〈第7-1話〉ゴブリンの巣窟
王都ロイヤルで明日を迎えたクロームたち。
しかし、気づけば苦労して手に入れたドラゴンオークの鱗と肉がない!
偶然居合わせていたクロスレギオンズとの連合軍を結成し、奪還作戦を始めることにしたのだった…
俺たち六人は例の洞窟を目指して、草原を歩いているところだ。
「久しぶりね、デュランダル」
「……グリダフォン、だったかしら」
「ちょっと、あたいのことは忘れてない?」
「憶えているよ、シユウね」
「ボクのことは?」
「……アロンダ……」
「アスカロンでしょ?何間違えてんのよ、デュラ」
六人のトリガーたちは賑やかに会話している。
***
湖を迂回すると、その先に一つぽっかりと口を開けた洞窟があった。
「ここか……」
入り口には、モンスターが行き来してると思われる跡がいくつか残っている……
ここから先は気を引き締めていこう……!
いつ敵が来ても大丈夫なように、剣はあらかじめ手に握って、いざ突入だ!
「見た目とは裏腹に、内部は割と明るいな……」
薄暗く見えたその洞窟は、通路に配置されている蝋燭のお蔭で、前が見えるには十分な明るさが確保されている。流石に、視界がゼロの状態ではモンスターも何かと問題なんだろう。
「……来たよ」
さっそく、フレイがモンスターを見つけたみたいだ。
が、俺たちにはまだ見えない……彼女、おっとりしているが意外と耳が良いんだな。
「……ゴブリンだな」
カインの言う通り、向こうから三体ぐらいのゴブリンが歩いてくる音が聞こえる。
それらは一度足を止めたかと思うと、今度は走る音が聞こえてくる……!
どうやら、こちらに気づいているようだ!
グギャア!……
来たな!
蝋燭に照らされている緑色の皮膚……!
さっそくデュラのサビにしてくれる……!
「まって、この程度の相手……ちょっと試したいことがあるから、私にやらせて」
アリス……? 一体何をする気なんだろう?
アスカロンの切っ先をゴブリンに向けている……!
「【竜火】!」
その声とともに、まるで火炎魔法のような燃え盛る火炎が放たれた!
ゴブリンは炎に包まれ、苦悶の声を上げながら火達磨と化す!
「おお、すげえ……!」 「なんて火力だ!」
まさか、剣から炎が出るなんて思わなかった!
炎が出る剣だなんて、ロマンを感じざるおえない……!
「アルバス……お前、役取られちまったな」
「……ハインド、炎が撃てるくらいで「役を取られた」か。じゃあ、別の錬金術を少し見せてやろう」
すると、アルバスはグリダフォンを一旦納め、液体の入った瓶と「魔導書」を取り出した。
まず魔道書を開いてなにかレシピのようなものを見ると、続いて栓を抜いて水をバシャッとばら撒いた!
なんとそこから、草木が生い茂って、悶えるゴブリンたちに襲いかかった!
ゴブリンからしたら泣きっ面にハチだな……!
「武装錬金ってやつか……俺も錬金術は一応使えるんだが、それとは比べ物にならないな……」
カインと違って俺は錬金術すら使えないから、俺は他人が使っているところを見るだけでもワクワクする……くっそー! 俺も錬金術とか、魔法が使えれば良いのに……そうすれば、いつでもドーパミンがドバドバでウハウハできるっていうのに……!
「お、おい、いつまでも感動してないで早く行こうぜ?置いてかれてるぞ」
いつのまにか置いてかれてた……
ええい、俺もデュラと一緒になんかやらないとな!
