〈第1-1話〉トリガー
この1-「1」では、男主人公の視点となっております。
「彼」のことをよろしくお願いします。
__世界には、4つの大陸があって、モンスターと特殊な武器、「トリガー」が存在している。
人間とモンスターは、それを巡って争う。
トリガーを持つ人間と、モンスター。それは「バッテリー」と呼ばれている。
でも、世界ってまだ未知のことがたくさんあるんじゃないのか?
過去の遺産とか、未知の組織とか……それに、トリガーを持っていると夢枕に少女姿のトリガーが見えるっていうらしいじゃないか。
村に住んでいる奴の口から言えた話じゃないかもしれないが、最近「俺」はこうした話に飢えている。
そしてできれば、旅もしてみたい。そんな空想をいつも頭の中で描いている。
「俺」の名は、クローム・アクセル。
この小さな村「ウォルタ」で妹の「レイア」と農業、そして村の警備をしている。
ちょっとした村人だ。
「おにいちゃーん。いつまでも外で日記書いてないで、早く手伝ってよ~」
妹のかわいい呼び声が聞こえる。
さて、アイデアノートに書くことはここまでにしておくか。
朝早くからこうして、ノートにロマンを書くことが最近の日課なんだ。
「あいよー。レイア、待たせてごめんな」
食事の支度を分担して、快速で終わらせる。
あゝ、家事って早く終わるとすっきりして気持ちがいい。
「「いただきます」」
さあ、今日の昼ごはんはシチューだ。
白く煮えている中に、人参やブロッコリーが入っている……いいねえ。
「お兄ちゃん、さっき何を書いていたの?」
「ん、いつものだよ。世界を旅してみたいな~って、ロマンを書いてた」
妹にロマンって通じないだろうな……ロマンは男の文化なのだから。
「ロマン、ロマンって、何時まで経っても子供だなぁ」
「いいじゃんか、ロマンっていうのは、男の子の情熱の花なんだぜ」
妹は俺と違って現実主義だなぁ……昔みたいに、もっと人生を謳歌すればいいのに。
「そんなお兄ちゃんに、ビックニュースがあるよ」
「ん?」
ビックニュース……だって!? 一体なんだ? 新種のベヒーモスが見つかったのか? トリガーの少女について何かわかったのか?
「昨日の夜、お兄ちゃんが警備に行ってた時に、村長さんから聞いたんだけど、近くの洞窟からトリガーが見つかったんだよ!」
!? 予想のはるか上を行った!
俺は思わず、飲んでいた紅茶が気管支に入った……!
「ゲホッ、ゲホッ。ホントかよそれ!? 今すぐ見に行きたいな!」
「お兄ちゃん、落ち着いて話を聞いて……。それでね、そのトリガーを村一番の腕を持つお兄ちゃんに握ってみてほしいんだって」
俺の身体には電流が走ったような感覚がした……!
目にもとまらぬ早業で、食事を済ませる!
「レイア……ありがとう。お兄ちゃん、村長のところに行ってくるよ」
「はぁ……こういう話に関しては、お兄ちゃんはやっぱりマニアックだよね。いってらっしゃい」
うおおおおぉぉぉ!トリガー!まってろよー!
全速力で村長宅へとダッシュ!
村人や警備の奴らの挨拶も、今の俺にはなにも聞こえない!
トントントン!
「村長さん! 俺です! クロームです!」
あまりにトリガーに夢中になりすぎて、時間が引き伸ばされているように感じる!
早く! はやく! ハヤク!
「おお、クローム。よく来てくれた。ささ、はいってはいって」
「お邪魔します!」
リビングに通してもらうとまず目に飛び込んだのは、テーブルの上に横たわる剣のようなトリガーだ……!
見たところ随分さびれている……
しかし、警備をしていた身として分かる。これは只の剣じゃない。
「おお、これが……トリガー……」
ロマンスの風が、一気に俺に吹き付ける!
普通なら錆びた剣に見えるかもしれないけど、それは俺の心を掴んで離そうとしない……!
