BOY MEET GIRL~彼は彼女に出逢う。
「あのさ、俺たち……付き合わねえ?」
大学のサークルで参加した合宿という名のBBQ。入った時から一目惚れだった。その彼女にあろうことか、あまり飲むことの無い酒の力を借りて告白した。
酒が悪かったのか、俺への興味が無いのか、彼女は何も言わなかった。自分だけが紅潮した顔で彼女を見つめていても、どうやら何事も無く終わりそうだった。要は言葉と俺そのものを見事にスルーしたということ。
果たして酒を飲んでいなければ、返事はOK? それともNOだったのか……うやむやなまま日々は過ぎてゆく。酒の力をプラスしたとはいえ、自分なりに勇気を振り絞っての告白だったわけで。
「お前、まだ告ってねえの? 諦めたか」
「先輩、俺には確実な自信と勇気が足りないっす。どうすりゃいいんすか?」
「とりあえず、今は思いきり肉を網の上に乗せて焼きまくれ! それが最善の道だ」
俺が参加しているサークルは楽しければいい……もとい、多分だけど肉好きな人たちの集まりだと思う。その証拠に、俺がずっともどかしい思いをしている彼女、小鳩さんは必ず参加をしているからだ。
「よく焼かないと体壊すよ?」
「あ、うん。気を付ける」
そんな感じで気さくに声をかけてくる。要するにこんな焼き係の俺でも、面倒見がいい彼女ということだ。
「小鳩ちゃん、いいよなー。カツキが告らねえなら、俺が行こうか?」
「いやっ、それは譲れないんで!」
「冗談だよ。けど、早くしないと誰かに出会って、取られるかもよ? 面倒見が良くて話しやすくて、まぁ、気は強めだけど可愛いしな。料理も出来るみたいだし、何より参加率が完璧! よほど肉が好きなんだな」
「分かってるんですけどね」
「せんぱーい!」
先輩と彼女の噂をしてれば、まさしく小鳩さんの声が向こうから聞こえて来て、こっちに歩いて来るのが見えた。
「お、噂をすれば……だな」
「まぁ、ですね」
「どうしたの、小鳩ちゃん」
「や、ちょっと転んじゃって少しだけ肘を擦りむけちゃいました」
「うわ、痛そうだな。カツキ、お前ついてってやれよ」
「……え」
「あっ、いいですいいです! わたし一人で問題ないですから」
くー……先輩が気を遣ってくれたのに、俺、避けられてますよ? どうすりゃいいの? さすがに先輩も気付いてしまったのか、気まずそうに俺だけ残してどこか行ってしまった。そう思いながらとにかく肉を焼いていると、後輩女子たちが匂いにつられて話しかけて来た。
「おー! すごいいい匂いですねー」
「さすが、肉番のカツキさん!」
「嬉しくないよ、そんなの」
「あっ、そう言えば小鳩センパイ見ませんでした?」
「キミら一緒じゃないの? さっき転んで肘をすりむいたとかでどっか行ってしまったけど」
「小鳩センパイ、すごい好きなんですね。ウチたちと一緒にいる時も、肉を焼くカツキさんをずっと見てて、気付いたら転んでましたもん」
「へ?」
「今頃は焼き上がったお肉をお皿に乗せながらどっかで食べてるかもですよ?」
これはもしやチャンス到来!? そ、それならここは彼女たちに託すしかないよな。
「あ、あのさ、少しだけでいいんだけど肉番頼んでいい? 俺、今焼き上がったばかりの肉を小鳩さんに持って行くから」
「はーい」
肘を擦りむいたということは、どこか屋根のあるとこで休んでいると踏んだ。
「ごめん、誰かいます?」
「あ、はい」
「カツキですけど……」
「な、何?」
「肉、好きだよね? 大量に持ってきた。だから、扉を開けてくれると助かります」
肉を持ちながら、何となく気まずい雰囲気。告白したその答えを聞きたくなった。
「あのさ、返事ってしてくれないのかな?」
「あー……ですね。お酒飲んでたよね? あれで本気と思われるのはカツキ君的にはアリなんですか?」
「その力というか、勢いが必要なくらい俺には勇気が無かったんだよね……だから、何と言いますか本気なんですよ。そういうわけでして、そこん所、どうなのかな……と」
「や、何というか……好きってことですよね。まぁ、あの、私もお肉というよりかは、カツキくんに逢うために参加してたというのがありまして、その、そういうわけです」
「えーと、つまり?」
「逢いたいからです。お肉もですけど、カツキくんに逢いたいから」
「えと、付き合ってくだ――じゃなくて、その前に、小鳩さん俺、キミが好きです」
「あ、はい。ども、私も……です」
そんな返事と同時に彼女は手を差し出してきた。握手かと思いきや、そこも彼女らしいなと思えた。
「せっかく焼いて持って来てくれたので、食べる。食べようか? ね?」
「ういっす」
俺は彼女に、彼女は俺に。お互いが出逢うために、そして出逢えた。もっと彼女を知ろう。そしてもっと、好きになって行きたい。そう思いながら、俺と彼女はお皿に乗っかっていた大好きなお肉を平らげた。