書店員が選ぶ、次に評価されるべきはあのマンガ!2017【現代SFファンタジー編】
※挿絵が多く、データ読み込みに時間が掛かる場合があるかも知れませんがご了承下さい。
私達書店員は、毎年発表されるこんなタイトルに似た公式漫画ランキングに、ほとほとうんざりしている。
周知の通り、恒例化した「このマンガがすごい!」は一年に一度、年末の十二月に発表されているものだ。
この企画で発表される作品は大概、それなりに早くから読者に評価されていたり、現時点で話題性になりつつあるものに的が絞られる。お店によっては平台以外にきちんとスペースを設けて、『今売れてる漫画はこれ!』みたいな自前のPOPだとか、販促を使ってお薦めしているのを一度は見た事があるだろう。
この企画、大雑把に言えばその特別コーナーへ陳列した作品のどれかから、必ずと言って良い程の割合で選出される。寧ろ、そうした展開はほとんど上からの指示だったりするので(または出版社の「ウチは今この漫画に注目してます!」推薦)、予想するまでも無く検討が付いてしまう。
そのため、投票結果を目の当たりにする書店員一同の心をこの場を借りてぶっちゃけてしまうと、「出来レース過ぎてツラい」である。いや、本当に。
商品の動向を逐一チェックしている書店員にとっては、ある程度の作品を予想出来て当然な訳だけど、それにしたって限度があるでしょ……と言う話だ。
ちなみに肝心の投票の結果は、どれもガイドブックとしてムック形態で発表している。そして吃驚する程、在庫が減らない。
購入経験者は覚えがあるかも知れないが、手に取った時に雑誌みたいな感触がするアレの事だ。
触ってみれば分かると思うが、紙の質が悪く日焼けする上に、文庫に比べたらサイズも大きく目立つ。手の平に収まる文章で埋め尽くされた漫画やライトノベルまたは文庫なら未だしも、出先で読むとなると更に不便で恥ずかしい。(ただし人による)
仕方なくカバーを付けて貰うとしても、結局雑誌に無理矢理カバーを被せて読む様なものだ。かなり筆舌に尽くし難いのだけど、漫画やラノベに必須と言えるカバーを装着するとこれがもう、かなり読み難い。
……とまぁ、書店の愚痴を要約すると、皆が日々見かけるだろう電車で堂々と漫画雑誌を読み耽っている方々とは違って、恥ずかしがり屋の顧客にとっては自宅で楽しむ前提の仕様なので、大抵新発表される翌年まで残っていたりするのである。全くもって、読者にも書店にも優しくない話だ。
加えて全作品の試し読みが出来る訳でもないので、極端に売れ行きの差が激しかったりすると、そうした理由が主なのだろうと毎年推測している。
「へぇ〜、そんなのあるんだ! どこにあるの?!」
「ムック本……? 何じゃそりゃ」
「うち、自分が欲しいのしか興味ないしぃ」
と思う方は、もしこの時期、近くの書店で水色の看板を見掛けたら一度足を止めてみて欲しい。見上げれば高い確率で、「このマンガがすごい!」表記のパネルがぶら下がっていると思う。該当のムック本も側に置いてある筈だし、もしかしたら貴方にも貴女にも、電撃的な出会いがあるかも知れない。(意識しないと、そもそも特設コーナーに関心を持っていない人は全く気付かないのデス)
逆に漫画よりも小説派に馴染み深いものとしては、「このライトノベルがすごい!」や「このミステリーがすごい!」が、同じ出版社で主催している。
どれも、自分が最も『お薦めしたい作品』を、対象者がアンケートで答えて選定されて行くのだけど、これがまたしゅご……ゴホン、失礼、また凄い。何故なら、参加者は次の様な構成となっているからである。
書店員、ライター、イラストレーター、編集者、評論家、俳優、声優、放送作家、お笑い芸人、ミュージシャン、スポーツ選手、アイドル、小中学生、マンガ系の専門学校生……等々。(Wikipedia抜粋)
有名無名問わず、そんな一定数の読者達によって、前年十月一日から発行年九月三十日までに単行本として発売した作品が選ばれる。上から文字を追って半ば辺りから首を傾げた人、皆が同じ気持ちなのでご安心を。