「……どうやら、この洞窟は三層まであるみたいだな……」
追いつくと、アルバスがグリダフォンを掲げて「探索魔法」を放っている。
便利なものばっかりで、正直俺たちの出る幕がないな……
***
おや、進んでいるとモンスターの部屋みたいなところを見つけた。
ちょっと入ってみよう。
「……何もないな……」
中は、ごく普通の部屋だった。
寝台や、机があるだけで大したものはない。
「お、おい。クローム、なんで勝手に単独行動してるんだよ、みんな遠くに行っちまったぞ?」
「えー……でも、あの人たちはズイズイと奥に入っていくせいでなかなか探索できないんだよ……」
「……まあ、あの袋が何処にあるかなんてまだ分かんないしな……ひょっとしたらあいつらについて行っても見つかんないままかもしれないが……大丈夫なのか?」
「ちょっと、何心配なんかしてんのよ! アタシたちがいるじゃない。気にせず物色しなさいな」
シャナの言う通りこっちにはトリガーがある! それに、今気づいたけどアリスたちはトリガーを取り上げるのが目的であって、あの袋じゃないだろう……
「とりあえず、片っ端から調べていこう!」
「お、おう」
さて、次の部屋だ……!
ここには何が……おっと! いきなりゴブリンが飛び出して来た!
「なんだこいつ!? 鎧を着てるぞ!」
珍しい……っていうか、普通の服じゃなくてあんな鎧なんかを着てるのは初めて見た!
「おいおい、驚き過ぎだろ。別の地方でも鎧着てるのは普通にいるぞ」
そうだったのか……いかん、俺が世間知らずだとバレてしまう……!
……ええい!手早く倒して茶を濁す……!
「デュラ、何か特殊技みたいなのってあるか?」
アリスのトリガーみたいに、デュラにも何か特殊な技があるかもしれない!
「え?……私は研がなくても良いっていうのと、他のトリガーより無難で扱い易いってことを昔は言われていたわね」
……つまり、無属性か。アスカたちと比べたらあまりロマンが無いが……
でも、言われてみたらデュラを研いだ記憶が無いぞ。やっぱ、攻撃よりも汎用性重視なんだな!
ひとまず、目の前のゴブリンに斬撃を放った!
鎧は斬撃が当たった個所から二つに割れ、半裸になったゴブリンはその場に崩れた。
「相変わらずよく切れるトリガーだな。シャナでもそんな簡単には切れないぜ?」
「マジか! じゃあデュラは他のトリガーよりも切れ味が良いのか……?」
意外なデュラの能力を知りつつも、俺たちは探索を続けて二層目についた。
アリスたちの姿は一向に見えないが、さっきの階層より気配が増えた気がする……!
多分、アリスたちから逃れた生き残りだろう。
「……ここも同じ風に探すのか?」
「まあね、宝物庫みたいな場所があればいいと思うんだけど、調べてみなきゃ分からないよな」
再び、絨毯引きよろしく虱潰しの探索が始まった!
まずは手近な場所から……
グギャア!
「おい、一気にたくさん出てきたぜ!?」
こちらが二人だから、数で押し潰しに来たのだろうか。10匹を優に超える数のゴブリンが通路から湧いてきた……!
パチンコのような原始的な武器を持っている個体もいれば、こん棒や小ぶりの剣で武装した個体もいて、バラエティ豊かだ!
「まだこんなにいるのか……!」
とはいえ、こんな数を相手にするのは……
「ふん、アタシがいるなら烏合の衆もいいところよ!」
「ああ、シャナ、蹴散らしてこい!」
カインは迫りくるゴブリンたちへ、円盤を投げつける!
彼女は一回り巨大化すると、ゴブリンたちを独りでに切り刻んでいく……!
「シャナって、勝手に敵を倒してくれるのか?」
「ああ、難しい言葉でいうなら、自律機動ってやつだな。投げれば魔力を消耗するけど勝手に攻撃してくれるし、そのまま手に持ってもいい。良いトリガーだぜ」
自律機動……羨ましくも見えてしまう!
なんたって、武器がまるで生きているように動いている……!
一通り敵を掃討すると、シャナは再び小型の元の姿に戻って彼の手元へ来た。
「どうよ、デュラ。あんたには真似できないでしょう?」
「むぅ……でも、切れ味なら私のほうが上だよ!」
一長一短ってところか。
ただ切るだけならデュラ、多数が相手ならシャナって感じだ。
「さて、物色を続けるか!」
早く見つかるといいな……あの袋……
シャナ「むう……」
デュラ「どうしたんの?そんなに私の胸元見て……」
シャナ「ふん!」
デュラ「……?」
次回も楽しみにしていてくれ!