「あらあら、クローム君は相当トリガーがお好きなようね」
声のする方を見ると、そこには一人の婦人が椅子に座っている。
「はい、師匠! 個人的には、トリガーっていうのは、男心を刺激してやまない何かがあると思います!」
この婦人は、エレナさん。
かつては、村の警備隊長を務めていた人で、俺の師匠だ。
「でも、ごめんなさいね。見つけたのはよかったのだけど、こんな状態だから……鍛冶屋の人も、今は手一杯みたいで……」
「大丈夫ですよ!」
手一杯だって?じゃあ、俺が手を増やせばいい話じゃないか!
「え?」
「鍛冶屋にコレ、持っていきます!」
やって見せるさ! たかが武器のひとつ! 俺と鍛冶屋の力で、絶対に復活させてやる!
「ああ、ちょっと……」
「大丈夫ですよ! これは未だ村長たちのものですから、盗りはしませんよ!」
さあ、鍛冶屋へGOだ! 駆けろ! 平原のキマイラの如く!
剣が村の人に当たらないようにスルスルと、ツチノコの如く合間を縫いつつ走り抜ける!
見えた!あの石レンガでできた平屋の建物!
あれが鍛冶屋に違いない!
石扉を開けると、そこは鍛冶屋特有の熱気と火の粉が舞っている……!
そして、いつもは武器を直すときに世話になっている、おやっさんの姿もある。
「おお、クローム。どうし……なんだ、その剣を持ってきたのか」
「ああ、おやっさん! それを手伝う代わりに、これを直してくれないか?」
鍛冶屋のおやっさんは少し困った顔をしたが、引き受けたことを示す頷きをしてくれた!
「お、おう、いいぜ! まず、その予備のハンマーを持って、上着を脱いどけ」
「よしきた! よろしく頼む!」
ババッと上着を脱ぎ捨て、さあ始めるぞ!
カン! カン! カン!
鍛冶用の大金槌を金属へ叩きつけるあの音……そして、体を照りつける熱い熱気……!
鍛冶なんてしたのはいつ以来だろう。
でも、この武器を直すことにも独特の情熱があって、俺のロマンにも火をつけてくれる……!
「クローム、それで最後だ……ありがとう。おまえ、鍛冶も中々やるじゃねえか」
「はぁ…はぁ……。いつもは中々触れられない機会だから、気合が入ってるだけだと思うけどな!」
おやっさんの方は、もう打ち直しは終わったみたいだ。
再び上着を着て、そのトリガーを早速見せてもらう……!
そこには、鏡のように磨き上げられた刀身に、紅く輝く鍔と柄頭、そして白い滑り止めを巻かれたグリップ……これが……トリガーの真の姿……!
「おおおお!! これが……!!」
「実際、トリガーなんて代物は初めて打ち直したんだが、表面の錆以外は大して大きな傷はなかったな。トリガーってのは、すげえな。柄のところしか時間が掛からなかった」
最初見たときは、剣の内部まで錆が進んでそうな気がしたけど、あの状態で表面の傷だけだったなんてな……!
「ありがとう、おやっさん!」
さて、夜のとばりは既に降りたが、コレを返しに行くぞ!
走っていると、村長は家の前で花壇に水を撒いていた。
「村長さん! 打ち直してきましたよ!」
「おお、まさか本当に打ち直してくるとは……どうやら、君が抱いているその情熱は本物のようだね」
勿論だ! 情熱は俺にとっては摂取しなくてはいけない要素の一つ! この思いは誰にも負けない!
「そこでなんだが、そのトリガーは、君に譲ると、エレナとの話で決まってね。大事にしてくれよ」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
いよっしゃああああ!!! 夢の一つが叶う!
念願のマイ・トリガーを手にいれたぞ! バッテリーとなった俺の心拍は最高潮だ!
「もう一つ、君にニュースがあるんだが……それはまた明日のお楽しみだ」
まだ楽しみがあるなんて……なんて僥倖だ……!
さて、レイアにも報告しとかないとな!
明日に何が待っているのか……想像するだけで楽しみだ!
一話目、読んでくれてありがとうな!
俺は基本的にこのテンションで話が進んでいくから、少し暑苦しいと思うけど、よろしくな!
次回も楽しみにしていてくれ!