確かに、「この本が好き!」と言う作品の良さを語った参加者の気持ちは伝わって来るのだけど、書店や漫画・ラノベ中毒者的には非常にツッコミどころ満載だ。何せ、参加者に明確な線引きが無いので、どうしてもその時旬な作品がランクインしてしまう。
勿論、決してそれがいけない訳ではない。けれど、既に巷で話題になっているものよりも、
「このマンガはすごいよ! なのに、未だ評価されないんだ……どうせなら日の目を見て欲しいのに」
と、読者が感じている作品に投票するべきだ。少なくとも私はそう思っている。
「このマンガがすごい!」なのに、国民的人気作品なんかが上位をずらーっと独占していたりすると、「そのマンガがすげーのは知ってるんだよ!」とばかりに、発表後にあちこちから不満な声が聞こえて来るのは珍しくない。
書店目線で言わせて貰えば、場合によるが「売れ過ぎてる位なんだから、商品が動いてもたかが知れてるわ」と溜息が出る程だ。
と言う訳で、現状を憂いた一人の書店員として(大袈裟)、この場を借りて『もっと評価されるべき』作品を紹介する事にした。
ここは小説投稿サイトであるし、ユーザー達が漫画もそれなりに読むタイプかどうかは全く検討も付かないけれど、個人的に以前からずーっと主張したかった事なので、「へぇ〜、そんな本があるんだ」「それ知ってる知ってる」「今度読んでみようかな〜」と言う具合に、暇潰し気分で読んで欲しい。
ついでに、興味を持った作品があれば是非購入……いや、先ずはネットで試し読みをお薦めする。(皆好みは違うからネ!)
もしかしたら既に認知度が上がりつつある作品もあるかも知れないけど、個人的な好みと読者数(主にブクログや読書メーター)の他、商品の販売数や一定期間の売上動向を確認した上で紹介するので、その辺はご了承を。
ちなみに、巻数や発行日の縛りは無い。少年、少女、青年、女性向けの一通りのレーベルから選んでいるため、偏りはない……と思いたい。(そもそもファンタジーに偏ってるケド)
では、長くなるが早速紹介しよう。以下ランキング形式。
「『あれ』をこのまま野放しにしていたら、この国は終わってしまう」
「地震の後わかったの。人を、人とも思わない権力ってものがあるのよ」
「あたし達は子供だもん。あたし達は悪くない。あたし達を傷つけるものが——悪者なの」
(小学館:フラワーコミックスアルファ 赤石路代)
大地震の災害によって、茨城の一部地域の子供達に広まった『クローバーウイルス』。謎のウイルスによって感染した子供達は、共通して超能力が宿っていた。
予知、千里眼、念動力、身体能力向上、テレパス——それだけでなく、無意識に人の命を奪う程の、恐ろしい超常能力も存在していた。
その影響を受けた二人、まりもと凜は、愛らしい見た目とは裏腹に、人に触れただけで恐るべき力を放つ能力発現者として組織に追われていた。
実験動物の様に子供達を収容し監禁する大人達の手を振り払い、逃亡生活を続けて母との約束を果たすために奔走する中、災害時、同時に起きていたとある事故について謎が深まって行く——禁断のエスケープサスペンス。
意外と知らないかも知れないが、こちらは二〇一二年から連載されている作品、超能力SF漫画。
代表作『P.A プライベートアクトレス』然り、八十年代から男女共に定評のある作品を多く排出して来た、赤石路代ならではの唯一無二の世界観は今も尚変わらない。
平穏な日常に、人知れず影が忍び寄って来る様な、じわじわと迫る危機感の表現力は流石の一言。どんなジャンルでも完成度の高い作品を描き切る卓抜した技量に、毎度ながら度肝を抜かれる。茨城を舞台にしている所も中々リアル。
知る人ぞ知る大御所の為、初巻で読者を誘引する煽り方も実に手練れだ。著者の目論見通り続刊へ手が伸びるのだが、如何せん宣伝が少ない。かつてのファンも、実は現在も連載している事すら知らないのでは、と思う程。
