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わるい花

 花売りよ、

 薔薇に茉莉花まつりか鈴振花すずふりばな

 みっつの香の合はさった、意地惡さうな花をお呉れ


 生憎皆んな売り切れました

 女の胸の上に咲く花ならなんでも存じて居ります

 どうぞ新しい花の名を挙げてくださいまし


 なに、新しくなんかない

 暴風あらしの夜に萎れた花だ

 生きてゐるか死んでゐるか分からぬ花だ


 うちには萎れた花などありませぬ

 どうぞ好きにお探しあそばせ


 それ、あった、あった

 忍冬すいかずらの間に

 ひとりぽっちで潰れてゐたよ

 嗚呼、この暴風あらしと涙とさいはひにほひ

 何故どうしてこの薫りが分からない


 それは風で絡んだ金雀枝えにしだで御座居ます

 黄ばんで醜う御座居ます


 生きてゐるよ

 これは金色だよ

 清く小さな心臓だ

 蝋と愛と死の香がしないかね


 砂地と濱の香しかいたしませぬ

 お気に召したならば差し上げませう


 おかみに心からのれいを申すよ

 それからひとつお願ひだ

 私には、

 愛の思出も、

 感情の玩具おもちゃも、

 古い繪草子ゑざうしも要らない

 この清く小さな心臓は、錆びた針で突き通してやる

 忍冬にはよく気をつけてお呉れ

 わるい花が絡まぬやう

 この堪へ難い愛の香が、二度と店先を漂はぬやう……



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……わたくし、ほんとうはオペラはあまり好みませんの。先生の手前、口に出しては申せませんが」

「では、何がお好みで?」

「もっと、当世風の歌が」

「是非お聞きしたいものです」


 シグルドは窓を閉めてから楽譜を譜面台に戻した。譜面台の前に立っていた私に腕が触れると、彼はすぐに手を引っ込めた。


「失礼しました」


 私は何も言わずにシグルドの目を見た。シグルドも私の目を見ていた。引っ込められていたシグルドの腕がぴくりと動き、再び持ち上げられ、そっと私の頬に触れた。


―――(第五章第三話「月光」より)――――――――――――――――――――――――

参考文献:「わるい花」

レミ・ドゥ・グルモン(Remy de Gourmont)

上田敏訳<青空文庫>

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