〈第6-2話〉旅立ち
ついにクロス・レギオンズの団長の座についたアリス。
ハインド、フレイ、アルバスの四人と、アスカロン、シユウ、ロンギヌス、グリダフォンの四つのトリガーを受け取り、出発の日を迎える……
出発を控えた夜、私は恐れ多くも眠りについていた。
リーダーになって初めて感じる「心配」というものはやはり大きい。
あの地獄よりはマシではあるが、単にベクトルが違うだけかもしれない。
考えていても仕方がない。寝台に横になってすることは寝ることだ。
私は目を閉じた。
***
……明るい……朝にしてはまだ早すぎるが……もしやこの場所は……
目を開けると、そこには真っ白の空間が広がっていた……!
間違いない。此処がトリガーフェアリーの居る場所……だろう。
「お、君がボクのバッテリーだね」
背後へ振り返ると、そこには妙な格好をした少年……いや、少女が立っている。
一人称が「ボク」で短髪だったせいで思わず男と見間違えてしまったではないか。
「ってことは、貴女が私のトリガー……アスカロンね」
「うん、呑み込みが早くて助かるよ。ボクのことはアスカって呼んでくれればいいよ。 ところで、君はトリガーを持つのは初めて?」
その通りだ。トリガーに関しては、情報しか知らない。
他の武器をはるかに上回る性能と、個性的な能力を持ち合わせていると聞く。
「ええそうよ、アスカ。早速で悪いけど、貴女の能力を教えてもらえる?」
「ボクの能力かい? ドラゴンを倒すことなら得意だよ! 魔力さえ貰えれば炎だって撃てるし、あの鱗だって綺麗に断ち切って見せるよ!」
火属性寄りのドラゴンスレイヤ―ってところか。
モンスターの中でも「強力」という言葉の代名詞の一角であるドラゴンをねじ伏せられる力……悪くはないな。
「へえ、頼りになりそうね。よろしく、アスカ」
「こっちこそ、よろしく!」
挨拶を終えたとき、私の目の前は急に暗闇が戻った。
***
次に目を覚ました時、そこは見慣れた天井が見える。
ついに出発当日だ。
「よし、やるか!」
早速、昨日受け取った専用服を着てみた。
軽い……! 模擬戦の時のあの重い鎧とは段違いに動きやすい。
それに、胸や肩のルーンの文字もおしゃれだ。
妹様からのもう一つのプレゼントである金塊の入った箱を「魔法袋」に入れた。
この袋は、入れたものを施してある転移のルーンで異次元に飛ばしておくという便利な袋だ。
実は、まだ在りし頃の両親が私に残した形見でもある。
アスカを腰に下げて、準備万端だ。
すると、彼女が隣に現れた。
「やあ、アリス。 長旅に出るみたいだね!」
「ええ。貴女の活躍に期待しているわ」
ドアを開けると、三人はもう集まっていた。
「よう!アリス」
「おはよ~、アリス」
「よろしく頼む、アリス」
ハインドには小さな青髪の少女が、フレイには大人しそうな茶髪の子、そしてアルバスには彼と似た眼鏡をかけた大人っぽい薄紫色の髪の少女がいる。
一階へ向かう道中、三人の少女はこちらが気になっているようだ。
「アスカが団長サンのオトモってわけね」
アルバスの少女……グリダウォルが口を開いた。
「そうさ。うらやましいかい?」
「まあな。とはいえ、あのイリスって子が下した判断は正しいと思う」
するとその話が不服だったのか、ハインドのトリガー「シユウ」が機嫌を悪そうに反論してきた。
「いやいや! グリダ、おかしいじゃん! なんであたいがリーダーのオトモじゃなく、こんな冴えない男のオトモなのさ! あたいはリーダーのオトモになりたかったの!」
「お、おいおい……冴えない男って……でも、この4人の中じゃあ、お前を扱えるのは俺だけなんだぜ?」
「知らないやい! あたいはやっと使ってくれる人がいるって思ったのに……!」
まるで駄々をこねる子供みたいだな……大丈夫かコイツ……?