従来の少女漫画と比べても一線を画しているのだが、未だに世間では認知度が低く、寧ろ『もっと評価されるべき作家』として主張したい作品である。
地震と言うテーマは些か取っ付き難い分野だが、久々に『若者読者にもウケる』作品だと思うので、この場を借りて紹介したい。
主役は、小さな子供達。
一筋縄では行かない能力を持つ彼等が、不利な状況であろうと自分だけの正義を貫いて不敵に挑む姿は頼もしく、可愛らしく、切なくもあり、読み応えたっぷり。
「ねー、これからどこいくの?」
「悪い人のいないとこ、だよ」
それぞれの闘いのため、それぞれの自由をかけて、たった二人きりの幼い旅が今、始まる。
「なあユイ、入れ替わって三年目だってよ……オレたち」
「どうしよう……」
(ほるぷ出版:ポラリスCOMICS 将良)
小学四年生のユウタは、ある日、公園の木から落ちて同級生のユイと激突してしまう。幸い怪我も無く無傷で済んだと安心したものの、ふと違和感に気付く。
「な、何で目の前に私がいるの……?」
「え、もしかしてオレら……入れ替わってる?」
困惑する二人だったが、数日経っても互いが元に戻る様子はなく、やがて『いつ元に戻っても良いように、互いの状況を報告し合いながら』それからの日々を生きて行くことを決意する。
しかしこれが二人の、足掛け十年以上に及ぶ長い年月の始まりだった。——少年少女、ほろにが青春デイズ。
男女逆転と言うと大概、ラブコメで見受けられる王道的な展開が予想されるが、この作品は一味違う。「オレ(わたし)たち入れ替わって六年目」と聞けば、全く斬新な発想にあらすじだけでがっつり心鷲掴まれる事だろう。
小学生から中学生までの過程が描かれている一巻の時点では『三年目』だが、実際は小・中・高の三部構成でリアリティを追求している。入れ替わったまま心や身体が成長して行く二人の色模様は瑞々しくも生々しい情感があり、読者をぐいぐい読ませる。
意識が入れ替わってしまってから、二人は元の身体に戻るため四苦八苦しながら色々な事を試すのだが、そのストーリー展開は決して読者が想像している様な甘いものではない。
主人公であるユウタとユイはクラスメイトだが、それまで然程接点も無かった。ユウタは寧ろ、優等生で孤立していたユイを同様に快く思っていなかった側だ。けれど身体が逆転する事故が起きた日、ユイの身体で帰宅したユウタは、思いも寄らなかった彼女の家庭事情を知る。
家族や友人達の関係、学校で起こる些細な出来事。あくまで普通の日常生活が描かれているものの、そこに味付けされた誰しもが抱える闇を、繊細な描写で魅せている点が特徴だ。
「ただのTS漫画」と侮る事なかれ。思春期の心情を丁寧に拾い上げて紡がれるからこそ、訪れる二人の変化にぐっと来る。
「(やっぱユウタってデリカシーない。人の痛い所ばっかりついて来るし、最悪! ちょっとでもいい奴と思った私がバカだった)」
「(ユイって本当、性格曲がって素直じゃねーの! いじっぱりだし。少しでも協力してやろうと思ったオレがバカみたいじゃねーか)」
「ユウタなんて」
「ユイなんか」
「「大嫌いだ!」」
戻れないまま大人になる、オレとオマエが入れ替わって一〇〇〇日目。
男女逆転しても、オレたちの思春期は否が応でも加速する。
ヒトの世に紛れ、人間の血を欲する異形の『鬼』。
都会の喧騒の裏で吸血殺人が続いている中、恋愛に疎くやや危なっかしい大学院生つかさは、ある日、自身に向けられる視線に気付く。その正体は、世間を賑わせる婦女暴行事件を追っていた警察官の一人、吸血鬼と人間のハーフでもある安斎だった。
出会って以来、逢瀬を重ねる内に惹かれ合ってしまう二人。鬼とヒトが『共存』する不安定な均衡が構築された社会で、それから様々な人間達と関わって行く様になる。
血を目にすると興奮し、吸血衝動に駆られる吸血鬼。葛藤に悩み、もがき、苦しむ彼等の世界は、常に無情で、不条理で、残酷な闇に覆われていた。
