プロローグ 『テルミット反応』
『錬金術』…万物は四大元素から成り立っている。また四大元素を操る力によって、人々の意図する物へと変化する。
『科学』…万物は多数の元素から成り立っている。世の中の様々な自然現象により、自然の摂理の範囲内でのみ物が作りだされる。決して曖昧な表現で事を終わらせない。
「ふむふむ…。この書物によると、錆びた鉄にアルミニウムの粉末を混ぜて火をつけると、鉄が元の輝かしい状態に戻るのか…。よし!やってみようっと!」
少し薄暗い部屋の中、彼女は書物を読んでいた。そして書物を読み終えた後、この町周辺では珍しい長い黒髪を後ろに束ねた。
「鉄は確か…、この前壊した鍋の破片で大丈夫かな。あとアルミは鉱山のおじさんが気前でくれたやつがここにあったはず…」
彼女は部屋の中にある黒く錆びた金属の破片、銀色の金属の粉末、乳鉢、乳棒などの道具を子供がお気に入りのおもちゃを取り出すような感じで勢いよく取り出した。
この部屋にはたくさんの種類の瓶詰めされた液体・粉末薬品、銅や鉛などの金属、得体の知れない物質などが散乱している。
また、それらを合成するために使うのか、試験管やビーカー、ランプ、ライデン瓶などの様々な器具が机の上にたくさん並べられていた。
どうやらこの部屋は彼女の研究室のようだ。
「さぁて、まずこの錆びた鉄の破片にアルミニウムの粉末を混ぜて…」
彼女は何かの呪文のような小さな独り言を言いながら、錆びた金属と銀色の粉末を乳鉢と乳棒で混ぜた。
「よし!うまく混ぜれたわ!次にこれらを火に近づけて…っと」
銀色の粉末にまとわりついた錆びた金属にゆっくりとマッチの火を近づけた。
すると突然オレンジ色の炎が勢いよく立った。
「やったぁ!大成こ…っ!?」
その炎はやがて勢いよく部屋中にまとわりついて、大きな衝撃と音を発生させた。
彼女はエリナ=ケミスト。
3か月前に『科学者』になったばかりの駆け出しである。
彼女は『錬金術』の科学的解明を目標に日々研究している。
テルミット反応
アルミニウムと酸化鉄などの酸化金属を混ぜて、着火すると起こる酸化還元反応である。
着火すると作中のような大爆発は起こらないが、凄まじい高熱と発光が生ずる。
主にレールの溶接や工業冶金などに用いられる。
部屋の中で実験する場合は十分気を付けよう!