ハシバミのメダル
新月のみちびく 縄をたどれ
見上げれば ポラリス
不動の星の投げかける 運命の網は
怒涛の怒り 悲しみ 恐れ 寂しさから
あなたをすくい上げるでしょう
縄をたどり森へ帰れ はしばみの木のもとに
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ジークフリートの容態が安定したため、アミュウは森の自宅へと戻った。
折しも新月の夜だった。アミュウは燭台の灯りを頼りに、直径五センチほどのハシバミの円形の板に、細かな彫刻を施していた。木質は緻密で硬く、彫りやすいが何しろ小さい。少し彫り進めては、木くずを息で吹き飛ばし、手近に置いた本の図案と慎重に見比べる。
作業の合間にアミュウは大きく伸びをして、腕を回した。だんだんと肩が凝ってくる。
知らず知らずのうちに、アミュウの思考はジークフリートの身の上をなぞる。家族を失い、仲間を失って、ジークフリートはここにたどり着いた。
(私と同じってことになるのかしら……いいえ、違うわ)
アミュウの家族は、間違いなくセドリックであり、ナタリアである。実の父、実の姉と何ら変わらない固い絆で結ばれていると信じているが、そこに血縁は無い。血の繋がりに代わる絆とは何なのだろうか。
アミュウは、聖輝の結界の向こうへと消えてゆく姉を思い出し、次に大イノシシの餌食となろうとしている姉を思い出した。どちらも後ろ姿だった。最後に、はじめて不思議な夢を見たときに、頭に置かれたセドリックの手の重みを思い出した。
(守らなければならないんだ。努力しなければ、失われてしまうかもしれないものなんだ)
アミュウは再び彫刻刀を手に取り、言霊を紡ぎながら、その夜遅くまで木の板を彫り続けた。
―――(第二章第八話「海の藻屑」より)――――――――――――――――――――――――
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アミュウはテーブルに何かをコトリと置いた。ジークフリートはそれを指先で拾い上げる。銀色の組み紐の先に、木製のメダルがくるくると回っている。
「水難除けのお守りよ。二度あることは三度――訪れないように」
アミュウがその護符をジークフリートの首にかけようと背伸びをすると、ジークフリートはぎこちなく身をかがめた。
(中略)
アミュウの言霊の力が流れ込み、軽かった木のメダルがほんの少しの熱と重みを得た。不思議な温もりがジークフリートの胸に伝わり、やがて元通りに冷めた。ジークフリートはハシバミのメダルに指先で触れた。
「……なんか、小っこいのに、母ちゃんみたいだな」
ジークフリートの視線は、自分の胸元を見ているようで、とても遠くを泳いでいるようでもあった。
「ガキの頃、母ちゃんにマフラーを巻いてもらったときみたいだ」
―――――(第二章第二十五話「ハシバミのメダル」より)―――――――――――――――