ。紅茶が進む時間帯だな!
「じゃあ、私たちはここでお別れね」
「ああ、アリスたちも頑張ってな!」
彼女たちは任務があるってことで、俺たちは解散した。
腰が少し痛いけど、いろんなものが見れて楽しかった!
さて、次の目的を探すか!
クローム「次はどうする?」
カイン「さあな……とりあえず、いったん王都に戻ってみようぜ」
次回も楽しみにしていてくれ!