〈第6-1話〉盗っ人
ドラゴンを辛くも倒すことができたクロームたち。
肉と鱗を剥ぎ取り、森を抜け、王都に着いたのだった。
初めて見る景色に圧倒されながらも、二人は宿に泊まった。
気が付くと、俺はあの真っ白な空間にいた……!
「お……デュラか」
「クローム……おはようでいいのかな?」
昨日見たあの場所だ。目の前には薄桃色の髪をしたデュラがいる!
「こんばんは、でいいんじゃないかな?」
「そっか、こんばんは、クローム」
夢の中に目覚めると、俺は胡坐をかいて、彼女に気になっていたいくつかの事柄を、聞こうと考えていた……!
「なあ、デュラはどうして、シャナのことを知っていたんだ? 初対面じゃないのか?」
謎が多い。 彼女は元々、洞窟に埋まっていたはず……にも関わらず、デュラはヅダルシャナを「シャナ」と気安く呼んでいた……!
「それは、トリガーだからだよ」
「え?」
彼女が言うには、トリガーはトリガーでトリガーの情報を抑えているらしい……つまり、トリガーの情報はデュラや、シャナの頭の中にもともと入っているってことだ!
「な、なるほどな……ってことは、他にどんなトリガーが居るかとかも知ってるのか?」
「知っているよ。でも、言うことはできないや。ある決まりがあるから……ごめんね」
「そ、そうか……」
それはそれとして、夢が広がるな……!
これから先、どんな仲間やトリガーと会うのか……楽しみで仕方がない!
「ロマンだな……じゃあ、トリガーって腹減ったりするのか?」
「お腹?減らないよ。第一、食べられないし……」
ぬう……食べ物の味を知らないとはな……!
可哀想に……ちょっと聞かない方が良かったかもな……。
「そんな悲しそうな顔しないで、クローム。人間が食事を楽しむなら、私たちはその楽しそうな人間を見て楽しんでいるんだから」
「そ、そうなのか……わ、わかったぜ!デュラの分まで俺はしっかり味わって食事をすることにするぞ!」
そうだ、知っていて悪いことなんてないはずなんだ!
それらは、新しいロマンを生み出すための男たちの礎になり、力になるのだから。
「……そろそろ朝だね」
「もうそんな時間か……じゃあ、一旦さよならだな」
俺は目を閉じ、現実へと帰還した。
***
目が覚めると、いきなり朝日が目に直撃してきた……!
「……ああ! 眩し!」
「お、やっと起きたのか、クローム」
隣では、カインが既にベットから起きて、シャナと話していたようだ。
彼はレイア並の早起きだな……!
「その様子だと、トリガーと長い間おしゃべりをしていたみたいね」
「ああ、シャナ。色んなことをデュラから聞いて夢が広がったぜ!」
食事の件は残念だったけど……ま、それはいい!
***
少しすると、朝食が運ばれてきた!
トレイの上にはハム、チーズ、そして野菜がはさんであるサンドイッチが3枚ある!
「おお!これも美味そうだな!」
「感動しすぎじゃないか……? たかがサンドイッチに……」
カインの言う通り、目の前にあるのはただのサンドイッチ。
確かにそうかもしれないけど、俺はデュラの分まで味わうと決めたのさ!
俺はサンドイッチに大きくかぶりついた!
「クローム……ね。変わった奴じゃないの『トリガーのアンタの分まで味わおう』だなんて」
「うん。私も初めて会ったよ」
***
さて、朝食を味わって食べ終わったら、次は昨日のドラゴンの肉と鱗を売りにいかないとな!
……って、あれ? 袋が見当たらない……!?
「カイン、袋がないぞ!?」
「ないだって?……おかしいな、何処に行ったんだ?昨日は確かにあったはずだ……」
確かにカインの言うとおり、袋をベッドの隣に置いておいたはず……
盗まれたのか……?
「……ねえ、二人とも、さっき私見たんだけど、袋を持って、窓の外に出ていくゴブリンみたいなやつがいたんだけど……」
ゴブリンだと!? いったい、何時の間に……?
と、ともかく、探さないと……!
「情報ありがとな!シャナ!」
「お、ちょ、まてよ、クローム!」
デュラを担いで表に出る。外は昨日と相変わらず人、人、人。村のみんなよりも圧倒的に多い人口だ……!
でも……探す方法は簡単だ!
「すいません、袋をもったゴブリンを見かけませんでしたか?」
「え?いえ、知りませんね」
こうやって、一人ずつに聞く。これが一番手っ取り早い!
「お、おい。クローム、雲をつかむような話だぜ?」
「やらないよりはましさ!」
と、俺たちは必死に聞き込みを行う!
店の商人、街の衛兵、そして俺たちと同じ通りすがりの冒険者!
いろんな人物に話を聞きまくる!
***
今度は四人組の冒険者……って、この人たち、全員デュラと似た服装をした少女が近くにいる……!
バッテリーだろうか!?外見から察するに、年齢は俺たちと同じくらい……なんてロマンのある旅を……!
「あの、すいません、ちょっといいですか?」
「な、なによ?」
先頭の長い黒髪の女の人が「なんだこいつ」と言う感じに、訝しげに反応する……
「このあたりでゴブリンを見ませんでしたか?」
四人はしばらく考え込むと、その内の灰色の髪をした男が口を開いた。
「いや、見ちゃいないが……そのゴブリン、もしかしてトリガー持ちじゃないか?トリガー持ちなら、町の中にも侵入してくることがあるんだ」
トリガー持ちのゴブリン……!?
そんな奴がいるのか……!なんとも、ロマンを感じるものだな……!
「そうだ、俺たち王立遊撃旅団っていうモンスターからトリガーを取り上げる部隊なんだが、良かったら一緒に来ないか? 見たところ、二人ともバッテリーみたいだし」
それは心強い!
王国からの直々の旅団が協力してくれるなんて、またとない機会だ!
「ちょっと、ハインド!」
さっきの黒髪の人が、勝手に話を進められたことを不服そうに話しを止める……
「いいだろ?戦力は多いほうが確実に良い。違うか?」
「……分かったわ、そういうことにしましょう」
ど、どうやら力を貸してくれるみたいだ。
俺たちは間接的に連合軍を結成することになった。
「よろしくな! 俺はハインド。 こっちのかわいい槍使いがフレイで、杖持ってるのがアルバス。 そして、このかっこいい黒髪の剣士が俺たちの団長のアリスだ」
おお、錚々たる面子だ……彼女らのトリガーは、ハインドが持っているのがシユウ。フレイが持っているのがロンギヌス。アルバスが持っているのがヅダルフォン、そして団長が持っているのがアスカロンというらしい。
「俺の名前はクローム。クローム・アクセル!」
「カイン・レビュートだ。よろしく頼む」
***
「で、俺たちはどこへ行けばいいんだ?」
カインの問いに、団員の杖使いのアルバスが話を続ける。
「そいつはひょっとしたら、湖の反対側にある洞窟に居るかもしれない。 あの場所はモンスターの巣窟であるほか、トリガー持ちがいるって噂があってな」
湖の反対側に洞窟……それはまるで、悪党のアジトみたいだ!
「なるほど……じゃあ、俺たちはそこへ向かうのか」
「そうね。短い間だろうけど、お互いによろしくね」
よし、目的地が決まったならすぐに出発しよう!
目指すは洞窟だ!
アリス「……何見てるのよ」
クローム「え?いや、ハインドの言うとおり、かっこいいなぁって」
アリス「……」
次回も楽しみにしていてくれ!