「俺たちの目標は鬼をゼロにし、人だけの正常な世界を作ることだろ?」
「鬼なんかいなければ、死なずに済んだんだ。私は——お前たちが大嫌いだ」
「怪物に堕ちるかどうかは、いつでもその人次第なのさ」
行き場の無い感情を投げ捨てる事も出来ず、それでもヒトと吸血鬼の狭間で揺れる彼等に、目が離せない。
交錯する愛と欲望、暴力と献身を描いた、ダークファンタジー。
(講談社:モーニングKC 花田陵)
元々は無料で閲覧可能なネット上に投稿されていた作品が、編集者の目に留まって商業誌でデビューを果たしたもの。
出版の経緯や作品の雰囲気を見ても分かる通り、『悲劇』や『絶望感』を全面に押し出した斬新な切り口で爆発的な人気を得た『東京喰種(著者:石田スイ)』を彷彿とさせる漫画だが、画力はまだまだ足元にも及ばない。
とは言え、拙い技術力を圧倒する独自のダークな世界観と、『鬼と人間』について深く掘り下げた重苦しい題材の構成力が段違いである。
二大勢力が対立し、一人一人が正義を掲げてお互い一歩も譲らない部分も酷使しているものの、デビルズラインは主役達の恋愛要素が盛り込まれているので目新しい印象を受ける。
また白熱する戦闘シーンの他、年齢制限が必要な描写は全く無いのに、そこはかとなく漂う色気が凄まじい。露骨に下品なエロ漫画とは異なり、絵柄の善し悪し関係無く、濃厚な空気間の表現が上手いのだ。
そうした重厚な題材に相応しい本筋に対して、時折挟まれる二人の日常、恋愛パートの緩急のギャップが堪らない。ヒトと吸血鬼の共存等有り得ないと、自身の血を憎んでいた安斎の心情の変化も見所。ヴァンパイア好きにはもってこいの作品。
相反するヒトと鬼。
鬼を憎む者、愛した者、利用する者、孤独な者——悪役は鬼でもあり、ヒトでもある。
「よう、吸血鬼」
怪物は、あなたの側にいる——。
「だっていーこと一つもねーじゃん。俺らのちゅーがくせーかつ!」
やっぱりこの先も、何一つ思い通りにならないのだろうか。勉強とか学力とか、本当はどうでもいい。けど他に大して取り柄も無いから、結局手放せないでいる。
代わり映えの無い日常、人間。下らない。
「カッコ悪……」
世界は不公平だ。努力しなくても、持ってる奴は何でも持ってるし、どれだけ努力した所で、持ってない奴に大した見返りはない。俺はきっと、とてもつまらない大人になる。
「——ねぇ、もしかして鳥男捜してる?」
空を飛びたいと思った事なんか、ない。世界は変わらない筈だった。飛べない筈だった。
「死にたいか、生きたいか……どっちだ?」
翼を下さいなんて言った覚えはない。でも、
「覚えてないの? 僕らは契約したんだよ。命と引き換えに——鳥男と」
飛べるだろうか。この、新しい世界で。
(小学館:少年サンデーコミックス 田辺イエロウ)
先ず、前作の『結界師』とはまるで異なる主人公の気質に驚かされる。初っ端、モノローグから滲み出る周囲への苛立ちと劣等感が、少年誌では考えられない程捻くれた性格で衝撃的。
主人公、中学三年の鳥丸英司は、思い通りにならない日常に苛立ちを感じ、変わらない日常に不満をもらす日々を送っていた。
ひょんな事から数少ない友達の一人、喧嘩は強くも心優しい鴨田樹真と噂の『鳥男』を探しに行く事になるが、その際出会った鷺沢怜、海野つばめと共にバス事故に巻き込まれてしまう。意識が朦朧とする中、目の前に飛び込んで来たのは、翼の生えた『鳥男』。
彼によって助けられた四人は、奇跡の生還を遂げるものの、それ以来、身体から翼が生える特殊な体質を得る事になった。
王道ならば特異な能力に目覚めた後、あれよあれよと敵との熾烈な戦闘が繰り広げられると思うのだが、BIRDMENは些か特殊だ。
「鳥男とはどんな存在なのか?」「このまま平穏に暮らして行けるのか?」「元に戻る方法は?」と、期せずして手に入れてしまった力を模索する所から始まるので、進歩は遅い。しかし丁寧な作り込みが、後半から内面的な成長を遂げるキャラ達の布石となっており、一貫して質が高い。