だが、もし彼女が来ても、そもそも私は子供が嫌いだし、斧なんてあまり使ったことないんだよね……正直、グリダの言うとおりだろうな。
「シユウちゃん、今はそれくらいにしておこう?」
状況を見かねたのか、フレイのトリガー「ロンギヌス」が止めに入ってきた。
「う……ロン……仕方がないなぁ……」
あれ、もう終わりか? ロンギヌス、彼女は割と統率の才がありそうだな。
***
そんなこんなで一階に着いた私たちは、とりあえず朝食をとるために食堂に来た。
「よう!ハインド、お前選ばれたんだってな! おめでとう!」
「アルバス、君は錬金術師たちの希望の星だ! がんばれよ!」
団員のお仲間だろうか、周囲から応援と祝いの言葉が聞こえる。
まあ、私には大して関係ないか。やるべきことをやるだけだ。
注目のメニューは……おっ、チーズトーストがあるじゃないか! こいつはいただく!
そして、ポークビーンズ。あとは……このヴルストってやつにしておくか。
よーし、あの窓際で食べるとしよう。
「お、またここか。アリスは窓際が好きなんだな」
「団長として、みんなが食べやすい場所を選ぶのは普通でしょ?」
「たのもしいな~! アリスが居ればもう私たちは安泰でしょ?」
フレイめ……言ってくれる。今日の彼女はヴルストを大量に取って来たみたいだ。
そして、勘違いしてはいけないが私は大陸を出たことがあまりない。戦争や遠征で行ったことがあるくらいだ。
とはいえ、錬金術師に、ガードのエース、そしてバカな斧使い……なかなかにバランスが取れたパーティーではないだろうか。
「アリス……いや、団長。まずはどこに向かうつもりなんだ?」
アルバスから質問が飛んでくるとは珍しい。
たしかに、どこへ向かおうか……
「そうね、とりあえず近場のバッテリーをしばきつつ、情報を手に入れるのが手っ取り早そうね」
「敵を知ること」がしばらくの目標になりそうだ。
だが、おそらく大陸の外へも出ることになるだろう。
「ふぅ……美味しかった」
やっと、フレイが食べ終わったか。
それぞれで食器を片づけると、いよいよ出発だ。
「頑張れ! クロス・レギオンズ!」 「健闘を祈ってるぜ!」
しつこい応援だ。
奴ら、外に出た後も建物の窓から手を振って見送っている。
「ちょっとさみしいなぁ……」
「フレイ、大丈夫だよ。ここにはボクたちや、団員のみんながいるでしょ?」
「あは、アスカはやさしいね」
トリガーって、意外とフレンドリーだな。
戦いのときは違うのかもしれないけど、いい相談相手になってくれそうだ。
***
歩き続けて、城下町に着いた。
相変わらず此処は活気に満ちている。
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
いきなり、見知らぬ二人組の少年に話しかけられた。
彼らには謎の少女がついている……多分二人はバッテリーだな。
「このあたりで袋を持ったゴブリンを見ませんでしたか?」
袋持ちのゴブリン?っていうか、そもそも城下町には結界が貼られているから、普通のモンスターじゃあ入れないはずだが……
「見ちゃいないが……そのゴブリン、もしかしてトリガー持ちじゃないか?トリガー持ちなら、町の中にも侵入してくることがあるんだ」
ハインド……バカの言うとおりだ。
定期的にトリガー持ちが町を訪れるときがあり、その度防衛隊が出撃する。
そしてそんな時、私の母は死んだのだ……
「そうだ、俺たち王立遊撃旅団っていうモンスターからトリガーを取り上げる部隊なんだが、良かったら一緒に来ないか? 見たところ、二人ともバッテリーみたいだし」
おい、お前は何を言っているんだ。
たしかに彼らはバッテリーだが、仮にも一般人だ。行くなら私たちだけで十分のはずだろう。
「ちょっとハインド……」
「いいだろ、戦力は多いほうが確実に良い。違うか?」
ぬう……たしかに、バカの言う通りだな……
私たちは、一時的な連合軍を結成する事にした。
「そいつは、ひょっとしたら湖の反対側にある洞窟に居るかもしれない。 あの場所はモンスターの巣窟であるほか、トリガー持ちがいるって噂があってな」
アルバス……彼は意外にも物知りのようだな。
ならば早速そこへ向かうとしよう……ゴブリン退治の始まりだ。
アリス「アスカ、どうして貴女は自分のことをボクって言うのよ?」
アスカ「え?……そういうのは聞かないお約束だろう? 癖だよ癖」
アリス「……どいつもこいつも変わった奴ね」
次回もお楽しみにね。