惜しむらくは、本誌の連載が月に一回のみで目に留まる読者が限られている所。
声高に叫びたい位前作に劣らず面白いのに、影が薄い。単行本の表紙が単色カラーなので、ぱっと見ジャンルも全く検討が付かないのである。BIRDMENの世界観を考えれば寧ろあのデザインこそイメージぴったり、と納得するものの、初見だと敬遠される現状が心底悔しくて堪らない。
しかしそれを差し置いても、日常と非日常の融合が自然で、『鳥男』と言う設定であれだけ魅せるのだから舌を巻くばかりだ。
重暗いシリアスな場面だけでなく、要所要所で笑みを誘うコミカルな掛け合いも実に小気味良い。
予期せぬ出来事で目覚めた『鳥男』の謎以外にも、施設に囲われた羽を持つ同じ仲間達、鳥男を研究する組織との対立。
徐々に話のスケールが大きくなるにつれ、変化して行く彼等の人間性と物語の盛り上がりっぷりには痺れる。読めば読む程、高揚する事間違いなし。
「導くっていう宣言か?」
「ただの先導になる気はねえよ」
少年達は手に入れる。『変わらない筈』の世界を。変えるための手段を。
——変えてやる。こんな俺の世界。
電気もガスも水道も何もない、石の城。
できる事、できない事、するべき事、してはいけない事。全て己の自分で決まる。
剣と魔法、信仰、戦争。
「王には絶対の忠誠を!」
ひやりとした石の壁の手触り、日本語とは違う形の文字、違う発音の言葉。
孤独も喪失も、血の匂いも絶望も、死んだ時の事だって、全て——。
(一迅社:ZERO-SUMコミックス 久米田夏緒)
版図を拡大せんとする国々が永く戦争を続けている、剣と魔法の世界。
その小国ゼレストリアで、第三王位継承者である王女ベロニカとしての記憶を持っていた少年、皆見晴澄。
転生が常識だと考えていた彼は、幼い頃から鮮明に覚えている前世について周囲に話した所為で孤独な少年時代を送るが、中学生になってからも「前世がお姫様なんだって、あいつ」と度々囁かれていた。
そんな折、ある事件をキッカケに『魔法』が現世でも使えると気付き、前世の記憶が自分の妄想ではなかった事を知る。同時に『人が死ぬ力』であるそれを目の当たりにし、今後は『皆見晴澄』として穏便に生きて行く事を決意するものの、高校生になった矢先、事態は急変する。
事の発端は、記憶の中の日々を書き溜めていた一冊のノートだった。それをふとした拍子にクラスメイト達に見られてしまい——それぞれが記憶の欠片を手にした時、運命の歯車が動き出す。
この作品の評価すべき部分は、ファンタジー、ミステリー、学園、青春、日常、恋愛と、一度に様々な要素を取り入れながらも設定とストーリーに齟齬が無く、所謂『設定はテンプレなのに、物語はテンプレでない』と言う所。
冒頭はかつての世界で起きた、戦場と化した城内のワンシーンから始まる。
余り話すとネタバレになってしまうので控えるが、先ず、ボクラノキセキは登場するキャラクターが多い。にも拘らず、漫画や小説で有りがちな『印象の薄いキャラクター』が存在せず、現世と前世の人物像が全く作り物めいていない。
一読すれば分かるが、キャラの言動を含めた目が惹かれる構図、印象的な台詞等センスが高く、緻密な構成から成る現実と非現実のバランスが絶妙に上手いのだ。最初は女性キャラの区別が付かず粗が目立つが、それを補う演劇的な演出と、巧みな伏線描写が群を抜いている。
全体的に見れば絵はとても綺麗で、剣や花の小物一つ取っても造形の描き込みが細かく、背景も透き通る様に美しい。そしてどのキャラクターも内面、外見共に見惚れる程可愛く、格好良いので、二度読み必至。
恐らく巻を追う毎に、彼等の世界にどっぷり浸かってしまう事だろう。あらすじからは予想も付かない、全くテイストが異なる作風は、舐めてかかった読者を唸らせる。
何故もっと評価されないのか、と言う理由は、主に女性向けのレーベルで出版されている所為だろう。
実は二〇一五年までは『コミックZERO-SUM増刊WARD』と言う雑誌で連載していたのだが、休刊に伴って同社の『コミックZERO-SUM』に移籍した例外中の例外作品だ。ボクラノキセキ以外の全てが打ち切りや休刊に合わせて完結を迎える中で、移籍の形を取った状況を鑑みても、それだけ密かに絶大な支持を得ている事は明白である。
強いて言えば、青年向けで連載していたら今以上にヒットしていたと思うので少々思う所はある。ギリギリとハンカチを噛み締めたくなる程だ。
もっとも、ゼロサムWARDは奇数月に発売していたため、その分単行本の発売ペースもかなり遅かった。次の新刊が半年から一年後、なんて事もザラにあったので、移籍によって毎月読める様になり、ファンにとっては限りなく朗報だったと言えよう。
既読の書店員一同が、「早くアニメ化して」と切望している、そんな作品である。
前世と現世の視点移動を繰り返すので読み難い印象は受けるだろうが、心配無用。なろうユーザーなら「絶対ハマる!」と断言出来る。そうでない方も一巻で見切らずに、続きを読んでみて欲しい。
「信じる心は絶対に揺るがない」そう思っていた。——あの日までは。
「ゼレストリアの騎士見習い……穴埋めで配置されたヒヨッコ共か」
「なぜ死ななければならなかったのか、私も知りたいな」
「同盟を裏切ったモースヴィーグの言葉、信じるものか!」
「主も城も、大義も名誉も、ここにはない。——もう、戦う必要はないんだ」
現世で次々と増える謎。それを解明して行く中、明らかになる新事実。緊迫した展開が相次ぎ、息つく間も無く手に汗握る。
これぞ正しく、『現代ファンタジー』な作品だ。
さて、思いの外熱くなり筆が進んでしまいましたが如何でしたでしょうか。
お薦めしたい作品を五つ挙げたものの、実を言うと泣く泣く選外にした作品が幾つかあります。「短編で一万字超えるとかアカン」と。(後書き加えたら超えた様なもん)
一応紹介すると、「犬神(外薗昌也)」、「レッツ☆ラグーン(岡崎武士)」、「PSYREN(岩代俊明)」、「竜の学校は山の上(九井諒子)」等々……ええ、ええ、興味があれば是非とも本屋まで!(笑)
ちなみに、次に出る「このマンガがすごい!」は、左記の九井諒子様が描く「ダンジョン飯」が連続ランクイン確実かなと。個人的には短編でこそ輝く作家だと思っているので、ダン飯ダン飯と評価を聞く度に「短編! 短編を見てよ!」と心中叫んでおります。
他には、以下の作品達を予想中です。
【オトコ編】
・「プラチナエンド(大場つぐみ×小畑健)」
・「ファイアパンチ(藤本タツキ)」
・「双亡亭壊すべし(藤田和日郎)」
・「からかい上手の高木さん(山本崇一朗)
・「私の少年(高野ひと深)」
・「ゴールデンゴールド(堀尾省太)」
・「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜(赤坂アカ)」
・「やがて君になる(仲谷鳰)」
・「あそびあそばせ(涼川りん)」
・「服を着るならこんな風に(縞野やえ×MB)」
【オンナ編】
・「深夜のダメ恋図鑑(尾崎衣良)」
・「僕と君の大切な話 (ろびこ)」
・「兄友(赤瓦もどむ)」
・「ショートケーキケーキ(森下suu)」
・「春の呪い(小西明日翔)
・「おとなりコンプレックス(野々村朔)
・「能面女子の花子さん(織田涼)
・「そうしそうあい(りべるむ)」
・「同居人はひざ、時々、頭のうえ。(みなつき×三ツ家あす)」
・「さらば、佳き日(茜田千)」
たまーに「え?!」と驚く様な作品がランクインしたりするので、侮れないんですけどね(笑)
書いてたら無性に再読したくなり、気付いたら投稿まで二週間掛かりました。「P.A プライベートアクトレス」は幾ら読んでも飽きないんですよねえ。若者世代に読んで欲しいです。
皆さん、読んだ事のある、または読んでみようと思える作品はありましたか?